こんな服装では老けて見られてしまう…和田秀樹が語る「60代でユニクロ愛用に潜む大きな落とし穴」
プレジデントオンライン / 2023年12月10日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『60代からの見た目の壁』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■「お爺さん」と呼ばれる年齢でもスーツを着るべき理由
見た目を若くするには、おしゃれをすることが重要です。おしゃれするということは、他人に見られることを意識しているわけですから、適度な緊張感をともないます。
男性は定年退職がきっかけでスーツを着る機会がなくなります。
ところが、スーツをやめて、外出するときも、ポロシャツとかセーターを着て歩くようになると、人から見られているという緊張感がなくなるのか、表情もだらしなくなり、老け込んで見える男性が多いように思います。
年をとって一番老けて見えないかっこうは、男性なら断然スーツだと私は考えています。
スーツを着ていると、まわりから「お爺さん」と呼ばれる年齢でも、いわゆるお爺さんには見えません。
年をとればとるほど、外に出るときは、ちゃんとしたかっこうをしているほうが若く見える。そういう法則があるような気がします。
みなさんはどういう印象を持っているでしょうか。60代や70代でも、スーツを着てさっそうと街を歩いている男性はかっこよく見えませんか?
そんな印象もあるので、私は定年した後も、スーツを着る機会が多い男性のほうが若く見えると思っています。
■数十万するゼニアのスーツを買い漁っていた
私は若い頃からおしゃれが好きなこともあり、服にはわりとお金をかけるほうだと思っています。
40代の始め頃の私は、『大人のための勉強法』(PHP新書)という本がベストセラーになって、さらに自営の通信教育の売り上げもよく、わりと懐具合がよい時期でした。
もっとも、今は少子化で受験産業が低迷しているので、たまたまその当時がよかったという意味です。大学病院などに所属していない私は、基本的に収入は安定していません。
いずれにしても、私の場合、「お金があれば服を買いたい」という性格なので、その頃はスーツをはじめ、服装にはけっこうお金をかけていたのです。
エルメネジルド・ゼニア(以下、ゼニア)というブランドが好きだったので、数十万するゼニアのスーツも、あまり躊躇せずに買っていました。
それから私は太ってしまい、ゼニアのそのスーツが着られなくなってしまいましたが、もったいないので捨てないでとっておいていたのです。
とっておいたとしても、さすがにそのスーツは、もう二度と着られないだろうと思っていました。
ところが日大常務理事の就任が決まってから、また袖を通してみたところ、サイズがピッタリだったのです。
■60歳を過ぎたら、自分が生きたいように生きるのが一番
私は自分が糖尿病であることを公言していますが、糖尿病の症状の1つに「やせる」があります。エネルギーとして使われる血糖が尿から排出されるため、やせてくるのです。
その結果、昔のスーツが着られるようになったというわけです。
一般に糖尿病でやせるのは危険だとされていますが、体調はむしろよいくらいです。
仮に危険だとしても、私の場合は、「見た目がよくなるならいいじゃない」という考えなので、そんなに深刻に受けて止めていません。
これまでの本でも述べていますが、60歳を過ぎたら、自分が生きたいように生きるのが一番です。
糖尿病でも長生きするために、血糖コントロールを一生続けて、85歳まで生きられたとしましょう。でもそのために、食べたいものをがまんしたり、インスリン注射を打ちながら生きるという自分の姿は想像できません。
確かに、私はそんなに長くは生きられないかもしれません。でも好きなように生きて、85歳よりも5年、10年寿命が短くなったとしても、死ぬ間際までかっこいい爺さんとして死んでいったほうがよいと思っています。
話をおしゃれに戻すと、理事の仕事で日大に行くときは、よくこのゼニアのスーツを着て行きます。仕立てのよいスーツですから、今着てもぜんぜん古くは見えません。
数十万円したスーツですが、20年たっても着られるのですから、おしゃれが好きな人なら、そんなにべらぼうに高い値段とは言えないのではないでしょうか。
■「あの爺さん、かっこいいな」と思ってもらえるか
よいスーツを着ると、まわりの見る目も違ってきます。
今、まだ働いている人は、どこでスーツを買っていますか? 駅前の激安紳士服の店で揃えますか、それともブランドショップで仕立ててもらいますか?
最近は不景気が続き、人々の目も肥えていないので、そうではないかもしれませんが、激安紳士服の店のスーツでは、ビジネスの世界では見下す人もいるでしょう。
みんながゼニアを着る必要はありませんが、もうちょっと手を出しやすいブルックス・ブラザーズなどのブランドにするとか、自分が着るものをもうちょっとおしゃれにしてみようという気持ちはとても大事です。
おしゃれをするだけで、気分も「アガる」でしょう。
さすがにブランドのスーツは金額的に難しいというのであれば、ネクタイだけエルメスやシャネルなどの高級ブランドにしてみるのもよいと思います。
リタイアした人も同じです。サラリーマンの仕事着ではなくて、おしゃれのためにスーツを着るのであれば、激安紳士服店のスーツでは意味がありません。
よいスーツを着て、よいネクタイを締めて、帽子が似合うならよい帽子をかぶって、街に出かけてみてはいかがでしょう。
きっと街を歩く人も、「あの爺さん、かっこいいな」と思うはずです。
■男性も着物を着たらおしゃれに見える
会社をやめたのに、今さらスーツは? と思っているなら、着物(和服)を着てみるという手もあります。
林真理子さんは、着物が似合う方ですが、私も林さんに誘われて、有名な呉服屋さんで着物を2着ほどつくりました。
着物は着るのがめんどうくさいので、そんなにしょっちゅう着ませんが、海外に行くときはけっこう着て行きます。
2008年に私が監督した映画『受験のシンデレラ』が、モナコ国際映画祭最優秀脚本賞ほか4冠を受賞しましたが、そのときはゼニアのタキシードを着て行きました。
でもその後、林さんから着物を勧められたこともあり、海外の映画祭には着物を着て行くようになったのです。
ところが、着物は着慣れていないので、いまだにタキシードやスーツのようには、うまく着こなせていません。
でも外国の人たちは、着物が似合っているかどうかわからないので、一緒に写真を撮ろうと言われたり、けっこう注目されるのです。
でも自分で見たら、ぜんぜん似合っていません。やっぱり着物は着慣れていないとダメだなと、反省しました。
映画監督の大島渚は、どこに行くにも着物で、トレードマークにもなっていたので、すごくよく着こなしていました。着物は普段から着ていないと、なかなか似合って見えないものなのです。
この「着慣れる」というのは、洋服でも同じです。
普段はスーツを着ないのに、たまに着ても似合っていないのは着慣れていないからです。こればかりは、しょっちゅう着て、身につけていくしかないでしょうね。
■老舗旅館や料亭の女将さんが年齢を感じさせない理由
林真理子さんは、着物が好きで、しょっちゅう着ていますから、とても似合っています。
日大の卒業式や入学式のような晴れ舞台では、もちろん着物を着て登場します。よい着物ですから、やっぱり目立ちます。
私は23年の日大の入学式に、前述のように20年前に買ったゼニアのスーツを着て行きましたが、着物にしろ、ブランドのスーツにしろ、よい服はすごく長く着られます。それで自分の見た目もよくなるのですから、よい投資だと思います。
林真理子さんは、おしゃれのために着物を毎年新調していますし、何を着たら自分がきれいに見えるのかがわかっていますから、きれいに見えますし、やっぱりいつまでも若々しく見えますね。
林さんの真似をしなさいとは言いませんが、女性は見た目を若くする秘訣(ひけつ)の1つとして着物を着るのもよいと思います。
それに着物はある程度の年齢になってからのほうが似合って見えるもの。
よく若いモデルが着物を着ているのをテレビで見ますが、背が高すぎる女性は着物がなかなか似合いませんし、顔が若すぎると晴れ着のように見えてしまうと感じます。なかなか日常の中で着こなすのは難しいものです。
着物が似合っている女性は、老けて見えることがありません。
老舗旅館や料亭の女将さんは、顔をよく見たら70代くらいの女性でも、年齢を感じさせないものです。それはよい着物を着ているからでしょう。女性の着物にはそんな魅力があると思います。
■ファストファッションの功罪
経済状況の違いにもよると思いますが、海外では年をとるほど、服にお金をかける傾向があると思います。
逆に日本の場合、年をとればとるほど、服にお金をかけなくなるような気がします。そして、それが見た目年齢を老けさせる原因にもなっていると思います。
服にお金をかけない人が、服を買うのがファストファッションの店です。
ファストファッションは、一説には、「最新の流行を取り入れながら低価格に抑えた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・販売するファッションブランドやその業態」とされていますが、日本のユニクロやGU、スウェーデンのH&M、スペインのZARAといった店です。
こうしたファストファッションの特徴は、誰にでも似合うようにつくってあることだと思います。だから、普段はファッションに関心がない人が着ても、それなりにまともなかっこうに見えたりします。
若い人ならそれでもよいのかもしれません。でも、60代や70代の人が着るには、ちょっと貧乏くさいような気がします。
ところが、多くの人は、年をとったらファストファッションでいいじゃない? と思っているようなのです。
私も旅先で替えの下着がないときなど、ファストファッションの店に行くことがあります。
そこで、私と同じくらいの年齢なのに、けっこう老けて見える男性を目にすることがあって、「やっぱりよい服を買わなきゃ」と反省したりしています。
何を着るかは人によって考え方があると思いますが、私は年をとっているからこそ、よい服を着るべきだという考え方なので、経済状況が許す限り、できるだけ服にはお金をかけてよいと思っていますし、かけるべきだとも思っています。
あと何十年かしか生きられないのですから、若いとき以上におしゃれをして、人生を楽しんだほうがよいのではないでしょうか。
■見た目をよくするために、もう少し服にお金をかける
私の服にお金をかけるべきだという意見には、今の60代以上の方であれば、ある程度共感してもらえると思っています。
ところが、今の若い人たちは、服にお金をかける必要はないと思っている人が多数派のようです。自分の娘たちを見ても、そんなに服には興味がないようです。
確かに、今の30代ぐらいの子たちは、ファストファッションしか知らないわけですから、服についてはそれでよいと思っているのでしょう。
バブル崩壊後に大人になった人は、お金のかかるおしゃれをしたことがない世代ですから、あと何十年かすると、よい服を着て街を歩くという文化すらなくなってしまうのかもしれません。
そして、もしもそうなったら、その世代の子どもたちは、われわれよりもっと早く老けるのではないかと心配になります。
もちろん、服にお金をかけられない背景には、日本が30年以上も不況から抜け出せていないという現実があります。
その問題は別に考えていかなければなりませんが、少なくとも、バブル経済の豊かさを経験した世代であれば、見た目をよくするために、もう少し服にお金をかけてもよいのではないでしょうか。
■半数の高齢者が「自分は豊か」と回答
私は高齢者と呼ばれる年代の経済格差は、意外に小さいと思っています。確かに、90年代末頃に、大量リストラの時代があり、そこで憂き目にあった人たちにはあてはまらないかもしれません。
しかし、どうにか定年まで勤め上げることができた人であれば、定年する頃にはそこそこの年収になっていたでしょうし、それなりの退職金ももらったはずです。さらに厚生年金も企業年金も悪くはありません。
みんな口では「お金がない」と言っていますが、それは外に向けてのエクスキューズで、実際はそれほど貧しくないのではないでしょうか。
あるアンケート調査では半数の高齢者が「自分は豊か」と答えているようです。
少なくとも、子どもが自立して、住宅ローンも払い終わっているなら、老後にそれほど大きなお金は必要とはしないでしょう。
また、私のいろんな本で書いていますが、貯めたお金は自分のために使うべきです。子どものために残しておく必要はありません。
■お金は動けるうちに使ったほうが、自分のためになる
老後のお金の使い道は、旅行でもよいし、外食でおいしいものを食べるのもよいでしょう。でも余裕があるのであれば、よい服を買うことも私は提案したいのです。
こんなことを言うと、「老後が心配だ」という人がいるのも事実です。確かに何歳まで生きるのかは予測がつかないので、貯金を減らしたくないという気持ちはわからないでもありません。
また、もっと年をとったら、介護される立場になるかもしれないから、そのときのためのお金をキープしておいたほうがよいのではないか? という人もいるでしょう。
でも、実は要介護になっても、寝たきりになったとしても、意外にたくさんのお金はかからないのです。
それは介護保険が受けられるというだけでなく、寝たきりになれば、娯楽にお金を使うことができませんし、食事にもお金を使う必要がなくなるからです。
つまり、体が動かなくなってからは、お金を使う機会そのものが減るということです。
逆にいえば、お金は動けるうちに使ったほうが、自分のためになるということです。
老後のための蓄えがある人なら、それを定年から死ぬまでの前半戦で使うつもりにならないと、使いきれずに寝たきりになってしまうかもしれません。
■90歳からの旅行はリスク有り
旅行が好きな人なら、体が元気なうちにどんどん旅行すればよいのです。でも90歳になってからの旅行はかなりつらいと思います。
私が温泉に行って、こんな光景を目にしたことがあります。宿泊した温泉宿の大浴場で推定80代くらいのお爺さんが入っていたのですが、1人でお風呂から出られなくなってしまったのです。
一緒に風呂に入っていた息子たちが、あわてて手助けして、やっと立ち上がることができたのですが、運が悪かったら大変なことになっていたかもしれません。
60代、70代は元気だった人でも、いつかは体が衰えてきます。そうなったら、旅行は難しくなります。
この高齢者の場合も、一緒に温泉に行ってくれる家族がいたから実現できたのです。1人では無理だったに違いありません。
お金はそうなる前に使い切ってしまいましょう。そして、見た目をよくしたいのであれば、そのお金でよい服を買ってほしいと思います。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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