「スタバに通うイケてる私」に刺さらなかった…スタバ「紙ストローやめます」宣言がSNSで絶賛される本当の理由
プレジデントオンライン / 2024年12月13日 18時15分
■スタバの「紙ストロー廃止」に称賛の声
12月6日、カフェチェーン大手のスターバックスコーヒージャパンは、紙ストローを順次バイオマス素材のプラスチックストローに変更していくことを発表した。2025年1月から沖縄県の32店舗で導入され、3月から全国に拡大される予定だ。
同社は2020年から紙ストローを取り入れている。紙ストローが導入された背景には、マイクロプラスチックによる環境汚染の問題がある。プラスチックごみを減らす取り組みの一環として、プラスチック製ストローから紙ストローへの転換が進められたのだ。
スターバックスに限らず、日本マクドナルドも、2022年10月から紙ストローと木製カトラリーの提供を開始。2023年にはサイドサラダの容器を紙製に変更している。
2022年4月1日には、「プラスチック資源循環促進法」が施行され、飲食店やコンビニにストローやハンガーといった使い捨てプラスチック製品12品目の使用量を削減することが求められるようになった。
今回の発表を受けて、SNS上では「紙ストローは本当に無理だった」「久々にスタバに行く気になった」などと廃止を歓迎する声であふれ返った。
実は、飲食店における紙ストローの廃止はスターバックスが初めてではない。にもかかわらず、紙ストローの廃止でこれほどまでに話題になったのはスターバックスが初めてのように映る。いったいなぜスタバだけがこれほどまでに紙ストローの廃止に沸き立ったのか。
■紙は評判も悪くコストもかかる
そもそも、「紙ストローの廃止」は時代の流れに逆行しているようにも見えるのだが、どうしてこのような判断がなされたのだろうか?
スターバックスに限らず、紙ストローは利用者から評判がよくなかった。実際、導入直後から、SNSには下記の声が見られていた。
・プラスチックストローと比べておいしくないように感じる
・時間が経つとふやけてしまう
・環境負荷の軽減にどのくらい有効か疑問
筆者もスターバックスやマクドナルドを利用して、同様の感想を抱いていた。企業側にしても、紙はプラスチックよりコスト増につながるというデメリットがある。そうしたことを考え合わせると、紙ストロー廃止は、妥当な流れと言えるだろう。
■「環境意識の高いスタバを使う私」に受け入れられなかった
これまで、スターバックスは環境対策だけでなく、SDGsの流れに沿って、多くの社会的な取り組みを行ってきた。
・マイボトル・タンブラー割引の導入
・環境に配慮した店舗づくり
・多様な人材の受け入れと尊重
・フェアトレードへの取り組み
etc.
こうした取り組みの多くは利用者にも受け入れられているし、「社会貢献に積極的な企業」として、スターバックスのブランド価値の向上にも大きく貢献している。また、これが実現できているのは、意識の高い顧客の存在がある。スターバックスの顧客は、店内でPCを広げて仕事をしたり勉強をしたりしている人が目立つが、向上心だけでなく、環境意識も高い傾向がある(最近はその傾向は弱まっている感もあるが)。
スターバックスが実施している社会的取り組みは、「スターバックスを利用している私は環境意識が高い」という顧客の社会的価値に転換することによって受容されてきたとも言えるが、紙ストローに限っては、そうとも言えなかったようだ。
利用者は、自分たちが得ている便益を捨ててまで、プラスチックごみ削減に貢献したいとまでは考えていなかったのだ。
■「紙ストロー」の導入は主流ではなかった
大手外食チェーン各社は、多かれ少なかれ環境への取り組みを進めているのだが、紙ストローの導入については、まちまちである。
モスバーガーは、2019年に直営店全店でテイクアウト用のスプーン、フォーク、マドラーなどプラスチック製カトラリーを紙製カトラリーに変更したが、プラスチックストローは一律付け添えを廃止して選択制にしている。2020年にはストローをバイオマス30%使用のものに変更している。
カフェチェーンのドトールは2021年に紙製のマドラーを採用。ストローについては、コンビニなどで販売しているチルドカップの商品の一部でバイオマスストローを導入している。
同じくカフェチェーンのプロントは、2023年に全国約200店舗で提供するストローをプラスチック製から竹や食品由来の素材に切り替えると発表している。
■バイオマスに竹製…ストローへの対応は各社さまざま
大手外食チェーンのすかいらーくホールディングスは、2018年に国内外3200店すべてでプラ製ストローの提供を2020年までにやめることを発表。特に要望があった場合は、トウモロコシを原料とした生分解性のバイオマスのストローを提供するとしている。
紙ストローを導入しているマクドナルドにおいても、今年7月から試験的にコールドドリンクを「ストローレスリッド」というストローなしで飲める容器で提供している。
また、子供用のストローや、マックシェイクなどの一部商品用では、プラスチックのものが提供されている。実際、筆者が最近マクドナルドでバリューセットを注文した際は、カトラリーは木製、サイドサラダの容器は紙製だったが、フロートのストローはプラスチック製だった。
外食チェーンではないが、日清食品は、
各社の動向を見ていても、それぞれが環境への取り組みは行っており、プラスチック削減への取り組みも積極的に行っている。しかしながら、必ずしも紙ストローは主流になっていたわけではなく、ストロー自体の廃止もあれば、バイオマスストローを導入している企業もある。紙ストローを導入していたマクドナルドも、すでに紙ストローの代替手段を講じはじめていた。
プラスチック削減対策として、紙ストローの導入は一部の施策に過ぎないし、飲食業界で主流になっているとも言い難いというのが実態だ。
■CSRは「トレンド」も大切
各社がプラスチック削減に向けてさまざまな試行錯誤を行っている中で、このたびのスターバックスの「紙ストロー廃止」の発表だけが目立ち、話題になったのはなぜだろう?
理由としては、下記のことが考えられる。
2.紙ストローは利用者から賛否両論の声を集めていた
3.スターバックスの取り組みは大規模で、広報活動も積極的だった
環境対策に限らず、社会貢献活動に積極的なスターバックスが、環境対策のために導入した紙ストローを廃止する――という表明を行ったことは大きなインパクトがあったと言えるだろう。
また、単なる揺り戻しではなく、バイオマス素材のプラスチックストローに変更することで、環境対策と利用者の便益のバランスを配慮している点で、批判を回避し、利用者から賞賛を得ることに成功している。
もっとも、バイオマス素材の導入は他社もやっているのだが、あまり積極的にアピールしておらず、さほど目立ってはいない様子だ。
そもそも、企業の社会問題への取り組みは、「実質的にどのくらい効果があるのか?」ということだけでなく、「トレンドに乗っているか?」ということも重視されるのだ。
■消費者にガマンを強いる環境保護対策は長続きしない
2019年、欧州を起点に「フライトシェイム(Flight shame)」がトレンド化し、日本でも「飛び恥」と訳されて浸透していった。これは、CO2排出量を削減して、気候変動を阻止するために、飛行機の利用をやめて鉄道などの地上輸送に切り替える運動だが、コロナ禍で人々の異動が制限されるに従って、話題にされなくなっていった。コロナが収束した現在でも、少なくとも日本では「飛び恥」は死語に近い状況になっている。
日本は「インバウンド」と称して、外国人観光客の受け入れに熱心だが、彼らの航空輸送によって、どのくらいのCO2が排出されるのか、環境負荷はどの程度か、といった議論は、少なくとも筆者は見たことがない。
また、2019年に国連貿易開発会議(UNCTAD)は、ファッション産業が石油産業に次いで「世界で2番目に環境負荷が高い産業」という発表を行った。サステナブルファッションという言葉はいまでもよく使われているが、さすがに「衣服の生産量を大幅に削減して、既存の服を着続けたり、リユース中心に切り替えたりしよう」というところまではいかない。
2019年前後から、「人々の欲望や経済成長を犠牲にしてでも、環境対策を優先すべき」という風潮が大きくなっていった。しかし、いまはその反動が来ているといえるだろう。
スタバの紙ストロー廃止に対する人々の反応は、単純に紙ストローへの不満にとどまらず、「環境のためにガマンはしたくない」という意識の表れであるように思える。
人々にガマンを強いるような施策は長期的には成功しない。環境用語を利用すれば「サステナブルではない」というのは紛れもない事実だ。一方で、トレンドに流されることなく、「本当に環境負荷の削減に有効な対策は何なのか」ということを考えるべき時期に来ているようにも思える。
プラスチックストロー対策は、特定の業界の環境対策の一部に過ぎないが、そこから押し広げて考えるべきことは多々あるように思える。
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マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。
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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)
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