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Z世代と高齢者に賃金を奪われるリストラ候補…あまりに不幸な「就職氷河期世代」こそ日本経済復活のカギである

プレジデントオンライン / 2024年9月24日 10時15分

出所=厚労省 筆者作成

日本全体で賃上げの動きが活発化している。連合の公表によると、今年の春闘の平均賃上げ率は5.1%だった。だが、その恩恵を受けられていない世代が存在する。エコノミストのエミン・ユルマズさんとの共著『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(講談社+α新書)を刊行した第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんが解説する――。

■日本全体が賃上げに動きはじめている

連合が公表した今年の春闘の最終結果によれば、平均賃上げ率は5.1%と、33年ぶりの大幅な賃上げが実現した。

中小企業の賃上げ率も4.45%と、大企業だけでなく中小企業にも賃上げの流れが波及し、日本全体が賃上げの方向に動きはじめている。

2023年の一般労働者の所定内給与は前年比+2.1%となり、既に公表されていた毎月勤労統計ベースの同+1.6%を上回った。

(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」による。なお、賃金構造基本統計調査は約5万事業所を対象に労働者個人のレベルで賃金を調査するのに対し、毎月勤労統計の対象は約3.3万で事業所全体の人件費を従業員数で除して賃金を求める。このため、賃金構造基本統計調査の方が正確性は高いと考えられる)

■賃金上昇を牽引しているのは「20代と60代」

年齢階級・企業規模別にみると、賃金上昇の牽引役となっているのは「20代」と「60代以降」である。

20代については少子化の影響で人口が少ないことに加え、労働市場の流動性が高く、賃金が上がりやすくなっていると推察される。

また60代以降については、定年延長等による平均賃金上昇が影響していると考えられる。

【図表】23年の企業規模別世代別一般労働者賃金
出所=厚労省 筆者作成

■「ミドル・シニア層」の賃金は上がっていない

一方、賃金上昇の恩恵をあまり受けていない層も存在する。

その代表と言えるのがいわゆる「ロスジェネ世代」「就職氷河期世代」だ。

図表2を見れば分かる通り、30年ぶりの賃上げが実現した昨年度も、大企業の30代後半~50代前半、いわゆる「ミドル・シニア層」の賃金は上がっていない。

この世代は「第2次ベビーブーマー世代」を含むため、日本の人口のボリュームゾーンとなっており、企業から見て人件費削減のターゲットにされやすい。

また、20代の賃上げ費用を確保するために、氷河期世代の賃金を削っている企業もあると考えられる。

30代後半~50代前半の「ミドル・シニア層」は、もともと相対的に賃金水準が高く、かつ、転職しにくく労働市場の流動性が低い年代のため、賃金が上昇しにくいという理由もある。

ほか、この世代は管理職として労働組合の非組合員になっている場合が多く、その点でも賃金上昇の恩恵を受けにくいと考えられる。

このようにロスジェネ世代、氷河期世代は、もともと賃金が上昇しにくい年代にあたり、今後もなかなか賃上げが進まないことも予想される。

日本全体の実質賃金がプラスになったくらいでは、氷河期世代の賃金はさほど増えないのではないだろうか。

■大企業より中小企業のほうが賃上げしている

よく「大企業は賃上げしているが、中小企業は賃上げしていない」と言われることがあるが、これは事実とは異なる。

むしろ大企業ほど賃上げしていないのが実態だ。

企業規模別にみると、小企業の賃上げ率が前年比+3.3%、中企業が+2.8%の一方で、大企業は同▲0.7%と、賃上げどころか減少している。

中小企業のほうが人手不足に直面しているため、積極的に賃上げして人材をつなぎ留めていると考えられる。

■人手不足に直面しない限り賃金が上がらない

企業規模が小さいほど賃金上昇率が高いということは、「日本では人手不足に直面しなければ賃金が上がらない」という事実を示唆している。

つまり、相対的に人手不足感が低い「ホワイトカラー職種」などは、今後も賃金が上がりにくい可能性があるだろう。

なお、毎月勤労統計ベースで雇用形態別にみると、近年はパートタイム労働者の賃金の伸びが正社員を上回っている。

相対的に労働市場の流動性が高く、人手不足感の強いパートタイム労働者ほど賃金が上がりやすく、前述の見通しを裏付けている。

これは日本では雇用形態による賃金の格差が縮小していることを意味している。

【図表】所定内給与の比較
出所=厚労省 筆者作成

■賃金が上昇しなければ個人消費は増えない

賃金が上昇すれば、個人消費も増えることが分かっている。

1994年~2023年の名目家計消費と各種一般労働者の所定内給与との関係について、自由度調整済み決定係数の大きさで見ると、賃金構造基本統計調査が0.2681、毎月勤労統計5人以上で0.2932と、正の相関関係がある。

【図表】各種所定内給与と名目家計消費の関係
出所=厚労省、内閣府

逆に言うと、氷河期世代の賃金が上昇しなければ、日本全体の実質賃金もあまり上がらず、個人消費も伸びない、ということになる。

■苦しめば苦しむほど状況が悪くなる「負のスパイラル」

いわゆる氷河期世代が含まれる30代後半~50代前半は、子育て世代でもあり、消費支出額も大きい。

この世代の賃金が上がらなければ、日本全体の実質賃金の足を引っ張るだけでなく、個人消費が増えないということになる。

氷河期世代はバブル崩壊後、就職に苦労したことから、賃金上昇よりも雇用の安定を重視する傾向が強いとされる。

その影響で、氷河期世代は転職が活発ではなく、労働市場の流動性も低くなっていることで、より氷河期世代の賃金が上がりにくくなっているとも考えられる。

つまり、氷河期世代が苦しい状況に置かれるほど、ますます賃金が低迷するという負のスパイラルが起きている可能性がある。

空の財布を広げている男性の手元
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

■“動かない”氷河期世代の流動性を高めるべき

日本全体の賃金上昇を促すには、やはり氷河期世代への対策が重要になってくるだろう。

シニア世代の賃金上昇は、むしろ「現役時には賃金を抑えよう」という企業側の判断にもつながりかねないので、日本全体の賃金を押し上げる要因となるかは微妙である。

結局、日本において氷河期世代の賃金上昇を阻んできた要因とは、労働市場の流動性が乏しく、企業経営者にとって人材流出への危機感が低かったことではないだろうか。

特に最も賃金上昇の足を引っ張っている30代後半~50代前半の大卒一般労働者の労働市場の流動性が低い背景には、同じ会社で長く働くほど賃金や退職金の面で恩恵を受けやすいという日本的雇用慣行も影響していると見ていいだろう。

パートタイム労働者の賃金が上がっていることから考えると、いまは調整過程であり、日本の賃金はいずれはそれぞれの生産性に見合った水準まで上がるという予測も成り立つ。

以上を踏まえれば、外資の参入を促すなどによって、人材獲得競争が激化すれば、氷河期世代の賃上げ圧力が強まるだろう。

また、減税や補助金等も含め、氷河期世代の転職支援を充実させるなど、思い切った策も必要となってくる。

■「デフレマインド」脱却には思い切った施策が必要

世界経済に潮目の変化が訪れている中、日本企業の側も、より付加価値の高い事業の創出や、事業構造の転換、新陳代謝を通じた賃上げ原資の確保に取り組む必要があるだろう。

エミン・ユルマズ、永濱 利廣『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(講談社+α新書)
エミン・ユルマズ、永濱 利廣『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(講談社+α新書)

企業経営の変革や個人のリスキリング等への取り組みも不可欠となってくる。

多くの国民の間には、過去30年間にわたって「将来への悲観」や「デフレマインド」が染みついてしまっている。できるだけ安いものを買おう、投資を控え人件費を抑えようという縮小均衡のサイクルから脱却するためには、思い切った施策が必要となる。

円安や相対的な人件費低下によって、日本経済の国際的な競争力は向上している。

経済の「潮目の変化」が変革につながり、日本経済の持続的な成長をもたらすかどうかは、今後の政策運営にかかっていると言えるだろう。

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永濱 利廣(ながはま・としひろ)
第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。

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(第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣)

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