体重計に乗るほど、検査を受ければ受けるほどネガティブ感情が増殖する…体重測定と健康診断の不都合な真実
プレジデントオンライン / 2024年1月24日 11時15分
※本稿は、内藤誼人『人間関係に悩なやまなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
■人の心は、私たちが思っているよりも強い
「トラウマ」という言葉は、もともとは心理学の学術用語だったのですが、今ではすっかり日常語になってしまいました。大変に苦しい思いをすると、「なんだかトラウマになりそう」などと、普通の人でも使います。
さて、トラウマ的な出来事が起きたときには、どういう対応をすればいいのかというと、すぐにどうにかしようとするのではなく、まずは少し様子を見ましょう。あわててカウンセラーのところにかけこまなくてかまいません。
コロンビア大学のジョージ・ボナノは、配偶者が亡くなってしまい、悲しみに打ちのめされたときでも、カウンセリングが必要かというと、決してそんなことはないと述べています。
たいていの人は自分の力で、人間関係の喪失の苦しみから立ち直るのであって、カウンセリングを受けると、かえって回復力が弱められてしまい、事態がさらに悪化する可能性さえあるとボナノは指摘しています。
失恋をしたとか、受験に失敗したとか、苦しく感じる出来事が起こったとしても、すぐにどうにかするのはやめましょう。
私たちの心には、自然な回復力が備わっているのです。ものすごく悲しい気持ちになったとしても、カウンセラーにすぐに助けを求めるのはどうなのでしょうか。
私は心理学者ですので、本来なら同業者であるカウンセラーの肩を持って、「苦しいときにはカウンセリングやセラピーを受けるといいよ」とアドバイスしたいところですが、まずは自分の自然な回復力を信じたほうがいいような気がします。
病気になったときもそうで、ちょっと熱が出たからといって、すぐに解熱剤を飲む必要はありません。
なぜなら、私たちの身体は非常に良くできていて、ウイルスが身体に侵入すると、体温を上げることでウイルスをやっつけようとする自然な免疫メカニズムが備わっているからです。たいていの病気は、2、3日寝ていれば自然に治るのです。解熱剤などを飲んでしまうと、かえって自然な免疫力が弱まってしまいます。
心の病気についても同じです。どんなに苦しい出来事が起きても、しばらくの期間を乗り切れば、自然に受け入れることができるようになります。乗り切る時間がどれくらいになるかは、人によって違うと思いますが、「一生、苦しいまま」ということは絶対にありません。熱が出ても、しばらくすると自然に熱が引いていくように、心の悩みも少しずつ、少しずつ和らいでいきます。
■エゴサーチをしない
自分自身、あるいは自分の会社がまわりの人たちからどのような評価を受けているのかをインターネットで調べることを「エゴサーチ」(略して「エゴサ」とも)といいます。インターネットを使えば、たしかに簡単に自分の評判や噂などを調べることができますが、いったいそういうことをして自分に何か目に見えるメリットがあるのでしょうか。
たしかに、自分に対して好意的な意見が書かれていれば嬉しくもなるでしょう。ところが残念なことに、ほとんどの場合、自分についての悪いコメントや罵詈(ばり)雑言ばかりを見つけてしまうのではないかと思われます。かなりの高確率で悪い評判しか見つけられないでしょう。
自分に対してアンチな意見ばかり目にしていたら、気分が落ち込むに決まっていますよね。ですから、そもそもエゴサーチなどしないほうがいいのです。
世の中には、知らなくていい情報を目にすることで気分が落ち込むことはよくあります。ボストン大学のアンドレア・マルキュリオは、145人の大学生に「どれくらい頻繁に体重を測りますか?」と尋ねる一方で、どれくらい外見にこだわるのか、どれくらい自分の身体に不満を感じるのかを聞いてみました。
すると、図表1のような結果になったそうです。しょっちゅう体重計に乗っていると、自分の身体に自信が持てなくなってしまうことがわかりますね。体重計に乗るたび、イヤな思いをするくらいなら、いっそのこと体重計に乗らないほうがいいかもしれません。定期健診を受けるのが大好きな人もいるでしょうが、これもあまりやりすぎるのは考えものです。
ネバダ大学のマレー・ミラーは、コレステロール値の検診、歯科検診、眼科検診、皮膚がん検診、血圧検診などを受ければ受けるほど、かえって心配事が増え、ネガティブな感情が高まってしまうという報告を行っています。
健康のために検診を受けるはずなのに、検診を受けるたび、いろいろな数値で問題が見つかって、ガッカリするくらいなら、いっそのこと検診を受けないほうが心はスッキリしたままでいられるものです。
知らなくていいことは、知らないままにしておきましょう。臭いものにはさりげなくフタをして、「見なかったこと」にしておくのが精神的に健康でいられるコツです。
■精神医学やカウンセリングの本は読まないほうがいい
本書をお読みくださっているみなさまにはまことに申し訳ないのですが、実をいうと、本書のような内容の本は読まないほうがいいかもしれません。自分の悩みを解決しようとして、心理学やカウンセリングの本を読んでいると、さらに悩みが増えてしまう、という皮肉な現象が起きることもあるからです。
医学生症候群、あるいはインターン症候群という用語があります。医学部の学生は、いろいろな病気とその症状を学ぶわけですが、医学的な知識が増えるたびに、「ひょっとして自分もこの症状に当てはまっているのではないか?」と感じるようになり、健康であっても、なぜか自信が持てなくなってくるのです。これが医学生症候群です。
サウジアラビアにあるタイフ大学のサミヤー・アルサガフィは、医学部の学生195人と、他学部の学生200人を比較したところ、医学部の学生のほうが、自分が糖尿病になってしまうリスク、高血圧になるリスク、頭痛が起きるリスク、ガンになるリスクなどを高く見積もることを明らかにしています。
ヘタに知識が増えると、悩みも増えてしまうということがあるのです。心理学の本についても同様。知識がなければ悩むこともないのですが、中途半端に知識を得てしまったために、「私は“社交不安障害”ではないのか?」とか、「私は“自己臭症”なのでは?」と余計な心配ごとを抱え込んでしまうことはよくあります。
余計な悩みが増えるくらいなら、いっそのこと本など読まないほうがよい、ということもあるのです。
本書では、「どうすれば悩みをなくせるのか?」という具体的、実践的な解決法をご紹介しているので、悩みが増えるというより、むしろ「なるほど、こうすればいいのか」という指針が得られると思います。
けれども、あまり他の人の本の悪口は言いたくありませんが、不安を煽るだけ煽って、それでいて何の解決策も教えてくれない本もうんざりするほどたくさんあります。そういう本はできるだけ読まないようにしたほうがいいかもしれません。
私は小学生の頃に、ノストラダムスの大予言に関する本を読み、「人類はもうすぐ絶滅するのだ」と思い込んで、布団の中で震えていた思い出があります。おかしな本を読むと、不安ばかりが高まってしまうので、そういう本はできるだけ避けたほうがいいでしょう。
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心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。
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(心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長 内藤 誼人)
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