満員電車の「ドア付近の混雑」はこれで解決する…奥まで詰めない人は「次の駅で降りるから」ではない意外な理由
プレジデントオンライン / 2024年9月27日 17時15分
■鉄道会社の社員になりきって考えてみよう
私は仕事でもないのに、電車に乗ったり、街を歩いていたりするときに、人が思うように動いてくれない状況を見るとどう分ければ動きやすくなるだろう、と思考シミュレーションをする癖がある。満員電車、長蛇の列、オフィスのフリーアドレスの座り方、お店の部分的な混雑など、「思ったように動いてくれない問題」はあちこちにある。
頭の体操に、ひとつ思考実験をしてみよう。あなたが鉄道会社の社員だとする。目下の課題は、満員電車で「乗客がドアの近くに密集して奥まで詰めてくれない」ことだとする。さて、「分け方」を変えることで、この問題を解決する方法を考えてみてほしい。
満員電車には様々な人が乗っていて、奥まで動きにくい問題を引き起こしている。
座っている人の足が邪魔になる。
リュックを背負っている人がいて奥に行けない。
近くにつり革が見つからずに、ねじれた姿勢のまま耐えている人がいる。
不自由と各自の思惑が渦巻く環境。それが満員電車だ。
■「動きにくい」に満ちた環境を「動きやすい」に変える
電車が混んできても人は入口近くに溜たまる傾向にある。自分は比較的すいている所まで行きたいと思っても、その動線上に立っている他の誰かに動く意思がなければそれはできない。車内に響く「奥のほうへお詰めください」というアナウンスは、入口付近に断固留(とど)まろうとする人たちの意思によって、意味をなさないものになる。
「動きにくい」に満ち満ちた環境。それが満員電車だ。では、どうすれば人は「動きやすい」に変わるのか。「分け方」で解決できないものか。
そもそも「奥まで人を動きやすくする」ための障害のひとつは、「不安定なポジションに行きたくない」という心理だ。
そこでまずステップ1、乗客の属性を書き出してみよう。主に3種類のポジションになりそうだ。
2、手すり、つり革を持って安定して立っている人
3、手すり、つり革まで距離があり、安定しないで立っている人
■多くの人が「奥まで詰めない」本当の理由
もちろん1の状態になれば最高だが、せめて2の状態でいたい。3になるのだけは避けたい。そんな心理が働く。では、この3の状態に陥りやすいのはどこかと言うと、図の「C」の部分だ。座席前のずらっと並んだつり革は遠いし、前からも後ろからも人のプレッシャーがある。どっちを向いて立っていればいいのかすらよくわからない。
こんな不安定な場所こそが、車内アナウンスで言うところの「奥のほう」なのだから、そこに行きたくないと感じるのも当然のことだ。従って乗客は奥に詰めない。
となると、図の「C」の部分を少しでも快適にすることが、車内の「奥まで詰めない」問題を解決することにつながらないだろうか。
次にステップ2、実際にどのような分け方があるだろうか。イスの数と床の比率(分け方)を変える。ドアとドアではない部分の比率(分け方)を変える。2階建て車両のように空間を上下で分ける。乗客の乗車料金を分ける。乗客を降りる駅で分ける……。
できるかできないかにこだわらず、ユニークな分け方はないだろうかと空想することが大切だ。
■混雑を生み出している人は「座り方」に問題がある
最後にステップ3。今回の目的は奥にいても快適にすることだ。そこで実際に次の図のように、車内の床を3色に、たとえばイエロー(A部分)、オレンジ(B部分)、グリーン(C部分)に分ける方法はどうだろう。色を分けるだけで何が変わるのかと思うかもしれないが、これは意外に効果的だと思う。整列乗車の位置がホーム上に色分けして示されていたり、エスカレーターのステップの端が黄色くなっていたりする。
まず、座っている人の足のポジションを明確にできる。これがAの部分だ。座り方や足の長さは人それぞれで、ときおり足をかなり前のほうに出している人を見かける。そうなると、その前に立つ人は、ポジションをやや後方に下げざるを得なくなり、左図のBとCの境目あたりまで押し出されることになる。その人も不自由な体勢を強いられるし、当然Cのポジションの人は窮屈になる。
乗客のひとりが足を前のほうに置くだけで、このような負の連鎖が起こるのだ。こういう連鎖は、車内のあちこちで見られる。
そこで、図のように床を3色で分けることによって、足をどこに置くべきかが明確にわかりやすくなる。
そうなれば、座っている人は足の出しすぎに気を遣うだろうし、B部分で立つべき人の足がC部分に飛び出していれば、C部分で立っている人は「すみません、少しずれていただけますか」と言いやすいのではないだろうか。
■黄色い線、緑の位置…と色別にアナウンスできる
さらに言えば、奥に行きやすいように、電車内のセンターにもつり革をつけてほしい。持ち手のあるつり革でなくても、高さ185センチ程度のところに天井からバーが出ているだけでたいていの人は届くし、それだけで随分と奥に行きやすくなるはずだ(広告がぶら下がっているが、デジタルサイネージを使えばそれも解消できるのではないか)。
実際、私が普段乗っているバスにはそのようなバーがついていて、奥に行くのが随分楽である。
そこで、車内アナウンスもターゲットを分けて放送する。
「車内が混雑してきましたので、お座りの方はできるだけ足元の黄色い線の中に足を入れていただけますでしょうか。つり革をお持ちの方はリュックを前で抱えてできるだけオレンジの位置にお立ちください。センターの緑の位置にお立ちの方は奥のほうまでお進みください。できるだけたくさんのお客様にご乗車いただきたくご協力よろしくお願いします」という感じでアナウンスすれば、乗客のみんなが「自分ごと」として捉えやすい。
■集団をいくつかの属性に分けて視覚化する
もちろん、鉄道会社や車内の構造には様々な事情があるだろう。私は門外漢であることも事実だ。ここでお伝えしたいのは、「集団を集団として捉えるのではなく、いくつかの属性に分けて視覚化することによって、解決の糸口が見つかる」ということだ。
会議室、イベント会場、お店、学校などのあらゆるシーンで「動きやすい」を作るために、分け方を工夫した事例はたくさんある。ここからはヒントとなる事例を見ていこう。
数年前に実家の神戸に帰ったときに、母と車で近くのスーパーに買い物に行った。母は高齢ではあるが、近所であれば自分で運転をする。いつものスーパーの近くに新しい別のスーパーができたので、そちらに行ってみようと提案したが、母は「駐車スペースが狭く感じるので行きたくない」と言う。
なるほど、ちょっとしたことだが、駐車場の「幅」ひとつで「入りにくい」「行きにくい」という心理状態を作るのだと実感した。
榎本篤史(えのもとあつし)著『すごい立地戦略』によると、駐車場の形や入口の位置等のちょっとしたちがいで「集客効果」に大きな影響があるそうだ。たとえば最近増えている「U字形の二重線」で分けられている駐車場のほうが、「一本線」で分けられている駐車場よりも「停めやすい」と感じる人が多い。実際にはその分、駐車スペースが狭くなっているはずだが、隣との距離が開いているように感じるためだという。
■なぜ高速道路のSAの駐車場は「斜め」なのか
「コメダ珈琲店(こーひーてん)」は駐車場の入口と出口を分けるなど、車を「停めやすい」配慮をしている。先に駐車場を設計してから建物の設計をする、という徹底ぶりだそうだ。
台湾には日本でもおなじみのAとBのデパートがある。地元の人によると、Aデパートのほうが駐車場1台あたりの幅が広いため、高級車に乗るお金持ちがよく行くのだそうだ。一方、Bデパートは駐車場の幅が狭いため、庶民の来客が多いという。1台1台のスペースをどんな幅で分けるかによって、来る客の属性も来客数も客単価も変わるわけだ。
ちなみに、高速道路のサービスエリアの駐車場は「斜め」に停めるようになっている。このタイプにはたいてい前から駐車するので、出発するときは必ず進行方向と逆の方向にバックするため「逆走しにくい」。車の正しい進行方向をわかりやすくする知恵だ。あえて「しにくい」を作ることで、安全を守っているわけだ。
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コクヨワークスタイルコンサルタント、エスケイブレイン代表
1969 年神戸市生まれ。1992年文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。顧客向け研修サービス、働き方改革コンサルティングサービスの企画など数多くのプロジェクトマネジメント業務に従事。現在はコーポレートコミュニケーション室の室長としてコクヨグループのブランド戦略や組織風土改革の推進に取り組んでいる。同時に新しい働き方を模索して複業ワーカー(エスケイブレイン代表)としてのビジネススキルに関するセミナーや講演、YouTube 動画配信などの活動も積極的に行っている。著書に『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)、『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)、『一発OK が出る資料 簡単につくるコツ』(三笠書房)などがある。
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(コクヨワークスタイルコンサルタント、エスケイブレイン代表 下地 寛也)
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