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なぜ生肉の食中毒が後を絶たないのか…管理栄養士が教える「絶対生はダメな肉vs.低リスクな肉と店」の特徴

プレジデントオンライン / 2024年12月13日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kunihito Ikeda

生肉による食中毒が相次いでいる。どうしたら安全に食べられるのだろうか。管理栄養士の成田崇信さんは「基本的に肉は生で食べるものではないが、比較的安全だといえるものもいくつかはある」という――。

■肉の生食による食中毒事件

2011年、ある焼肉チェーン店において、牛の生肉の「ユッケ」などを食べた人やその家族に腸管出血性大腸菌による食中毒が発生したのを覚えているでしょうか。富山、福井、石川、神奈川の4県6店舗で合計181人が食中毒を発症するという大規模な事件で、残念なことに5人もの方が亡くなりました。食中毒というと、嘔吐や下痢などを思い浮かべる人が多いでしょうが、亡くなるケースもあるのです。

この事件をきっかけに「食品衛生法」が改正され、牛レバーや生食に適さない牛肉の生のままでの提供が禁止されました。しかし、いまだに一部の飲食店では、生または加熱不十分な牛レバーが提供されていたり、たびたび牛の生肉による食中毒が報告されています。

今年8月には千葉県のハンバーグ店で、加熱不十分な「飲めるハンバーグ」を食べた人のうち34人が腸管出血性大腸菌が原因の食中毒になりました。最近では、提供自体には罰則のない鶏肉の刺身やレバーによる食中毒のニュースもよく見かけます。これまで何度も危険性が指摘されているにもかかわらず、どうして生肉による食中毒はなくならないのでしょうか。

■鮮度のいい肉でも生食は危険

昔、日本には牛や鶏などの獣肉を生食する習慣はありませんでした。ところが、低温流通や冷凍技術の向上によって鮮度のよい肉が手に入りやすくなったことで、魚の刺身と同じように肉を生で提供する「ユッケ」や「レバ刺し」などの料理が出されるようになったのだろうと思います。

しかし、肉の生食は基本的にはおすすめできません。肉の生食が危険なのは、鮮度だけの問題ではなく、ウイルスや細菌、寄生虫に汚染されていることが多く、健康に重大な影響を与えるリスクが高いからです。例えば、肉類はE型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌、除去することが難しい寄生虫やカンピロバクターに汚染されていることがわかっています。

特に豚肉は、寄生虫やE型肝炎ウイルスに汚染されていることが広く知られているので、生食できないのは常識です。生での提供が想定されていないため、法律でも禁止されてもいません。そのため牛の生レバーが禁止されると、代替品として豚の生レバーが提供されて問題になったこともありました。

これは肉の生食が急速に広まったこと、新鮮な肉であれば生で食べても大丈夫という根拠のない思い込みが招いた事例といえるでしょう。特にE型肝炎や腸管出血性大腸菌については、感染した人の糞便や嘔吐物を介し、他の人へも感染を広げることもあり、自己責任だけでは済まないという側面もあります。

■比較的安全に食べられる生肉とは

では、生肉はどれも危険なのでしょうか。じつは、ある程度は安全に食べられるだろう生肉もあります。ただし、100%安全ということではありません。提供する側がルールを守っていれば、一般の消費者が食べてもまあ大丈夫だろうというレベルです。

【生食用食肉の衛生基準を満たした馬肉および馬レバー】

馬肉はO157などの腸管出血性大腸菌による汚染がほとんどないため、獣肉としては例外的に生レバーの販売が許可されています。

調理器具の加熱消毒や肉表面のトリミング、寄生虫であるサルコシスティス・フェアリーを死滅させるための-20℃以下で48時間以上の凍結などの厳しい基準をクリアしたものだけが生食用として販売可能です。ただし、冷凍処理を怠った肉が提供され、寄生虫による食中毒が発症した事例があります。きちんと冷凍処理がされていることを確認しましょう。

【生食用食肉(牛肉)の規格基準を満たした牛肉】

牛肉には腸管出血性大腸菌などの病原性大腸菌が常在菌として存在するため、生レバーを食べることはできません。一方で寄生虫のリスクは低いため、衛生的な処理をした生食用牛肉は冷凍せずに食べることが可能です。

ただし、衛生的な処理をした生食用の牛肉であっても、食中毒の危険性があるので、小さな子どもや高齢者には食べさせないようにしましょう。また、飲食店で提供する場合には店舗内のわかりやすい場所に食中毒のリスクがあることを表示する義務があります。国が安全だとお墨付きを与えているわけではないという理解が大切だといえます。

■安全性グレーゾーンの「鳥刺し」

では、九州地方で伝統的に食べられている「鳥刺し」はどうでしょうか。じつは鶏肉はカンピロバクターという細菌に汚染されていることが多いもの。近年、鶏の生食による食中毒が増加したことにより、厚生労働省は注意を呼びかけています。安全とはいえないまでも比較的低リスクで食べられる鶏肉は、以下の基準を満たしたものだけだと私は考えます。

鳥刺し
写真=iStock.com/Lcc54613
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lcc54613
【鹿児島県独自の衛生基準を遵守した鶏肉】

鹿児島県では、屠畜から調理加工まで独自の厳しい基準を満たしたものだけを「生食用」として提供・販売することができるという取り組みを行っています。この独自の基準が、実際に食中毒予防に有効であるかどうかを評価するためには、鹿児島県内で発生した食中毒事例を確認する必要があります。厚生労働省の食中毒統計を調べたところ、過去10年間、生の鶏肉を食べたことによる食中毒の事例は一件も報告されていませんでした。鹿児島県の基準を満たした鶏肉については、安全とはいえないまでも、根拠なく危険と非難されるものでもないと筆者は考えています。しかし、同じく鶏の生食文化のある隣の宮崎県の食中毒統計を調べたところ、鶏の生食による食中毒事故は、2017年以降に5件の報告があり、安全とはいえない状況です。

独自基準を設定している鹿児島県でも、砂肝やレバーなどの生食は許可されていません。鶏の内臓肉は、どの産地のものであろうとも生で食べないようにしてください。

また、この他の猪肉や鹿肉、熊肉などのジビエ等は、さまざまな寄生虫やE型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌などに汚染されている確率が高いので、どの部位でも絶対に生食しないようにしましょう。

■生のような見た目や食感に要注意

最近では、調理の工夫によって、なるべく生のような食感や風味を再現しようとする取り組みもありますが、ここにも思わぬ落とし穴があります。

例えば、生に近い食感を残すため、十分な加熱がなされていないものを「低温調理肉」として提供している事例もあるので注意が必要です。鶏肉であれば、低温調理でも十分な加熱が行われた肉の断面はピンクがかった肉色は残ったとしても、透き通るような色合いやゼリーのような弾力ある食感は残りません。また、鰹のたたきのように加熱部分と生部分の明確な境目があるものは加熱が不十分である可能性が高いでしょう。他の種類でも同じですが、しっかり火の通った肉は、刺し身のような透明感のある状態にはならないのです。ニュースで話題になっている鰹のタタキのような断面の「レアチャーシュー」は明らかに危険です。

【図表1】加熱した鶏肉の断面
筆者提供
左は、中心温度50℃で40分間しっかり加熱した鶏肉。殺菌最低温度でも、赤みはあっても全体的には白く、透明感のあるピンクにはなりません。グラデーションもなし。右は、わざと高温で短時間だけゆでた状態で、透明感があり、火が通っていないことがわかります。 - 筆者提供

最近、食肉加工業者が低温調理品として販売していた肉やレバーが、十分な加熱条件を満たしていなかったという報道がありました。これも生に近い食感を訴求するため行われていたものと考えられます。生のような見た目、食感でないかどうか十分な注意が必要です。

■生食用以外はしっかりと加熱を

肉による食中毒を防ぐためには、一部の「生食用」以外の肉はしっかり加熱することが何より重要です。牛のかたまり肉でも、外側はしっかり焼くようにしましょう。また、細菌が入り込みやすい挽き肉は、よく焼く必要があります。

ただし、肉は70℃以上の熱が加わると、結合組織が収縮し、細胞内に含まれていた水分が旨味とともに流れ出し、そのまま熱を加え続けると食感もパサついてしまいがちです。低温でじっくり焼いたほうがジューシーに仕上がるでしょう。低温調理器具を使うという方法もありますが、先に述べたように中まで火が通っていないと危険なので気をつけてください。飲食店で提供された料理の肉が生焼けだったり、透明感のあるピンク色が残っている場合には、焼き直しをお願いするのがいいでしょう。

最後に、基本的に肉は生で食べるものではありません。生で食べる場合は、より品質の保持に気を配る必要があり、外側を大きくカットするなどの余分な手間やコストがかかるため、通常よりも高い値段で提供されて当然です。安価で販売されていたり、店内に認証などの表示がなかったりする場合は危険だと考えてください。また、いずれにしても生肉を食べる以上、食中毒のリスクはあるということを知っておきましょう。

〈参考資料〉
厚生労働省「食中毒統計資料 過去の食中毒事件一覧」
厚生労働省「生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A 」
食品安全委員会「鶏肉中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリの食品健康影響評価(pdf)」
鹿児島県「生食用食鳥肉等の安全確保について」

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成田 崇信(なりた・たかのぶ)
管理栄養士、健康科学修士
管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。主にインターネット上で「食と健康」に関する啓蒙活動を行っている。猫派。著書に『新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)、共著書に、『薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)、『謎解き超科学』(彩図社)、監修書に『子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ』(オレンジページ)がある。

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(管理栄養士、健康科学修士 成田 崇信)

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