一級建築士が断言「18畳以下の部屋は6畳エアコンで十分」「分譲価格が一番高い最上階角部屋は電気代がヤバい」
プレジデントオンライン / 2024年8月2日 6時16分
(前編から続く)
■コスパを高めるマンションの部屋選び
外気との接触面積が小さいほど光熱費で得するのは、集合住宅でも同じことです。
ワンフロアに3戸が横に並んだ、5階建ての板状マンションで考えてみましょう。1階の中部屋をエントランスとします。
部屋の広さや間取りが均一だとすると、分譲価格がもっとも高くなるのは、もっとも眺望がいい「最上階・角部屋」です。
しかし、「最上階・角部屋」は6面中4面が外気に触れていて、熱損失が大きい。こういった部屋は、冬は寒さに、夏は暑さに晒されることになります。
「1階・角部屋」もエントランスの空間を含めると4面で外気に触れるので、オススメできません。
「最上階・中部屋」「中間階・角部屋」「2階・中部屋」が3面で外気に接する一方で、「中間階・中部屋」は2面です。つまりもっとも温熱環境がよくて光熱費を節約できるのは「中間階・中部屋」になります。
一般的にマンションは、北側に玄関、南側にリビングのある縦長の間取りで、上下と左右(東西)に比べて南北の面積が小さい。外に接する面が小さいので余計に熱損失が小さくなります。
南向きマンションの場合、バルコニーが付いているかどうかも要チェックです。
夏は日の高い時間帯は上の階のバルコニーが庇の役割を果たして遮熱してくれますし、冬は日射角度が低いのでバルコニーがあっても日が差し込みます。
ただ、バルコニー付きであっても、最上階は屋根のないルーフバルコニーになっているケースもあるので注意してください。
マンションの営業担当は、資産価値を強調して「最上階・角部屋」を売りたがります。しかし、将来の資産価値の騰落は誰にも読むことができません。
購入した物件の価格が将来高騰することに期待するより、光熱費というランニングコストを安くするという観点で部屋を選ぶほうが、堅実にお金が貯まると思います。
■家電量販店で絶対間取りを言ってはいけない理由
光熱費を賢く抑えるには、間取りだけでなく設備にも気を配りましょう。たとえばエアコン。8畳の部屋なら、畳数通りに8畳用の出力を持った機種を買うか、あるいは家電量販店で「大は小を兼ねる」と店員から勧められるままに、一回り大きい機種を買う人が多い。しかし、このようにエアコンの機種を選ぶのは、マンションや新しい戸建て住宅において間違いです。
エアコンの「○畳用」という表記は、JIS規格に基づいたものです。JIS規格というとなんとなく聞こえはいいですが、その実は1964年の「木造平屋無断熱住宅」に基づいて定められた規格です。
現代の住宅は高断熱・高気密化が進んでいます。つまり、60年前の風通しのいい木造平屋住宅を基準にした規格でエアコンを買うと、オーバースペックになるのです。
とくに冬はエアコンの能力が超過剰です。夏は高断熱・高気密でも日射の遮蔽が甘くて昔より室温が高い家もあります。しかし、日射の遮断などの対策をきちんとすれば、畳数通りのエアコンは過剰。エアコンの出力は半分から3分の1の畳数でも足りることが多いです。
太陽光発電装置の設置も非常に有効です。再生可能エネルギーの買い取り価格が下がっていますが、太陽光発電導入の目的は売電ではなく、あくまでも「自家消費」です。太陽光発電装置の設置が得なのは、住宅の専門家なら誰でも知っています。
オススメしたいのは、太陽光発電と給湯システム「おひさまエコキュート」の組み合わせです。実は家庭の電気代のうち3分の1が給湯で発生しています。給湯の省エネ化は家計へのインパクトが大きい。エコキュートはもともと高効率で給湯できますが、太陽光発電と組み合わせることで、さらに光熱費を節約できます。
戸建てで屋根が断熱化されていない場合、太陽光パネルを置けば遮熱効果もあるので、二重で経済効果を得られます。
■エアコンを常に運転させるべき理由
日々のランニングコストには表れませんが、無関心だと後で健康と経済面でダメージを負いかねないのがカビ・ダニ・シロアリです。
カビや害虫が発生すると不快なだけでなく、健康被害が生じるおそれがあります。また、除去や駆除をする費用が生じ、家が傷めばリフォーム費用も必要です。
カビやダニ、シロアリから家を守るには、そもそもどのような家にすればいいのでしょうか。意識したいのは「湿度」です。カビもダニも、家の中の湿度が60%を超えると発生しやすくなります。ゆえに一年を通して、湿度を60%未満にコントロールすることが最大のカビ・ダニ対策になります。
日本は梅雨の時期から9月末までの外気の湿度が平均で70%を超えます。この時期に窓を開けて過ごすと、室内が外と同じ湿度になるため、窓を閉めきってエアコンの冷房や除湿をかけるべきです。人がいない部屋でもエアコンをつけて、家全体で湿度をコントロールすることが大切です。
一方、シロアリは水と木が共存する場所を好みます。たとえば木造住宅で、天井や壁に雨漏りや内部結露があると危険。鉄骨造でもフローリングの部屋は要注意です。
ただ、昔に比べてシロアリは減っています。床下もシロアリが発生しやすい場所ですが、今は床下全面に基礎のコンクリートを打つ「ベタ基礎」が主流になりました。また、昔は浴室がタイル張りで、タイルの下のモルタルから水が漏れて木が腐り、そこにシロアリが棲みつくケースが多かったのですが、ユニットバスの普及でそれも減っています。新築の場合、シロアリについてはそれほど心配しないでいいでしょう。
古い家に住んでいる場合、基礎は変えられませんが、リフォーム時に浴槽をユニットバスに入れ替えることはできます。最近のモデルは高断熱浴槽で、蓋を閉めていれば6時間で2度しか水温が下がらないほど保温性能がいい。追い焚きの光熱費を考えても、ユニットバスや高断熱浴槽にリフォームする意味はあると思います。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。
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松尾設計室代表取締役、一級建築士
設計活動のほか、住宅専門紙への連載や「断熱」「省エネ」に関する講演など、多岐にわたって活躍。著書に『お金と健康で失敗しない間取りと住まい方の科学』(新建新聞社)など。
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(松尾設計室代表取締役、一級建築士 松尾 和也 構成=村上 敬)
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