「真面目かつ地道に練習できる国民性と相性がいい」日本のスケートボードがどんどん強くなっているワケ
プレジデントオンライン / 2024年9月24日 9時15分
■スケートボードは想像以上に繊細な乗り物
「新たなお家芸」
東京五輪に続きパリ五輪でも活躍が目立ったことで、スケートボードに対してこのような認識が定着しつつある。パリに向けた世界ランクでも、4種目中3種目でトップ10のおよそ半数を占めていたし、パリ後も唯一勝てていなかった男子パークで、永原悠路が国際大会日本勢初の優勝を飾るなど、その勢いは陰るどころか増しているようにも見える。
となると、皆がこう思って当然だろう。
「なんでこんなに強いの?」と。
そこにはいくつかの理由が考えられるのだが、行き着く先は「国民性」ではないかと思う。
一体どういうことなのか。
まず日本人の特性のひとつに「勤勉性」があると言われている。各地の伝統工芸品を見ても、コンビニの商品ひとつをとっても、接客業の方の立ち居振る舞いをとっても、ここまで細かくサービスが行き届いた国はないだろう。
これをスケートボードに置き換えてみる。実はスケートボードは想像以上に繊細な乗り物で、上達には極限までの根気と忍耐力を必要とする。一度でも乗ってみれば、その難しさがよくわかる。ほんの少しバランスやタイミングがズレるだけでトリックの成否が分かれるし、転倒も日常茶飯事。そこには痛みも伴う。それでも繰り返し成長していくためには必要なのが、勤勉性からくる真面目で我慢強く練習でき、細かな表現にも長けた日本人気質ではないだろうか。
■「真面目かつ地道に練習できる国民性」の効果
なぜならパリ五輪がそれを如実に表していたからだ。もともと堀米雄斗や吉沢恋の練習におけるストイックなエピソードはすでに様々なところで語られているが、それだけではない。女子パークでは「日本人“母”が表彰台を独占」と話題になったが、金メダルを獲得したアリサ・トルーもまた、周囲から体力おばけと呼ばれるほど、いつもひたすら楽しそうに練習しているという。
さらに言えば男子パークの銅メダリスト、アウグスト・アキオも日系3世だし、男子ストリートの銅メダリストで、名誉ある国際大会で数え切れないほどのタイトルを手にしてきたスーパースター、ナイジャ・ヒューストンも日本のクォーターだ。本国アメリカの歴史を遡っても、’70年代の伝説的なチームZ-Boysに所属したショウゴ・クボ、’80年代に一時代を築いたクリスチャン・ホソイやスティーブ・キャバレロなど、アイコニックなスケートボーダーの数々が日本と縁深いことに気付く。この事実を見ると、真面目かつ地道に練習できる国民性が、スケートボードのスキルアップと相性がよく、それが遺伝子レベルで作用しているのでは、と考えてもおかしくはないだろう。
■競技やスポーツとして捉える向きが強い
次に国民性からくる派生効果について考えていきたい。最も表面化されているのが「コンテスト」と「スクール」がシステム化されているところではないだろうか。
日本はスケートボードをカルチャーよりも競技やスポーツとして捉える向きが強く、特に小学生・中学生の年代はその傾向が顕著。そこに昨今のスケートパーク急増という社会的背景が加味されれば、当然スクールの数や種類は増えていく。今は体験会から初心者〜上級者までレベル別だけでなく、オンラインやマンツーマンなど様々な選択肢があるし、部活化や学校の授業に取り入れるところも出始めてきた。それらはオリンピック種目採用によって、スケートボードが日本の文化や風習に徐々に馴染んでいった結果ではないかと思う。
ただいくらスクールが充実しても、磨いた実力を試す場がなければ発展していかない。そこで必要になるのがコンテストなのだが、日本はどの年代でも目指すべきゴールが明確になっているのが大きな特徴だ。基本的にスケートボードにはインターハイのようなアンダーカテゴリーの大会はないのだが、Flake CupとAJSA(日本スケートボード協会)の2つがそれに代わる役割を果たしている。
■Flake Cupを経てAJSAを目指すというルート
Flake Cupは小3以下のキッズと小4~6のジュニアの2クラスがあり、体格や体力差を最小限に抑えつつ、各年代で上を目指せる環境を構築。現在はAEON MALLと提携して全国各地を転戦するジャパンツアーを行い、そこを勝ち抜いた選手たちで日本一の小学生を決めるチャンピオンシップまで行っている。今やエントリー開始からわずか10分ほどで定員が埋まってしまうほどの人気であるため、今年から新たな試みとしてB戦の運営もスタート。現在進行形でピラミッド型システムの構築が進んでいる。
そして次に目指すところがAJSAになる。全国各地域のアマチュアサーキットと、それを勝ち抜いた選手達によるプロ昇格をかけた全日本アマチュア選手権、そしてプロサーキットと明確なステップが確立されている国内唯一の組織だ。こちらは出場選手の年齢に制限を設けていないのだが、アマは中学、プロは高校年代の層が最も厚いため、年代別の目標もすごくクリア。プロ戦で優勝を達成する頃には、もう世界を現実に捉えられるレベルに成長しているというわけ。
■数々の選手によるアメリカ挑戦の歴史
またこのAJSAには40年以上の歴史がある。設立者は秋山弘宣、通称アキ秋山と呼ばれる日本初のプロスケーター。1975年にアメリカで開催された第1回スケートボード世界選手権に出場し、5位に入賞して以降カルチャーの発展に幅広く尽力してきた人物で、堀米雄斗を2010年から約2年サポートした経験も持つ。本場アメリカに拠点を置き、オリンピック2連覇というスケーターの最高到達点にいる人物の成功の裏には、アキ秋山さんから続く数々の選手のアメリカへの挑戦の歴史と、それを日本のシーンへと還元する活動の積み重ねがあったことも付け加えるべきだろう。そこに日本文化が融合し、発展を遂げた「コンテスト」と「スクール」が互いに相乗効果をもたらしていることが、今の日本の強さの根源となっているのではないだろうか。
ここまでは国民性のポジティブな側面を紹介してきたが、決して良いことばかりではない。勤勉であることは、言い換えれば日本人が規則や仕組みに従順であることの裏返しと捉えることもできる。すると派生的に「横並び主義」が生まれてしまうのだが、これが個性に溢れたスケートボーダーを生み出す上で弊害になっているのでは? と思うのだ。
■マニュアル化の行き過ぎは頭打ちを招く
日本社会は小さなことにもマニュアルがある。マニュアル通りに行えば効率は上がるし、一定の品質は保てる。だが規則でがんじがらめにすると、今度は個人の主体性が制限されてしまう。
スケートボードで言うと、スクールやコンテストのシステムが整っていることはポジティブではあるが、するとその流れに乗ってビジネスベースだけで指導マニュアルが作成され、カリキュラムを組むところも出てくるだろう。
定められた枠の中での練習は、確かに平均レベルは上がるかもしれない。だが個人で得意な動きは違うし、それが明らかになっていっても、皆が定められたひとつのカリキュラムをこなすことは、必ずしも最良の選択肢とは限らない。しかもそういった環境下で育つことで「このトリックは上級レベルになっているから得点が高い。だから自分もやる」という発想になってしまっては、ちょっとでも新しいトリックを成功させた方が価値のあるこの世界では、頭打ちになってしまう可能性も否定できない。
■クセのあるコースへの対応力が弱点と言われる
さらに言えば、現在の日本はクセのあるコースに対する対応力が弱点だと言われている。高得点が狙えるメインセクション(障害物)がオーソドックスなレールであれば平均レベルは世界トップだろう。だが応用力が必要とされるコース、パリ五輪でいうメインの階段中央にあったバンク(斜面)から障害物を越えて入るようなレールになると対応できなくなる節がある。
今までもあったが、強豪国対策として、今後はコース設計でそういった部分がさらに強化されていくだろう。先日のWORLD SKATE GAMES(世界選手権)でもその傾向は見て取れた。スケートボードスキルは絶えず進化し続けているが、それはコースも同様。好成績をあげた国が出ると、それに呼応するようにコース設計にも変化が生まれる。そうしたせめぎ合いはこれからも続いていくのではないだろうか。
海外では地味でコツコツ行う仕事よりも発想が重要視されることがある。それがコースやルールだけでなく、採点に反映されることもあるかもしれない。それであれば、前述の弊害を排しつつ、いかにして日本人の国民性を好ましい形で発揮していくのか? がパリ五輪後の課題ではないだろうか。
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フォトグラファー・スケートボードジャーナリスト
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、国内最大手の専門誌にてシーンの最前線を記録し続け、2017年に独立。現在は日本スケートボード協会をはじめ多くの国際大会や国内主要大会のオフィシャルカメラマンとして活動。ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影しながらも、様々なメディアへの記事も寄稿。書籍の監修や教育講座の講師も務め、スケートボードを通して社会の課題解決や文化の発展に尽力している。
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(フォトグラファー・スケートボードジャーナリスト 吉田 佳央)
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