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なぜ仕事がデキる人ほど「無能な上司」になってしまうのか…善意のつもりが「部下に最も嫌われる」行動

プレジデントオンライン / 2024年11月29日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BrianAJackson

チームで成果をあげるにはどうすればいいのか。人材教育コンサルタントの橋本拓也さんは「優秀なプレイヤーほど、結果を出してきた『自分流のやり方』を部下に押しつけてしまう。しかし、こうしたマネジメントでは人間関係はギクシャクし、チームのパフォーマンスも上がらない」という――。

※本稿は、橋本拓也『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。

■なぜ職場の雰囲気が悪くなってしまうのか

優秀なプレイヤーがマネジャーとして抜擢されることは珍しくありません。

これは野球に見られるようなスポーツの世界の話だけでなく、むしろビジネスの世界では当たり前のように行われていて、スーパープレイヤーが上長から「君のような部下をたくさん作って、チームで結果を出してくれ」とミッションを与えられます。

ですが、これが“悲劇の始まり”になってしまうことがよくあるのです。

伝えたことをメンバーが実行できないので成果を出せず、マネジャーからすると「どうして言う通りにやらないんだ」「どうして成果を出せないんだ」というジレンマが生まれてしまいます。

メンバー側も「どうして怒られなきゃいけないんだ」となって、マネジャーとメンバーの人間関係はギクシャクし、どんどん悪化してしまいます。それほど時間がかからずに嫌われてしまい、メンバーはパフォーマンスが上がらず、チームの状態も最悪になってしまうでしょう。

原因はシンプルです。マネジャーになったときに我流で教えてしまうからです。

本来であれば「相手の願望や適性・能力を見極めながら部下を育てる」となるべきところを、結果を出してきた自分流のやり方をメンバーに教えるところからスタートします。

言い換えれば「自分自身」を量産する前提に立ってしまいます。

加えて、教えるべき仕事も自分がやってきた内容ですから、簡単に分身を作れるような気になってしまいます。

■過去に「マネジメントを受けた経験」が少ない

どうしてそんな気になってしまうのでしょうか?

優秀なプレイヤーがマネジャーになった場合、過去にマネジメントを受けた経験が少ないからです。正確に言えば、優秀なプレイヤーも当時の上司からマネジメントを施されていたのですが、本人の中でその自覚がありません。

プレイヤーでマネジャーになるような人はプレイヤー時代から主体的で、前向きで、勉強熱心で努力家です。失敗から学ぶガッツもあり、目覚ましい成果を出してきています。その分、マネジメントを受けた経験自体が少なかったりもします。

もちろん、スーパープレイヤーが結果を作ってきた自身の考え方やスキル、ノウハウ、方法論を教えることを私は否定しません。むしろ最終的にはスーパープレイヤーの持つ経験や方法論を教えることはとても重要です。

ですが、それには順番があることを知ってもらいたいのです。

詳しくは次章以降でお伝えしていきますが、大枠を先に言うとメンバー側が「教えてほしい」という状態になっていることが大前提です。

そのためのプロセスをスッ飛ばして「私の言う通りにやれ」ではメンバーは育たないのです。

■部下が「最もされたくないこと」

マネジャーがメンバーとうまくいかない原因は他にもあります。

まず、マネジャー自身が「自分」を基準に考えてしまうことです。

優秀なプレイヤーからマネジャー、あるいはプレイングマネジャーになったような人はそもそも自分に自信があり、行動した結果として優秀な成績を収めます。

当然、さらに自信がつき「自分はできる人間だ」と考えるでしょう。

この自信は間違っていません。ですが、マネジャーになった以上は「自分はすごい」の感覚でメンバーと関わってしまうのは危険なのです。

自分がすごいと思っている状態では、メンバーが何かの結果を出したときに「私の言った通りにやったから成果が出た=私のおかげ」と考えがちになります。

要するに、メンバーの成果を自分の手柄にしてしまうのです。

ですが、メンバーからするとこれが最もされたくないことです。せっかく成果を出したのにメンバーからすると「上司に手柄を取られた」と考えてしまいます。

もしくは、メンバー自身が出した成果に対して「上司のアドバイスがあったから成果を出せたわけで、私ひとりでは出せなかった」と自信が形成されないのです。

■「私のようになれ」は通用しない

一方で、今度は成果を出せなかったときを考えてみましょう。

自分はすごいと思っているマネジャーが、指導のもとで行動したメンバーが成果を出せなかったときには「どうしてこいつは“私みたいに”できないんだ」と考えます。

結果、メンバーを責めることになってしまい、メンバーは自信を喪失するか、マネジャーに対して苦手意識や嫌悪感を持ってしまいます。

離席している人のデスク
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

マネジャーとメンバーでは同じ仕事をしていても同じ人間ではないことを、まず知ってもらいたいと思います。

ちゃんと指導したとしても、その内容をどう捉えるかはメンバー次第であり、個々によって違います。さらに受け取ったあとの行動=やり方も違います。

メンバーはメンバーの持っている引き出しの中でしか行動できません。

当たり前ですがマネジャーとメンバーではレベルも経験値も違うはずです。その違いの中で異なる捉え方と選択肢で行動するわけですから、最初からマネジャー側が期待する成果を100%出せるはずがないのです。

マネジャーが「自分」を基準にメンバー育成を考えてしまうと、仮に最初はメンバーがマネジャーを「すごい人だ」と思っていても、結果的に「メンバーの自信喪失」「メンバーとの関係悪化」などが起こります。

マネジャーからすると、上長から最初に「君と同じような部下を育ててくれ」と言われているわけです。ですが、マネジャーとメンバーたちはそれぞれ別の人間ですし、違う人生を歩み、異なる勉強や知識、考え方、肉体を持っているわけです。

それを無視して「私と同じになれ」は通用しないのです。

■「自分がやったほうが早い」と考えがちだが…

マネジャーがメンバーとうまくいかない原因の2つ目は「任せられないこと」です。

大企業の管理職でもない限り、多くの中堅企業・中小企業ではマネジャーもまたプレイヤーとして活躍するプレイングマネジャーであることが多いでしょう。

チームのリーダー職であるとしても、マネジャー自身も通常業務で成果を出す必要があり、加えてメンバーを育成して成果を出させなければいけません。

ただ、先述の通りメンバーがマネジャーと同じような成果を出せるとは限りません。多くの場合でマネジャー以下のパフォーマンスになることもよくあるはずです。

すると、今度は仕事を任せられない状態になります。

「誰かに任せるより、自分がやったほうが早いし、成果も大きい」「できることなら自分のコピーが5人欲しい」と考えがちになるのです。

確かに、一見すると正しく感じます。レベルも経験値も違うのですから、任せずマネジャーが仕事をしたほうが成果は出ますし、コピーが5人いれば5倍の成果が出るかもしれません。

ですが、これではチーム・組織の仕事にはなりません。

あくまでもマネジャーはプレイヤーでありながらマネジメントを行わなければいけないので、メンバーへ上手に任せていく必要があります。

そして、任せたあとの関わりも大切です。

マネジャーはチームの仕事の結果に責任を持たなければいけませんので、メンバーに任せっ放しにした結果、成果が出なくてもいいということはありません。

オフィスのロビーを行き交う人々
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■「あなたは無能である」と伝わってしまう

ですが、マネジャーが手を出したときに、助けてもらった事実よりも「任せてもらえなかった」「信じ切ってもらえなかった」「私は無能なんだ」とメンバーが自己肯定感や自分への価値を下げてしまうケースがあります。

これは、任せたあとの関わりによって「私のほうがすごい」「あなたは無能である」ということがメンバーに伝わっているということです。

これを避けるためにも任せたあとの関わり方が重要になってくるのです。

これは私自身が同じ経験をしたので気持ちがよくわかります。

かつて、チームのメンバーに指示した仕事があり、数日経ってもメンバーは何の成果物も出してこなかったことがあります。「遅い」と感じた私は仕方なく、メンバーに任せた仕事を自分で実行し、成果物を上長に提出しました。

そのことを任せていたメンバーに事後報告すると「どうして私に任せられた仕事を勝手にやるんですか? 私も取り組んでいたのに……私の時間は何だったんですか?」と言われました。

同じようなシチュエーションがあったとき、あなたはどう返事をするでしょう?

『君が遅いから俺が代わりにやったんだろ? むしろ感謝してくれよ』

メンバーの気持ちがわかっていないマネジャーであれば、こう返してしまうかもしれません。

マネジャー側の願望として最も大きいのは「この仕事を早く成功させたい」です。ですから、メンバーに仕事を任せて成長させるより、早く成果を出すことを優先して行動してしまいます。

ですが、それによってメンバーは成長しないばかりか、マネジャーへの不信感を募らせてしまうのです。

■立場が変わると見え方まで変わる

プレイヤー時代には、ここまでお伝えしたようなことがわかっていて、だからこそ任せようとしたり、メンバーの自主性を尊重しようとする人もいるでしょう。

ですが興味深いことに、なぜかマネジャーになった途端に、かつての同僚や部下の欠点ばかりが目につくようになることがあります。

お互いにプレイヤーとして切磋琢磨していたときは同僚も部下も尊重し合っていたのに、立場が変わることで見え方まで変わってしまうのです。

欠点ばかりが目につくと、どうしても感情的にイライラします。

そして、上司としてそのような振る舞いを隠そうと表面上は笑顔だったり、優しい言葉を使っていたとします。ですが、マネジャーのイライラは全身から“見えないオーラ”として放たれていて、メンバーには伝わってしまいます。

■諸悪の根源は、頭の中だけに存在する「べき論」

ニコニコしていても腹の中では「どうして仕事が遅いんだ」「どうしてこんなことがわかっていないんだ」「何度言ったらわかるんだ」という不満がたまっているわけですから、その状態でコミュニケートしても相手には伝わるのです。

結果、メンバーに嫌われるか、自信を喪失されるか、真っ向から反発されるか、陰口を叩かれるか、スネられるか、最悪の場合は部署異動や離職されてしまいます。

結果的にはマネジャー自身の上長からの評価が下がり、マネジャーの組織目標も未達成になります。

これらの諸悪の根源はマネジャーの“頭の中だけ”に存在する「べき論」です。

ここまでお伝えした「自分のような人間に育つべき」「自分と同じ結果を出すべき」「指示した通りに行動するべき」という正論が、このような事態を作り上げます。

しかも、この「べき論」はマネジャーの頭の中だけにしか存在しません。「べき論」の正体はマネジャー個人の正しさや思い込みによって生み出されたものだからです。

■部下は「自分の所有物」ではない

ここで少し距離を取って、俯瞰的にイメージしてみてください。

例えば、あなた直属のチームではなく、隣のチームで次のような事態が起きているとします。マネジャーとメンバーの人間関係がギクシャクして、マネジャーはいつもイライラして部下を無能扱いしています。メンバーも明らかにマネジャーを嫌っているのが伝わってくるとします。

きっと、対岸の火事のように「まぁ大変だよね。でも、そういうプロセスがあるから人って成長するよね、もっと部下の話を聞いてみたら?」と優しく考えられるのではないでしょうか?

対岸の火事だと優しくできるのに、自分に火の粉がかかるとイライラしてしまう原因はマネジャー個人の正しさや思い込みであり、それを押しつけてしまう理由はマネジャーがメンバーを「自分の所有物」だと考えているからかもしれません。

橋本拓也『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)
橋本拓也『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)

最初にはっきり言います、この考え方は危険です。

メンバーが成果を出せなかったり態度が良くないのは、すべてマネジャーのマネジメントの質の結果と考えるようにしましょう。メンバー自身がマネジャーからもっと学びたいと思えていないのです。

もしもメンバーのパフォーマンスが低いのであれば、それはマネジャーの責任だと考えるようにしましょう。プレイヤーとしては優秀でも、マネジャーとしてはその優秀さを発揮できていないのです。

「チームで起こるあらゆる現象は、マネジャーの心の投影」と認識しましょう。

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橋本 拓也(はしもと・たくや)
アチーブメント取締役営業本部長、トレーナー
千葉大学卒業後、2006年人材教育コンサルティングの「アチーブメント」に入社。2021年に執行役員、2022年に取締役に就任。130人以上のメンバーマネジメントに携わる。これまで研修で担当してきた受講生は2万人以上。著書に『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)がある。

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(アチーブメント取締役営業本部長、トレーナー 橋本 拓也)

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