「採用面接の練習」は逆効果になる…「暗記した内容はよく言えましたか?」と言われた応募者の赤っ恥
プレジデントオンライン / 2024年1月31日 11時15分
■面接練習をしすぎてはいけない
いま、社会人の2人に1人が転職を経験する時代になっています。そして、転職に欠かせないのが採用面接です。
アナウンサーを中心とした転職コンサルを10年続けてきた筆者にも、採用面接の相談が日々届いています。先日行った就職・転職のお悩みに答えるインスタライブでは、転職志望の男性からこのような質問がありました。
「面接練習をどのようにすればいいですか? どうすれば面接で暗記していることがわからないように話せますか?」
同じような悩みを持つ転職志望者の方もいると思うのですが、筆者の回答は「面接でのやり取りを暗記するのをやめましょう」です。
多くの転職志望者が、一問一答の受け答えを暗記するために面接練習を繰り返し行ってしまいます。おそらく、何度も練習を重ねたほうが面接で上手く話せると考えているのでしょう。ですが、この考え方ではむしろ内定から遠ざかってしまいます。
暗記した質問回答は、棒読みで原稿やセリフを読んでいるような印象を与え、面接官の心に響きません。かえって「暗記してきたな」と悪い印象を与える可能性もあります。面接練習をすればするほど、「練習してきた感」が面接官に伝わってしまうのです。
■「想定外の質問」をゼロにすることはできない
そもそも、なぜ面接でのやり取りを暗記しようとする人が多いのでしょうか。
いままで多くの転職志望者から話を聞いてきましたが、ほとんどの人が「面接官からなにを聞かれるのかわからないので、事前に聞かれそうなことを練習することで安心して本番を迎えたい」と不安げに答えていました。たしかに、安心して本番を迎えるためにも、しっかり準備したいという気持ちはよくわかります。
だからこそ、多くの転職志望者が自分の「わからない」をつぶしていくために、面接官の質問を想定するのでしょう。変な答えをしたくない、言葉に詰まりたくないというネガティブな思いから、ちゃんと答えられるようにと回答を作成し丸暗記するわけです。
ですが、ここに落とし穴があります。
どんなに答えを準備しても想定外の質問をされることがあります。すべての想定回答を完璧に予想し、準備することは不可能です。準備して暗記していなかった質問をされ、頭が真っ白になって緊張したり、的外れなことを話してしまったりした経験がある人もいるのではないでしょうか。
実際に転職志望者の話を聞いてみると、面接官から準備していない質問をされて混乱し、「何を話したのか覚えていません……」と語る方は少なくありません。
想定外の質問に対応することが難しく、その場で対応できない。だから、結果的に面接で緊張してしまう……という負のループ。想定問答を繰り返して面接練習をすることは、むしろ自分を緊張しやすい状態に追い込んでいるとも言えます。
■完璧に話せたからこそ印象が悪くなる場合も
もちろん、幸運なことに想定外の質問をされずに暗記したやり取りをよどみなく話し切れる場合もあるでしょう。ですが、だからといって内定がもらえるとは限りません。
私が講師を務めるアナウンススクールの門を叩いてきたAさん。「これまでの試験状況はいかがでしょうか?」という質問に先日受けたNHKキャスターの面接について話してくれました。面接官の質問に迷いなく答えられて上手く話せているなと思いきや、面接の最後に「暗記してきた内容は上手く言えましたか?」と言われたそうです。その場の雰囲気を想像するだけでもゾッとします。
彼女も準備万端に文章を練って丸暗記をし、面接練習を繰り返していました。
面接官は回答を覚えてその通りに受け答えができるような「完璧さ」よりも、多少たどたどしくくても素直に「自分の言葉」で話せる人に心を動かされるのです。
■事実の羅列ではなく“ストーリー”を示す
暗記メインの面接練習に頼らずに、自分の経験と思いを伝えるにはどうしたらいいでしょうか。さまざまな方法がありますが、筆者はいままで実践してきたメソッドを「共感ストーリー」としてまとめています。
スタンフォード大学ビジネススクールの教授で行動学者のジェニファー・アーカーは、事実や数字の羅列で伝えるよりもストーリーで伝えるほうが22倍記憶に残りやすいという研究結果を発表しています。
たとえば、「1週間前の晩ご飯は何でしたか?」と聞かれても、すぐに答えられる人はそういないと思います。
ですが、「最近の自分の誕生日に誰と一緒に何を食べましたか?」という問いにはきっと、答えられるでしょう。家族や恋人、友達など大切な人たちと一緒の誕生パーティーや食事会。なかには仕事でひとり、会社で誕生日を迎えたという方もいらっしゃるかもしれません。
いずれにしてもそこには、あなたにとっての誕生日ストーリーがあります。だから、記憶に残っているのです。転職面接でも自分の物語、共感ストーリーを話して、ほかの転職志望者のなかで「記憶に残る人」になるために、自分の経験と思いを自分の言葉で話していきましょう。
■自己理解が深まれば暗記は必要なくなる
といっても、転職面接で生かせる自分の経験や思いをパッと思い出すことは難しいかもしれません。こちらの9つの質問からあなたの経験や思いを引き出すヒントにしてください。
①失敗や挫折を乗り越えた経験は?
②やりがいや充実感があった経験は?
③怒りを感じた経験は?
④どんな言葉をかけられて嬉しかったのか?
⑤まったくの初心者で・初めて経験したことは?
⑥自分に影響を与えた人は?
⑦自分が大切にしている言葉は?
⑧会社やチームに何か影響、変化を与えた経験は?
⑨会社やチームで表彰など何か選ばれた経験は?
これらの経験にともなう感情が必ずあったはずです。嬉しい、楽しい、喜びといったポジティブな感情。そして、悲しい、寂しいといったネガティブな感情。ぜひ、思い出しながら書き出してみてください。
また、共感ストーリーは自分の過去、現在、未来を語ることでもあります。要するに共感ストーリーが語れるということは、自分の人生の点と点が一本の線となり、自分自身のことを把握しているということです。それは、自分の何を聞かれても、自信を持って答えられる状態であると言えます。
転職で選ばれる共感ストーリーを作ることは、緊張が和らぐのはもちろん、自己理解、自己分析にもつながります。丸暗記をして何度も面接練習をする必要はないのです。ただでさえ仕事で忙しい転職志望者にとっては、一石二鳥の必勝メソッドなのです。
■質問を繰り返して心の余裕をつくり出す
「自分より若い女性が上司になったら耐えられる?」
「あなたを食べ物に例えたらなんですか?」
など、まったく考えてもいなかった質問にどう答えたらいいのでしょうか。それは、その場で考えるしかありません。
ここで大事なのは早く答えようとしない、ということです。即答しようとすれば、表面的な答えになってしまいます。自分で何言っているんだろうという状態で伝えても、面接官の心をつかむことはできません。
そこでまずは、答えを考えるだけの時間をつくり出しましょう。例えば「10年後にあなたはどうなっていたいですか?」と質問されたら、「……10年後、どうなっていたいかですね」と質問を繰り返してみましょう。質問を繰り返している間に、答えを考えるだけの時間をつくり出すことができます。質問を繰り返すと、面接官が「はい、10年後、にどうなっていたいかです」などと、さらに繰り返してくれることもあります。
そうしたやりとりのなかで、緊張している気持ちをゆっくりと落ち着けられる余裕が生まれます。即答することよりも、じっくり考えてから答えた方が誠実さや本気度が感じられます。なので、重要なのはじっくり考えている時の「見せ方」です。
■自分の経験を深掘りすることが内定への近道になる
例えば「そうですね……」と言いながら質問の答えを考えることも有効なのですが、その時に大事なのが目線です。目があちこちに泳いでしまうと、落ち着きがない印象です。また、「えっと」と斜め上を見て考えるのは白目になっているのでカッコ悪いです。
では目線はどうしたらいいのか?
おすすめは、「そうですね……」と言って下を向いて考えたらいいのです。ポイントはアゴを引くほど下を見るのではなく、目を伏せるということです。考えている表情もきれいですし、目を上や横に動かすよりも集中して考えることができます。
採用面接を突破するためには、暗記して準備した言葉を即答するよりも、時間がかかってもいいから深掘りした自分の言葉を伝えていきましょう。先ほど紹介した「暗記してきた内容は上手く言えましたか?」と面接官に言われてしまったAさんも、丸暗記の面接練習をやめて共感ストーリーのメソッドを実践した結果、見事内定を勝ち取ることができました。
もし、あなたに「私のこの経験をぜひ聞いてもらいたい!」という思いがあれば、その熱量はイキイキとした魅力的な話し方となって表現され面接官に伝わります。採用面接に苦戦している方は、9つの質問などを参考にして自分の経験を深掘りしてみてはいかがでしょうか。
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元アナウンサー、アナウンススクール代表
STORYアナウンススクール代表/STORY代表。1973年茨城県鹿嶋市生まれ。25歳フリーターでアナウンサーに内定。テレビラジオ4局のステップアップを果たす。その後、共感で選ばれるプレゼン手法「共感ストーリー」としてメソッド化。STORYアナウンススクールでは、志望動機、自己PRの作成を指導。面接における伝え方の指導も行い、NHKキャスターや地方民放局アナウンサーの内定に導いている。現在は、一般企業の転職など、選ばれる人になるサポートや講演活動を行っている。著書に『「たった1人」に選ばれる話し方』、『転職は話し方が9割』(ともにstandards)がある。
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(元アナウンサー、アナウンススクール代表 松下 公子)
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