「5%の塩水」を使えば鮮度と旨味がアップ…築地の元競り人が解説「冷凍マグロを自宅でおいしく食べるコツ」
プレジデントオンライン / 2024年12月13日 18時15分
■日本に流通するマグロ類の7割以上が冷凍物
握り寿司や刺し身の鉄板ネタと言えばマグロ。大トロや中トロ、赤身、人によって好みは違えど、数ある魚の中でも横綱級の人気と旨さで、この年末年始にごちそうとして味わう人も多いであろう。冬場のマグロは脂が乗って身も締まり、まさに旬。
青森県大間産の本マグロなどは高級すし店でないとなかなか味わえないが、自宅で食べたいときに食べられるマグロといえば、通販などで購入できる冷凍物のマグロだ。
マグロは青森県の大間のように近海で漁獲され、直ちに流通するケースもあれば、マイナス60度の超低温冷凍庫を備えた遠洋漁船で、水揚げ後にカチカチに冷凍され、真っ白なまま静岡県の焼津港や清水港に陸揚げされるマグロもある。
スーパーなどで手に取る際に「マグロ(解凍)」というラベルの文字を目にする機会は多い。日本に流通するマグロ類の7割以上が、漁獲後に冷凍された遠洋漁船によるものである。
■プロの間でも解凍法の正解は意見が分かれる
冷凍物もほとんどは流通過程で解凍されるため、消費者が冷凍状態のマグロを手にすることは少ない。ただ、お取り寄せ通販やふるさと納税などで冷凍マグロをサクごと買ってみる機会はあるだろう。そうした際、どう解凍すれば失敗なくおいしく食べられるか、ご存じだろうか。
マグロの解凍法については、魚のプロたちの間でもいくつかの方法が挙げられている。冷蔵庫に移して長時間かけてゆっくり解凍したり、ジップロックに入れて温水に浸したり、塩を加えた温塩水に入れたり、中にはサクの小さい断面を下にして立てておくといった方法を挙げる料理店関係者もいる。
共通していることといえば、まずさっと水洗いして、よく水分を拭き取ることから始めるくらいだろうか。ネットでもさまざまな解凍法が紹介されているため、一体どうやったらよいかと迷った挙げ句、最終的に解凍に失敗し「おいしくない」となってしまった残念な経験がある人もいるだろう。
■解凍方法を失敗すると高級マグロが台無しに
少なくとも、早く食べたいからといって、特に夏場に常温で自然解凍すると大失敗につながるので注意が必要だ。身が縮んで食感が悪くなるどころか、マグロとは思えない食べものに変わってしまう。解凍時に流れ出る赤いドリップが、再びマグロの身に触れて吸収してしまうのもいただけない。
筆者は一度、すぐに食べたいと思い、冷凍庫に寝かせていた冷凍マグロを取り出して、自然解凍ではないが、ぬるま湯に浸して失敗したことがある。平らなサクが緩いカーブを描いてギュッと曲がり、本来しっとりしているはずの身はカサカサとした舌触りで、食べられたものではなかった。
決して安くはない冷凍メバチマグロだっただけに、少しカットして比較的柔らかい部分だけを食べようとしたが、まずいことに変わりなく、あえなく廃棄処分するしかなかったのだ。
■濃度5%の塩水に漬けた後、冷蔵庫で冷やす
遠洋マグロ漁業の全国団体である日本かつお・まぐろ漁業協同組合(東京)は、冷凍されたマグロを解凍するには5%の塩水を使うと失敗しにくく、おいしく食べられるとPR。水産業界からも注目を集めている。
この解凍方法は、旧築地市場(東京都中央区)や、豊洲市場(江東区)で10年ほど競り人を務め、今は都内でマグロ専門の小売り店と料理店「一番星」を経営する高川航さんが考案した。
冷凍マグロのサクを軽く水で洗って水分を拭き取ってから、1~2サクの場合、塩分濃度5%にした2リットルの塩水(塩は約100グラム)の中に入れ、芯まで解凍させる。長時間浸けるわけではなく、夏場なら10分ほど、冬場なら30分程度が目安。
ポイントは、少々多めに感じる塩の量。「解凍と同時に浸透圧の作用で余分な水分を出すのが大事。塩分が少ないと十分に脱水できず、水っぽくなってしまう」と高川さん。サクを曲げてみて、柔らかくなったことを確認できれば解凍OK。
塩水から取り出してキッチンペーパーなどで十分水分を拭き取ってから、刺し身用のサイズに切り分ける。その後、ラップして冷蔵後で10分ほど冷やすと、しっとりとして食感で一層うま味が出るという。
■「雨が降ると解凍に失敗する」築地での経験が生んだ
高川さんによると、この解凍法は、「マグロ以外にもさまざまな冷凍魚に活用できる。メカジキやギンタラなどで試すと臭みが消え、魚の味をしっかり感じられる」と話す。
なぜ5%の塩水解凍法を考案したのか。きっかけになったのは、「築地市場時代、濾過した海水混じりの河川水を使用してマグロを解凍していたが、雨が降ると塩分濃度が下がってうまく解凍できないことがあった。そのため、塩分濃度はどれくらいがいいのか、試行錯誤した」という。築地・豊洲市場の競り人としての経験から導き出された、まさにプロおすすめの解凍法だ。
マグロ団体も組織を挙げて推奨する5%の塩水解凍法について、専門家は「5%の塩水を使うのはマグロの解凍に適しており、うま味の元であるアミノ酸の排出も抑えられる。解凍時に若干の塩分がマグロに足されるのが嫌な人は、数パーセントの砂糖を加えるのもいい」(元神奈川県水産技術センター主任研究員)とお墨付きを与えており、理にかなった解凍法といえそうだ。
■スーパーの解凍マグロが水っぽい理由
高川さんは「スーパーで売られているマグロがあまりおいしいと感じられないのは、解凍が不十分なケースが多く、水っぽいことも要因のひとつ」とみる。逆に「食べようとしたらまだ凍っていた」なんてケースもあるようだ。
スーパーで売られるすべてのマグロがおいしくないとは言えないが、「もともとグレードの高くないマグロが多いことに加え、解凍法は店舗ごとに任されていることが大半。店によってはスペースなどの都合も手伝って、解凍法が不十分なこともある」と、スーパーのバイヤー経験者は話す。
もっとも、スーパーなどの小売店でしっかりした解凍が実現できたとしても、店頭にマグロを並べて客が買って食べるまでの時間はまちまちだけに、必ずしも解凍法の統一が得策とはいかないのかもしれない。
■人気の座をサーモンに奪われつつあるマグロ
マグロは魚の横綱的存在で、寿司ネタでナンバー1の人気を誇ってきたが、近年はサーモンなどに押されて需要は若干下がり気味。豊洲市場の寿司店でも、インバウンドの増加もあって、「お好みの注文で一番多いのはサーモンかもしれない」といった声が多く聞かれる。
日本かつお・まぐろ漁業協同組合の香川謙二組合長は、「マグロ漁師は遠洋漁場の荒波を受けながら大切にマグロを獲り、すばやくマイナス60度で急速冷凍している。食卓に上る前の解凍がうまくいかなければ、漁師の苦労も報われない。ぜひ5%塩水解凍を試して、おしいくマグロを食べてほしい」と話している。
同組合では解凍法を詳しく紹介した動画を公開し、水産業界だけでなく一般にもこの手法を広くPRしている。この年末年始、せっかく手に入れた冷凍マグロを「さあ食べようか」と冷凍庫から取り出したなら、5%の塩水解凍法を試してみてほしい。身はしっとり、マグロのうま味を最大限感じることができるはずだ。
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時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)
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