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黒板の「書き写し」、教科書に「蛍光マーカー」は意味がない…最新研究でわかった「頭がよくなる科学的な勉強法」

プレジデントオンライン / 2024年9月22日 9時15分

『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)を書いた安川康介さん。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

効率よく学習を進めるにはどうすればいいのか。アメリカの医師国家試験にトップ1%の成績で合格した米国内科専門医の安川康介さんは「長時間勉強しても、非効率な勉強を続けていれば成績は上がらない。黒板や参考書を書き写したり、教科書に蛍光ペンで線を引いても、勉強した気になっているだけの可能性がある」という――。(聞き手・構成=昼間たかし)

■「効率の悪い勉強法」は今すぐ見直したほうがいい

――長時間勉強しても成績が伸びない、と悩んでいる人は多いと思います。まずは効果的ではないNG勉強法を教えてください。

効果的ではない勉強法はいくつかあります。まず、教科書や参考書にハイライトや下線を引くことですね。これは多くの学生が行っている一般的な勉強法ですが、実は効果が低いことが研究で明らかになっています。

アメリカの大学生を対象とした研究では、8000語の文章をハイライトするグループ、ハイライトしないグループ、他の人がハイライトしたものを読むグループに分けて実験を行いました。1週間後、10分だけ文章を見直してからテストを行ったところ、どのグループでもテストの点数に差がなかったのです。

さらに、別の研究では、下線を引きながら読むグループのほうが、推論問題の点数が低くなるという結果も報告されています。これは、下線が引いてあるところだけに気が向き、全体の内容を関連づけて理解することが阻害されてしまった可能性があります。

ノートの取り方に関しては、教科書や参考書の内容をただ書き写したり、まとめたりすることも効果が低い勉強法の一つです。アメリカの高校生180人を対象にした研究では、文章をそのまま書き写した生徒は、ただ文章を読んだ学生と変わらない結果でした。

これは、脳で負荷のかかる処理がほとんど行われないためです。

■「書き写す」より「自分の言葉で言い換る」がいい

一方で、自分の言葉でパラフレーズしたり、短く要約したりした生徒のほうが、ただ読んだ学生や書き写した学生よりも高い点数を取りました。

ただし、要約の質には個人差があります。要約するのが上手い人がいる一方で、要約があまり上手くない人もいます。ある研究では、研究に参加した約3分の1以上の大学生は、学習内容についてきちんとした要約ができていませんでした。的確に情報を捉えた質の高い要約をしている学生では、テストの点数がより高かったことが報告されていますが、要約が得意でない人はある程度の訓練が必要です。

また、一夜漬けなど、一度にまとめて勉強しただけでは、長期的な記憶形成に結びつかないことが多くの研究結果で明らかになっています。テストに受かるためだけならいいかもしれませんが、記憶の定着を考えるとこうした間隔をあけずに一度に続けて勉強する「集中学習」では、本質的な学びにはなりません。テスト前に頑張って詰め込んだのに、2週間後にはほとんど忘れてしまっていた、という経験は多くの人にあるのではないでしょうか。

――多くの人が効果的だと信じている勉強法で、実は効果が低いものはありますか。

はい、実は多くの人が良いと思っている勉強法の中に、効果が低いものがあります。特に意外かもしれないのが、「好みの学習スタイルに合わせる」という方法です。

よく「勉強法は人それぞれ。自分の好きな学習スタイルで勉強するのが一番効果的だ」と言われることがありますよね。例えば、視覚情報が好きな人は図やグラフや映像などの視覚的な情報を中心に学習し、耳から聞くのが好きな人は音声教材などの聴覚の情報を中心とした学習を行うというものです。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
黒板を書き写すより、自分の言葉で言い換えたり、要約すると学習効果は高まるという。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「自分にあった勉強法」はあてにならない

しかし、こうした学習者の好みの学習スタイルを判別し、学習方法を変えたほうが効率的なのかについては、今のところ科学的根拠はあまりないのです。

著名な認知心理学者たちが学習スタイルの効果についてまとめた論文では、学習者の学習スタイルを判別し、それに合わせた学習をしたほうが良いとする科学的な根拠は現時点では不十分であり、いくつかの研究では、それを裏付けない結果が出ていることが報告されています。

例えば、解剖学のコースを履修する大学生426人を対象とした研究では、自分の学習スタイルと合う勉強法を行った学生の成績は、自分の学習スタイルとは異なる勉強法を行った学生と比べて高くなかったことがわかっています。

むしろ、あまりに「自分にはこの勉強法が合っている」と囚われてしまうと、本当に効果的な勉強ができない可能性があります。

――学習スタイルに合わせない勉強は無駄だと聞いたことがあります。これは本当でしょうか。

その考え方は実は誤解です。「自分は視覚型だから、図や表を使わないと効果がない」とか「自分は聴覚型だから、音声教材でないと学習効率が悪い」といった固定観念は、むしろ学習の可能性を狭めてしまう危険があります。

確かに、自分の好きな学習スタイルで勉強することがモチベーションにつながる面はあります。しかし、それだけに頼ると、他の効果的な学習方法を見逃してしまう可能性があるのです。

■科学的に裏付けのある勉強法を継続してみる

例えば、学習者にアンケートと空間認識能力のテストを行って「視覚情報を好む視覚型」か「言語型」に分け、視覚情報を中心とした学習と文字情報を中心とした学習のどちらかをしてもらい、その効果の違いを調べた研究があります。この調査では、それぞれの学習スタイルに合わせた学習を行っても、特に学習効果は上がりませんでした。

重要なのは、自分の好みや固定観念に囚われすぎず、科学的に効果が検証されている学習方法を柔軟に取り入れることです。

アクティブリコール(勉強したことや覚えたいことを、能動的に思い出す勉強法)や分散学習(学習を時間的に分散させて行う方法。いすれも後述)など、本当に効果的な勉強法は、必ずしも自分では効果が実感できないものもあります。試してみた時の感覚では「これはあまり良くないなあ」「あまり覚えられていないなあ」と感じる学習法が、実は長期的にみればより効果が高いということもあるのです。

ですから、「自分には合わない」と決めつけずに、科学的に効果があるとされている学習方法を柔軟に試してみることが大切です。そうすることで、より効果的な学習が可能になり、結果的に学習効率が上がる可能性が高くなります。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
科学的効果が検証された勉強法を柔軟に取り入れてほしい、と語る。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「非効率な勉強法」が広まった理由

――なぜこのような効果的ではない勉強法が広まっているのでしょうか。

不思議なことに、今の義務教育では、勉強すべき内容は教わりますが、「どうしたら科学的根拠に基づく効果の高い勉強ができるのか」という勉強法そのものは、あまり教えてくれません。そのため、多くの学生が効果的ではない勉強法を知らずに実践してしまっているのだと思います。

また、ハイライトを引いたり、ノートを取ったりすることで、「勉強した気」になってしまうという心理的な要因もあります。これは「流暢性の錯覚」と呼ばれる現象で、実際には内容を記憶し深く理解していないにもかかわらず、自分の知識や習熟度を過大評価してしまうのです。

■「白紙勉強法」と「分散学習」がオススメ

――効果的な勉強法にはどのようなものがありますか。

効果的な勉強法としては、まずアクティブリコールがあります。これは、勉強したことや覚えたいことを、能動的に思い出すことです。私が医学生の頃から実践してきた「白紙勉強法」は、このアクティブリコールを活用した方法です。

具体的には、覚えたい情報(英単語帳、教科書、参考書など)をまず読み、その後、その情報を見ないで、覚えたい内容を白い紙にできるだけ書き出します。

記憶の手掛かりがない状態で頑張って記憶から内容を引き出した方が、ヒントが与えられた状態で思い出すよりも記憶の定着が良いことを示唆する研究もあるため、何も見ないでまず書き出してみる、ということを行います。効果の高い勉強のためには、アクティブリコールのように、脳により負荷がかかる「望ましい困難」が必要だとされています。

覚えにくい内容は声に出しながら書き、さらに誰かに教えているフリをしながらアウトプットすると効果的です。声に出した方が黙読するよりも記憶の定着が高まる現象は「プロダクション効果」と呼ばれています。誰かに教えることで、理解が深まることは「プロテジェ効果」と呼ばれており、私はアクティブリコールとこうした方法を組み合わせています。

書き出せなかったり、思い出せなかったりした情報は、また元の情報を見直して確認(フィードバック)します。アクティブリコールも、こうしたフィードバックがある方が効果が高いことが分かっています。

もう一つ重要な勉強法として、分散学習があります。これは、学習を時間的に分散させて行う方法です。同じ時間勉強するにしても、時間を分散させたほうが長期的に記憶に残ることが多くの研究で示されています。

例えば、2時間続けてある範囲の英単語を勉強するよりも、今日は1時間、別の日に1時間と分散したほうが、時間が経ってテストした時に、覚えている単語の数は多くなります。この効果は、大人から子どもまで、数学、外国語、歴史、生物学などを含めた幅広い分野の勉強において確認されています。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
あえて自分の脳に負荷をかけると記憶が定着しやすくなるという。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■黒板を書き写すだけではダメ

――効果的なノートの取り方として「コーネル式ノート術」を推奨されていますね。

効果的なノートの取り方として、私がお勧めするのはコーネル式ノート術です。これは、ノートのページを3つのセクションに分けて使う方法です。

【図表1】コーネル式ノート術の例
出所=『科学的根拠に基づく最高の勉強法』

具体的には、ページをA・B・Cの3つのセクションに分けます。Aのセクションには覚えたい内容を書き、Bのセクションにはその内容に関した質問やキーワードを書きます。そして、Cのセクションには自分の言葉で短くまとめを書きます。

復習する際は、Aのノートの部分を隠して、Bの質問やキーワードからアクティブリコールできるか試します。このようなアクティブリコールができるノートのほうが、普通に読んで復習するだけのノートよりも効果的です。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)
安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)

――安川さんご自身の経験も踏まえて、スキマ時間を効果的な学習時間に変える方法を教えてください。

スキマ時間は素晴らしい勉強時間だと考えています。例えば、通勤時間や通学時間といった隙間時間も、勉強に最適です。私も学生の時は、電車の中で勉強や読書することが習慣化されていて、1人で電車に乗ることが勉強開始の合図になっていました。

たとえ満員電車で本が開けないような状況でも、昨日覚えたことを頭の中で思い出す(アクティブリコール)という効果的な勉強ができます。思い出せなかったところは、電車を降りたあとに確認し、フィードバックします。

■勉強の効果は、本人には実感しにくい

アメリカの医師国家試験の勉強をした時は、トイレに薬理学のフラッシュカードなど、短時間でも進められる教材を常に置いていました。現在でも、子どもの習い事の待ち時間などのスキマ時間をできる限り勉強や仕事に活用しています。

安川さん
筆者の安川康介さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

――最後に、読者へのアドバイスをお願いします。効果的な勉強法を始めたものの、すぐに効果が感じられずに挫折してしまう人も多いと思います。長期的に見て成果を出すために、どのような心構えや工夫が必要でしょうか。

はい、重要なポイントがあります。それは、「勉強の本当の効果は、勉強している時、本人には実感しにくいことがある」ということです。

例えば、アクティブリコールを行った学生は、勉強直後は他の方法で勉強した学生よりも自信がなかったという研究結果があります。しかし、実際のテストでは最も高い点数を取っていたのです。ですので、科学的に効果的な勉強法を地道に続けることが重要になるのです。

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安川 康介(やすかわ・こうすけ)
米国内科専門医
2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター初期研修修了後、2009年に渡米。University of Minnesota内科レジデンシー、Baylor College of Medicine感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。南フロリダ大学内科助教。

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(米国内科専門医 安川 康介 取材・構成=昼間たかし)

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