アフリカ睡眠病:新たな診断・治療法の開発進むも、実践導入には課題――MSF、財源不足による感染制御策の停滞に警鐘
PR TIMES / 2012年12月7日 11時27分
新しい診断と治療法の開発が進み、アフリカ睡眠病(アフリカ・トリパノソーマ症)対策に明るい兆しが見えている。しかし、安定財源の不足によって、感染地域における国家規模の感染制御策が機能していないと、国境なき医師団(MSF)は警鐘を鳴らしている。
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死を招く「顧みられない病気」
アフリカ睡眠病は、ツェツェバエに刺されることで感染し、治療しなければ死に至る寄生虫病だ。患者は、アフリカのサハラ砂漠以南の遠隔地に住む、世界で最も貧しいとされる人びとで、推計7000万人が現在も感染に脅かされている。長らく「顧みられない病気」のひとつとして対策が進まず、また従来型の検査方法には、高い技能をもったスタッフと精密な検査設備が必要など、不便な遠隔地での使用には問題が多かった。
そんな中、2013年にも登場が期待される新しい2種類の簡易検査と、臨床試験が予定されている経口治療薬で、そうした傾向も変わるかもしれない。ただし、こうした開発努力も、国家規模の感染制御活動の資金難で危機にさらされている。
再流行の恐れ
コンゴ民主共和国でMSFの医療コーディネーターを務めるアニャ・デ・ヴェッヘレイル医師は、国家規模で感染制御を実施するための、資金、人材、物資の不足が早急に改善されなければ、新たな診断・治療の機会は失われ、同国でアフリカ睡眠病が再流行する恐れがあると指摘する。
世界のアフリカ睡眠病全症例の4分の3がコンゴ民主共和国に集中しているが、検査を受ける人の数は過去数ヵ月間で著しく落ち込んでいる。さらに、2013年6月には感染制御策に向けられた国外からの主要財源が終了する見通しだ。実際同国では、過去に感染の監視機能がたびたび停止し、それがごく短期間であっても再流行が起きていたことが確認されている。そうなれば、すぐさま中央アフリカ共和国や南スーダンといった、国家規模の感染制御策に著しい限界がある周辺諸国と同様の状態に陥る恐れがある。
期待される新たな検査・治療法
2013年の登場が待たれている新しい2種類のディップスティック型検査は、使用が簡便で、従来型では必須だった低温輸送システム(コールドチェーン)も必要としない。「革新的な新検査方法のための基金(FIND: Foundation for New Innovative Diagnostics)」と「アントワープ熱帯医学研究所(ITM)」の開発支援で作られたこれらの検査法によって、より多くの人びとに、症状が現れる前に病気を発見する「スクリーニング検査」が提供できると期待されている。感染が疑われる症例の確定には、引き続き複雑な検査が求められるとしても、この新しい検査法で、現在MSFのアフリカ睡眠病・移動診療チームが直面している人材・物資面の課題の大部分が解決されるとみられている。さらに、「顧みられない病気のための新薬イニシアティブ(DNDi)」が開発を支援する新経口薬「フェキシニダゾール」も、治験の第二・第三相試験(活動地と同じ条件下での臨床試験)が始まり、従来、進行したアフリカ睡眠病の治療に必要とされてきた複数の点滴薬の有効な代替となる日も遠くはなさそうだ。
MSFの必須医薬品キャンペーンの エグゼクティブ・ディレクター、マニカ・バラセガラム医師は、「アフリカ睡眠病対策の素晴らしい新技術がありながらも、安定財源が早急に確保できなければ、それを国単位で実践導入することが一切できないという事態に陥るでしょう。コンゴ民主共和国やその他の感染国において、現在MSFが直面しているような不確実性を乗り越える上で、今後数ヵ月が勝負の時となります。継続的な資金提供と適切な人的・物的資源が切実に求められているのです」と問題の緊急性を訴えている。
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1986年以来、MSFは300万人以上にアフリカ睡眠病の検査を行い、5万人以上を治療している。現在は南スーダン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国で活動プログラムを展開。先ごろ、外国人スタッフで構成されるアフリカ睡眠病・移動診療チームも組織された。同チームは、これまでに中央アフリカ、チャド、コンゴ共和国、南スーダンで活動実績があり、近く、コンゴ民主共和国でも活動を始める予定だ。
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