今起きているのは「東京一極集中」ではなく「首都圏一極集中」である…意外と知らない"若者の移動"の実態
プレジデントオンライン / 2024年9月27日 16時15分
■実態は「東京一極集中」ではなく「首都圏一極集中」
コロナ過中は、首都圏への人口流入が減少し、地方への人の流れが生まれる期待もあったが、結局、首都圏への人口集中の傾向は復活している。
論調としては、東京一極集中は是正すべき社会課題である、という主張が多いようだが、本当に東京一極集中はダメなのだろうか。
そして、そもそも東京一極集中とは何を指しているのだろうか。
図表1は、人口、世帯数、15歳未満子ども数、75歳以上人口、20~35歳未婚女性、大学数、大学生数、GDP、法人数について、東京都と埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県の一都三県のそれぞれの項目の全国の数値に対する比率を集計したものである。
人口、世帯数については令和2年国勢調査、大学数については学校基本調査、GDPについては県民経済計算、法人数については国税庁のデータをもとにしている。
この図を見ればすぐにわかるが、東京一極に集中しているわけではなく、東京都を含む一都三県、すなわち首都圏に集中しているのが実態だ。
東京都の人口比率は11.1%しかなく、最も比率が高い大学生数でも26.6%に過ぎない。確かに、大学数(17.8%)、大学生数(26.6%)、GDP(19.6%)は東京一極集中と言えなくも無いが、正確には首都圏一極集中と呼ぶべきだ。
■全国のGDPに対して首都圏が占める比率は33.5%
この言葉の定義は結構重要な点で、議論の掛け違いの原因になっている。
実際、2024年8月7日の日本経済新聞の「『東京一極集中』深まる溝 全国知事会、都と地方論争」という記事では、東京都の小池百合子知事が人口問題に関する緊急宣言案に反発したこと、埼玉県、千葉県、神奈川県の各知事も「東京と他の道府県との財政力格差が拡大している」と指摘したことが報じられた。
集中しているのは東京だけではなく、埼玉県、千葉県、神奈川県を含む首都圏なのに、その首都圏のなかで東京都だけがやり玉に挙がるのは公平な議論とは言えないだろう。
そして、全国のGDPに対して首都圏が占める比率が33.5%と人口比率の29.3%よりも高いことは、企業や人口が集積していることで生産性が高いことを示唆している。
首都圏の人口を地方に分散させるときには、現在の生産性を維持することが前提になるが、それをどうやって実現できるのかは明らかではない。
■東京都の出生率が低いのは数字のマジック
実際は首都圏一極集中なのに、東京一極集中という用語が使われていることに関連して、東京都の出生率が低いことも誤解を生んでいるようだ。
厚生労働省の人口動態統計によれば、2023年の日本全体の合計特殊出生率は1.20、最も高いのは沖縄県の1.60で、最も低いのは東京都の0.99となっている。
しかしここには数字のマジックがある。
これは様々な研究者が指摘していることだが(例えば、ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏の論考「2021年/2000年 都道府県の『赤ちゃん数維持力』-圧倒的維持力の東京都・女性移動が生み出すエリア人口の未来-」など)、ある場所に40歳の既婚で子どもが2人いる女性が2人、25歳で未婚で子どものいない女性が2人いる場合は、単純計算で分子の子どもが4人、分母の女性が4人だから1人あたり子どもの数は1人になる。
この場合の出生率は1になる。
この状態から25歳の未婚女性1人が首都圏に引っ越すと、分子の子どもの数は変わらないが、分母の女性の人数が3人になり、1人あたり子どもの数は1.33になる。
そうなると出生率は1.33になる。
逆に東京が最初は同じ状態だったとして、そこに未婚女性が1人加わると、子どもの数が4人で、分母の女性の人数が5人になるため、一人あたり子どもの数は0.8になる。
■議論すべきは「日本全体の子どもの数を増やす」こと
実は地方の出生率が高く、東京の出生率が低いのは、こうした若い女性の移動が大きな要因になっている。
そして、首都圏に引っ越した女性のうちかなりの人たちが、首都圏で結婚して子どもをもうけるが、もし地方に留まっていたとして同じように結婚して子どもが生まれるかどうかわからない。
だとすれば、議論すべきなのは、都道府県ごとの出生率の高低ではなく、日本全体の子どもの数を増やすにはどうするか、という点だ。
その意味では、全国知事会での「人口や産業の集中を日本全体の人口減少に関連付けた主張は因果関係が不明確」という小池百合子東京都知事の発言はきちんと検証されるべきだろう。
■大学は首都圏に集中している
冒頭に記載した図表1を見ると、東京都と一都三県の全国に対する人口の比率よりも、20~35歳女性の比率が高くなっている。
例えば東京都の人口は全国の11.1%だが、20~35歳の未婚女性は全国の14.1%と高くなっている。
これは、全国から未婚女性が首都圏に集まってくるためだが、この背景には大学が首都圏に集中していることがある。首都圏には大学の17.8%、大学生の26.6%が集中しているため、進学に伴って若い男女が首都圏に集まってくる構造になっている。
さらに、ここに就職等による社会移動が加わっているわけだ。
■東京で出会い、結婚するタイミングで埼玉・千葉・神奈川に流出
そして、ここからが興味深いところで、そうした未婚女性は東京都で出会い、結婚するタイミングで埼玉県、千葉県、神奈川県に流出して子どもをもうけるのだという。
これは、2015年7月に発表された日本経済研究センターの「老いる都市、『選べる老後』で備えを ―地方創生と少子化、議論分けよ」という研究に含まれているもので、日本大学教授の中川雅之氏の「第4章:東京は「日本の結婚」に貢献 ―人口分散は過剰介入」で以下のように解説されている。
・東京都の婚姻率が低いのは、未婚者の流入を受け入れる一方で、生活コストが高く結婚世帯は流出するためだ。
・東京都は地方部から未婚者を受け入れ、カップルとして周辺県に送り出していることはデータでも確認できる。東京は、いわば『日本の結婚』に貢献しており、社会全体の婚姻率引き下げをもたらすものではない。
・東京への集中に対して人口の分散を図るのは過剰な介入だ。
さらに、中川氏は「1980年から2005年までの人口をみると、起きていたのは東京一極集中や3大都市圏への集中ではない。名古屋に次ぐ京都以下の政令都市クラスの都市圏が急速に成長する、大都市化とも言える現象だ」とも指摘している。
■地方から若者が出て行くのは、仕事が無いからだけではない
地方創生の議論では、地方から若者が出ていくのは、仕事がないからだ、だから地方に仕事を作れば良い、という主張がある。
しかし、仕事があればそれだけで若者を地方に留められるかというと、そう簡単でもなさそうだ。
仕事といっても、あるかないかだけではなく、その内容にもよる。首都圏に多いホワイトカラーやクリエイティブな仕事を一定規模で地方に作り出すことはやはり難易度が高いだろう。
さらに、仕事だけではなく生活環境の違いも大きい。
下の図表2は、筆者が企画、設計、分析を行っている「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」の個票データの居住満足度と居住満足度を構成する8個の因子について、首都圏の東京23区と政令市、中核市、その他に分けて集計したものだ。
数値は分かりやすいように首都圏(東京23区と政令市)を100とする指数としている。
結果を見ると、首都圏と政令市はそこまで大きな格差はないが、中核市、その他市、町村と人口規模が小さくなるに従って、各項目の数値が低くなっていくのがわかる。
特に「交通利便性」は首都圏の100に対して町村は15と非常に低い。
■「適度な距離感のある人間関係」を求めている
これらの因子と居住満足度の関係を分析してみると、影響が大きいのは、「生活利便性」と「親しみやすさ」で、「親しみやすさ」とは簡単に言えば適度な距離感のある人間関係のことで、首都圏の100に対して町村では65と低くなっている。
この「親しみやすさ」の中身は、「気取らない親しみやすさ」「地元出身でない人のなじみやすさ」「地域の繋がり」「近所付き合いなどが煩わしくないこと」「地域のイベントやお祭りなど」といった項目を含んでおり、例えば、若い女性が誰かと一緒にクルマに乗っていても、「昨日のあの人は誰?」などと詮索されないような、負担感の少ない人間関係のことだ。
筆者も福岡県の小さな街で育ったからよくわかるが、地方の小さな街では、人間関係は小学校以来の固定化されたもので流動性がほとんどない。
こうした地方のコミュニティのあり方も地方から若者が出ていく要因になっているのだ。
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麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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