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「親がお金持ちだから」ではない…「頭がいい子」が育つ家庭に共通する"親子のシンプルな習慣"

プレジデントオンライン / 2024年9月23日 9時15分

『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)を書いた安川康介さん。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

子どもの学力向上に悩む親は多い。「頭のいい子」を育てるのはどうすればいいのか。アメリカと日本での子育て経験を持つ医師の安川康介氏は「高価な教材をそろえたり、塾に通わせれば『頭がいい子』に育つわけではない」と指摘する。安川氏によれば、親が子どもにどう声をかけるかが重要だという。科学的な知見に基づいた、その効果的な方法とは――。(聞き手・構成=昼間たかし)

■お金をかけずに「頭のいい子」を育てられるか

――わが子を「頭のいい子」に育てたいと考える親は多いと思います。高価な教材をそろえたり、塾に通わせなければダメなのでしょうか。

「頭のいい子」という表現は少し曖昧かもしれませんね。私が思うに、「頭のいい」とは、単に試験の点数が良いということではなく、人間や世界に対して強い好奇心を持っていることや、論理的な思考力、困難に直面しても諦めずに取り組む粘り強さ、行動力、他人の感情や思考を想像する力、複雑で曖昧な事柄を単純化しすぎずに分析できる能力など、さまざまな要素が含まれると思います。

親にできることはたくさんあります。まず重要なのは、子どもの好奇心を大切にすることです。子どもが「なぜ?」「どうして?」と質問してきたら、それを面倒がらずに、できる限り丁寧に答えてあげることが大切です。

好奇心がある時は、学ぶモチベーションが高く、覚えやすく、忘れにくい。学習において脳が最高の状態にあるとも言えます。

例えば、私の場合、子どもと一緒に落ち葉を見たことがきっかけで、なぜ季節があるのかという話から、地球が傾いていることや、その理由としてのジャイアント・インパクト説まで話が及んだことがあります。また、この前小学1年生の息子に「なぜ人類は1年は365日だと分かったのか」と聞かれたので、ヘリアカルライジングやナイルの氾濫の話をして、夜には外に出てシリウスを一緒に探しました。学びの機会は日常にいくらでもあります。日常の些細なことから学びのきっかけを見つけ、子どもの興味に寄り添って知識を広げていくことが重要だと考えています。

■親子の会話が子供の学びを促す

――家庭で実践されている他の取り組みはありますか。

私の家庭では、寝る前に今日知った面白い知識を教え合うことがあります。これは子どもの学びを促進するだけでなく、親子のコミュニケーションも深めることができます。子ども達は大人でも知らないことを知っていることがあります。新しい知識を教えてもらった時は「パパは40年以上生きているけどそれは知らなかった。教えてくれてありがとう」と伝えます。

また、アメリカで暮らす中で気づいたのですが、子どものマインドセットを育てることも非常に重要です。驚いたのは娘が通う公立の小学校で、マインドセットの教育が早くから導入されていることでした。娘が小学3年生になって、最初の週に学校で教わったのが「Fixed Mindset(硬直マインドセット)」と「Growth Mindset(成長マインドセット)」という考え方でした。

例えば、「私は算数ができない」と思うのではなく、「私は算数ができるように自分の脳を鍛える」と考える。「ミスを犯してしまった」ではなく、「ミスは自分を成長させてくれる」と捉える。このような思考の転換を子どもに教えることで、学習に対する前向きな姿勢を育てることができるのです。

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筆者提供
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筆者提供

■「努力すれば成長できる」という信念を持たせる

――学習意欲を高めるために、親ができることはありますか。

はい、いくつかあります。まず重要なのは、子どもの自己効力感を高めることです。自己効力感とは、「自分にはこれができる」という感覚のことです。

これを高めるには、達成可能な小さな目標を設定し、成功体験を積み重ねていくことが効果的です。例えば、算数の問題を解く時に、最初は簡単な問題から始めて、徐々に難しくしていく。そして、子どもが問題を解決できたら、その努力と成長を褒めます。

結果だけでなく、そこに至るまでの過程を評価することで、子どもは「努力すれば成長できる」という信念を持つようになります。ある科目に対し、苦手意識を持ったり、自信を失ったりしている子どもがいるなら、一度分かるところまで戻って、また小さな成功体験を積み上げさせるべきだと思います。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
親の声かけで子供の意欲や才能は伸ばすことができるという。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

――家庭での学習環境づくりについて、アドバイスはありますか。

家での読書や勉強を習慣化することは意識しています。ほぼ毎日、限られた時間であっても読書や勉強をする時間を設けて、淡々と継続してもらうようにしています。私の家ではホワイトボードに勉強することをリスト化して、一つ終わったらチェックボックスに子ども自身にチェックを書いてもらう、といったこともしています。こうしたリスト化とチェックの記入は私自身が医学生時代からやってきたことでもあります。

そして、何よりも親が勉強や読書に取り組む姿、学ぶことを楽しんでいる姿を見せることが大切だと思っています。妻も私も、家でよく本を読んだり、論文や教科書を開いて勉強したりしています。子どもはそんな親の姿を見ています。

実生活で直接的には全く役に立たないようなことでも何か面白いことを学んだら、できるだけ分かりやすく子どもに絵や図を描いて、知識を共有しています。「学ぶことは本質的に楽しい」、「学ぶことは人生において大切だ」、という価値観を親が持っていると、子どももそうした価値観を内面化するのではないでしょうか。勉強しない、本を読まない親に、「勉強しろ」「本を読め」と言われても子どもにとって全く説得力はないでしょう。

■思い出す機会を与えてあげる

――記憶力を高めるためには、どのような方法がありますか。

記憶力を高めるには、アクティブリコールという方法が効果的です。これは、勉強したことや覚えたいことを、能動的に思い出す作業のことです。

例えば、子どもが何かを学んだ後に、その内容について質問をする。または、「今日学んだことで一番重要だと思うことは何?」と聞いてみる。このように、ただ受動的に情報を受け取るだけでなく、積極的に思い出し、アウトプットさせる機会を作ることが大切です。

また、分散学習も記憶の定着に有効です。同じ内容を一度にまとめて勉強するよりも、時間を分散して複数回学習するほうが、長期的な記憶の定着に効果があります。大事な情報は、時間が少し経った時に、繰り返し聞いてみて、繰り返し思い出すべきだと教えています。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)
撮影=プレジデントオンライン編集部

――問題解決能力や創造性を伸ばすために、どのような取り組みが効果的でしょうか。

創造性や問題解決能力を伸ばすには、子どもに「考える機会」を与えることが重要です。例えば、日常生活の中で起こる小さな問題だけでなく、環境問題や人種差別等の大きな問題についても、「どうしたらいいと思う?」と子どもに尋ねてみるのもいいでしょう。

例えば、先日、子ども達と一緒に星の一生について図鑑を読んでいました。50億年後、太陽が赤色巨星になる頃には、地球で生命は生きられなくなります。その時、人類はどうなっていると思うか、もし存続していたとしたらどうするべきか、他の星に移動する場合、人類以外の生物はどうするべきか、超長距離の移動が可能かどうかなど、ということについて子ども達と話しました。小学校低学年でも実に色々なアイディア、考え、疑問が出てきます。確固たる答えがない問題について、論理的に話し合う練習を普段からしておくことには意味があると感じます。

また、精緻的質問や自己説明という方法も効果的です。これは、見たことや学んだことについて「なぜそうなるのか?」「どのようにそうなっているのか?」と自問自答させる方法です。この過程で、子どもは既存の知識を新しい情報と結びつけ、より深い理解を得ることができます。

何か知識を持つだけでなく、疑問を持つ、質問をする、ということも非常に大切だと考えています。なので、何か質問に答えられた時より、子ども達が面白い、鋭い、新しい視点の質問をした時に「それは本当に良い質問だね!」と褒めることが多くあります。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
あえて答えを教えず、自問自答させる方法も効果的だという。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■受験や試験の勉強だけでは、頭のいい子は育たない

さらに、「何かにハマる」経験を子どもが持つことは大切だと考えます。子どもが夢中になっていること、強い興味があることがあれば、大人の価値観からしたら役に立たないと感じてしまうことでも、否定せず、親としても興味を持って応援してみます。

例えば、私の子どもは一時期「ポケモン」にハマっていました。モンスターの名前やタイプ、変身した時の姿を細かく覚えるだけでなく、ポケモン図鑑にあるポケモンを一通り、何日もかけて熱心に白い紙に描き写すことに熱中していました。

大人の価値観からしたら「役に立たない」ことをしていると見えてしまうかもしれませんが、よく考えると、何かに自ら興味を持ち、情報を分類したり関連づけたりし、知識を深めるという作業は、何か系統的な学問を学ぶ際にとても大切なプロセスです。

彼がポケモンに対して行なっていた作業と、私が医者として無数にある病気の名前や治療法を覚える作業にはそれほど差はありません。そして、興味があることに没頭する経験、「頭を使うことは楽しい」という感覚は、その後の人生でも大きな財産になるでしょう。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
熱中できることと出会うことも子供にとっては大切だという。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

――子どもの学習において、睡眠や運動の重要性についてはどのようにお考えですか。

睡眠と運動は、子どもの学習能力に大きな影響を与える重要な要素です。まず睡眠について、脳科学や心理学の研究から、記憶の定着には睡眠が決定的に重要な役割を果たすことが分かっています。

また、ある研究では、何かを記憶したあとに、比較的早く寝たほうが覚えたことを忘れにくいことが示されています。例えば、夜8時に勉強して3時間後に寝る場合のほうが、朝8時に勉強して15時間後に寝る場合よりも、記憶の定着が良いという結果があります。子どもが重要な内容を学んだ日は、しっかり就寝させるのが良いでしょう。

運動に関しては、有酸素運動が認知機能や記憶力の向上に効果があることがわかっています。学習の前に10~20分程度の運動をすることで、その後の学習効果が高まるという報告もあります。

したがって、子どもの生活リズムの中に適度な運動と十分な睡眠を組み込むことが、学習能力の向上につながると言えます。

■「いい成績のための勉強」はNG

――子どものモチベーションを保つことの重要性について教えてください。

モチベーションは学習において非常に重要な要素です。特に、内発的動機づけを育むことが大切です。内発的動機づけとは、外からの報酬や罰ではなく、活動自体に興味や楽しみを見出すことです。

これを育むために、自律性、有能感、関係性という3つの心理的欲求を満たすことがポイントです。具体的には、子どもに選択の機会を与えたり(自律性)、適度な難易度の課題を与えて成功体験を積ませたり(有能感)、学びを共有する仲間や支援的な大人との関係を築いたり(関係性)することが効果的です。

また、学習の目的を明確にすることも大切です。単に「いい成績を取るため」ではなく、「この知識が将来どのように役立つか」を子どもと一緒に考えることで、学習への意欲を高めることができます。このためには、親が学問の重要性をしっかりと認識して、子どもにも説明できるようにする必要があります。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
学習の目的は「いい成績を取るため」ではない。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

――子どもの失敗や挫折に、親はどう向き合えばいいのでしょうか。

失敗や挫折は学習過程において避けられないものですが、これらを適切に扱うことで、むしろ子どもの成長につながる貴重な機会となります。

まず重要なのは、失敗を恐れない環境を作ることです。失敗を「学びの機会」として前向きに捉え、そこから何を学べるかを子どもと一緒に考えることが大切です。

また、「自分にはできない」という固定的な考え方ではなく、「まだできるようになっていない」という成長志向の考え方を促すことも重要です。これは、先ほど述べたGrowth Mindset(成長マインドセット)の考え方につながります。

例えば、子どもがテストで低い点数を取った場合、「頭が良くない」と責めるのではなく、「どの部分が難しかったのか」「次はどのように勉強したらいいと思うか」といった建設的な対話を行い、親もそこを伸ばせるように支援してあげてください。

■デジタルツールは“サポート”程度に

――デジタル機器の利用が子どもの学習に与える影響についてどうお考えですか。適切な活用方法があれば教えてください。

テクノロジーは適切に活用すれば、子どもの学習を大きくサポートする可能性があります。例えば、オンラインの学習ツールやアプリケーションは、個々の子どものペースや理解度に合わせた学習を可能にします。

特に、アクティブリコールと分散学習を組み合わせた学習法を支援するツールは効果的です。例えば、Ankiというフラッシュカードアプリは、覚えにくい情報を効率的に学習するのに役立ちます。

ただし、テクノロジーの使用には注意も必要です。スマートフォンやタブレットの過度な使用は、集中力や睡眠に悪影響を与える可能性があります。したがって、使用時間や目的を明確にし、適切にコントロールすることが重要です。

また、デジタルツールを使う際も、単に情報を受動的に受け取るだけでなく、学んだことを自分の言葉で説明したり、問題を解いたりするなど、能動的な学習を心がけることが大切です。

AIの時代、人はあまり勉強をする必要がなくなるという意見もありますが、私はそうは思いません。AIをうまく使いこなせるのは、新しい知識を貪欲に学び、自分自身の脳に知識を内在化させている人間だと思います。

安川さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
スマホやタブレットは使い方次第。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)
安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)

――最後に、子どもの知的成長を支援する上で、親が陥りがちな誤りや、特に心がけるべき点について教えてください。

親が「頭のいい子」(または「頭の悪い子」)というレッテルを自分の子どもや他の子どもに貼ったり、他の子どもと試験の点数や「頭の良さ」を比べたりすることは良くないと思います。そのようなレッテル貼り、他人と比較してしまう価値観を親が持っていると、それを子どもも持ってしまいます。そういう生き方は、例え学業成績が良くても、将来的には他人と常に比較してしまう大人になり、不幸になる可能性があります。

親としてできる最も大事なことは、「勉強ができなくても、運動ができなくても、愛しているよ」と、子どもに示すことだと思います。誰かに無条件に愛してもらった経験は、子どもの人生にとって何よりの資産になるのではないでしょうか。

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安川 康介(やすかわ・こうすけ)
米国内科専門医
2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター初期研修修了後、2009年に渡米。University of Minnesota内科レジデンシー、Baylor College of Medicine感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。南フロリダ大学内科助教。

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(米国内科専門医 安川 康介 取材・構成=昼間たかし)

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