なぜ"たいして出世しなかった人"のほうが若く見えるのか…医師・和田秀樹「若々しい中高年の共通点」
プレジデントオンライン / 2023年12月9日 13時15分
※本稿は、和田秀樹『60代からの見た目の壁』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■出世すると年齢より老けて見える
医者の世界では、不思議なことに、若くして教授になった人ほど老け込んで見える、という印象があります。
50歳前後で教授とか、もっと若ければ40代で教授になる人もいますが、教授になってから、急速に老け込んでくるような気がするのです。
教授になると自分より年上の医者も部下になります。そういうベテランの医者を目下に扱っているから、老けて見えるのかもしれません。
一般の企業でも同じようなことがあるのではないでしょうか。40代で社長になったら、やっぱり実年齢より老けて見えるような気がします。
これは『老害の壁』(エクスナレッジ)にも書いたことですが、アメリカでは日本のように社員が社長のことを「社長」と呼ぶことはありません。
アメリカを代表する大手テクノロジー企業の社長であったスティーブ・ジョブズ(アップルの創業者の1人)やビル・ゲイツ(マイクロソフトの創業者の1人)も、社内では「スティーブ」や「ビル」のようにファーストネームで呼ばれていました。
スティーブ・ジョブズは56歳で亡くなりましたが、晩年でも若々しい姿を見せてくれました。ビル・ゲイツ(55年生まれ)も70歳近いのに、実年齢よりも若々しく見えます。
2人とも会社を創業したのは20代、30代ですが、社長になったからといって老けて見えるようなことはなかったと思います。
■日本の大学教授は「上がり」のポジション
これは学問の世界も同じで、アメリカでは医学部や工学部などの分野では、30歳前後で教授になることが珍しくありません。
アメリカの場合、教授の肩書きを持っているほうが研究資金を集めやすいので、若いうちに教授になろうとする学者が多いのです。いわば教授になることが研究のスタートラインなので、早く教授になって、自分がやりたい研究を始めたいわけです。
これに対して、日本の場合、教授はすごろくで言うところの「上がり」のポジションです。それまで一生懸命に論文を書いて、教授への道を駈け上がってきたのに、教授になったらもう何もしなくても地位が保障されます。
だから老けて見えるようになってくるのではないでしょうか。
iPS細胞の研究で、12年にノーベル医学・生理学賞を受賞した山中伸弥さんは、京都大学iPS細胞研究所長の仕事をやめて(現在は名誉所長)、残りの人生をより一層研究に専念したいと宣言していましたが、日本の場合、ノーベル賞を受賞した学者もほとんどそれが上がりになっているようです。
■「精神年齢を上げる」という強迫観念
教授や社長になると老け込むのは、精神年齢が一気に上がって、肩書きにともなうくだらない風格を早々と身につけてしまうからではないかと私は思っています。
日本では精神年齢が高いほうが大人だと考える文化があるのか、年齢が上がるとともに、精神年齢も上げたいと思っている人が多いのではないでしょうか。
でも「精神年齢は上げなければいけない」という強迫観念はよくないことだと私は思っています。
よくリタイアしてからの趣味は、俳句だとか詩吟だとか、本を読むなら哲学書とか言う人がいますが、興味もないのにそんな趣味を押しつけられても、やる気にはならないでしょう。
趣味というのは、好きなことをやるべきですし、それで精神年齢が若いと言われても、気にする必要はありません。
私の東大医学部時代の恩師であり、今も尊敬する養老孟司さんは、子どもの頃から昆虫観察が趣味で、80代半ばになる今も山や野を駆け巡って昆虫採集をしています。
高齢者だからといって、興味もないのに俳句を趣味にするより、養老さんの生き方のほうがよっぽどステキだと思いませんか。
■何歳になっても無邪気に子どものような好奇心を持つ
あるいは、23年度前期のNHK朝ドラ(連続テレビ小説)『らんまん』の主人公のモデルになった植物学者の牧野富太郎も、子どもの頃からの植物好きを一生続けて「日本の植物学の父」と呼ばれるようになった人物です。
何歳になっても無邪気に子どものような好奇心を持つのは、見た目の若さという点でもとても重要だと思います。それがなかったら、人は30代でも40代でも老成していくのではないでしょうか。
年をとっても好奇心を失わない人のことを「少年の心を持った大人」などと言いますが、これは「子どもっぽい大人」とはまったく違います。
後者のような人のことを「精神年齢が低い」と言う人もいますが、これは私の言うところの精神の若さとはまったく関係ありません。
例えば、ちょっとムカついただけで、カッとなって怒鳴り散らすのは、単に子どもっぽい大人にすぎません。
成長とともに身につけなければならない倫理観や道徳観が欠如しているだけで、確かに定義上は精神年齢が低いことになりますが、精神の若さとは無関係です。
ただ、年をとって脳の前頭葉の老化が進むと、もともとあった性格が尖鋭化されてくるという特徴があります。
コンビニの店員に難クセをつけて怒鳴り散らしている老人をよく見かけますが、あれも一種の性格の尖鋭化です。この老人はたぶん、自分流の倫理観が厳しかったのか、老化とともに過度になっていったのでしょう。
■出世しないほうが若く見える
逆に、出世競争に負けてしまった人はどうなるのでしょうか。年功序列というシステムが崩壊した現在、40代や50代で出世の道が断たれるということは珍しくありません。
そういう人たちは、「プライベートな趣味の世界で自分は勝つ」と思えばよいのです。
週刊誌を出しているような大手出版社は、出世競争に負けた社員でも、一般的なサラリーマンの平均年収と比べると、相当に恵まれた給料をもらっています。
実際、私の本を出してくれた出版社にもいましたが、そういう人たちは、けっこう遊びながら、会社員の生活を楽しんでいるのです。
私の同級生にも、日本の最大手の広告代理店に就職したものの、たいして出世しなかった友人を何人か知っています。彼らの仕事というのは、遊びも仕事のうちですから、みんな見た目がけっこう若いのです。
逆に言うと、社会的地位が高くなると、人は貫禄がついてきて、老けて見えるようになるけれども、逆に地位が上がらなければ見た目の若さが保てるとも言えるのはないでしょうか。
■貫禄を自分でつくるのは意外に難しい
私は大学を卒業してからは、いろんな医療現場での勤務医や塾の顧問、さらには映画監督や作家など、1つの組織に所属せず、さまざまな仕事をしながら生きてきました。いわばフリーターみたいな人生です。
そして、22年7月から日本大学(以下、日大)の常務理事という新たな仕事を始めることになりました。
日大の本部に行って、理事室のある階でエレベーターを降りると、最近はやめてもらうことにしましたが、3人くらいの秘書が頭を下げてくれました。こういうのは、私はすごく苦手です。
これまでも、講演会の講師をして、主催者側のスタッフからもてなされることはありましたが、組織の地位があるという理由で、もてなされることはありません。だから日大で秘書から頭を下げられても、それに応じる貫禄というものがないのです。
そういった貫禄のようなものは自分でつくらないといけません。ところが、こういうものは意外に難しいのです。
せいぜい身なりをきちんとするくらいでしょう。
もちろん、やりたくない人はやる必要はないと思います。
■老人は人が思っているよりあきらめがいい
よく「昔、俺は部長だった」などと、かつての地位を自慢する人がいますが、今現在は何者でもないことを宣言しているようなものです。
でも、そんなことを言う人には、昔の地位を尊重して対応しないと、キレて怒り出すこともあるようです。
お年寄りにもいますね。タメ口で話しかけたりすると、「今の若いやつらは口のきき方がなってない」などと怒り出す老人が。
でもこれも性格の尖鋭化の一種で、もともと怒りっぽい性格の人が、怒りをコントロールできなくなっただけのことだと思います。
こういうマンガに描かれるような老人は、目立ちはしますが、実際はそんなに多くはいないと思います。
たくさんの高齢者と接してきた経験から言えるのですが、老人は人が考えているよりあきらめがよいものです。
例えば、会社の部長だった人が、リタイアして駐車場の管理人になるといったことが現実にはあるわけです。
ではその管理人は昔のプライドがあるから偉そうにしているかというと、そうではなくて、ちゃんと腰の低い管理人になっているのです。
逆に言うと、この国の人たちは肩書きに従順な人が多いとも言えます。
実際、「俺は元部長だ」と叫んでいるようなタイプの管理人というのは見たことがありません。
確かに、「威張らないと損」みたいな考え方をしている人が世の中には存在します。でも、威張りたくても威張れない人がいるのも事実。
「俺は定年して、ただの老人になった」と思っている人のほうが意外に多いのです。
過去の肩書きにしがみつく人より、そのほうが人間的にはよいと思いますが、そのままだと見た目に関しては老けていく可能性があります。
ですから、意欲だけは失わないようにしなければなりません。
■見た目は寿命にも影響する
見た目は老化予防や寿命にかなり影響していると考えられています。
99歳で亡くなった作家で僧侶の瀬戸内寂聴や、105歳で亡くなった聖路加国際病院名誉院長の日野原重明は、晩年こそ老け込んで見えましたが、80代の頃は2人とも、かなり若々しく見えました。
前述のように、私は日大の常務理事をしているので、定期的に日大に通っていますが、そこで日大の顧問になったオリックスシニア・チェアマンの宮内義彦さんによくお会いします。
宮内さんも80代後半ですが、とても80代とは思えないくらい若々しいのです。
また私を常務理事に推薦してくれた日大理事長の作家・林真理子さんも、当然のことながらとても若く見えます。
みなさんに共通しているのは、いつまでも新しいチャレンジを続けて、意欲的に生きているということでしょう。
誰もがこのような生き方ができるなら、見た目年齢もある程度、若く保つことが可能かもしれません。
でも現実は真逆です。今の日本は高齢者から運転免許を取り上げて移動する自由を奪ったり、コロナになったら3年間も家に閉じ込めたりするなど、高齢者の老化を進めることばかり行っています。
また、美容整形した人やカツラをした人をさげすむようなことも平気でしています。
いずれも高齢者を老け込ませる世論が元凶ですが、これらの世論を放置していると、日本の高齢者はますますヨボヨボになっていきます。
一方、高齢者をヨボヨボにしないことが、将来のこの国にとってもよいことなのに、国はその反対の政策ばかりやっているのです。
■高齢者の若返りは日本を元気にする
現状では、5000万人まで増える高齢者のうち、3割の高齢者がいずれ要介護になると試算されています。
でも対策を講じれば、要介護になる高齢者を1~2割に減らせる可能性があります。そうすれば、国の介護費もずいぶん削減できますね。
高齢者が元気になれば日本の経済もよくなります。高齢者は労働力になりますし、消費もしてくれるからです。
今の日本の労働市場は深刻な人手不足が続いているので、1日数時間でも高齢者に働いてもらったら、ありがたいのです。
また、経済は生産だけでは成り立たないので、消費も増やさないといけません。たとえ働いていなくても、高齢者は大事な消費者でもあるのです。
そういう社会に変えるにはどうすればよいのか。答えは簡単ですね。
高齢化が加速して、高齢者がもっと増えることがわかっているなら、高齢者を若返らせればよいのです。
それに対して、今の政府の対策は後手後手で、年金を払う時期を遅らせるとか、医療費の自己負担率を上げるとか、ろくなアイデアがありません。
そんなことより、高齢者が意欲を失わないような社会をつくって、みんなを若返らせるような政策を考えればよいのです。
そして、個人としてのわれわれは、意欲を失わないためにもっとも効果的である「見た目を若くする生活」を始めることです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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