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いつの間にか借金を背負わされる…2023年開始予定「デジタル給与払い」で痛い目に遭う人の典型的な行動

プレジデントオンライン / 2023年1月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/minokuniya

2023年春から導入される予定の「デジタル給料支払い」。勤務先から「給与をデジタルマネーで振込できますが、どうしますか?」と聞かれたとき、どう判断すればいいか。FPの山崎俊輔さんは「キャッシュレス化のやりすぎで財布のひもがゆるくなったり、QRコード決済各社が積極的に展開するキャッシング事業に手を出してズルズルと借入残高を増やし続けたりすると、たちまち負のスパイラルに陥ることになります」と警鐘を鳴らす――。

■2023年度より容認されるデジタル給料支払いの落とし穴

給与の支払いにはいくつかの大原則があり、現金を一括で払うことをベースにしています。

かつては給与袋が全社員分用意されており、総務部や経理部の社員の大事な仕事のひとつが「全社員分の給与支給額を確認して袋詰めすること」でした。

全員が同額ということはありませんし、交通費の精算などをすれば端数も出ます。支給日の前日などはほとんどパニックのように仕事をしていましたし、お金の管理も難問でした。

1968年に起きた「3億円事件」も銀行の現金輸送車が襲われたわけですが、近くの工場の社員のためにボーナス用の現金が大量に運ばれていたところを狙われたものです。一説には3億円事件が給与や賞与の銀行振込シフトを加速させたとも言われます。

今はさすがに、現金払いの封筒を社員が全員持ち帰るような事務は不毛だと誰もが分かっています。最初から日払いの約束になっているようなアルバイトを除けば、ほとんどの人は給与や賞与を銀行振込でもらうようになりました。

法的には、銀行振込は「現金払い」の原則とイコールではありませんが、実質的に同等の効果が担保できることから、これをOKとしています。現実問題としては、個人にとってはそのほうが安心・確実ですし、会社・個人の双方にもメリットがあるわけです。

振込口座は法定されているので、何でもOKというわけにはいきません。例えば、証券口座に振込をしてもらうこともできますが、これは1998年9月に規制緩和されたものです。それまでは禁止だったのです(といっても、証券口座に給与を振り込みしたい人は少ないでしょうが)。

こうした給与振込先の選択肢に2023年春、デジタル給料支払いが追加されることになりそうです。もし、あなたの会社が「給与を電子(デジタル)マネー振込ができるけど、どうする?」と聞いてきたら、あなたはどう考えればいいでしょうか。

デジタルで給料が振り込まれると残高を現金化せずに使えます(現金化することも可能)。これまで資金移動業者(PayPay、楽天ペイ、ドコモ=d払い、KDDI=au PAYなど)のQRコード決済を利用する際には、チャージが必要でしたが、直接QRコードのスマホ決済アプリのアカウントに給与振込すれば、その必要もなくなります。

■給与振込先は2カ所可能で、1つは電子決済を選べる

まず、確認してほしいことはデジタル給与支払いが強制されるわけではない、ということです。選択の自由が増えるのはいいことですが、銀行振込が選べないようになり電子的給与振込のみ、というのでは困ります。厚生労働省の審議会資料でも「使用者が労働者に強制しないことが前提」という文言があります。「選択できる仕組みだが、事実上強制される」というのもダメです。

「事実上の強制」のひとつとして、給与振込口座の銀行指定があります。「うちのメインバンク、あのM銀行なので、M銀行にしてくれる?」のようなお願いをされるパターンです。新卒社会人などは4月に就業時間内に会社の指示で支店に行って、銀行口座開設をすることもあります。

本当はこれもダメなのですが、現実問題として不利益がほとんど出ないので追求がしにくい状態となっています(会社側としては、振込手数料や事務負担の軽減になり、自分の銀行口座を持っていなかった新卒社会人には口座開設のきっかけとなるため、双方にマイナスがない。ついでにメインバンクは新社会人口座獲得にもなる)。

とはいえ、現実問題として、全員に電子決済への振込のみを強制をすることは難しかろうと思います。クレジットカードの引き落とし、公共料金の支払いなど銀行口座が軸になっている取引をゼロにすることは困難だと、社長も人事部長も理解できるからです。

タブレット端末を操作する人の手元の上には複数のドルのマーク
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

となると、導入初期の企業のパターンとしては「2カ所に給与振込選択が可能で、その1つとして電子決済を選べる」ということになるはずです(中堅企業・大企業などでは、2つの銀行を振込先に指定できることが少なくない)。

■デジタル決済で給与をもらうときの注意とコツ

現実に、デジタル決済で給与をもらうとき、具体的な活用ポイントや注意点をまとめてみます。

1:決済方法の選び方……今回給与振込対象となるのは資金移動業者ということで、QRコード決済の「○○Pay」が主な対象となります。また、社内の取り扱い上、全てのPayが対象とならず、一部の決済方法だけが選択肢となることもありえます。

このとき、自分の生活圏内で利用が可能かよくチェックをしてみましょう。コンビニ、ドラッグストア、多くのスーパーなどはPayPayやd払いが進出しており困らないでしょうが、生活圏内のほとんどで使えることが基本です。

スマーフォンで電子決済する手元
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

2:ポイント付与率が下がる可能性に注意……電子マネーの多くはクレジットカードと連携させてチャージをすると、クレカのポイントと電子マネー利用時のポイントを「二重取り」できます。しかし、直接給与振込をしてもらえばクレカ連携分のポイントはなくなり「一重」になってしまいます。

もともとクレカ連携をしていない(あるいはできない)場合はプラマイゼロということになりますが、連携済みで毎月10万円以上利用している人にとっては、取り逃し分は見逃せないインパクトがあります(クレカ0.5%+電子決済側0.5%と考えた場合、月10万円利用に対し月1000円、年1万2000円相当)。これなら今までのやり方のほうがお得ということになります。

3:銀行口座との分割比はどうするか……先ほど2口座指定できる場合なら利用の余地あり、としましたが、金額の分割は慎重に行いましょう。今回の規制緩和では、少なくとも月1回は無料でATMによる現金引き出しができることを要件としていますが、わざわざ現金出金して銀行に振り込みし直す手間は少なくしたいところです。

デジタル給与振込で上限100万円までチャージできるよう環境整備がされますが、上限の利用をする必要はありません。家計をチェックし、1カ月のあいだでQRコード決済によって支払う日常生活費を割り出し、やや控えめの金額で電子マネー給与払いの金額を決定します。1カ月で使い切ることが前提で、不足があれば追加チャージを銀行やクレカからすればいいでしょう。普通の家庭なら月10万円以上を指定する必要はありません。

「固定費(公共料金等)」「クレジットカード支払い額」「貯蓄や投資額」などは銀行口座に振り込んでもらい、従来通り引き落としをするほうがいいと思います。

上記3つのポイントをチェックする限り、「あえてデジタル決済振込をする大きなメリット」は今のところありません。あまり焦る必要はないので、会社から利用の説明があったとき、実施が予測される「○○Pay」などによるプロモーションもみながら判断してみてください(給与振込指定をしたら○○ポイントプレゼント、などの一時的なプロモーションはあるかもしれません)。

■デジタル給与振込で陥る落とし穴にも要注意

もう少し踏み込んで、デジタルマネー給与のリスクについても考えてみましょう。

注意1:キャッシュレス化のやりすぎで財布がゆるくなってしまうパターン……現金を持たないことはキャッシュレス決済の便利さですが、財布がゆるく、管理があいまいになることが難点です。

1万円札が「崩れる」こと、残りの千円札の枚数が「少なくなる」ことは、シンプルに消費を抑える効果がありました。キャッシュレス決済はこれを失わせました。

現状でも、支出について自覚的になったり、家計簿アプリなどで管理したりする必要がありますが、クレカや銀行預金からチャージするタイミングが「今、お金を動かした」という感覚をかろうじてもたせてくれたわけです。

対策としては、「今月振り込まれた給与分で1カ月分をやりくりできるように生活する」とすることが考えられます。「無制限にチャージして使っていたら、翌月クレカ請求をみてびっくり」となるよりはいいでしょう。

注意2:給与振込額のほとんどを入金して、貯蓄や投資に回すお金を減らしてしまうパターン……iDeCoやつみたてNISA、積立定期預金など、貯蓄や投資に回す額のほとんどは銀行預金からの引き落としで行われます。全額をデジタル決済振込としてしまうと、そうした予算が消える恐れがあります。

QRコード決済での利用は基本的に日常生活費です。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなどの決済には向いていますが、資産形成向きではありません(PayPayアプリのように証券口座と連携するものもありますが、本腰を入れているとは言い難い)。

この点については、全額を電子マネーとして受け取らない、とすれば解決します。「銀行預金への振込額」のほうに将来への積立額分はキープするようにして、電子マネー振込は日常生活分にとどめておくようにすればいいいでしょう。

QRコード支払いをする手元のイラスト
写真=iStock.com/yuoak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yuoak

注意3:特定の「○○Pay」に利用が集中してしまうパターン……「○○Pay」といえば高額還元率のキャンペーンが魅力です。さすがに無制限20%還元のような大規模プロモーションはもうありませんが、最近ではPayPay、d払いなどが地方自治体と連携し、地元商店街で利用すれば20%還元のような取り組みが期間限定で行われていたりします。

このとき、他の決済方法に1カ月分のお金が入金されていたとしたら、みすみす高還元を逃すことになります。わざわざ現金出金して(最低でも月一度は無料でできる)、別のQRコード決済にチャージし直すこともできますが、面倒が勝って普通はやらないでしょう。

かといって、給与振込口座としての「○○Pay」をひんぱんに変更することは現実的ではなく、従来通りの「クレカないし銀行から、お得な○○Payへチャージ」のほうがラクかもしれません。

注意4:カジュアルな借金には手を出さないこと……「注意2」で貯蓄や投資額が減少するリスクを指摘しましたが、むしろQRコード決済各社は、少額のキャッシングとQRコード決済を連携させたがっているようにみえます。d払いには「dスマホローン」、PayPayには「PayPayローン」があって最初の画面から数タップで審査まで移動できるようにアイコンを配置しています。

かつては借金するためにコソコソと無人店舗に行くというハードルがあったわけですが、スマホの操作だけなら人目を気にせずできてしまいます。給与振込日直前で懐が寂しくなった時などに、軽い気持ちで少額の借金をするとこれはズルズルと借入残高を増やし続けるスパイラルに陥ることになります。注意したいところです。

■徐々に普及は間違いない 最初は様子見から

「個人は、あまり急いで考えなくてもいいよ」というまとめ方になっていますが、それでも社会制度として電子的な給与振込を認める選択肢を広げることは重要な意義があり、これはぜひ2023年度に実現してほしいと思っています。

とはいえ、すでに「銀行口座・クレジットカード・電子マネー等」は連動しており、あえて直接、QRコード決済に給与を入金してもらわなくてもいいのが現状です。

日本では誰でも基本的に銀行口座開設ができる、というのも、電子的に振り込む必然性をさらに薄くしています(その点では、日雇いアルバイトの支払いなどはQRコード決済払いが増えてくるかもしれません)。

まずは時代の変化を様子見しつつ、電子的な給与振込のほうが便利な日に備えていきたいところです。

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山崎 俊輔(やまさき・しゅんすけ)
ファイナンシャルプランナー
フィナンシャル・ウィズダム代表。連載12本を数える人気コラムニスト。『マネーハック大全』など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 山崎 俊輔)

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