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ワークマンは「8800円ランドセル」で勝負…「過去最悪の少子化」でも異業種がランドセル市場に続々参入するワケ

プレジデントオンライン / 2024年11月29日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA

ワークマンやモンベルなど、ランドセルメーカーでない企業がランドセル市場に新規参入するケースが増えている。少子化の時代になぜランドセルなのか。ライターの南充浩さんは「2023年の出生数は72万7000人で過去最少を更新したが、企業にとっては、ほぼ同じ数のランドセルが必ず売れる『とてもおいしい市場』に映る」という――。

■ランドセル業界への新規参入が増加

2020年以降、「布製ランドセル」という商材で異業種から新規参入したという報道を業界メディア、経済メディアで数多く見かけるようになりました。

直近ではワークマンの「ESスチューデントデイパック」でしょうか。2022年にはアウトドアブランドのモンベルが布製ランドセルに新規参入しました。現在54歳の筆者が子供だった約半世紀前、筆者の子供たちが小学生だった約20年前に比べると、ランドセルという商品は随分とデザインや素材が多様化したと感じます。

今回はランドセルについて考えてみたいと思います。

■昔は「男は黒、女は赤」で固定化されていた

筆者が子供の頃のランドセルというと、合皮素材で男児は黒、女児は赤というのがほとんど固定化されていました。それが20年くらい前になると、合皮素材は変わらないものの、男児女児ともにカラーバリエーションが格段に増えていきました。

男児は黒だけでなく、茶や紺がありましたし、女児は赤以外にもピンクや水色がありました。実際に私の娘は水色のランドセルを使っていました。

時代が進んで2010年代後半になると素材も合皮一辺倒ではなくなり、スポーツバッグやリュックに使われるような合成繊維生地が使われたランドセルが増えてきました。その代表例が2022年に発表されたモンベルのランドセルだったり、今年発表されたワークマンのランドセルだったりということになります。

■教科書、タブレットで荷物が重たくなっている

ランドセルが多様化してきた理由はさまざまありますが、大きいものは2つあると考えています。

1、軽量化の追求
2、低価格化の追求

まず、軽量化についてです。

以前から、小学校低学年の児童にとっては、教科書・ノートがフルに入った状態でのランドセルは非常に重たく感じられると言われてきました。実際に私もその当時重いと感じていました。

教科書を発行する企業でつくる「教科書協会」によると、小学校6年間で使う教科書の総ページ数(平均)は、2005年は4857ページでしたが、2020年には8520ページと約75%増えています。学習指導要領の改訂や、イラストを増やすなどより見やすいレイアウトに変更した結果だといいます。

明日の持ち物を用意する小学生低学年の子の手元
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

教科書やノートの重さは簡単には変えられないので、軽量化するのであればランドセル本体を軽量化せねばなりません。

この軽量化の追求がさらに活発化したのは、タブレット端末の導入が契機になっていると考えられます。どんなに薄型のタブレット端末でも、小学生にとっては結構な重量となります。

タブレット端末導入によって、児童が持ち運びする荷物の重さは、筆者が子供の頃より格段に増加しているのではないかと思います。子供の荷物の重さはだいたい1~1.2キロくらいの重さが望ましいと言われています。ノート型パソコンもそうですが、1.5キロに達するとかなり重く感じますのでランドセルも同様でしょう。

■物価上昇で「安いランドセル」に脚光

次に低価格化です。

筆者の子供が小学校に上がる20年くらい前、私は確かイオンの自主企画製品のランドセルを約3万円で買ったと思います。現在、イオンのインターネット通販サイトで確認すると3万5000円になっています。20年前、「天使のはね」(セイバン)や「フィットちゃん」(ハシモトBaggage)のようなブランドランドセルは当時で5万数千円から6万数千円くらいしていたという記憶がありますが、現在では6万3000~7万円台になっています。

筆者には3人の子供がいました。3万円台の自主企画商品ならまだしも、6万、7万円台の「天使のはね」「フィットちゃん」などのブランドランドセルを全員に買い与えることはなかなか難しいことでした。

ランドセルはもともとそんなに安い価格ではありませんでしたが、デフレ下にもかかわらずこれまで年々値上がりしてきました。日本経済は2022年から海外の状況に押されて物価上昇が鮮明化しました。そうすると、すでにある程度高額だったランドセルがより高額になるため、さすがに買いづらいという家庭が増えたという体感があります。

物価上昇が始まり、それにつれて給料も上がっていますが、健康保険料や年金などの社会保険料の総額も上がっているため、可処分所得は増えていないと感じる人が増加しています。そうなると、おのずと低価格商品を求める声も大きくなります。それを反映したのが、モンベルでありワークマンであるといえるでしょう。

ちなみにモンベルのランドセル「わんパック」は最もサイズの小さいもので税込み1万4850円、ワークマンのランドセル「スチューデントデイパック」は税込み8800円という安さです。

■「ナイロン素材=軽い」とは限らない

これらのランドセルはナイロン100%生地で製造されています。合皮素材よりも価格を抑えつつ、耐久性などのバランスを加味してナイロン素材が使われています。過酷な天候下でも使用されるアウトドア用リュックなどと同じ素材で、耐久性はある程度証明されているといえます。

ただ、軽量化については商品のスペックをよく読んで選ぶことが必要になります。モンベルのランドセルは930グラムとかなり軽量ですが、ワークマンは軽量ではありません。公式によると約1.5キロとあり、どちらかと言えば重い部類に属するといえます。これはワークマンの公式サイトでもきちんと説明されています。

ワークマンの「ESスチューデントデイパック」
ワークマンの「ESスチューデントデイパック」(ワークマン公式サイトより)

「こちらのランドセル自体の重さは約1.5kgで、他社の軽量ランドセルより軽くはありません。軽量を重視して検討している方はご注意ください。ただし、背中の背負うところにアルミプレートが入っており、これが重さを分散してくれる仕組みとなっています。同じ仕様で登山リュックでも使われています」

決して価格の安さだけで飛びつくことは得策とはいえません。背負ってみると重さを分散してくれるとあるのでそれはその通りなのでしょう。しかし、ランドセルは常に背負っているだけではありません。手に提げる場合もあります。その際、小学校低学年、特に1、2年生の児童にとっては相当重く感じるのではないかと推測されます。

■安さ、軽さに加えて重視したい「耐久性」

個人的にランドセルに期待したいことは、先の2点に加えて「耐久性」です。いかに丈夫で小学校6年間壊れずに使いきれるか、という点です。

筆者が小学生の時に使っていた合皮のランドセルは5年生の時に壊れました。使い方が雑で乱暴だったのでしょう。ただ、その当時は5年生や6年生でランドセルが壊れてしまった生徒が何人もいたので、合皮素材も今より傷みやすい物だったのではないかと考えられます。

筆者の場合、5年生で買いなおすのももったいないということで、残り1年間はスポーツバッグで通学しました。他の5、6年生でランドセルが壊れた生徒もスポーツバッグで残り期間を過ごしていました。

そこから30年弱が過ぎて、自分の子供たちが小学校に通うようになり、それぞれ合皮のランドセルを用意しました。先述した通り、購入したのはイオンで約3万円で売られていた自主企画商品です。

幸い、子供3人とも小学校6年間でランドセルは全く壊れませんでした。それどころか表面にもほとんど傷はなく、さらにあと6年間使えるのではないかと思うほどでした。それだけランドセル用の合皮素材の耐久性がアップしたのでしょう。そして、重厚な見た目に反して、手に持ったときは拍子抜けするくらいの軽さでした。

■壊れやすいと結局高くつく

比較的新規参入組に入るニトリもランドセルを発売しています。その中の合皮素材ランドセルは2万9900~5万9900円という価格帯となっており、モンベルやワークマンに比べると少し高めの価格設定となっています。重さは1.1キロ強というスペックなので、見た目に反して軽いと感じられることでしょう。あとは耐久性がどれほどあるかが重要になります。

6年間壊れないほどの耐久性があるなら、3万円台~4万円台くらいでも十分見合った価格であると思います。極端な例ですが、安くても毎年壊れてしまうと総額は6万円、7万円くらいとなり逆に高くついてしまいます。それゆえに耐久性こそランドセルにとって最重要課題ではないかと考えます。

■「少子化」でもランドセル市場がアツい理由

さて、2010年代半ば以降、続々とランドセル業界に新規参入業者が増えているのはなぜでしょうか。もちろん、選択肢の多様化を望む消費者ニーズがあることは言うまでもありません。しかし、供給側からすると少子化が進んでおり、ランドセルに限らず子供用商品というのは市場拡大が難しい分野でもあります。それにもかかわらず多くの業者が新規参入していることは奇異に映ります。

出生数の低下が問題となっているのは誰もが知るところです。23年の出生数は72万7000人、24年上半期は約33万人と、初の70万人割れの公算が高いと報道されています。少し前までは100万人前後が当たり前でした。

子供向けのお菓子やキャラクター玩具のような「完全なる嗜好品」の場合、どれだけ売れるのかを推測するのは非常に困難です。ブームとなれば爆発的に売れるでしょうし、不振なら全く売れずにほとんどが不良在庫になります。

しかし、ランドセルは違います。

義務教育という過程を通る子どもたちは、よほど特殊な事情が無い限りほぼ全員が小学1年生になります。そうすると、昨年生まれた72万7000人はほぼ全員が6年後にはランドセルを買うことになります。

言ってみれば「72万7000個が確実に売れる」市場だということになります。出生者数の減少と言われながらも72万7000個が確実に売れる市場というのは供給側からすると非常においしい市場に映ります。少し前なら90万個、80万個が売れた市場です。

■新規参入組ランドセルの評価は数年後にお預け

仮に各社が1万個ずつ売るとするなら、そこそこの生産ロット数だといえます。ブームによるバカ売れはない代わりに、70万個前後は必ず売れるという手堅い市場ですから、消費者ニーズに合わせて新規参入が増えることはある意味で当然といえます。これまでランドセル専門のメーカーが独占してきた市場に、各社が新規参入することは決して不思議ではないのです。

近年新規参入したブランドのランドセルはまだ6年間経過していないものが多々あります。新規参入組のランドセルの耐久性がいかほどあるのかが判明するのは数年先になります。新規参入組のランドセルを背負った子供たちが卒業するころ、彼らのランドセルに対する消費者からの評価が完全に固まるので、その時が、そのブランドのランドセルが買うに値するかどうかの分水嶺となるでしょう。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)

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