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「今年のサンマは豊漁」浮かれたニュースに騙されてはいけない…年々やせ細る魚に10倍以上の値がつく本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年9月23日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

サンマの不漁が続いている。時事通信社水産部の川本大吾部長は「10年前までは年間20トン以上獲れていたが、現在は数万トン。同一サイズで比較すると10倍以上値上がりし、もはや庶民の秋の味覚とは言い難い」という――。

■8月の水揚げ量は前年の4.6倍増だが…

秋の味覚・サンマのシーズンが到来した。サンマといえば、近年は深刻な不漁で、かつてのようなふっくらして脂がのった逸品にはお目にかかれなくなっている。小ぶりで短く、割高感は否めない。

今年はどうだろうか。8月中旬の初水揚げは、北海道・根室の漁港で去年の140倍、価格は200分の1という大漁・安値となった。東京・豊洲市場では初サンマが十数年ぶりに42トンという大量入荷で、卸値は昨年の10~20分の1。「今年のサンマは豊漁か?」と思わせるようなスタートとなっている。

漁業情報サービスセンターのまとめによると、北海道を中心とした8月の水揚げ量は合計2611トンで、前年同月(574トン)に比べて4.6倍に増加。この調子なら「豊漁かもしれない」と言いたいところだが、実際は逆である。

■初水揚げ量増加は大型船の出漁が早まった結果

今年、出始めから水揚げが好調だったのは、大型船の出漁が10日早まったことが最大の要因。サンマの漁業団体である「全国さんま棒受網漁業協同組合」(全さんま、東京)によると、漁の解禁日はこれまで漁船規模ごとに小型船(10トン以上20トン未満船)が8月10日、中型船(20トン以上100トン未満船)が同月15日、100トン以上の大型船は同月20日だったが、今年は一律に8月10日解禁とした。

「近年のサンマの漁場は遠い公海で魚群も薄いため、小・中型船の多くが出漁を見送る傾向がある」(漁業関係者)ことから、漁船規模に関係なく一斉に解禁されたのだ。そのため、例年より10日早く出漁した大型漁船が数日かけてサンマを狙い、例年よりも早く帰港したため、初物がまとまったようだ。

したがって「今年のサンマは豊漁?」といった状況ではない。念のため、サンマの資源に詳しい国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所の研究員に、あえて「今年のサンマ、豊漁なんですか?」と問いかけてみた。答えはすぐさま「NO」である。

■今年のサンマは「来遊少なく、体重は昨年を下回る」

そもそもサンマの資源量はかつてないほど減少期に入っている。国内の水揚げ量は2014年までの約30年はおおむね20万トン以上で、2008年には35万トン近くに達するほど好調だった。ところがここ5年間は大不漁。年間数万トンしか獲れなくなってしまった。

【図表1】水揚量の推移(1981年~2023年)
全国さんま棒受網漁業協同組合ホームページより

同機構では毎年、漁期前の調査などを基にシーズンの漁況予想をまとめるが、今年のサンマ漁に関し「来遊は(昨年同様)低水準」と分析。漁獲されるサンマについては「昨年の体重を下回る」と、さらに小ぶりになるとの見通しを示している。

かつてのように秋以降に日本近海を南下する群れはほとんどなく、漁場は遠い公海。サンマ船の操業効率も悪いため獲れる量は依然少なく、さらにほっそりした魚体ばかりになるという、まさに不漁予想である。

■気候変動による水温上昇でサンマが寄り付かなくなった

サンマの不漁要因については、海水温の上昇といった海洋環境の変化や、他の浮き魚類(イワシ、サバ、アジ等、海面近くを泳ぐ魚)の出現、外国漁船の早期操業などいくつか挙げられているが、直接的な要因はわかっていない。

ただし、冷たい海水を求めるサンマだけに、地球規模の気温上昇という環境変化は大きなマイナス要素だ。

そもそもサンマが日本で秋の味覚となったのは、春から太平洋を北上し、水温の低下とともに秋から北海道・三陸の近海を南下してきていたため、たくさん獲れたことによる。

ところが海洋環境の変化に伴い、状況は一変した。同機構によると、「秋に千島列島に沿って北から冷たい海水を運んできた親潮が弱体化し、三陸沿岸を南下せずに大きく東へ蛇行してしまう傾向が強い」という。

その結果、ただでさえ数が少ないサンマがより東へ遠ざかって分散してしまい、余計に獲りにくい状況になっているとみられている。さらに、このところマイワシがそこへ来遊し、なおのことサンマを遠ざける要因になっているとされる。

■外国漁船の影響については意見が割れる

このほかに、台湾や中国の超大型漁船が5月頃からごっそり先獲りしていることも減少の一因と見る向きがある。日本の研究者の中には「外国漁船が春に先獲りするサンマは、秋に日本が漁獲する群れにはならない」といった見方があるが、「不漁続きの中で影響がないわけがない」(漁業関係者)と疑問視する声も根強い。

いずれにせよ、近年不漁続きで精彩を欠いていると言わざるを得ないのはたしかだ。スーパーなどで見かけるのは、重さ100g程度、体長25cmを下回るような小さなサンマが焼かれて売られている姿。10年ほど前なら、30cmを超える脂たっぷりの太った生サンマが、特売時は1匹100円ほどで買えた。あまりに食べ応えがあって、1シーズンで2〜3回食べると「もうサンマも飽きたな」なんて冗談を言っていたころが懐かしい。

目黒のさんま祭で焼かれる小ぶりのサンマ(2022年10月)
筆者撮影
目黒のさんま祭で焼かれる小ぶりのサンマ(2022年10月) - 筆者撮影

■10年間で価格は高くなり、身は貧相になった

庶民の秋の味覚といえば、脂が乗ったサンマの塩焼き――そんな時代は過ぎ去りつつあるのだろう。実際、サンマの消費量は驚くほど減っている。

総務省の家計調査報告によれば、1世帯当たり(2人以上)の年間のサンマ購入量は、2023年が235グラム。10年前の2013年(1342グラム)に比べて約83%の大幅減。平均価格は2023年が100グラム当たり169円で、2013年(同82円)の約2.1倍に上昇している。高い上においしいとは言えず、あまり食べられなくなったというわけだ。

この平均価格はサンマの大きさに関係なく割り出されているのだが、豊洲市場ではサンマの大きさごとに値が決まるため、同一のサイズで比較してみると、さらに大きな違いが出た。

たとえば今年9月上旬、150グラムのサンマは同市場で1kg4000~5000円の卸値が付いた。それが10年前なら1kg300~400円だった(いずれも時事通信調べ)。同じ大きさで見ると、10倍以上高くなっている。ちなみに、市場で今取引されているサンマは「10~20年前なら、小さくて人気がないからほとんど缶詰用だったね」と豊洲の競り人。少々寂しくなるような話だ。

2009年、築地市場に並んでいたサンマ。背中あたりがふっくらしていて、脂がよく乗っている。
筆者撮影
2009年、築地市場に並んでいたサンマ。背中あたりがふっくらしていて、脂がよく乗っている。 - 筆者撮影

■市場では今も「秋のサンマ」は特別な存在

冷凍物や養殖物のほか、国産に限らず、多くの国からも魚が入荷する豊洲市場。魚の季節感が薄れる中で、サンマはいまだに世間的にも「秋」というイメージが強く、数少ない「季節の魚」としての位置を保っている。

今年の初物の一部に、過去最高値がついたのはその表れだろう。冒頭で述べた通り4万2000kgの初物が入荷した中で、魚体が大きく鮮度がとびきり良かった1箱(7匹入り・1kg)には、1kg当たり50万円、つまり1匹7万円という高値がついたのだ。これは築地時代にもつけられたことがない価格だ。まさしくご祝儀相場といえる。

この初値には、仲卸「山治」の初サンマに対する特別な思いが反映されている。山治の山崎康弘社長は「サンマシーズンのスタート。漁師に対する感謝と敬意を表したかった」と、ピカピカの初物を店先に飾り、市場関係者にお披露目していた。

今年8月、豊洲市場で1kg50万円の史上最高値が付いた初サンマ
筆者撮影
今年8月、豊洲市場で1kg50万円の史上最高値が付いた初サンマ - 筆者撮影

はたして、再び豊漁期がくるのはいつになるのか。今年の「目黒のさんま祭」で出されるサンマもきっと、小さくてすぐに食べ終わってしまうだろう。脂がのって煙がモクモク、ほぐした身と苦いワタを合わせておいしくいただいていた頃を思い出しながら、スリムで淡白な旬の味覚を味わうしかなさそうだ。

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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。

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(時事通信社水産部長 川本 大吾)

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