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1926年の「歴史的な猛暑」は27度だった…「今の子どもは暑さに弱くなった」と主張する大人の勘違い

プレジデントオンライン / 2023年1月29日 11時15分

「暑い暑いと文句ばかりいって、最近の若者は根性が足りない」とする説は本当なのか。国際ニュース週刊誌『ニューズウィーク日本版』は「1926年は歴史的猛暑で、群馬県で5月に小学生15人が倒れるという出来事があった。しかしこのときの気温は27度だった」と指摘する――。(第3回/全3回)

※本稿は、栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

地球温暖化は、全世界共通の課題です。世界中で穀物が不作になったり、水が枯れてしまったりすれば、私たちの命に直結します。それだけではありません。地球温暖化が平和をうばうなんてこともあるのです。温暖化にどう向き合えばいいのか考えてみましょう。

■アニサキス食中毒が急増している

【ジョンソン】絶対嫌です、生の魚なんか食べたくないです!

【彦】なにいってんだよ、それでも江戸っ子か!

【ジョンソン】いや、ワタクシ、スウェーデンのストックホルム生まれですから……。

【うめ】こら、店先でけんかはやめなさい。どうしたのよ?

【彦】釣りに行ったタナカから、「大漁だったから、食べに来なよ!」ってLINE(ライン)が来たんだよ。だからジョンソンも誘ってるんだけど、「生の魚なんて食べません!」って、さっきからガンコでさぁ。

【うめ】外国のかたは火を通さない魚を食べないかたも多いからねぇ、仕方ないわよ。

【ジョンソン】ええ、ワタクシの双子の兄のマイケルは刺身が大好きなので、ワタクシもたまに食べていたのです。ところが、先日、兄がアニサキス食中毒で病院に運ばれまして。

【うめ】あら、それはお気の毒だったねぇ。サバやアジに寄生するアニサキスによる食中毒被害が確認されるケースは最近、増えているらしいわね。

【彦】兄がアニサキス! 気合いが足りないんだよ、気合いが!

【ジョンソン】Oh(オゥ)……。これがセイシンロンというやつですか。そんな昔の人みたいなこといわないでください。アニサキスは気合いの問題ではありません。日本でアニサキスによる食中毒の報告は2000年代の初めは年間数件でした。ところが、2021年は344件です! 被害に遭っても医療機関に行かない人も多いから、実際には数千件ともいわれているそうですよ。

【うめ】ジョンソンさん、とてもくわしいのねぇ。

【ジョンソン】ええ、兄が運ばれて怖くなって調べましたから。アニサキスはクジラやイルカの体内で産卵します。その卵はフンとともに海中へ排出されます。その卵をプランクトンのオキアミなどが食べるんですね。そして、そのオキアミをサバやアジが食べるので、私たちが刺身を食べると、アニサキス中毒になって強い吐き気がしたり、お腹が痛くなったりするんです(※1)

【彦】うーん、でもさ、アニサキスは前から存在したわけでしょ。なんで急に被害が拡大したんだよ?

【ジョンソン】それにはいくつか原因が考えられているんですが(※2)、温暖化が大きな原因といわれています。水温が上がり、オキアミが増える。するとオキアミを食べる魚が増えて、アニサキスが寄生する魚の数や魚の種類が増えた可能性があるのです。

※1 アニサキスはマイナス20℃以下で24時間以上冷凍するか、じゅうぶん加熱すれば死滅します。「酢で締めれば大丈夫」というのは誤りで、酢では死にません。欧米では魚の生食の冷凍処理が義務化されていますが、日本では刺身や寿司などの生食は文化になっています。生食するときは目で見て発見するしかありませんが、取り除ききれない場合もあり、食中毒を引き起こしてきました。ただ、最近では、魚に瞬間的に大電流を流しアニサキスを殺す技術が開発されています。試作機では99.9%以上の殺虫率を実現しており、期待が高まっています。
※2 鮮度を落とさずに運べるようになって、各地から生で食べられる鮮度の魚が運ばれるようになり、アニサキス被害に遭う確率が高くなったともいわれています。

■地球温暖化で戦争の可能性が高まる

【うめ】まぁ、温暖化の影響はそんなところにも出ているのねぇ。日本も最近の夏は異常に暑いし、毎年のように大型の台風が各地に被害をもたらしているわ。

【ジョンソン】世界でもいろんなことが起きています。熱波や豪雨、バッタの大量発生……。かつては数十年にいちどといわれた現象が毎年のように起きています。もう、“異常”気象ではなくて“日常”気象ですネ、HA HA HA!

【うめ】いまの平均気温は産業革命が世界に広がる前(1850~1900年)と比べて1.1℃も上昇しているのよ。約100年で約1℃上がってしまったというわけだけど、気温が上昇するペースは近年さらに速まっているらしいわ。このまま温暖化が続けば、今世紀末までにさらに1.6℃も上がるといわれているそうよ。これは、産業革命前と比べると2.7℃も上がったってことになるの。東京にヤシの木が生えてもおかしくないのよ。

【彦】え、でも、そんな暑いかな? 暑くないっしょ! みんな、暑い暑いいってるから暑いんだよ。「心頭滅却すれば火もまた涼し」さ。甘えんなよ。

【ジョンソン】?? シュウトメカクス……? まじないですか?

【うめ】彦、あんた、どうしたのよ? さっきからイライラして。高齢者の私にいわせれば、私が若かったころよりも絶対に暑くなっているわよ。暑いからって攻撃的になるんじゃないわよ。

【ジョンソン】うめさん、それは正鵠を射ていますね!

【彦】?? セイコクヲイテイル……? まじないかよ?

【ジョンソン】ものごとの急所を正確につくという意味です。実際、気温が上がると戦争が起こりやすくなるともいわれているんですよ。平均気温が0.5℃上がると武力衝突の可能性は10%から20%も上がるという報告もあるほどです。温暖化が進めば、農作物がこれまでのように生産できなくなって、食糧不足になります。水も不足します。そうした不安から争いが起きる可能性が高くなるわけです。

【うめ】食料のうばい合いで戦争といわれても、日本にいるとあまり実感がわかないわねぇ。でも、アフリカやアジアではついこの間まで、食糧をめぐって争いが起きていたからね。温暖化で世界が戦争になるなんてことがないように、道を探らなきゃならないわね。

■防げない地球温暖化をどうするか

【彦】温暖化の原因は二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスだよね。車やエアコンなどを使いながら日常生活を送っていたら減らしようがないじゃん。「車に乗るのを止めて、みんなで馬車に乗りましょう」とは、いまさらできないでしょ? 先進国に住むぼくらは昔の生活には戻れないし、新興国の人たちだって便利な生活をしたいはずだよ。温室効果ガスを減らすのは難しいんじゃないかな?

【うめ】その話は前にジョンソンさんがしていたけれど、人工光合成や核融合といった二酸化炭素を結果的に排出しない技術の研究開発が進んでいるわね。ただ、私たちが使えるようになるまではまだ数十年はかかりそうね。

■「特効薬」が存在しない

【彦】じゃあ、そのあいだはどうすればいいのさ?

栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)
栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)

【ジョンソン】温暖化には「特効薬」がないんです。病気の場合、特効薬が見つかれば、治ります。ワクチンが開発されれば罹りにくくなります。しかし、温暖化の場合、いまのところ、一発で改善できる叡智を人類は持ち合わせていません。温暖化は誰か偉い人が一夜にして止めることも、薬で治すこともできないんですね。

【彦】人類にとって温暖化は、今世紀かけても解決できない「不治の病」になるかもしれないんだね。

【うめ】そんなうまいこといわないでいいから! 「温暖化は仕方がない」と人任せにしないで、自分のこととして考えることからはじめなさい。

【ジョンソン】そのとおりですね。みなさんの豊かな地球を守っていくには、ローマは1日にしてなりません。

【うめ】みなさんって……、あなた、まるで宇宙人みたいないいかたねえ。

【彦】それに、ローマは「なる」までに700年もかかったしな。

【ジョンソン】うっ……。あ、では、似た意味で「塵も積もれば山となる」ということわざはどうでしょう。ワタクシの好きな日本語です。

■「昔の人が暑さに強かった」わけではない

「暑い暑いと文句ばかりいって、最近の若者は根性が足りない」と怒っているおじいさんをみなさんは見かけたことがあるかもしれません。でも、昔もいまも、若者は大して変わりません。たとえば、1926年(大正15年)は歴史的な猛暑でした。『昔はよかった病』(パオロ・マッツァリーノ、新潮新書)によると群馬県では5月の時点で小学生15人が倒れたと記録されています。いまならば大変なニュースです。

15人が倒れる暑さとはどのくらいの暑さだったのでしょうか。そもそも、猛暑と聞くと、みなさんは何℃を想像しますか。35℃くらいでしょうか。低くても32~33℃くらいのイメージでしょうか。気象庁は2007年に、最高気温が35℃以上の日を猛暑日と定めました。ところが、この1926年の「猛暑」、実は27℃でした。みなさんが「暑い、暑い」といいたくなるのは、昔の子どもより根性がないためではなく、単純にいまのほうが暑いのです。

イラスト=徳永明子
栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)より - イラスト=徳永明子

■地球温暖化で何度上がるのか

地球温暖化の予測にはいくつもシナリオがありますが、数十年後に何℃上がるかの予測は簡単ではありません。たとえば、大気の成分がどう変化するか、その変化がどの程度の気候変動につながるかまで考えなければいけません。そのためには、世界でどのようなエネルギーが(例:太陽光発電や原子力発電)、どういう状況で使われるのか、林業や農業などが新興国でどの程度広がるかまで計算しなければいけませんが、あまりにも不確実です。

とはいえ、よくわからないから気温が上がらないというわけではありません。何℃上がるかはわかりませんが、確実に気温は上昇しています。温暖化の影響はすでに、地球の姿を変えています。熱波や豪雨などの極端な気象が増えていますし、生きものの多くは暑さを逃れるために高い緯度の地域や標高の高い地域に移動しています。絶滅してしまった種もいます。食糧もこれまでと同じ場所で同じように生産できない例が確認されています。

温暖化は止めようがありません。唯一の救いが私たちの技術が進歩していることです。約50年前、地球から石油がなくなるとの危機が広がっていました。しかし、岩石を掘る新しい方法などを開発した結果、いまでは「石油がなくなる」という人はほとんどいません。温暖化についても数十年後にはまったく新しい解決法が発見されるかもしれません。それは誰にもわかりませんが。温暖化を自分のこととしてまず考え、むだな電気を使わないようにするなど、できることからはじめましょう。

■これから氷河期がくる

温暖化対策は大きな課題ですが、地球の長い歴史で考えるとこれから寒くなっていくという考えがあります。いまの私たちは、地球史の視点からいうと氷河時代に生きています。氷河時代とは正確には、「氷期」と「間氷期」が数万年~10万年の周期でくり返される数百万年を指します。

みなさんは氷期と聞くと、マンモスを思い浮かべるかもしれません。私たちの祖先は雪と氷のなかで、長い毛に覆われたマンモスを狩っていました。そのマンモスは約1万年前にほとんど姿を消しました。氷期が終わりに向かったからです。現代はマンモスが消え、約1万2000年前に終わった氷期の後にはじまった間氷期に当たります。ですから、過去のサイクルに基づくと、現在は次の氷期に向かって徐々に寒くなっている時代とも考えられます。

こう聞くと「地球温暖化は心配要らないのでは」との声も聞こえてきそうです。しかし、人間が生み出す二酸化炭素の急激な増加による温暖化は地球のサイクルを壊してしまうほど深刻です。次の氷期の訪れは約5000年後と以前はいわれていました。いまでは少なくとも5万年間は次の氷期は来ないといわれています。人類はおよそ20万年前に出現し、厳しい氷期を生き残ってきましたが、いまはそれ以上の危機に瀕しているといってもいい過ぎではありません。

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栗下 直也(くりした・なおや)
経済記者、書評家
1980年生まれ、東京都出身。2005年、横浜国立大学大学院博士前期課程修了(経営学専攻)、同年日刊工業新聞社入社。経済記者として自動車、電機、金融、エネルギーの各業界、経団連などを取材。ブックライターとして、ビジネス、実用、自然科学などの分野で構成・執筆を手掛ける。2022年、NORAKURA合同会社設立。構成・執筆に『2040年の未来予測』(成毛眞著、日経BP社)、『amazon 最先端の戦略がわかる』(成毛眞著、ダイヤモンド社)ほか多数。著書に『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(左右社)、『得する徳』(CCCメディアハウス)、『図解ルネサスエレクトロニクス』(日刊工業新聞社)、など。『週刊朝日』(朝日新聞出版)、『本の雑誌』(本の雑誌社)、書評サイト「HONZ」などで、ノンフィクション本の書評を定期的に執筆する。

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「ニューズウィーク日本版」 世界のニュースを独自の切り口で伝え、良質な情報と洞察力ある視点とを提供するメディアです。

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(経済記者、書評家 栗下 直也、「ニューズウィーク日本版」)

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