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日本の小学生は中国の「神コンテンツ」になっている…なぜ中国人は「1人で下校する子」に興奮して撮影するのか

プレジデントオンライン / 2024年12月13日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

山形県米沢市で11月、下校中の小学生の後をつけ、無断で撮影した中国人の投稿が問題になった。奈良県や宮城県では中国人インフルエンサーが市議会に無断で侵入し、騒ぎになっている。彼らの動機は何なのか。中国の事情に詳しいジャーナリストの中島恵さんが解説する――。

■日本では「気持ち悪い」という反応が多いが…

中国人インフルエンサーが奈良県や宮城県など全国各地の市議会に無断で侵入し、議長室などを撮影してSNSに投稿していたことが発覚、物議を醸している。また、彼らが各地で下校途中の小学生児童を付け回し、撮影してSNSに載せていたこともわかった。

山形県米沢市では、教育委員会や警察、学校などが連携してパトロールを行うと発表。全国で同様の被害が相次いでいる。日本のSNSでは、保護者らを中心に「なぜ日本の子どもを付け回すの? 恐い」「気持ち悪い」「日本人の子どもが中国人に誘拐されるかも……」といった声が上がっている。なぜ、中国人はこのような不気味な行動をとるのだろうか。

中国のSNS、ウェイボーや、動画アプリの抖音(ドウイン、中国版TikTok)などで、ここ数年ずっと高い人気を誇る「神コンテンツ」がある。それは、日本の小学生の登下校の様子を映した写真やショート動画だ。投稿された中には子どもの顔がはっきり映っているものも少なくない。

そこには「日本の子どもは自分で電車に乗って家に帰る」や「日本の小学生は登校するときに親が送迎しなくていい」といった説明がつけられており、コメント欄には「日本では子どもが一人で学校に行くのか!」や「親が一緒に登校しなくていいなんて驚き!」「日本の子どもはなんて自立しているんだ。すばらしい」といった驚きのコメントが多い。

■中国で「一人で下校」はまずありえない

日本人の間ではまったく知られていないことだが、中国人の目には、日本の日常風景である子どもの登下校の様子が、まるで「珍百景」のように映っているようだ。というのも、中国では、日本人にとって当たり前の風景は見られないからであり、とても物珍しいもの、興味深いもの、信じられないものだからだ。

中国の小学生は登校する際、誘拐の心配があるため、必ず親や祖父母、お手伝いさんなどが付き添って登校する。北京や上海などの都市部にある学校ではとくに、自宅から学校までの距離があるため、保護者が車で送迎することも多い。そのため、小学校の校門前の道路には、ズラリと自家用車が縦列駐車されており、大渋滞するほど。

下校時間も同様で、小学1~2年生が授業を終えて帰宅する午後2時過ぎになると、校門前には保護者の姿が次々と現れ、校門を取り囲むようにして待っている姿をよく見かける。保護者たちは子どもを見つけるとすぐに駆け寄り、子どものカバンを持ってあげて、車へと急ぐ。そのまま家路につくか、習い事に直行するかのどちらかだ。

■「珍百景」としてたくさんのいいねがもらえる

そのため、子どもたちが数人で仲よくおしゃべりしながら下校する、といったほのぼのとした風景は、中国では決して見ることはできない風景なのだ。

このように、180度違うといってもいいほど、日本と中国の小学生の登下校の様子は異なるので、中国のSNSで「日本の小学生の登下校風景」を見かけると、珍しくて食い入るように見てしまう中国人が多い。

小学生が自分たちで白衣を着て配膳し、教室で給食を食べる風景も同様に中国で人気のコンテンツの一つ(中国では学食に行って食べるのが一般的で、自分たちで配膳しない)だが、まして、電車に一人で乗って通学する姿は「危なくないのか。信じられない。なぜ小学1年生を一人で電車に乗せるの?」といった気持ちになるようだ。

そのため、一部の悪質なインフルエンサーを除き、日本でそうした場面に自分も遭遇したら、一般人も写真や動画を撮ってしまうことが多い。在日中国人も同様で、中国ではこうした姿が「珍百景」「ウケる鉄板ネタ」であることを知っているため、小学生の写真を撮って、中国のSNSにそれを投稿する。すると、案の定、たくさんの「いいね」がもらえて、撮影者の中には「日本は安全な国だから、こういうすごいことができるんだよ」と自慢げに解説したりしている人もいる。

■なぜ子どもの顔を隠さないのか?

しかし、なぜ、彼らは子どもの顔まで撮り、平気でSNSに載せてしまうのか。それは、日本人と中国人のプライバシーに関する意識があまりにも異なっているからであり、彼らは子どもの顔をSNSに晒(さら)してしまうことに何の罪悪感や抵抗感も持っていないからだ。

最近では、中国でも、自分の子どもの顔の部分だけ、スタンプで隠したり、モザイク加工したりする人もわずかに増えてきているが、多くの場合、そのままだ。かわいい子どもの顔は自慢なので隠す必要がない、何でわざわざ、いちばん大事な部分(顔)を隠さなければならないのか、という考えがあるようだ。

また、それだけでなく、自分の子どもと同じ学校に通う子どもの顔写真もそのまま載せている。それが「他人のプライバシーを侵害している」「他人の子どもまで危険な目に遭わせている」といった意識はほとんどの人が持ち合わせていない。

中国では、日本よりずっと誘拐のリスクが高いのにもかかわらず、SNS上でこうした行為をする人は後を絶たない。ウィーチャットの場合は、ウェイボーと違って自分と直接つながっている人にしか見えない仕組みであることもあり、「自分の友だちや親戚に見せているだけだから別に平気でしょ」と高(たか)をくくっているのかもしれないし、顔が見えないとつまらない(「いいね」があまりもらえない)、と思っているのかもしれない。

■京都で舞妓さんを撮影するようなもの?

実際、筆者は、よく子どもの顔をSNSに載せている知人にこの点について聞いてみたが、「別に平気。だって私の友だちしか見ていないから。顔を載せなかったら、SNSに載せても意味がない」という返事しか返ってこなかった。

だが、日本人の子どもの登下校風景は、もっと多くの人が目にするウェイボーや抖音にまで平気で載せている。しかも、住所が書いてある電柱や小学校の名前まではっきりと映っているものもある。

それについても「なぜ、やってはいけないのか」という意識は全然なく「遠い外国にいる子どもだし、かわいいからいいのでは?」「褒めているんだよ」「そこだけ隠すのはかえって変」とすら思っているようだ。日本人の意識、感覚からすると、到底信じられず、「気持ち悪い」「ストーカーだ」「わざとやっているのでは?」としか思えないのだが、彼らには「子どものあとを付け回している」といった意識はなく、単純に「ほのぼのする風景」「多くの中国人に見せたい日本ならではの風景」と思っている。

この日本人と中国人のプライバシー意識の違い、考えていることの温度差に愕然とさせられるのだが、これは、外国人観光客が京都の祇園で舞妓さんや芸妓さんを付け回して、背後からだけでなく、前からも撮影しようとする問題とも共通していると感じる。

街路を歩く舞妓
写真=iStock.com/xavierarnau
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

■「プライバシー無視」で驚いた中国人の行動

彼らは日本にしかない「珍百景」を写真に撮ってSNSでただ自慢したいという気持ちが強く、舞妓さんや芸妓さんを危険な目に遭わせたい、困らせたいと考えているわけではないだろう。自分たちの軽い気持ちが、いかに相手に迷惑をかける行為、非常識な行為であるか、ということにまったく気づいていない。

もうひとつ、プライバシーという観点でいえば、中国人のSNSを見ていて、いつも疑問に感じることの一つは、誰かとのメッセージのやりとりをスクリーンショットにとり、自分のSNSで第三者に披露していることだ。さすがに相手の名前(あるいはアイコン)は隠していることが多いが、メッセージのやりとり(文章)はそのままで、場合によっては、誰との会話かわかってしまうときがある。

実は筆者自身も、その対象となっているのを偶然見かけたことがあるが、内容は悪い話ではなく、「日本人との間でこういうことがあったよ」と誰かに言いたいだけだった。だが、個人間のメッセージのやりとりを第三者にわざわざ披露する意味がわからない、といつも感じている(そのため、筆者は、彼らとのメッセージのやりとりが誰かに転送されるかもしれない、という意識を常に持っている)。

■SNSの普及スピードにマナーが追い付いていない

公共の場でのマナー問題もそうかもしれないが、中国人の場合、他人がそれをやっているので、自分もやっていいと思っている、あるいは、本人にバレることはないだろうと思って、軽い気持ちでやっていることが多い。これも、誰かが子どもの顔写真を撮ってSNSに載せているのをよく見かけるので、自分もやっていいんだ、と思い込んでいることと共通する問題ではないかと感じている。

中国では、あまりにも急速にSNSが発達した。そのため、そこでのマナーを誰も教えてくれないことも問題で、それを国内のみならず、日本など海外でもやってしまっていることが、問題をこじらせ、大きくしてしまっている一因ではないかと思う。

前述のように、中国人が日本の小学生の登下校の風景を写真に撮り、中国のSNSに載せる行為は断じて許せないことだ。一般の中国人の行為ではなく、一部のインフルエンサーの場合は悪質であり、市議会への無断侵入と同様、取り締まる必要があるだろう。

だが、一般人の場合、中国とあまりにも違いすぎる日本の小学生のことを純粋にうらやましいと思っており、そうした動画が中国でずっと人気を博している神コンテンツであることは、容易に変わらなそうだ。それは、中国では小学生の通学路でさえ安全ではない、という社会の治安と関係しているからであり、この点でも、日中の格差は埋まらないのではないかと感じている。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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