「毎月通院していたのに、突然、進行したがんが見つかった」そんな確率を減らすために医師に伝えるべき内容
プレジデントオンライン / 2024年9月25日 9時15分
■症状のない早期がんは発見しづらい
日本人の死因の第1位は「悪性新生物」――つまり「がん」です。がんは恐ろしい病気ですが、早期に発見すれば治癒の可能性が高まります。しかし、ほとんど症状のない早期のがんは、検査を受けるきっかけがなければ見つけるのが難しいものです。
ときに「高血圧」や「糖尿病」などの慢性疾患で定期的に通院している患者さんに突然、進行したがんが見つかることがあります。突然といっても、それは見つかった経緯が急なだけ。実際には、がん細胞が生じて大きくなり症状を引き起こすまでには、数年から十数年の時がかかっています。通院中にがん細胞が生じたかもしれませんし、他の疾患が見つかって通院しはじめたときには既にごく小さながんはあったのかもしれません。
そんなとき、通院していただけに「なぜ早期発見できなかったのか」「もしかして見落とされたのではないか」「何かミスがあったのではないか」と、患者さんやそのご家族が疑問に思われるのは当然のこと。かかりつけ医を信頼してくださっていたがゆえに、そう思われるのだろうと思います。しかし個々のケースにもよりますが、一般的には症状がない早期のがんを定期の通院で発見するのは非常に難しいと言わざるを得ません。
■なぜ他疾患の診察で見つからないのか
さて、定期的な通院を要する代表的な慢性疾患といえば、先にも例に挙げた高血圧を思い浮かべる人が多いでしょう。高血圧の患者さんの定期受診時には、「血圧測定」「心電図検査」「胸部レントゲン」「血液検査」などを行います。
これらの検査の目的は、高血圧が引き起こす可能性のある「心臓病」がないか、また「腎機能」「肝機能」「コレステロール」の値を評価することであって、がんを早期に発見することではありません。たまたま胸部レントゲンで肺がんが見つかったり、血液検査で判明した貧血の進行をきっかけに「胃がん」や「大腸がん」の診断につながったりすることもありますが、あくまで例外的なケースです。
血液検査をしていれば、がんを早期発見できると誤解されている方もいますが、実際にはその可能性はきわめて低いでしょう。がんの治療後のフォローアップ中でもない限り、定期受診で腫瘍マーカーは測定しませんし、そもそも腫瘍マーカーは無症状のがんの早期発見には向いていません。
そのほか少量の採血でさまざまながんがわかると称する検査もありますが、現在のところ、がん検診に応用できる段階には至っていません。CTやMRIを受ければがんを早期発見できるかもしれませんが、無症状の場合、そうした検査を保険診療で行うことはできないのです。
■日々の体調を意識して生活習慣を見直す
かかりつけ医にできることはといえば、無症状のがんを見つけるために検査をすることではなく、患者さんのちょっとした体調の変化に気づき、早期発見につなげることです。がんの初期症状として、たとえば体重減少、食欲不振、倦怠感、咳や痰、嚥下困難、不正出血、便の性状や排便習慣の変化などが挙げられます。
受診のたびにこれらの項目を全部確認するのは現実的ではありませんが、私は診察のたびに少しずつ項目を入れ替えながら患者さんにお聞きするようにしています。患者さん側も、何かいつもと違う症状があれば、遠慮せず医師に伝えていただければ助かります。患者さんが気になっていることを気軽にご相談していただけるような関係を作ることも、かかりつけ医の重要な仕事の一つです。
また、がん予防の観点から、生活習慣についての助言もできます。例えば、バランスの取れた食事や適度な運動を推奨したり、喫煙者には禁煙外来を紹介したりすることです。こうした健康的な生活スタイルは、がん予防のためだけでなく、慢性疾患の管理のためにも重要です。適切な生活習慣を身につけることが、全身的な健康維持につながることでしょう。
■早期発見には5つの「がん検診」が重要
一方、無症状のがんを早期発見したいのであれば、がん検診を受けましょう。胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5種類のがん検診については、がん死亡率を減らす科学的根拠があり、厚生労働省が推奨しています。それぞれ適切な検査項目、対象者、受診間隔があります(図表1)。
がん検診は保険診療の対象外ですが、多くの自治体で公費補助があり、少ない自己負担で受けられます。保険診療を行っているかかりつけ医は、無症状のがんを発見するための検査はできませんが、推奨されるがん検診を受けるようにアドバイスすることはできます。
■検診の合間に進行する「中間期がん」
ただし、がん検診を受けていれば、絶対に大丈夫というわけではありません。「中間期がん」といって、検診で異常を指摘されなかったのに、次の検診までの間に進行したがんが発見されるケースがあります。
乳がんの治療中であることを先日発表したタレントの方は、毎年、人間ドックを受診していたにもかかわらず、胸の違和感という自覚症状がきっかけで診断につながったそうです。一般的に、検診で発見されるがんと比べて中間期がんは進行が早く、予後が悪いとされています。
中間期がんのリスクを心配して、推奨されているマンモグラフィ(乳房X線検査)に加え、超音波検査やMRI、PET検査を追加で受ける方もいらっしゃいますが、現時点では、これらの追加検査が乳がんによる死亡を減らすという科学的証拠はありません。追加検査が乳がん死のリスクを減らす可能性もありますが、そうでない可能性もあります。さらに、これらの追加検査は高額で補助がないこともあり、積極的におすすめはしません。
こうした医学の限界について述べると、「がん検診を受けてもがんで死ぬことがあるなら、検診を受ける意味がない」と誤解する方もいます。確かに100%死を防げないと検診を意味がないと考える人にとっては無駄かもしれませんが、がんで死ぬ確率を少しでも減らしたいと考える人にとっては無駄ではありません。
■それでも「がん検診」はリスクを下げる
医学の限界といえば、がんに限らず、心筋梗塞などの心血管障害も100%防ぐことはできません。高血圧で定期的に通院し、きちんと薬を飲み、健康的な生活をしていても、心筋梗塞になるときはなります。一方で高血圧を放置していても、心筋梗塞にならない人はなりません。心筋梗塞のなりやすさには高血圧以外にもさまざまな要因はありますが、いずれにせよ絶対に心筋梗塞にならないようにする治療法は存在しないのです。
それでも高血圧を治療したほうが、放置した場合と比べて、心筋梗塞になる確率は間違いなく下がります。それなのに、医師が「私自身が200mmHg以上の血圧を何年も放っておいて平気だった」などと書いた記事は人気があるようです。一方で「血圧は下げないより下げたほうが心筋梗塞になる確率を減らすことができるが、それでも100%防げるわけではない」と事実を書いた記事は注目されません。
医学的には間違っていても「血圧は下げなくてもいい」という主張のほうが単純でわかりやすく手間もかからず、都合がいいから、人々に受け入れやすいのかもしれません。しかし自分の健康と命に関することですから、簡単でわかりやすい話に飛びつくのではなく、少し複雑であってもしっかり向き合うほうがいいと私は思います。
どのような方法を取っても、不幸な結果を完全に避けることはできませんが、リスクを減らすための方法はたくさんあります。その中から無理なく実行できる対策を取り入れることが大切です。たとえ、それぞれの対策の効果は小さいかもしれませんが、それでもリスクを軽減するための努力には価値があると思います。自分の健康は自分自身で守りましょう!
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内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。
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(内科医 名取 宏)
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