「ジェンダー差別発言」に若い記者から総スカン…川勝知事が「不適切にもほどがある」失言を繰り返す理由
プレジデントオンライン / 2024年4月2日 7時15分
■川勝知事の「不適切にもほどがある発言」を記者が追及
静岡県の川勝平太知事は、周囲からどんなに「不適切発言」だと指摘されても、決してそれを認めない。
だから、自らの発言を撤回して、謝罪することを断固拒否する姿勢を変えることはない。
3月26日の知事会見は、朝日新聞を皮切りに、共同通信、テレビ静岡、中日新聞、日経新聞の5人の記者が、「男の子はお母さんに育てられる」「磐田は浜松より文化が高かった」などの川勝知事の一連の発言に対して強い疑問を投げ掛ける異常事態となった。
記者たちは「発言を撤回して、謝罪すべきではないのか」とあらためて求めた。
川勝知事は「誤解を与えたが、(真意を)話せばわかる」と一切、受け入れる姿勢を見せなかった。
■若い記者との価値観のズレが鮮明に
一連の質疑応答では、川勝知事の時代錯誤の価値観が、社会の変化に追いついておらず、若い記者たちとは全く違っていることが明らかになった。
それなのに、川勝知事は自分勝手な解釈で説明すれば、周囲がきちんと理解できると思い込んでいる。
その背景には、次に「不適切発言」をすれば、知事を辞職すると公言したことが大きく左右しているのだろう。
昨年の6月、9月、12月県議会に続き、3月18日に閉会した2月県議会でも、知事の不適切な対応に批判が集中した。今回は、県政の最高責任者としての自覚を求める決議案可決という大騒ぎになっている。
知事職にこだわり、権力者の座を失いたくない川勝知事は毎回、発言の撤回、謝罪を拒んでいる。
ただ今回は、県議会の場ではなく、定例会見の席で、5人の記者たちから“集中砲火”を浴びることになった。今後、「不適切発言」に対する川勝知事の政治責任を問う声はますます大きくなりそうだ。
いったい、何があったのか。「不適切発言」を行った状況を振り返る。
■表敬訪問で「磐田は浜松より文化が高い」と発言
3月13日午前、磐田市を本拠地とする女子サッカーなでしこ1部リーグの「静岡SSUボニータ」の監督、選手らが、静岡県庁の知事を表敬訪問した。
その席で、川勝知事は「磐田は浜松より文化が高いんですよ。浜松よりもともと高かったわけでしょう。こういった言い方すると語弊がありますけども、歴史的にはね、天竜川の東側の方が中心だった」と発言。またサッカー強豪校で知られる藤枝東高に触れて、「ボールを蹴ることが一番重要なんですよ。勉強よりも。何よりも」などと発言した。
さらに、サッカー男子日本代表チームの愛称に「サムライ」がつく理由が武士道に由来するとの説明で、「やっぱり男の子はお母さんに育てられるし、お母さんが持っているんです」と好き勝手な意見を披露した。
知事発言の真意は不明だが、静岡県を代表する知事としては、あまりにも不用意な発言であるのは間違いない。
■県議や記者が「差別発言だ」と問題視
当日午後の定例会見で、女子サッカーチームの表敬訪問を取材した記者が、一連の発言は不適切ではないのかとただした。
これに対して、川勝知事は「相手が不快に思われたり、相手に無礼を働いたりしたら問題があるが、そういうことはなかった」と発言の修正、撤回など必要はないと退けた。
ところが、今回の知事発言に自民党県議団が「特定の地域を比較して、一方を侮辱した」などと反発した。
3月18日の県議会最終日、提出議案の採決前の討論の中で、自民党県議が「文化が高い、低いとの表現は重大な差別発言だ。知事と県民の意識にかつてないほどの隔たりができている」などと異例の苦言を呈した。
さらに公明党県議も「知事の立場にありながら他人や自治体を自分勝手な基準で評価し、思いのまま発言するのは許せない」などと怒りをぶつけた。
この2人の県議の意見が一般的な社会の常識なのだろう。
ただ県議会では、知事に意見を求める場面がなかったため、26日の定例会見で、記者たちがあらためて、今回の知事発言を追及した。
■「ジェンダーの脈絡ではなかった」と弁明
まず、朝日新聞記者が「『男の子はお母さんに育てられる』という発言について、ジェンダーの問題からして、性別の役割分担につながるのではないか」とただした。
川勝知事が「子育ては命をつなぐ尊い仕事ということで、男女関係なしで、母親も父親も一緒に育てていく、当たり前のことだ」など回答した。
納得できない記者は「発言はその趣旨とかけ離れている。改めて撤回したほうがいいのではないか」と求めた。
これに対して、川勝知事は全く別の話を持ち出して、長々と説明した上で、川勝知事は「女性にもサムライスピリットがあるという意味で申し上げた」と逃げた。
記者は「趣旨はわかるが、『男の子はお母さんに育てられる』という発言に問題がある。お母さんを持ち出す必要はなかった」と繰り返した。
ところが、今度は、西郷隆盛や薩摩隼人などの侍のイメージを持ち出して、母親と男の子の関係を自分勝手な解釈で説明した上で、川勝知事は「男女のジェンダーの脈絡ではない」などと退けた。
記者が「発言自体に問題はなく、撤回する必要はないということか」と確認すると、川勝知事は「誤解を招く発言であったことは反省している」としたが、発言は撤回しなかった。
■記者に向けられた「マスコミの切り取り」批判
テレビ静岡の女性記者が「知事は過去にも、女性の容姿や学力を結びつける発言をし、『お母さんとか女性はこういうものだと決めつけたのは、パターン化した時代錯誤的な発言だった』と反省の弁を口にしている。今回の問題は、その頃からの価値観がアップデートされていないのではないか」とただした。
川勝知事は「お母さんだけでなく、お父さんの役割も大きいという脈絡で申し上げた」などと逃げたため、記者は「(どんな)脈絡があったとしても、こういった発言の切り取りだけで県民は(理解)すると思う。(発言は)切り取られてしまってこのような問題となる」と、今回の騒ぎの本質をついた。
川勝知事は「そうですね。切り取りが問題だ。はい」と、まるで「切り取り」をした報道に問題があるかのように責任を転嫁してしまった。
これに対して、共同通信記者が「今回の場合は、切り取りではなく、記者会見で説明したような知事の真意の説明はなかった」と断言した。
■30年前の著書から読み取れる「川勝知事の価値観」
確かに、川勝知事の発言すべてが報道されないことは事実である。
だが、ふつうは問題のある点のみを切り取って報道するのが当然であり、取材記者の価値判断に任される場合が多い。
ただ川勝知事の「女性差別」はいまに始まったことではない。
それは知事本人が過去に記した文章からはっきりと読み取れる。知事本人の文章だから「切り取り」などではなく、そこに川勝知事の「本性」がはっきりと表れている。
1995年12月、当時早稲田大学教授だった47歳の川勝知事は、著書『富国有徳論』(紀伊国屋書店)を発刊した。
その「あとがき」において、京都大学で起きた「セクハラ疑惑」で、京大辞職後、禅寺の東福寺に逃げ込んだ矢野暢(とおる)・元京大教授を取り上げている。
矢野氏の「セクハラ事件」は、ウィキペディア「矢野事件」や小野和子編著『京大・矢野事件』(インパクト出版)に詳しい。矢野氏は1999年12月、63歳で亡くなっている。
川勝知事の「あとがき」では、矢野氏が逃げ込んだ東福寺へ抗議に訪れた女性たちを矢野氏の「禅修行」をじゃましたと攻撃し、女性たちを簡単に迎え入れた東福寺管長を非難している。
■セクハラをした矢野氏を擁護し、被害女性を非難
最も重要な点は、川勝知事の「あとがき」が、矢野氏のセクハラ疑惑に全く触れていないことだ。だから、どのような女性たちか、なぜ、東福寺を訪れたのかさっぱりわからない。
彼女たちは矢野氏のセクハラを追及する大学の女性教官らで、疑惑の解明を求める署名を集めて、東福寺の管長に面会した。
それなのに、川勝知事は、東福寺を訪れた女性たちを「夜叉の相貌を露わにした彼らの息づかい」と侮辱し、「女人の要求(私怨)に理解を示し、くだんの居士(矢野氏)を寺から追放すると言明」した東福寺管長を非難している。
実際には、矢野氏のセクハラとレイプを訴えたのは、矢野氏に最も近く、弱い立場の女性秘書たちである。
ようやく勇気をふりしぼってセクハラ被害等を訴えたが、矢野氏は禅寺に逃げ込んでセクハラ疑惑を大学側とともにうやむやにしようとした。
その後、矢野氏は文部大臣(当時)に辞職承認処分取り消しを求める行政訴訟、4件のセクハラに関する民事訴訟を起こしたほか、セクハラ、レイプを訴えた元秘書には、名誉棄損による500万円の損害賠償を請求した。
裁判の途中で矢野氏はセクハラ、レイプ等を認め、訴訟は矢野氏の完全な敗北に終わった。
■30年前から頭の中が変わっていない
川勝知事が「あとがき」を書くまでには、京大・矢野事件の「真実」はほぼ明らかになっていた。それなのに、どういうわけか、「セクハラ事件」を無視した上で、矢野氏の擁護に回ったのだ。
川勝知事は、当時の矢野氏の主張のみを頭から信じ込んで、セクハラ事件を認めなかった。
その根底には、男性優位の社会では「セクハラくらいは許される」という差別意識やエリート意識があったとしか思えない。
それから約30年がたつが、川勝知事の頭の中は昔のまま変わっていない。
だから、今回のようなジェンダーを巡る差別的な発言を繰り返すのだろう。
共同通信、中日新聞記者が「磐田は浜松より文化が高かった」の真意をただしたあと、日経新聞記者が「基本はやっぱり撤回したり、まずは謝るのが筋ではないか。不適切発言をしたら辞職すると公言したことで、なかなか謝れないのか」と疑問を投げ掛けた。
川勝知事は「いやそんなことはない」と答えたため、記者は「であれば撤回あるいは謝罪すべきだ。なぜそうしないのか」と突っ込んだ。
川勝知事は「誤解を与えているところは話せばわかる。この場でもそうなっている」などと逃げた。
結局、同じ回答の繰り返しとなり、記者が「今回の一連の発言は不適切ではなく、謝罪も撤回もしないのか」と確認すると、川勝知事は「そうですね」と締め括った。
■「不適切発言」ということばが辞書にない
今回の知事会見は紛糾したが、毎回、変わらない風景がある。
それは、「富国有徳の美しい“ふじのくに”」が会見場の壁紙となっていることだ。その壁紙を見れば、著書『富国有徳論』が現在でも川勝知事の自信あふれる著作だとわかる。
つまり、30年前といまの川勝知事は全く変わらないのだろう。だから、いまさら知事の差別意識、エリート意識も変わるはずがない。
多分、今後も同じような不適切発言を繰り返すだろう。
「ああ言えばこう言う」川勝知事の辞書にはそもそも不適切発言ということばさえないのかもしれない。
それでも、若い記者たちがこぞって「追及」することで、川勝知事の時代錯誤の価値観がはっきりと県民にも見えてくるはずだ。
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ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)
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