「バカげてると思われるかもしれないけど…」難病を克服してプロテストに合格した女子ゴルファー、平塚新夢が信じたもの
プレジデントオンライン / 2024年12月11日 17時15分
■史上5人目のアマチュア優勝を達成した高校生
2017年のステップ・アップ・ツアー、「静ヒルズレディース 森ビルカップ」は、当時、高校3年生の平塚新夢がプレーオフの末、史上5人目となるアマチュア優勝を果たした。
ステップ・アップ・ツアーとは、国内女子ツアーの2部にあたるもので、若手もベテランもレギュラーツアーを目指すためにしのぎを削っている。賞金は少なく、地方開催も多いため、ファンの間ではその転戦の過酷さでも知られている。
これまでステップ・アップ・ツアーでアマチュア優勝を果たした選手は、堀琴音、新垣比菜、吉本ひかるなど、いずれもプロとなって活躍している。アマチュア選手でありながら、大勢のプロの中に混じって優勝するのだから、その非凡さは言うまでもない。
この時期の国内女子プロゴルフは、まさに新しい若い力が台頭しようとする芽生えの時期だった。中でも衝撃的だったのは、勝みなみと畑岡奈紗という2人のアマチュア選手だ。
2014年に、勝みなみが史上最年少の15歳293日でレギュラーツアー優勝に輝き、さらに2016年には、高校3年生の畑岡奈紗が国内最高峰の大会である日本女子オープンに優勝した。
■プロの試合で優勝はほぼ不可能だったが…
当然のことながら、プロの試合でアマチュアが優勝することは極めて困難であり、近年になるまでは男女ともかなり珍しい記録だった。一時期はほぼ不可能と思われていたと言っていい。2003年に、当時高校3年生の宮里藍が「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」で勝利したのは、30年ぶり2人目のアマチュア優勝だった。
そんな快挙が短期間に続けて起きたことで、女子ツアーに新しい風が吹く機運が高まっていた。中でも、勝や畑岡の学年は有力選手が非常に多く、黄金世代と呼ばれている。
平塚は、学年では黄金世代のひとつ下になる。彼女の優勝は、また一人、さらに若い世代から次代を担う選手が現れたことに、小さくない驚きと期待をもって迎えられた。
■10万人に3.7人の難病を患う
平塚は2000年生まれで、宮城県石巻市出身。小5で東日本大震災を経験していて、ゴルフはその1年ほど前に始めていたという。中3で世界ジュニアマッチプレーに優勝。高校に入ってからも日本ジュニア9位、高校選手権でも3位とまずまずの成績を残している。
「あまり、タイトルとか獲ってないんで……」と本人は謙遜するが、「静ヒルズレディース 森ビルカップ」での優勝は、権威あるアマチュアタイトルと比較してもそれ以上の快挙と言っていいだろう。平塚は翌年の同大会でも4位タイに入り、前年の優勝がフロックでないところを見せている。
そんな順風満帆に見えた平塚のキャリアだが、2018年の秋に突然病魔が襲う。レギュラーツアー「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」の予選会を突破し、本戦を戦った後、まもなく身体に異変が起きたという。
高熱と皮膚の発疹、それに関節の痛みが襲った。10万人に3.7人という国の指定難病、成人スチル病だった。症状が出ると、筋肉が動かなくなり、ペットボトルを開ける力すら入らなくなった。
さらに追い打ちをかけるように1次テストを通過した後、群発頭痛を発症した。経験したことのない激痛が6時間おきに襲ってきて、「痛くて気が狂いそうだった」(平塚)という状況だった。プロテストは2次予選を前にして、棄権せざるを得なかった。
■薬の副作用で「ムーンフェース」に
視界良好に見えたプロゴルファーへの道が病気によって閉ざされた。しかし、意外にも平塚はそれほどショックではなかったという。
「まだ、プロテストを受ける1年目だったから、そんなにテストの重みもわかってなかったんですよね。親とか周りの人たちのほうがショックだったかもしれない。
それよりも薬の副作用で、顔がパンパンになってしまって。それがもう本当につらかった」(平塚)
治療のために服用したステロイド剤の副作用で、顔が丸くなる「ムーンフェース」の状態になり、さらに体重も10キロ以上増えた。
「あまりにも容姿が変わってしまって、このままでこれからずっと生きていかなきゃいけないのかと思うと、すごく悲しかったです。ひとりの二十歳前の女の子の心境からしても、未だに当時の自分はかわいそうだなって思う」
幸い、経過は順調で、体調は徐々に回復していった。平塚は再びプロテストへの挑戦を開始する。
翌年は、投薬治療の影響もあり、十分な練習が出来なかったが、テストを受験することは出来た。体重も徐々に落ち、投薬の量を減らせたことで、「ムーンフェース」の症状も緩和していった。今の平塚を知る人は、同じ人物とは思えない当時の姿を見て、驚く人も多いのではないだろうか。
■「病を克服して輝くアスリート」とは少し違う
水泳の池江璃花子選手を例に出すまでもなく、将来を嘱望された若いスポーツ選手が難病に侵され、それを克服して再びプロテストという難関に挑戦する。それだけで感動的だし、多くの人が応援したくなるストーリーだ。意地悪な表現をすれば、ある種のわかりやすさがある。
ところが、平塚の場合は少し様子が違ってみえる。何が何でも、という感じにはあまり見えないのだ。困難に打ち克って、絶対にプロテストに受かってやるという信念のようなものが、少し希薄に感じられる。
シーズン前の春先に話を聞いたときは、プロテスト合格を目指す女子ゴルファーという微妙な立場を続けていることに、平塚は少し疲弊しているようでもあった。
プロテストに、絶対に受かりたいという気持ちはありますか?と聞くと、「なんか、ゴルフを嫌いにはなりたくないんですよね、やっぱり」という微妙な答えが返ってきた。
「そもそも今までの人生でも、あんまり何も挑戦してこなかったというか。出来ることしかしてこなかったんですよ。何かを突き詰めて取り組んで、出来ないことも出来るようにするっていう向上心を持ち合わせてない人間だったんで。
ゴルフをやってると、目標に向かって頑張れるかなという」
ジュニア時代から優秀な成績をあげていたのだから、挑戦してないわけでも突き詰めて取り組んでなかったわけでもないだろうが、本人の自己分析ではどうもそのようらしい。
■コーチもトレーナーもつけないスタイル
平塚は現代のゴルフ選手としては珍しく、コーチにみっちりついて練習はしていない。時折、高校時代のコーチに見てもらっているが、基本的に自身で工夫して練習しているという。
弾道計測器やスイング解析ソフトを使いながら、最新ゴルフ理論に基づいてさまざまな練習ドリルを行っている選手たちとは、かなり趣が異なる。あえて言えば、自分の感覚を大事にする古典的な練習スタイルだ。
トレーナーもつけていない。近年は、選手たちの飛距離が伸び、成績の安定のためにもフィジカルトレーニングを行うことは必須となっているが、平塚はあまり気乗りがしないようだ。
「私、筋肉量が本当に少なすぎて、やばいんですよ。でも、わざわざ東京とかまでいくのは負担も大きくて。正直なところ、費用も結構かかるから、継続するのも大変なんですよね。トレーニングしたら、時給が発生したらいいのになあとか、冗談で思うことがあります(笑)」
多くの選手は、コーチの指導を受け、トレーナーからフィジカル強化のメニューや食事面の指導までを行ってもらい、少しでも競技パフォーマンスを上げるための努力を続けている。それをあまり必要としていない平塚の姿勢は、ツアーで活躍を目指す選手たちの中でも異質に見える。
■「日々の幸せを見つけるのが下手かもしれない」
話を聞いてみると、少しずつ平塚新夢という選手のどこか達観した人物像をうかがうことが出来る。これは難病を患う前からの、もっと人格のコアな部分から発しているものだ。
「私、日々の幸せを見つけるのが下手かもしれない。
ケーキの上にシュークリームが乗ってたデザートがあって、友達が美味しそうって言ったんですけど、そう? 想像通りのシュークリームの味じゃない?と私が言っちゃって。
そういうことじゃないんだよ、って言われたんですけど(笑)。どうせ同じ味でしょって、思っちゃうんですよ」
冷めているわけではないのだが、どこか先が見えるような、悟っているような感覚がある。子供の頃から、地元の新聞などに取材されて、将来の夢はなんですか?と聞かれると、「プロゴルファーになりたいです」というのを望んで聞いてるな、それ以外の答えは求められていないな、と感じながら答えていたという。
アマチュア優勝という快挙を果たした2017年の「静ヒルズレディース 森ビルカップ」でも、試合後は優勝して嬉しいという高揚感があまり感じられなかった。プロの試合で勝ち、夢がかなった瞬間でもあったはずだが、ほんの少しどこかに心ここにあらずといった雰囲気を感じた。
「プレーオフで優勝が決まったんですけど。本音を言えば、賞金をもらえないかなあと思っていました(笑)。今思うと、結局、仕事になってないなら、ゴルフやめてたかもしれない」
実際、現在はミニツアーなどに出場するプロ活動で、賞金を得ている。成績を出した分の見返りが入っていることは、仕事としてのモチベーションにつながっているという。
■目標に対して逡巡するような言葉
プロテスト合格を目指している選手たちは、誰もがそのために努力を惜しまず、一心不乱に取り組んでいるように見える。少なくとも表向きは。
2023年までに2回最終プロテストに進出しており、十二分に合格が狙える有力選手であるにもかかわらず、その頃の平塚は、なんだか目標に対して逡巡しているような言葉が目立った。
その取り組みについても、コーチについてスイングをチェックしたり、トレーナーを付けたりしてフィジカル強化もしたほうが良いのでは?などと、傍から見て、何か言ってしまいたくもなる。
「最近は、ラウンド数とか試合に出るのも大事だなって思ってて。前は週一ラウンドしてれば良いほうだったので。ラウンドの中で自分で修正出来るように、芝から打つ感覚も磨こうという気持ちになってます。練習場に行ってない言い訳みたいですけど」
■二十歳で就職した自立心の強さ
「数年前まで、あまり試合に出ない派だったんです。ちょっとしたミニツアーとかでも結構、遠征費もかかるし。優勝できれば良いんですけど、勝てないと赤字になったりするので。
お金が無駄になっちゃうなと思って、そんなに試合に出てなかったんですけど、一昨年くらいから、やっぱり試合経験って大事だなと感じ始めてて、最近はお金と相談しながら、なるべくエントリーするようにしてます。
小さな試合でも試合勘を養えるし、一番練習になるなと。やっぱり、定期的に試合に出てるほうが、ゴルフは安定しますよね」
「お、おう」とでも言いたくなるような、今そんな調子で大丈夫なのかとこちらも心配にはなるのだが、少なくとも自分で気づいて、自分で納得してから行動するという、そんな用心深さがある。
トレーニングに時給が発生してほしい、遠征費がもったいないという具合に、お金の話が多いのだが、これは裏を返せば、自立心が強く、自分で生計をやりくりするという気持ちが強いからだ。
平塚は難病が快復しつつあった二十歳のころ、正社員としてゴルフスタジオに就職している。ゴルフ関連とはいえ、そこは仕事なので、当然ながら十分な練習時間は取れない。プロテスト合格という目標にとっては、明らかにマイナスになる決断だ。
「もう二十歳だったし、自立しないとなと思って」と本人が言うように、ゴルフの成績を出すことの前に、他人を当てにせず、自分で働いて生きていきたいという、地に足のついた価値観があるのだ。
■「普通の生活の中にゴルフがある」
プロゴルファーになる選手、そしてそれを目指している選手の多くは、ジュニア時代から生活をゴルフに全振りして、突き詰めて取り組んでいる。
平塚もプロテスト合格を目指す気持ちに偽りはないが、そうした他の選手達と比較すると、どうしてもどこかその目標にも冷めているように見える。
「昔から、ゴルフのために何かを犠牲にすることが、凄く嫌だったんですよ。高校も通信にしようかという話もあったんですけど、ゴルフ一辺倒の生活になったら、絶対、私、ゴルフ嫌いになるなと。
普通の生活の中にゴルフがあるだけだから。私、趣味が結構いっぱいあるタイプなので、それを我慢しないとプロになれないよっていうんだったら、別にゴルフのために生きていくっていうほど好きではないんです。正直な話。
もちろんゴルフしてて、楽しいこともいっぱいあるし、めっちゃ感謝してるけど、自分の全てを投げうってまでするものではないかな。そんなこと言ってるから、合格しないんだって言われるかもしれないけど」
■ゴルフの神様に愛された才能
好きなことを我慢して、生活の全てをそれに懸けるほど、ゴルフは好きではない、と平塚は言う。
ところが、ゴルフの神様はそんな平塚をむしろ愛しているように思える。
平塚は、学生時代の指導者が「こんな子は見たことがない」と評するほど、天才肌のプレーヤーだった。ボールにコンタクトする感覚に優れていて、特にアイアンショットの打音は、女子選手とは思えないような澄んだ音がする。このソリッドなインパクト音を聞くと、やはり特別な才能を感じてしまう。
難病に侵され、体重が爆増したときも、回復後に体重がまた減ったときも、その天才的な感覚は変わらなかった。女子アスリートが10kgを超える体重の増減があれば、競技パフォーマンスに大きな影響があって当然だ。
しかし、闘病や著しい体重の増減を経ても、ラウンド数や練習量が減っても増えても、平塚のゴルフの才能は依然としてきらめきを失わずに宿っていた。
■「ゴルフの課題は?」と聞いたら驚きの返答が
何年に一度という天才たちが集うプロゴルフの世界で、平塚の天才ぶりをことさらに強調するつもりはないが、やはり何か独特の感覚を持った選手だということはたしかなようだ。と同時に、すでにスタイルが完成している選手だとも言える。
成績を上げるためには、パフォーマンスを向上しなければならない。そのためにどんな課題に取り組んでるかを聞いてみたが、驚いたことに、あまり具体的なものが出てこなかった。
「課題ですか? いや、あるはずだけど、なんだろう。
飛距離は、あったらあったで良いですけど。別に今のままでも困ってないし。パッティングを怖がらずに打ち切るとか、ですかね」
特別なことをしなくても、自分がしたいようにプレーが出来れば、良いパフォーマンスが出せる。知識を増やし、後天的な取り組みによって、競技成績を上げる選手も増えているなか、平塚は自分が授かっている先天的な感覚をとても大事にしている。
コーチをつけない理由も、自分の感覚と違うことを行うのを嫌うからだろう。
■天才肌の選手が持つ感覚
一方、技術が論理的に構築されたものではないので、調子が悪くなっても、理由がわからないこともあるようだ。2023年のプロテストは二次で敗退。かつてアマチュア優勝を果たし、相性の良いはずの静ヒルズCCで、池ポチャを連発してしまったという。
「別に調子悪くなくて、何だろ。池にめっちゃ入りました。プライベートで回ったら出ないような悪いスコアがでてしまって。何でですかね、わからない。
でも、今までも本気で受かりたくて頑張ったけど、なんかその気持ちが凄く強かった気がして。それが上手くいけば良かったけど、空回ったというか。急に自分の中で、変なやる気が出てきて、意気込んじゃったかもしれない。いつも通りできなくなるというか」
実は、最初から上手くプレーすることが出来た天才的なプレーヤーが、不調になると深刻なスランプになるケースは少なくない。何も考えずにできていたことが、出来なくなると、どう対応してよいかわからなくなるのだ。
いつも通りやること、自分を変えないこと、そのことの大切さを今は本人も意識している。
■どん底の平塚を救った「推し」とは
平塚が5人組のダンス&ボーカルグループ、Da-iCE(ダイス)のファンであることはよく知られていて、プロフィールにも書かれるほどだ。中でも、ボーカルの花村想太さんが「推し」だという。そのファン度合いは、熱狂的と言ってもよいもので、都合が許せば地方のライブにも遠征に行っている。
病気を発症し、顔がパンパンになる「ムーンフェース」の頃、たまたま行ったライブでDa-iCEに出会い、その歌と歌詞が「刺さった」という。自身の気持ちにも大きな変化があった。
「とりあえず、日々過ごしてたのが、そこから凄く、先の未来が楽しみになった感じがあって。最近はあまりないけど、本人に会えるイベントがあって、ゴルフしてて、プロテスト受けるんですって伝えてて。見た目が見た目なので、本当は外に出るのも嫌だったんですけど、想太くんに会えるなら出かけられました」
話を聞いていると、人をこれだけ惹きつけて、その行動までも変えてしまう花村想太さんという人物もただ者ではないと感じる。
プロテストを受けると伝えたその冬、再びイベントで会うことの出来た花村さんは、「そう言えば、テストはどうだったの?」と聞いてきたという。ダメだったと告げると、それでも「頑張ってね」と励まされた。
そんなわずかな言葉のやりとりが、彼女にとってどれだけ力になるか、想像に難くない。
最初に出会ったころとは、容姿がかなり変わっていて、見た目はほとんど別人ほど違っているはずだが、花村さんは変わらず、平塚を「ゴルフの子」と認知しているらしい。
「めっちゃ嬉しいですよね。だから、もうそれが生き甲斐みたいな。
ゴルフを辞めたからといって、Da-iCEに会えなくなるわけじゃないし、ライブにもいけるけど。
だから、本当にどうしても、きっとたぶん30歳くらいまではめげずに頑張ってるかもしれない。逆にそれがなかったら、もういいやってなってたかもしれない」
■「プロゴルファーになったよって想太くんに言いたい」
我が国では、地下鉄サリン事件などの影響もあり、宗教というと、忌避されるか侮蔑の意味に捉えられやすい。世界的にも伝統的な宗教の影響力は低下していると言われている。
そんな現代において、「推し活」は新しい信仰としての意味合いを持ち始めている。大げさに聞こえるかもしれないが、熱狂的なファンにとって「推し」は、心の支えであり、日々の生きる活力であり、救済ですらある。
「推し」の活動や言葉は、啓示であり、福音になるのである。
Da-iCEがいるから頑張れる、というのは、信仰に篤い人が神様に日々の感謝を捧げることと近似している。
どこか冷めていて、ゴルフにもプロテストにも達観しているようにさえ見える平塚が挑戦をやめない理由もそこにあった。「バカげてると思われるかもしれないけど」と前置きしたうえで、彼女はその想いを語った。
「やっぱり、どうしても諦めきれない理由は、(花村)想太くんに言いたいんですよね。プロゴルファーになったよって。
今、一番に何を糧にしてるかと言われたら、合格して想太くんにそれを伝えること。真っ先に、親と同時くらいのタイミングで報告したいくらいです」
彼女は取材中、一番の熱量でそれを話してくれた。その合格の知らせを聞けば、花村さんもきっと喜んでくれるのではないだろうか。
■そして今年10月、プロテストに念願の合格
2024年10月29日から行われた、JLPGA最終プロテストで、平塚は19位タイに入り、念願の合格を果たした。合格者の中では最も下位でギリギリの通過だった。
実は2次予選も簡単ではなかった。因縁浅からぬ静ヒルズCCで、平塚は2日目を終えて72位タイと大きく出遅れた。2日間でトップとは14打差ついてしまった。
平塚本人も厳しいかなと思ったというが、3日目に「70」、4日目は「68」と伸ばし、27位タイでこのときも通過者の中で最も下の順位だった。
最終プロテストは、2022年も会場となった大洗ゴルフ倶楽部。難コースと知られ、平塚も一昨年は強風に翻弄され敗退している。
2024年は初日から安定したゴルフで、3日目が終わって合格圏内の14位タイにつけた。しかし、最終日はボギーが先行し、7番と11番では痛恨のダブルボギーがあるなど、一時は合格圏外になってしまう、かなり苦しい展開だった。
■ゴルフ人生で一番手が震えた、その瞬間
しかし、16番で7mはありそうなバーディーパットを沈めて、17番では難しいアプローチから、しびれるパーを決めた。18番では持ち前のショットの正確性を活かし、バーディーチャンスにつけ、それは外れたものの1m弱のパーパットを残した。
やや下りで、ほんの少し傾斜によって曲がるか曲がらないか微妙なパッティングラインだった。
結果的にこのパットが入るか入らないかが、合格の分水嶺だった。コース途中にはリーダーボードもあり、本人も通過ラインギリギリであり、入れば合格、外せば不合格とわかっていたという。
「ゴルフ人生で一番手が震えて、一番怖かったパットでした」
最終プロテスト期間中は、天才肌の平塚も「イップスってこんなかんじなのかな」と感じるほど、思うように手が動かなくなっていたという。過度に緊張しながらも、一度仕切り直して、このシビれるパットを真ん中から沈めた。
2次予選、そして最終プロテストと文字通り土壇場まで追い込まれてから、見事にその力を発揮した。ゴルフに死に物狂いになれず、どこか逡巡しているようにも見えた平塚が、こんなにもメンタル面の強さを見せたことに大きな驚きがあった。
これはきっと、彼女の“信仰”と無関係ではあるまい。
自分の信じたものを心の支えにして、自分のスタイルを貫き通して勝ち取った、見事な合格だった。
2000年生まれ。高校在学中の2017年、ステップ・アップ・ツアー「静ヒルズレディース 森ビルカップ」で史上5人目となるアマチュア優勝を果たす。
国の指定難病、成人スチル病との闘病生活を経て、現在の経過は良好。
JLPGAプロテストは7度目の挑戦となる2024年に合格。新たなステージでの活躍が期待されるプレーヤー。宮城県出身。
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1974年生まれ。ゴルフトレンドウォッチャー。1999年に大手ゴルフショップチェーンの立ち上げに参加。以降、ゴルフ用品小売を中心に製品開発・マーケティングなどに従事。2012年からライターとして、雑誌・WEBメディア等に寄稿。21年にYouTubeチャンネル「コヤマカズヒロのゴルフ批評」を開設。
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(ゴルフライター コヤマ カズヒロ)
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