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神経軸索変性による神経機能不全の改善に成功

PR TIMES / 2017年6月22日 14時9分

~ペリー症候群の治療法確立へ前進~

順天堂大学大学院医学研究科神経学の服部信孝教授、パーキンソン病病態解明研究講座の今居譲先任准教授の研究グループは、パーキンソン病の一種であるペリー(Perry)症候群でみられる神経軸索変性による神経機能不全を改善する方法を開発しました。ペリー症候群は原因遺伝子 DCTN1*1の変異により発症します。本研究ではDCTN1の変異を神経細胞に導入した疾患モデル動物(ショウジョウバエ)を用い、ペリー症候群が神経終末*2の機能不全で起こることを明らかにしました。さらに、疾患の鍵となる分子TDP-43*3の発現量を遺伝子操作で減らすことにより神経終末の障害を改善させることに成功しました。この成果は指定難病であるペリー症候群の治療法の開発に大きく道を拓く可能性があります。本研究成果は医学誌EBioMedicine電子版に早期公開版として、2017年6月9日付けで発表されました。



【本研究成果のポイント】

ペリー症候群疾患モデル動物の解析により神経軸索変性による障害メカニズムを明らかに
神経軸索輸送*4の障害により、神経終末の神経伝達物質の輸送と分泌が障害されることを発見
ペリー症候群で蓄積がみられるTDP-43の発現抑制により、神経軸索輸送の障害と神経伝達を改善


【背景】
ペリー症候群は、パーキンソン病で特徴的な運動症状のほか、うつや無気力などの精神症状、呼吸機能の低下を呈し、最終的に突然死を起こす難治性の遺伝性神経変性疾患です。ドーパミン神経が変性することから、ドーパミンを補充する治療で症状は改善しますが、進行性の病気でありこれを止める治療法は見つかっていません。その原因遺伝子が逆行性の神経軸索輸送*4に関わるDCTN1であること、病変部位である大脳基底核の神経細胞にTDP-43が蓄積することが明らかとなっています。TDP-43は、RNAとタンパク質の複合体(RNA顆粒)を形成する機能未知のタンパク質で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やアルツハイマー病においても、病変部位で異常な蓄積がみられます。しかし、なぜ大脳基底核にTDP-43が蓄積するのか、TDP-43の蓄積が病態にどのように影響するのかは明らかになっていませんでした。そこで本研究は、ペリー症候群の原因となるDCTN1変異による神経細胞の障害とTDP-43との関係を明らかにする目的で行われました。

【内容】
今回私たち研究グループは、ペリー症候群の神経でどのような障害が起こっているかを明らかにするため、原因遺伝子DCTN1の変異を神経細胞に導入したペリー症候群疾患モデルショウジョウバエ(以下 ペリーモデル)を作製しました。このペリーモデルは、神経の機能不全からくる運動障害を示し(図1)、寿命の短縮がみられました。そこで神経細胞の状態を詳細に解析すると、逆行性の神経軸索輸送が顕著に障害され、神経終末構造の肥大が起こっていることを発見しました(図2)。さらに、逆行性の神経軸索輸送が滞ることによって、有芯小胞*5が凝集化し(図3)、その結果ドーパミンの分泌が低下することが分かりました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/26/resize/d21495-26-577142-1.jpg ]

[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/26/resize/d21495-26-155509-0.jpg ]

[画像3: https://prtimes.jp/i/21495/26/resize/d21495-26-503641-2.jpg ]


次に、TDP-43の神経への蓄積が病態に及ぼす影響を明らかにする目的で、TDP-43の遺伝子を1つ減らしました*6。すると、TDP-43の遺伝子から作られるTDP-43タンパク質量は30%程度低下しました。この状態で上述のペリー症候群に関連する神経症状が変化するかどうかを調べたところ、運動機能の改善(図1)、寿命の伸長が認められました。続いて、神経細胞の状態を解析すると、逆行性の軸索輸送と有芯小胞の凝集化が改善し(図3)、ドーパミンの分泌も回復することが分かりました。

以上のペリー症候群モデル動物での研究結果から、DCTN1の変異によりドーパミンを備蓄する有芯小胞の輸送が滞って凝集化すること、それが原因となりドーパミンの分泌が低下することを初めて明らかにしました。ここで重要なことは、神経細胞内のTDP-43タンパク質を減らすと、有芯小胞の凝集化が抑えられドーパミン分泌が改善できた点です。この発見により、TDP-43の発現をコントロールすることで病気の進行を抑えることができる可能性を見出しました(図4)。


[画像4: https://prtimes.jp/i/21495/26/resize/d21495-26-609127-3.jpg ]



【今後の展開】
TDP-43の異常蓄積は、ALS、前頭側頭葉変性症などにもみられ、これらの神経変性疾患はTDP-43プロテイノパチーと総称されます。すなわち、TDP-43は多様な神経変性疾患の発症原因を理解する上で重要なタンパク質です。一方、TDP-43の発現をなくすと生存できないことが、動物実験で明らかとなっています。その点を踏まえ、TDP-43の神経細胞内での量を適切にコントロールすることで、病態を大きく改善可能なことが分かりました。この発見は、TDP-43プロテイノパチー全体に対して、効果的な予防法・治療法の開発のヒントを与えるものです。今後も私たち研究グループは、臨床応用のための研究を進めていきます。

【用語解説】
*1 DCTN1: ダイナクチンというタンパク質をコードする遺伝子。産生されるダイナクチンは、ダイニンと結合し、微小管をレールとする逆行性の神経軸索輸送に関わる。ペリー症候群で見つかったダイナクチンの変異は、微小管への結合能低下の原因となる。図4を参照。

*2 神経終末: 神経軸索の末端部分。神経伝達物質の授受を行うシナプスを形成する。運動神経では筋肉とシナプスを形成し、この部分を特に神経筋接合部と呼ぶ。

*3 TDP-43: ALS、前頭側頭葉変性症、一部のアルツハイマー病の病変で異常蓄積がみられるタンパク質。TDP-43の遺伝子変異も一部の遺伝性ALSや前頭側頭葉変性症で見つかっている。RNAに結合し、翻訳制御やmRNAのスプライシング制御を行うと考えられている。

*4 神経軸索輸送、逆行性の神経軸索輸送: 神経終末から神経細胞体側方向へ物質の軸索輸送。神経細胞体から神経終末への輸送は順行性の神経軸索輸送という。両方向の輸送のバランスが保たれないと、神経終末においての物質の往復が障害される。

*5 有芯小胞: ドーパミンなどの神経伝達物質が含まれる袋状の構造体。神経に刺激が入ると内容物が細胞外へ分泌され、神経伝達に使われる 。

*6 遺伝子を1つ減らす: 常染色体にある遺伝子は母方由来と父方由来の計2つある。そのうち1つを減らしたという意味。

発表誌:EBioMedicine 
タイトル: Reduced TDP-43 Expression Improves Neuronal Activities in a Drosophila Model of Perry Syndrome
日本語訳: TDP-43の発現抑制は、ペリー症候群ショウジョウバエモデルにおいて神経機能を改善する
著者名: Yuka Hosaka, Tsuyoshi Inoshita, Kahori Shiba-Fukushima, Changxu Cui, Taku Arano, Yuzuru Imai, Nobutaka Hattori
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.ebiom.2017.06.002

謝辞: なお、本研究は厚生科研難治性疾患克服研究事業 H25-難治等(難)一般-007、JSPS科研費 JP26293070, JP15H04842、MEXT科研費 JP23111003、大日本住友製薬、大塚製薬の研究助成を受け、穂坂有加大学院生、井下強助教が中心となり実施しました。

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