「満員電車で定年まで通勤」に幸せはない…「東京の広告マン」を辞めて茨城で独立した30代男性の"幸せな生活"
プレジデントオンライン / 2024年4月11日 7時15分
■東京23区が「転出超過」になった衝撃
2021年度の東京都への年間転入者数は42万167人。転出者数は41万4734人。
転入超過ではありますが、その数は前年よりも2万5692人減り、現在の方法で統計をとりはじめた2014年以降、最も少ない数となりました。
つまり転出者が増えたのです。
さらに東京23区で見ると、転出者数が転入者数を1万4828人上回り、「転出超過」になりました。
少なくともここ1世紀の間(戦争による一時期を除いて)、日本社会の人の流れはずっと東京へ東京へ、と向かっていたわけですから、東京一極集中が一瞬でも崩れたことは、地方創生を考えるうえではとても象徴的な出来事だったと思います。
■会社への出勤が「鎖」になっている
もちろん、コロナ禍が収まってからもこの潮流が続くかどうかはまだわかりません。
けれど、少なくともコロナという外圧によって、日本人は一度は地方分散型社会を指向しました。
会社への出勤という「鎖」さえとれれば、多くの人はそこまで東京に住みたいとは思っていないともいえるのではないでしょうか。
そういう意味でも、このコロナ禍での「地方分散」の流れは、記憶されてしかるべきだと思います。
コロナ禍でテレワークが主流となり、都心から公共機関で1.5〜2時間エリアが自然環境的にも居住環境的にも俄然注目を集めるようになりました。
そして、
「現在の仕事を離れたくない」
「テレワークを使って働いて、これまで積み上げてきたキャリアを継続したい」
という人が、移住希望を考えたといっていいと思います。
■テレワークで移住・定住を増やせるか
一方で、言うまでもなく全国の自治体は移住者を欲しがっています。
少子化による人口減少、ことに20代からの若者世代の減少は全国各地で著しいわけですから、どこの自治体でも子育て支援や移住者支援制度をつくって、移住者を呼び込んでいます。
となると、前述のような「移住したい人たち」の受け皿になることを考えないといけません。
いかに都心から1.5時間圏内が人気とはいっても、遠隔地の自治体が「東京の隣に引っ越す」ことは無理なのですから、別の方法でこのエリアがもっている魅力=仕事を生み出さないといけないでしょう。
そこで注目されるのが「テレワーク」です。
現在全国のいくつかの自治体が、弊社と組んで「テレワークを市民に定着させて移住定住人口を増やそう」という取り組みをしています。
実際にテレワークを使うと、どんな形で移住生活を送れるのでしょうか。
■往復3時間以上かかる広告代理店を退職
茨城県境町に住む30代の新井岳さんの事例を紹介したいと思います。
新井さんは2022年の春までは、都内にある大手企業のハウスエージェンシーで働いていました。
そのときは実家のある茨城県古河市から、往復3時間以上をかけて通勤していました。
それが、いまは酪農とテレワークの二足のわらじを履きながら、ほどよい田舎暮らしを楽しんでいます。
住居から牛舎までは車で10分。
通勤時間が減った分昼寝もできるし、肉体労働がほどよい運動となっているそうです。
毎回バランスのいい食事が家でとれるので、身体も引き締まり健康状態もよくなったと笑顔で語ります。
新井さんの1日はまず、朝5時半に起きて牛舎の掃除や餌やりからスタートします。
搾乳は7時から8時半ごろまで。
その後テレワークにとりかかり、昼寝などもして、16時から19時ごろまでまた牛の世話をして1日が終わります。
■「酪農×テレワーク」を決断できた理由
新井さんは結婚の際、奥様の実家の酪農業の三代目後継者がいないことを受け、自分が継ぐのがいちばんいいのではないかと考えました。
もちろん会社を辞めることになりますが、そのときすでに弊社のテレワークのことを知っていて、自分も在宅で働けばいいし、会社を辞めてもビジネスパーソンとしてのキャリアはテレワークで継続できるとわかっていました。
テレワークに背中を押され、酪農を継ぐ決心をしたといってもいいかもしれません。
じつは新井さんの前職の会社は、コロナ禍前から弊社とテレワークでのアウトソーシングの契約を結んでいました。
会社員時代の新井さんは、広告プロモーションの仕事を担当しながら、リモートワーカーたちの管理者として仕事を発注したり取りまとめたりするポジションでした。
その経験があったから、発言にもあったように、「酪農×テレワーク」への決断も早かったといいます。
■農業大国でも離農して都心に行く人が多い
自分がリモートワーカーとなったいまは、前職の経験を活かしてひとりで仕事を完結させています。
さまざまなクライアントの企画書やプレスリリースを書く、メディアの広告枠の買い付けをする、記事出稿の手配をする、など。
テレワークを始めたころは、仕事を受注しすぎて時間に追われ、牛の世話をしながら企画を考えるなどしていました。牛の世話には当然フレックスがないので、追い込まれてしまったこともあったそうです。
しかし、だんだんと仕事のバランスがわかってきたいまでは、自分のできる範囲でテレワークをすることができているといいます。
農業大国茨城にあって、境町も第一次産業は盛んですが、次世代の担い手となる若者や後継者は次々に都心に出てしまい、離農する人も多いと聞きます。
しかしテレワークのことを知れば、そういった担い手も地元に戻ってきやすくなったり、留まったりしやすくなるのではないでしょうか。
周囲にも、まだテレワークはやっていないけれど、やろうと思えばそのスキルのある人、予備軍はたくさんいるはずだと新井さんは言います。
■テレワークが酪農の収入を補完している
テレワークは、働き手からすると場所を選ばず自分の仕事を続けられる利点があります。
収入の面でも、テレワークがあれば、新井さんのように酪農の収入を補完することができ、安定とモチベーションにつながります。
このように、テレワークを使うことで移住生活を実現できた人は最近ますます増えています。
自治体にしても、この方法を市民に奨励すること(テレワーク講習会を開くなど)でリモートワーカーを養成することができ、若者の都会への流出を防ぐ、あるいは都心からの移住者を獲得するひとつの方法になりえるはずです。
もちろん、リモートワーカーを募集している企業との出会いも大切ですが、現在どの業界でも人手不足の状況にありますから、スキルの高いリモートワーカーがいれば、仕事とのマッチングはさほど難しくはないと思います。
テレワークを住民に奨励している自治体のケースは本書で紹介しますが、ぜひこの方法をまちに取り入れることを考えてみてください。
コロナが終息しても、テレワークは「新しい働き方」として、今後も広がっていくでしょう。
この「デジタルスキル」が、日本人の働き方や暮らし方を変えていきそうです。
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イマクリエ代表
神奈川県出まれ、青山学院大学卒業。2007年に株式会社イマクリエを創業し、東日本大震災を機にテレワークを導入。社員全員がフルリモートで働く「完全テレワーク型事業モデル」を確立した。テレワークを活用した雇用創出・企業誘致等の地方創生支援事業を行なうほか、企業向けにテレワークを活用したアウトソーシング事業を展開する。2022年度「地方創生テレワークアワード 地方創生担当大臣賞」を受賞。同年「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞。
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(イマクリエ代表 鈴木 信吾)
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