500mlの中国茶が100円(税込)…世界中に3万店を展開する中国発「ミーシュー」の脅威の激安ドリンク戦略
プレジデントオンライン / 2023年10月3日 10時15分
■中国ではソフトクリームが60円、タピオカティーが120円
今年、東京の原宿、池袋、高田馬場に、中国のドリンクスタンド「蜜雪氷城」(ミーシュー)が相次いで開店した。
日本での知名度はほとんどないものの、中国国内では2023年8月時点で2万8000店舗を突破。シンガポール、ベトナム、韓国など海外にも3000店舗以上を出店する巨大チェーンだ。
2021年の営業収入は103.5億元(約2080億円、レートは取材時。以下同)、純利益19.1億元(約380億円)。利益率18.5%という高収益フランチャイズ・チェーンであり、現在、深圳証券取引市場に上場を申請中だ。
蜜雪氷城の最大の特徴は価格の安さ。中国では、レモネードが4元(約80円)、ソフトクリームが3元(約60円)、タピオカティーが6元(約120円)という常識外の安さだ。
その価格戦略は日本でも踏襲されている。今年8月にオープンした原宿店では、高山四季春(こうざんしきしゅん)(烏龍茶の一種)、原葉紅茶といった中国茶が100円(税込み、以下同)、雪王(スノーキング)マウンテンソフトが160円、各種タピオカミルクティーも300円台で販売していた。
なにより驚いたのは、ドリンクの品質の高さだ。正直、激安チェーンということで期待はしていなかった。香料などの添加物が多い安っぽい味を想像していた。だが、口にしてみたところ、私の予想は大きく外れた。
■わずか2年半で2万3000店増えた
100円の高山四季春、原葉紅茶ともに茶葉の味がちゃんと感じられ、自然な渋みで口がさっぱりした。360円の小豆ミルクティーも、上品な甘さで後味も爽やかだった。

もちろん、味は主観的なものであり、タピオカティーで有名な春水堂(チュンスイタン)や貢茶(ゴンチャ)といった有名チェーン店と同じ価格であれば、選ばれないかもしれない。しかし、蜜雪氷城は半額だ。
また、100円の中国茶は約500mlと容量はたっぷり。コンビニや自動販売機のペットボトル飲料よりも安くておいしい。コストパフォーマンスは非常に高い。実際に中国では、蜜雪氷城ができると近くのコンビニのペットボトル飲料が売れなくなると言われている。
激安だけど安物ではない標準品質。これが蜜雪氷城の大きな強みになっている。
さらに蜜雪氷城のビジネスモデルの最大の特徴は、フランチャイズ加盟店になるのに加盟費が無料ということにある。中国国内では、この2年6カ月で2万3000も店舗が増えているのだが、それはコストのかかる直営店ではなく、各地で勝手に増えていくフランチャイズ店だからだ。

■初期加盟費はゼロ、ロイヤリティーも定額
通常、土地などを持っているオーナーがフランチャイズ加盟をして店舗を運営するには、最初にまとまった初期加盟費を支払い、その後、多くのチェーンでは「売上高の何%」という形でロイヤリティーを本部に支払う。本部は、加盟費とロイヤリティー、店舗に対する食材販売などで利益をあげる。
蜜雪氷城では、この加盟費が不要で、ロイヤリティーも定額制になっている。もちろん、店舗を出すには、管理費や研修費、初期仕入れ、さらには設備、改装費なども必要だが、すべてを合算しても37万元(約740万円)の初期投資で加盟店を開くことができる。あとは7000元(約14万円、「県級都市」の場合)のロイヤリティーを毎年支払うことで商売が続けられる。
「加盟費なし」という手法は、中国の多くのフランチャイズに影響を与えている。例えば、カフェチェーンの「瑞幸珈琲」(ラッキンコーヒー)も取り入れている。ライバルのスターバックスが2025年までに9000店舗にする計画を打ち出すやいなや、ラッキンは加盟費なしのフランチャイズ展開を導入。スタバのひと足先に1万店舗を突破した。これにより中国のスタバは新たな計画を練らなければならなくなったほどだ。

■加盟店が爆増した理由
加盟店オーナーは、初期投資の低さとともに、投資回収期間の短さにも注目をする。
例えば、初期費用が1000万円で、光熱費や材料費などを引いた月の利益が30万円だとすると、投資回収期間は33.3カ月ということになる。これは加盟店オーナーにとってきわめて重要な指標だ。
どんな商売でも、儲かることもあれば儲からないこともある。儲からなければ撤退を決断しなければならない。しかし、投資資金が回収できていない段階の撤退は地獄の苦しみとなる。資金をドブに捨てる損切りほど商売人にとって苦しいことはないからだ。
これが、投資資金を回収して、あとは利益を積み上げるだけの状態になっていれば、撤退が必要でも冷静に判断ができる。そのため、投資回収期間が短いフランチャイズに人気が集まる。
蜜雪氷城の投資回収期間は6カ月から10カ月となっており、他のフランチャイズに比べて短い。投資回収期間をすぎれば投資として損をすることはなく、あとは稼ぐだけ。
2018年に激安のソフトクリーム販売が始まり、客数と店の知名度が上がったのを機に、店舗経営の魅力も広く知れ渡った。そして加盟店オーナーが一気に集まり、店舗数が急速に増えたのだ。
このハードルの低さは、日本のフランチャイズのデータと比べてみるとよくわかる。「フランチャイズ・チェーン事業経営実態調査報告書」(経済産業省)によると、加盟店になるための初期費用の平均は3292万円であり、本部想定の投資回収期間は「4年から5年」が最も多くなっている。
■本部はどうやって稼いでいるのか
このデータはファミリーレストランなどのもので、ドリンクスタンドである蜜雪氷城と直接比較することはできないが、蜜雪氷城の投資回収期間がかなり短いとわかる。
とはいえ、加盟費も取らない、ロイヤリティーも少ない中で、蜜雪氷城の本部はどうやって103.5億元もの売り上げを稼いでいるのだろうか。
その答えは、2022年Q1の収入内訳を見るとわかる。加盟費による収入はわずか2.6%で、食材、包装材料、設備などの加盟店への販売がほとんどとなっている。

蜜雪氷城では、2013年に食品製造の大珈食品を設立し、すべての食材を一括生産している。またレモンなどの果物も専用農園を持ち、一括生産する。
店舗に対しては、パウダー、濃縮果汁、ペーストなどの形にして販売をする。このため、加盟店では調理という作業がほぼ不要だ。レシピに従って、パウダーや果汁、水などを混合していけば商品ができあがる。技術が必要なのは、ソフトクリームのうず巻きをつくることぐらいだ。
■蜜雪氷城にとってのお客は加盟店
加盟店の中には、利益を増やすために、本部から卸される食材ではなく、より安価な食材を市場から調達することがある。もちろん、加盟契約違反であり製品の品質を落とす危険性があるために、本部は細かく監督をする。ただ、蜜雪氷城ではその心配がない。なぜなら、本部から仕入れる食材が最安値だからだ。
蜜雪氷城本部は、品質のいい食材を少しでも安価に卸せるように技術開発を行っている。ここでも加盟のハードルを極限まで低くしている。蜜雪氷城にとってのお客さんは実際にドリンクを買う人ではなく、加盟店なのだ。
このような蜜雪氷城のフランチャイズモデルは、StoBtoC型と呼ばれるようになっている。サプライヤーtoビジネスtoコンシューマーという意味だ。
蜜雪氷城はサプライヤーとして食材を供給し、加盟店(ビジネス)に儲けてもらう。これにより、本部と加盟店は利益をめぐって対立することなく、同じ方向を向いてビジネス拡大ができるようになっている。
日本でも、コメダ珈琲がロイヤリティーを席数に比例した定額制にして成功するなど、フランチャイズモデルの変革が始まろうとしている。
中国では、蜜雪氷城の成功によって、フランチャイズの変革がひと足先に始まっている。
■主戦場は都会ではなく地方
その蜜雪氷城にも死角はある。価格破壊のドリンクスタンドであるため、利益は小さく、大都市に出店することが難しい。家賃が高いとあっという間に利益が出なくなってしまうのだ。
「喜茶」(シーチャー、HEY TEA)、「奈雪的茶」(ナイシュエ)などの中国でいま人気の中国茶カフェチェーンと比べると、地方都市の展開が中心にならざるを得ない。
このため、北京市や上海市などの大都市住人は、蜜雪氷城を見かけることは少ないし、飲んだこともない人が多い。しかし、地方都市の、特に高校生、大学生はよく行く店になっている。

■中国人の中国人による中国人のための店舗
日本ではどうか。東京という大都市の原宿、池袋、高田馬場といった家賃の高い場所で100円の中国茶ドリンクを販売して利益は出るのだろうか。
蜜雪氷城の海外店舗の加盟店オーナーの多くは華僑、華人であり、店舗スタッフも在住の中国人だ。そのため、日本語など現地の言葉で注文ができるのは当然としても、中国語も通じる。興味深いのは、顧客ターゲットに据えているのは、現地の人ではなく、在住の中国人であり、中国人旅行者だ。

中国のコロナ禍は完全に収束をし、海外への渡航も緩和が続いている。その中国人たちが、中国ブランドの蜜雪氷城に立ち寄ってくれることを期待している。
特に原宿は、蜜雪氷城の他にも激安アパレル「SHEIN」(シーイン)、フィギュア玩具「ポップマート」などの中国企業の店舗があり、中国の若者にとっては、東京に旅行にきたら必ず立ち寄る場所になっている。
池袋はアニメの町ということもあるが、在日中国人が多い。高田馬場は中国人留学生と予備校生であふれている。
蜜雪氷城の海外店舗は、中国人の中国人による中国人のための店舗になっている。単なる激安だけではなく、何から何まで考え抜かれているチェーンなのだ。
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フリーライター/ITジャーナリスト
IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。著書に『横井軍平ゲーム館 「世界の任天堂」を築いた発想力』(ちくま文庫)、『任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代』(角川新書)、『Googleの哲学』(だいわ文庫)など多数。
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(フリーライター/ITジャーナリスト 牧野 武文)
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