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第3号被保険者の廃止は時間の問題…日本の経済団体が足並みそろえて提示した"踏み込んだ提案"の中身

プレジデントオンライン / 2024年12月13日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Seiya Tabuchi

厚生労働省の社会保障審議会年金部会は12月10日、第3号被保険者制度の廃止を年金法改正案に盛り込まない方針を決めた。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「経団連、商工会議所、経済同友会、関経連、そして連合が、第3号被保険者制度の廃止に向けてそれぞれ提言を公表している。共働きが多数派となり、同制度の役割が終わりを迎えつつあることが大きい。今回は見送りとなったが時間の問題だろう」という――。

■「年収の壁」解消の議論の中で

厚生労働省は、保険料を支払わずに公的年金の基礎年金を受け取れる専業主婦や主婦パートなどの「第3号被保険者」の廃止について、来年の通常国会で議論される年金法改正案に盛り込まない方針を固めた。

一方、年金保険料を負担する会社員の母体である経済団体や労働組合が廃止の方向で足並みを揃えている。

きっかけは働き控えの温床となっている「年収の壁」の解消問題だ。税制上の「103万円の壁」の引き上げが与野党で議論されているが、社会保険の加入義務が生じる「106万円の壁」と「130万円の壁」もある。106万円の壁については、現在、従業員51人以上の企業に加えて、①週所定労働時間が20時間以上、②月額賃金8.8万円以上(年収106万円相当)等の加入要件があり、要件を満たせば社会保険に加入しなければならない。

【図表1】一目でわかる「年収の壁と主婦年金」

■1985年以前は専業主婦も保険料を払っていた

これについて厚生労働省は106万円の年収要件と企業規模要件を撤廃する方向を固めた。「週20時間」の壁は残るものの、社会保険加入者が増えることになる。残るのは年収130万円未満、会社員に扶養される配偶者であれば年金保険料を払わずに基礎年金を受給できる第3号被保険者制度の存在だ。

第3号被保険者制度は1985年の年金制度改正で導入されたが、それ以前は会社員の妻も任意で年金保険料を払って国民年金に加入していた。当時は約7割の主婦が国民年金に加入していたが、残りの3割は加入しておらず、将来、無年金状態になることが危惧された。そのため当時の政府は約7割の国民年金加入者も含めて全員の保険料負担を免除する第3号被保険者制度を導入したという経緯がある。

一方、制度が導入された年は男女雇用機会均等法の成立の時期と重なる。女性が働きやすくなるような制度を整備する一方で、女性を専業主婦にしておくような年金制度を設けるという制度的矛盾を当初から内包していたともいえる。その後、片働き世帯から共働き世帯が増加する中で、働き方に中立的な年金制度になっていないとの指摘もあった。

■第3号被保険者の数は30年で半減

実際に会社員の配偶者の第3号被保険者の数は1995年の1220万人をピークに減り続け、2024年は約676万人に減少している。しかも女性が約663万人と圧倒的に多い(2024年度「厚生年金保険・国民年金事業月報・速報」)。また、女性の第3号被保険者の年代別の割合では、40~44歳が30.3%と最も多く、35歳以上の女性の3割前後が3号被保険者となっている(2022年)。

■経済団体も連合も足並みがそろった

こうした中、年金制度改革を契機に制度の廃止に向けた提言が労働組合や経済界から相次いで出されている。すでに労働組合の中央組織である連合は、2023年10月に第3号被保険者の段階的廃止の方針を打ち出している。

経済界では、経団連は「次期年金制度に向けた基本的見解」(2024年9月30日)を公表。第3号被保険者制度について「現在、共働き世帯が多数派になっているなど、1985年に制度が創設された当時と経済社会の実態が大きく変化している」と指摘。被用者保険の適用拡大を確実に進めていき「第3号被保険者を縮小していくべきである。これらの進捗を踏まえ、非就業者の大宗を占める第3号被保険者制度の在り方を検討、再構築することが望ましい」と述べている。

十倉雅和氏 経団連が11年連続与党評価
写真=共同通信社
記者会見する経団連の十倉雅和会長=2024年10月7日午後、東京都千代田区 - 写真=共同通信社

また、関西経済連合会(関経連)は、「社会保障を中心とする税財政に関する提言~財政健全化、経済成長、国民の安心を支える社会保障制度の確立に向けて~」(2024年10月16日)を公表。「『年収の壁』の抜本的見直しに向けた第3号被保険者の廃止」に初めて言及した。具体的には「被用者保険の適用拡大や就労の促進を通じて第2号被保険者を増やしつつ、第3号被保険者制度を段階的に廃止すべきである」と言う。

第2号被保険者とは自ら保険料を負担する会社員・パートなどである。その上で「第2号被保険者に該当しない者については、第1号被保険者として負担を求めることを検討すべきである。その際、現行の減免制度により、低所得者に過度な負担を強いないようにするとともに、出産・育児、介護などの事情で働けない者への配慮をあわせて行うことが求められる」としている。

■育児・介護で働きたくても働けない人への配慮は必要

第3号被保険者は、130万円未満で就業調整をしている人ばかりではない。約735万人のうち、パートなどの会社員・公務員が約312万人だが、働いていない専業主婦など非就業者が約326万人も存在する(2022年公的年金加入状況等調査)。その中には介護等の事情で働きたくても働けない人もいる。そうした人たちが無年金状態にならない配慮も必要になる。

公園で老人の車椅子を押す人
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■商工会議所が踏み込んだ提言を発表

また、中小企業の経済団体である日本商工会議所と東京商工会議所は、「年金制度改革に関する提言」(2024年11月21日)を発表している。この中で「第3号被保険者制度の解消に向けた検討」を掲げ、第3号被保険者制度は「性別や婚姻の有無にかかわらず、男女ともに働いて収入を得ることが一般化したという環境変化を受け、同制度が果たしてきた役割は、終焉が見通せる状況になりつつある」とまで言い切る。

提言では、第3号被保険者が「年収の壁」を意識して働く人が多いと指摘し、数値を示して説明している。前述したように第3号被保険者約735万人のうち、パート主婦などの短時間労働者が約312万人いると述べた。そのうち手取り収入の減少を避けるため「年収の壁」を意識して働いていると想定される人である月収7.8万円~10.8万円は約147万人いると推計している。

その上で提言では「『年収の壁』問題の根底にある第3号被保険者制度の将来的(10年~20年後など)な解消について、早急に国民の合意を得る努力をすべきである」と強調。一方で働ける環境にない人の実状には配慮すべきとも述べている。以前は社会保険料負担を重荷に感じる中小企業も多かったが、やはり人手不足が深刻ということだろう。日本商工会議所が第3号被保険者制度の廃止に舵を切ったことは興味深い。

■経済同友会提言「第3号被保険者制度の廃止は必須」

さらに経済同友会も12月2日、第3号被保険者制度の廃止を訴える提言を発表した(現役世代の働く意欲を高め、将来の安心に備える年金制度の構築)。年収の壁対策として政府が推進している主婦パートなどの社会保険加入の適用拡大は「一度に全ての被用者への適用拡大は困難である」と指摘。「根本的な問題解決のため、専業主婦や短時間労働者の方が得であるというインセンティブが働き、女性の就労やキャリア形成を阻害するとともに男女間の賃金格差を生む要因になっている。『第3号被保険者制度』の廃止が必須となる」と述べる。

現在、専業主婦など保険料の負担なしに基礎年金を受け取る第3号被保険者の保険料は会社員などの第2号被保険者全体の保険料で負担している。しかし単身世帯との比較では、保険料の負担は同額であっても片働き世帯は2人分の基礎年金が給付される。また、基礎年金のみを受け取る自営業者は夫だけではなく妻も保険料を支払っていることを例示。その上で「夫の職業によって妻の保険料負担の有無が決まるという点では、被保険者間の公平性が担保できているとは言い難い」と指摘する。

■子育てや障がい等により就労困難な場合は免除も

そして廃止までに5年の猶予期間を設定し、以下の工程表も示している。

① 初年度から第3号被保険者の新たな加入・適用を行わない
② 猶予期間中に第3号被保険者は第2号または第1号被保険者への移行を促し、完全移行する
③ 育児期間中の世帯で子どもが1歳になるまでの期間を除き、移行時の世帯年収が一定金額以上の場合、5年が経過して以降、第1号被保険者となった第3号被保険者は保険料を負担する。

ちなみに国民年金受給者の第1号被保険者の保険料は月額1万6980円である。所得が低い世帯への救済策として「第1号被保険者に移行した者が、移行時の世帯年収が一定金額未満で、かつ子育てや障がい等により就労困難な場合は保険料の減免措置を設ける」ことを提案している。

将来的に廃止すべきという意見が出されているが、最後は政治の決断である。第3号被保険者制度の廃止を打ち出すと、選挙に影響するため、従来の政権はこれまで避けてきた経緯もある。今回は先送りされたが、時代の変化とともに廃止への流れが進むことは避けられないだろう。時間の問題だ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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