バイエル社、インドでジェネリック薬の製造を牽制
PR TIMES / 2012年9月4日 13時28分
ドイツの製薬企業バイエル社は9月3日、インドのチェンナイで、同社が特許権を持つ抗ガン剤のジェネリック薬が公衆衛生のために生産されることを促す強制実施権を覆すことを目的とし、特許申請に関する異議申し立ての審査機関「インド知的財産審判部(IPAB)」に出頭した。国境なき医師団(MSF)は既存薬の価格低下を阻害する動きとしてバイエル社を非難する。
インド特許庁長官は2012年3月、強制実施権を発動し、バイエル社製の肝臓・腎臓がん治療薬トシル酸ソラフェニブ製剤について、そのジェネリック薬の医薬品登録と生産を認める画期的な決定を下した。これを受け、トシル酸ソラフェニブ製剤は月額5500米ドル(約43万円)強から175米ドル(約1万4000円)まで低下、減価率は97%に及んだ(*)。
インドでのMSF必須医薬品キャンペーン責任者、リーナ・メンガニーは「今回の裁定にバイエル社が不服を申し立てることは予想していました。同社は、法外な薬価を改善するどころか、法的手段を乱用しています。公衆衛生に優先して法外な利潤を追求し続けるバイエル社の姿勢にこそ、異議が申し立てられるべきなのです」と話す。
インド初の強制実施権発動は、現在、インドで特許を有し高い価格が設定されている数々の薬を、ジェネリック薬メーカーが生産し、途上国で低価格で提供される道筋をつける可能性があるため。インドでは、特許がある新薬に対するジェネリック薬がないことから、「新薬の高価格を引き下げにくい状態です。強制実施権は、この問題を乗り越えるための1つの解決策です。しかし、バイエル社は今回の不服申し立てを通じ、公衆衛生の生命線ともいえる手段を抑え込もうとしています。」とメンガニーは強調する。
インドで特許がある新薬にはHIV治療薬も含まれる。しかし、高価すぎて、必要としている人びとには手が届かない。「MSFでは、薬剤耐性ができてしまったHIV患者さんたちの治療には、新薬の使用に切り替えていますが高価です。ムンバイにあるMSFの診療所では、ラルテグラビルのような第3選択薬の必要なHIV患者の治療の場合、1人あたり年間1775米ドル(約14万円)もかかっています。私たちにとり必要な新薬を手ごろな価格で調達するための法的手段の1つを、バイエル社が覆してしまえば、MSFの医療援助活動にとり支障が出てきます。」とインドにおけるMSFの活動責任者、ルーク・エアンドは危機感を示す。
インドは現在、多国籍企業との複数の特許権争いの渦中にある。スイスに本拠地を置く多国籍企業ノバルティスも、派生する特許の認可を規制する条項の、インド政府による解釈に不服を申し立てるなど、公衆衛生を重視するインド特許法への抗弁に熱心だ。この ノバルティス社の訴訟は、9月中にインド最高裁で審理される予定だ。
*特許の使用が認められたジェネリック薬メーカーのナトコ社からはバイエル社に対し、売り上げの6%が特許権使用料として支払われる。
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