「こんなときは何て言うんだっけ?」はダメ…「うちの子は挨拶ができない」と嘆く親にできるたった一つのこと
プレジデントオンライン / 2023年12月10日 11時15分
※本稿は、本田秀夫・フクチマミ『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■外出先の病院などで、ちゃんと挨拶しない
親御さんは、お子さんが挨拶できないと思っている。それでお子さんに「ちゃんと挨拶しなさい」「ほら、こういうとき、なんて言うの?」と声をかける。私は診察室で、このような場面をよく経験します。みなさんはマンガを見て「挨拶ができない子に、どうやって教えればいいんだろう?」と思ったかもしれません。
■「この子は本当に挨拶ができないの?」と考えてみる
しかし、このエピソードは「挨拶ができない」という話ではないのです。「挨拶はしているのだけれど、それが親には見えていない」という話なんですね。
マンガで診察を終えた場面を角度を変えて、もう一度ご覧ください。医師が「あおいさんバイバイ」と話して手を振ると、お子さんも軽く手を振り返しています。実はこれが、この子なりの挨拶なんです。このタイミングで、医師に対して挨拶をしているんですね。お子さんは手を振り返して挨拶を済ませたので、そのあと親御さんから「さようなら」と言うように促されたときには、反応が鈍かったのです。
角度を変えて子どもの様子を見てみると……
子どもの行動というのは先ほどのマンガのように、大人の常識とは違う形で行われていることもあります。親は「できていない」と思っていても、その子なりのやり方では「できている」こともあるのです。
挨拶の教え方を考えるときに、大人はどうしても常識にとらわれて「大きな声で」「相手の顔を見て」「丁寧な言葉遣いで」といった型を教えようとします。そして子どもが型通りの挨拶ができなければ、「この子は挨拶が苦手」と判断します。
そうではなくて、「この子はどんな挨拶をしているんだろう?」と考えると、その子なりのスタイルが見えてくることがあります。「手を振り返す」のほかにも、「会釈をする」「ボソッとつぶやく」「よそ見をしているけど返事はする」といったやり方もあります。
それがわかったとき、子どものスタイルに合わせて大人が挨拶を返すようにすると、その子の挨拶に対するモチベーションが上がります。
■親がお手本を見せる
「この子なりの挨拶」が見えてきたら、保育園や幼稚園の先生に伝えるのもいいですね。例えば連絡帳に「最近こういうやり方で挨拶をするようになりました」と書いておくと、園の先生が理解して、子どもの挨拶に反応してくれる場合もあります。
マンガのようにお子さんが小学校低学年であれば、学校の先生との個人面談などで挨拶の話をするのもいいでしょう。子どもの特徴を理解してもらう、いい機会になります。
また、家族が見本を見せたり、親子で一緒に挨拶をしたりするのもいいと思います。例えば診察室に入るときに、親が「せーの」と言ってタイミングをとり、親子で一緒に「こんにちは」と言う。子どもに「ほら、なんて言うの?」と問いかけるのではなく、適切なやり方を見せて、一緒にやって、教えていくのです。
帰宅時に「せーの、ただいま!」と言うのもいいですね。自閉スペクトラムの特性がある子は立場の違いを読み取るのが苦手で、帰宅時に「おかえり」と言われると「おかえり」と返してしまうところがあります。それを「ただいまでしょ」と注意するのではなく、「ただいま」を一緒に実践する。
お手本を見せるとわかりやすくなります。
挨拶を一緒に実践して、子どもに自然と身につけてもらう作戦
■挨拶できるようになる時期を気にする必要はない
自閉スペクトラムの特性のあるお子さんが自発的に挨拶するようになるのは、中学生以降ということも珍しくありません。
ちょうどその時期(思春期)は、一般の子どもたちがハキハキと「○○くんのお母さん、こんにちは!」などと挨拶をしなくなる頃です。
平均的な子どもの発達を考えると、「大人への挨拶」という行動は、右肩上がりに増加するわけではなく、思春期に入っていったん減少し、成人期で再び増加するというジグザグ型の上昇カーブを描きます。一方、そんなジグザグの上昇カーブを必ずしも描かないところが、自閉スペクトラムの子たちの特有の発達スタイルのようです。
幼児期や学童期だと、本人がまだ挨拶の意義(親愛の気持ちを表す、対人関係を良好に保つ)をあまり理解していないので、自発的にハキハキと行うのは難しいかもしれません。でも、大人になれば挨拶するようになります。ジグザグのカーブを描かなくても、大人になって挨拶ができれば問題ないですよね。それまでは、手本を示したり一緒に挨拶をしたりして、焦らずに教えていければいいのでは、と思います。
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信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より現職。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事。著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSB新書)などがある。
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マンガイラストレーター
1980年神奈川県生まれ。女性誌や、書籍などの挿画、エッセイ・ルポマンガでも活躍中。女の子2人のママ。著書に、『子育てのお金まるっとBOOK』(新潮社)など、共著に『おうち性教育はじめます』シリーズ(KADOKAWA)などがある。
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(信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長 本田 秀夫、マンガイラストレーター フクチマミ)
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