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「安倍元首相の後継者」になる以外に道はなかったのか…高市早苗氏が出世のために封印した"30年前の主張"

プレジデントオンライン / 2024年9月25日 17時15分

自民党ウェブサイト「自民党総裁選2024『THE MATCH』について」より

自民党総裁選は過去最多となる9人が立候補し、うち女性は2人だった。コラムニストの矢部万紀子さんは「高市早苗さんと上川陽子さんが立候補し、野田聖子さんが出られなかったのを見て複雑な気持ちになった。“おじさんの詰め合わせ”の中で女性が出世する難しさを感じた」という――。

■“高市氏と上川氏が立候補”に抱いた複雑な感情

自民党総裁選のキャッチコピーは「THE MATCH」だ。9月27日に投開票されるが、党員と国会議員しか投票できない内輪の選挙だ。なんとか関心をもってもらおうと、「選挙」でなく「試合」、「試合」でなく「MATCH」としたのだろう。

この言葉の浸透度は不明だが、ポスターはかなり有名だ。歴代総裁26人の写真が使われ、目立つトップ3は安倍晋三、田中角栄、小泉純一郎。

そんなレイアウトも話題になったが、何と言っても立役者はトラウデン直美さん。ポスターが発表された8月21日の「news23」(TBS系)で「おじさんの詰め合わせって感じがする」と述べたのだ。

即、ネットが盛り上がった。「おじさんの詰め合わせ」は「パンダは白と黒」と同じ見ての通りなのだが、賛否両論の熱戦に。はて?

ということで、「THE MATCH」の話はおしまい。ここからは「試合」の話をする。

立候補する9人のうち、2人が女性だ。高市早苗さんと上川陽子さん。よかったと思うと同時に複雑な気持ちになる。立候補を模索し、あきらめた野田聖子さんと比べて、「やっぱり、出られるのはこういう女性ね」。そんな気持ちになる。

■“安倍一筋”を貫く高市氏

高市さん63歳、当選9回。上川さん71歳、当選7回。

2人に共通するのは、2世政治家でないことだ。高市さんはニュースキャスター、上川さんはシンクタンク勤務などを経て政治の道へ。64歳、当選10回の野田聖子さんは、元建設大臣の祖父を持つ。

今回、総裁選に立候補した男性7人のうち、5人が義父も含めて政治家の父を持つ。男性の2世は多数派で、女性の2世は逆に出られない。これって偶然ではない。これこそ、女の出世道を映している。と思っている。

高市早苗氏
高市早苗氏(首相官邸HP)

高市さんは3年前の総裁選にも立候補している。2連続立候補は高市さんと河野太郎さん(もちろん2世)だけで、それだけですごい。で、それを支えているのは一貫した「右側通行」だ。

2006年、第一次安倍内閣で内閣府特命担当大臣として初入閣以来、ずっと安倍一筋=右側通行。9月9日の立候補表明では日の丸を掲げ、「選択的夫婦別姓→ノー」「靖国参拝→イエス」と「安倍好み」を語った。20人の推薦人のうち14人が安倍派だ。

ただし前回と違って、今回は安倍さんがいない。しかも小林鷹之さんという非・2世、43歳という若手の右側通行の人が立候補を表明している。

そんな状況で高市さんが打ち出したのは、「日本列島を強く、豊かに」と「サナエあれば、憂いなし」だ。

■“中興の祖”を徹底的に敬った

高市さんは「強い」という言葉が好きだ。

9月12日に自民党本部で開かれた9人による演説会も、最後は「強い強い、日本列島をともに作っていこうじゃありませんか」と締めた。「強靭化」も好きで、前回は「日本経済強靭化計画」、今回は「国土強靭化」。

そして高市さんがしたたかなのは、強さとセットで「女子アピール」もできてしまうところだ。何かと言うと「早苗」押しで、今回は「サナエあれば、憂いなし」で前回は「サナエノミクス」。「高市」は使わない。

私は昭和の、それも雇用機会均等法以前から会社員生活をしていた。だからつい、物事を会社に置き換えて考える。

その思考で書くなら、高市さんは会社の「中興の祖」を徹底的に敬い、追従する作戦によって地位を得た人だ。中興の祖はどんどん「一強」になっていったから、「ですよねー」な社員はわらわらと増えた。

が、高市さんは勉強も怠らなかった。福祉よりも財政など、「女性らしからぬ」分野でこそ頑張った。あっぱれと思うのだが、それってほんとに高市さんなの? という話は後から書く。

■ルッキズム発言にも“やむなし”の上川氏

上川さんの出馬表明は告示日の前日、11日だった。

上川陽子氏
上川陽子氏(首相官邸HP)

20人の推薦人集めに苦労したのだが、12日に出演した「報道ステーション」(テレビ朝日系)では、「(候補者は)派閥に頼らず、派閥が(候補者を)決めない」ことを証明したと語っていた。

上川さんの推薦人で一番多いのは、麻生(太郎副総裁)派で9人だ。それを伝えた「news23」は、「これで上川さんは麻生さんの言いなりになるだろうな」という「他陣営」の声を紹介していた。

うーん、そうかー。と思ったのは、麻生さんと上川さんのあの件があるからだ。

詳述はしないが、麻生さんは今年1月、地元での講演会で外務大臣の上川さんを「新しいスター」とほめた。が、ほめるにあたり、ルッキズム(外見至上主義)と言われてもやむなしの言葉も口にした。

エラい人であればあるほど、自分に自信がある。「時代が変わりましたよ」といくら諭されても、本音は変わらない。

おじさんが取り仕切る組織で生き残ろうと思ったら、ルッキズム発言など当然と思わねば。と、会社員生活で学んではいた。

■“ありがたく受け止めた”から立候補できた

上川さんは、まさにお手本だった。

外務大臣定例会見で麻生発言についての見解を求められ、こう答えた。「様々な意見があることは承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」。

エライ人は案外執念深いから、歯向かった人を忘れない。ありがたく受け止めたからこその、麻生派9人なのだ。

ところで今回、上川さんを追いかけてわかったのは、とても優等生だということだ。記者に問われる時、または演説でも、自分の意見を言う前に全体を俯瞰してしまう。

例えば共同記者会見で「災害への対応」について問われた。上川さんはまず「自然災害の被害が世界的に大きな課題になっている」と語りだし、次に「日本は自然災害の可能性の高い国だ」と続けた。うーん、それは私でも知っているぞ、と思う。

上川さんが好きな言葉は「しっかり」だ。

いろいろな場面で使うが、要はしっかり取り組むということだ。全体像を捉えた上で、確実に取り組み、処理能力が高い。そういう人なのだろうと想像つく。

そして上川さん、あまり己を出さない。いつも同じ調子で張り切っている。同じ調子=安定も、上からの受けがいい。などと書いたのは、すぐに感情を顔や口に出した己のダメダメ会社員人生があるからだ。

■上川氏と高市氏は「苦労人」だった

そんな上川さんが珍しく感情をみせたのが、日本記者クラブ主催の討論会(14日)だった。

代表質問で記者から「総理になるために何をすべきで人脈をどう広げるか、その準備をしていたか」と問われた時だ。

内政、外交、必要な政策にしっかりと取り組む、そういう活動を30年間積み上げてきた、と答えたのち、「私は当選まで7年半かかってます」と言ったその声の調子に、少しだけ「反発」が感じられ、おーいいぞ、上川さんと心で小さく拍手した。

上川さんは40歳の時に政治を志し、地元静岡に戻った。

3年後の選挙は無所属で落選、4年後(2000年)の初当選も無所属で、自民党にすんなり入ったわけではない。「当選まで7年半」は党の演説会でも言っていて、苦労したからこそ誇りでもあるのだろう。

当選までに苦労したのは、高市さんも同じだ。

1992年に地元奈良県から参院選に無所属で立候補、落選。自民党公認で出るはずが、党県連会長に阻まれた。負けん気魂に火がついた高市さん、翌年、無所属で衆院選に立候補、当選した。

トップ当選した無所属の高市早苗さん こぶし突き上げ勝利宣言
写真=共同通信社
第40回衆院選挙の奈良全県区で、トップ当選した無所属の高市早苗さん。初当選を果たし、父親の大休さん(右)、母親の和子さん(左端)と万歳して喜んだ=1993(平成5)年7月18日午後8時15分、奈良市宝来町の選挙事務 - 写真=共同通信社

前回の自民党総裁選で高市さんの著書をまとめて読んだ。最初の立候補の時の高市さんは、簡単にいうとおじさんたちにだまされた。そう知ったのは『高市早苗のぶっとび永田町日記』(サンドケー)だった。

自民党公認候補者の座から滑り落ちた時のことを高市さんは「正々堂々と戦わせてもらえなかったことへの怒りと悔しさ」と書き、その構図を「ドロドロ根回し選挙であり、典型的なムラ型選挙の縮図だった」と書いている。

男社会、それも古いおっさんたちにしてやられた。その悔しさがひしひしと伝わってきた。

立候補前に書いた『30歳のバースディ』(大和出版)の最後の一節は「頑張っている同性の皆さん、一度っきりの人生だもの、自分に気持ちいいように生きようネ!」だった。女性同士>男社会。それが高市さんだった。

あっぱれな右側通行の高市さんは、本当の高市さんだろうか。最初の方でそう書いた。若い日の思いにこだわっていたら、出世などできないのだ。

■野田氏は“選挙に強い”

ここで野田聖子さんだ。

野田聖子氏
野田聖子氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

26歳で岐阜県議に、32歳で衆院議員に初当選した野田さんは選挙に強い。2005年の郵政民営化法案で反対票を投じて離党、小選挙区に女性候補の「刺客」を立てられたが当選、敵を「復活当選」に追いやっている。

だから野田さんは、自民党で自民党らしからぬ主張ができる。その代表が「選択的夫婦別姓」だ。

選択的夫婦別姓とはいえば野党より野田さん。選択的夫婦別姓を求める人(事実婚歴33年の私もその1人)は、みんなそう思っていると思う。

コロナ禍の最中に見たwebセミナーの一つに、「夫婦別姓なんで足踏み?!」(朝日地球会議plus)がある。もちろん野田さんも出ていた。司会者が「旧姓を使用している国会議員が、なぜ夫婦別姓に反対するのか?」と聞いた。

橋本聖子さん、丸川珠代さん……自民党にも旧姓を使用している議員はたくさんいる。

それに対する野田さんの答えが深かった。「女性議員でいると、中核の思想を持っていたほうが残りやすいから」。「中核の思想」とは「『女は家にいろ』的な」ものだと付け加えていた。

■「おじさんの詰め合わせ」で女性の出世は難しい

すごく腑に落ちた。

高市さんの「夫婦別姓ノー」はもうさておくが、上川さんも「個人的には賛成だが、時間をかけて討論すべき」と主張している。選挙に苦労すればするほど、中核の思想と離れ難くなる。そのことがよくよくわかった。

選挙の強い野田さんは、中核の思想と離れられる。代わりに総裁選への道が遠くなる。推薦人の壁だ。前回は何とか集めたが、今回はダメだった。

公示前日、野田さんは総裁選立候補断念の会見をし、小泉進次郎候補の推薦人になることを表明した。本人から何度も電話をもらい、仲間と何度も協議した結果、受けることにした、と。

野田さんと小泉さんは似ている。どちらも祖父(小泉さんは父も曽祖父も)が政治家だ。

野田さんは37歳で郵政大臣になり、「戦後最年少」の入閣だった。小泉さんが環境大臣になったのは38歳、「男性としては戦後最年少」だった。

小泉さんは「選択的夫婦別姓」の実現を公約にしている。男性は少しくらい変わり者でも許容されるし、メインストリームも歩ける。

女性の場合、変わり者はあくまでも変わり者。これ、何度も会社で実感してきたことだ。ブラボー、ボーイズクラブ日本。高市さん&上川さん、ファイト!

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矢部 万紀子(やべ・まきこ)
コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。

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(コラムニスト 矢部 万紀子)

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