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テレビ離れ&広告激減の窮地を乗り切れるか…TV局で"窓際"だった通販番組を"ドル箱"に変えたスゴい仕組み

プレジデントオンライン / 2024年9月23日 10時15分

通販番組のイメージ

年間30万本も放映されているテレビ通販番組はローカル局に多い。だがここ10年、そこでの物販の売り上げは伸び悩んでいる。そのためテレビ局内でも窓際扱いだったが、次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「3年前にあるDXの出現によってテレビ局の工夫次第で、広告収入激減の窮地を物販で増収増益することが可能になった」という――。

テレビ通販番組は1年間に何本流れているかご存じだろうか。

実は30万本近くある。その9割が29分番組で、トータル的に約15万時間(日数換算で6000日以上)という途方もなく膨大な量になります。

ただ、物販系のネット通販(EC)の売上高は過去10年で倍増している一方、テレビ通販の伸びは芳しくありません(経済産業省統計)。ところが近年、通販番組にイノベーションが起こり始めました。広告収入減が深刻なローカル民放には福音となる可能性があります。何が起こっているのか、深ぼりしてみました。

■テレビ通販のこれまで

2013年に6兆円弱だったECの市場規模は、2022年に14兆円と倍以上に伸びました。物販系分野に占める割合は約1割となりました。

ところがテレビ通販は、あまり伸びていません。旧態依然たるやり方が最大の敗因でした。ネット通販事業者がテレビ通販に出るのは意外とリスクが大きいです。放送は短時間に多くの視聴者が見ます。発注を受け付けるコールセンターに何本の電話回線を用意すべきか、判断が難しかったのです。少なすぎるとパンクして利用者の不満につながります。多すぎると、過剰投資となり利益を圧迫します。

用意すべき在庫量の読みも容易ではありません。過剰だと損失が出かねません。少なすぎると商機を逸することになります。結果として、ECを始める事業者は次々に登場しましたが、新規のテレビ通販事業者は多くなかったし、始めたものの大半が撤退していたのです。

■意外と多い視聴者

それでも通販番組の視聴者は固定ファンも多い。SNS上にも“つい見てしまう”タイプの人が少なくないことがわかります。

「酒飲みの最終形態は通販番組をさかなに飲み続ける」
「更年期からか、夜中に目が覚めちゃう。幸いXと通販番組で時間を紛らわしています(笑)」
「ホテル泊まるとだいたい通販番組みちゃうんだけどおもしろい」
「ふと目に飛び込んできた美顔器。通販番組で思わず買ってしまった」

放送は“偶然の出会い”メディアです。

ECの場合は、初めから意中のモノを買いたいと思ってアクセスする人が大半ですが、通販番組では何気なくテレビをつけたら放送していたので見てしまう人が少なくありません。しかも出演者のオーバーな口調に惹きつけられ、買う気がなかったのに衝動的に購入してしまったという人がいるのです。

■通販番組は窓際⁉

ただし通販番組はゴールデンタイム(夜7~10時)など、視聴率の高い時間帯には放送していません。

たいがい早朝、お昼前、昼下がりから夕方、そして深夜です。基本的にテレビを見ている人が少ない時間帯のため、テレビ局でも花形のプロデューサーなどは担当していません。いわば窓際のような存在です。

どんな局がどの程度放送しているかを見ても位置づけがわかります。

東京キー5局の通販番組は、放送全体の1.6%しかありません。しかも編成表を見ると、テレビ東京では平日の午前と午後に通販枠が見つかりますが、視聴率の高い局では簡単には見つけられません。

ところが、キー局だけでなく「地上波全体」で調べると、8.5%に高まります。これは東阪名など大都市のテレビ局では通販番組が少ないものの、地方に行くほど多くなることを示しています。つまり人口が少ない地域のテレビ局ほど広告収入が少なくなり、放送枠を売り渡す通販が着実に売り上げと利益を確保できる道となっています。

これがBS5局(キー局系)や独立局だともっと高くなります。やはり自局で番組制作をするより、放送枠を売り渡したほうがビジネスとして有効と考える状況にあるからです。

地方やマイナー局では目立っても、放送全体としては窓際的存在。そんな位置づけが、これまで通販番組の進化を阻んできました。ネット通販のECはユーザーの傾向分析が容易で、次の購入に向けたレコメンドも簡単で10年で2倍の売上増を果たしましたが、テレビ通販はそうした工夫がなく、結果として売り上げも微増にとどまってきました。

しかし、3年前に新技術が登場したのを契機に、通販事業者や枠の取引にかかわる代理店は変わり始めました。ただし、窓際的位置づけのまま放置したテレビ局は旧態依然たる状況で、テレビ局によって差がつき始めました。

変化を起こしたのはPTP社の「ordr」です。

■通販もデータドリブンの時代

「ordr」は曖昧な情報や勘で決められてきた商慣習を“見える化”しました。年間30万近い通販番組について、どの業者がどんな商品を、いつ放送し、その結果どれくらい視聴者が反応したのかをデータ化したのです。

【図表】テレビ局別の通販番組割合(年間比較)

これにより通販会社は、放送展開でのリスクを軽減できるようになりました。競合他社の出稿量や時間帯による出し方の違いを把握できます。また、売れている商品がどう訴求されているか、それぞれの通販枠と鳴った電話の数も確認できるようになりました。これで歩留まりをどう上げていくのか、根拠に基づく戦略が立てられるようになったのです。

わかりやすいのは、新たな商品を新たな枠で放送する場合です。どれくらい電話がかかってくるのかを、これまで蓄積したデータに基づいた予測が出るので、枠の価格も相応か判断でき、コールセンターの人員も適正に配置できるようになったのです。

■テレビ通販での成功例

テレビ通販への新規参入の成功例も出ています。シャツやパンツを通販する「りらいぶ」と、おせちやカニなどの特産品を扱う「スカイネット」です。

「りらいぶ」は去年2月にテレビ通販を始めました。当初は4枠でしたが、今年6月には441枠に急伸しました。わずか14カ月で最大手の一つ、キューサイ社の半分くらいという躍進です。

「スカイネット」も負けていません。21年の821枠が23年には2033枠と3倍近く増えました。売り上げや利益が伸びないと、当然放送枠を増やしません。データに基づき次々に新たな枠に手を伸ばし、EC並みの成長を遂げたのです。

DXで躍進したテレビ局もあります。この局の23年度の売上高は「ordr」導入の3年前と比べて7%増、営業利益80%増を達成しました。データに基づいた営業や、さまざまな工夫により放送枠の単価を管理した結果でしょう。またピンポイントで顧客を見つけ、その顧客についてデータ分析を加え、より良い提案ができるようになった点も見逃せません。

データ武装でテレビ通販は、まだまだ成長の余地があると言えそうです。

■ローカル局の今後

こうしてDXの導入で成功する局があるものの、大半のローカル局は残念ながら通販では躍進してきませんでした。コロナ禍で自宅にいながらモノを買う行為が習慣化したにもかかわらず、工夫や努力を怠ったためビジネスチャンスを見逃してきたのです。

ローカル局全体を見渡すと、その経営は芳しいものではなく、今後も悲観的にならざるを得ません。視聴率が下落し、ピーク時と比較して既に2割減った広告収入は、今後もまだまだ減少すると見られているからです。しかし、ここでこれまで窓際的な扱いをしていた通販枠を、DXを駆使しながら革新すれば、経営改善は可能です。

冒頭で触れたように、通販番組の放映時間の9割以上が29分です。しかも2枠連続して放送するケースも見かけますが、これでは普通の視聴者は逃げてしまいます。そこで、これを5~10分程度の通常番組と、同程度の尺の通販枠を交互に編成すれば、間違いなく視聴率は上がります。つまり通販でのコール数や販売量の改善が期待できるのです。そうすれば、枠の単価も上がります。

さらにアニメなどと通販枠を組み合わせたらどうでしょう。

現状、テレビ通販の顧客は圧倒的に高齢者に偏っています。ただ、コロナ禍に40~60代やもっと若い層も通販でモノを買うことが確認されました。これまでは化粧品や健康食品がメインの商材でしたが、もっと多様な商品も扱えるはずです。通販枠では商品のスペックや使い方の詳細を説明する時間がたっぷりあります。年金頼りの高齢者より収入が多い現役世代を対象にしたもっと単価の高いモノを売れば、枠の価値は高まります。

【図表】テレビ通販市場の見える化(通販番組表)
PTP社「ordr」の資料から

もともと横並び意識の強いテレビ業界。視聴率競争には一生懸命でしたが、“端っこ”の通販枠を重視しなかった点でも“右に倣え”でした。ところがデータに基づくDXを進めると、通販枠はより効果的に編成でき、枠の単価を高められ、局の増収増益に貢献する道が見えてきました。

厳しい経営の中、復活へと歩み始めるテレビ局の登場に期待したいところです。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

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