『アジアフォーカス・福岡国際映画祭2020』ディレクターによる作品選定のポイントと見どころ

PR TIMES / 2020年9月4日 18時45分

アジアを中心とする様々な国・地域の新作及び日本未公開作品を、日本語と英語の字幕付で上映。本年は海外ゲストの招聘は行わず、上映プログラムのみの実施となります。

映画祭ディレクターの梁木靖弘による公式招待作品と日本映画特集の作品選定ポイントや見どころが届きました。オープニング上映「『福岡』モノクロ 特別上映」のチャン・リュル監督から寄せていただいたコメントと合わせてご紹介します。



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【アジアの新作・話題作】
『三人姉妹の物語』英語タイトル:A Tale of Three Sisters ※日本初上映作品
監督:エミン・アルペル(2019年/トルコ、ドイツ、オランダ、ギリシャ/107分)
この作品は、圧倒的な映像美が見どころです。本作で映し出される、トルコの奥地、中央アナトリアの厳しい山岳地帯の風景は、他の映画でもなかなかお目にかかれないものではないかと思います。その風景は主人公たちの精神を映し出す鏡でもあります。出てくる人々が風景に似て、みな非常にガンコで、描き方もかなり容赦ない部分もあるのですが、そういった重めのドラマも、厳しい自然の映像美を通じて、人間に負わされた宿命ではないかと感じられてきます。

『マリアム』英語タイトル:Mariam ※九州初上映作品
監督:シャリパ・ウラズバエヴァ(2019年/カザフスタン/75分)
この作品の持ち味は「シンプルなのに複雑」という一語に尽きるのではないかと思います。極めてシンプルなストーリーの中に、人間の不可解さがよく描かれていて、観終わった後、とても複雑な後味が後を引きます。雪に閉ざされた荒涼たるカザフスタンの風景と、物語がマッチしており、遠景しかない迷路のような風景自体が主人公の気持ちを代弁しているように感じます。女性が背負わざる不条理を見事に体現する主人公マリアムの存在感にも注目です。

『ジャッリカットゥ』英語タイトル:Jallikattu ※日本初上映作品
監督:リジョー・ジョーズ・ぺッリシェーリ(2019年/インド/91分)
こちらは問答無用の迫力に圧倒される1本です。描かれているのは、ただただ「牛(バッファロー)と人間との戦い」で、人間やストーリーはある意味どうでもよくなってしまう。さらに非常にリズム感があり、1カット1カットのシーンも非常に制御され撮影されていると感じます。“ジャッリカットゥ”とは、大勢の人間で荒れ狂う牛を制する古代スポーツで、現在も続く“原始の祝祭”なのですが、その激しさや熱狂は、原始的でしかもモダンなストラヴィンスキーの名曲「春の祭典」を映画にするとこんなふうになるのかと思えます。

『土曜の午後に』英語タイトル:Saturday Afternoon ※日本初上映作品
監督:モストファ・サルワル・ファルキ(2019年/バングラデシュ、ドイツ/86分)
2016年7月1日に実際に起こった「ダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件」を基に、その恐怖をリアルに再現した作品です。何よりまず、あの事件を映画化した監督の勇気に拍手を送りたいと思います。特筆すべきは、緊迫のテロ現場を驚異のワンカット映像で描いていること。またテロ事件を外側の正義から裁くのではなく、犯行グループ側の論理から描いているのも画期的です。イスラム教以外の正義を認めないテロ活動が、犯人たちの止めどない殺戮行為によって、逆に、希望なき殺戮に思えてくる。原理主義の果てに見えてくる不毛な何か。そこから逃れる道はあるのか。単なる実話の再現にとどまらず、最後まで謎を残したサスペンスフルな展開も見事です。

『昨夜、あなたが微笑んでいた』英語タイトル:Last Night I Saw You Smiling ※九州初上映作品
監督:ニアン・カヴィッチ(2019年/カンボジア、フランス/78分)
この作品は、監督自身が幼少期を過ごした古びた集合住宅、かつては堂々たるモダン建築だった「ホワイト・ビルディング」が、2017年に取り壊される最後の時間を描いたドキュメンタリーです。そこに住んでいた監督の家族や親せきなど、身近な人々の姿や彼らへのインタビューを通して、カンボジアの現代史が浮かび上がってくる私的ドキュメンタリー映画です。非常に私的でありながら、アーティスティックで、まるでコンテンポラリーアートを見ているかのような感覚になります。

『樹上の家』英語タイトル:The Tree House ※日本初上映作品
監督:チューン・ミン・クイ(2019年/ベトナム、シンガポール、ドイツ、フランス、中国/84分)
この映画は、とても説明がしにくい作品です。SF仕立てになっていますが、中身は全然SFではない。むしろ、民俗学のドキュメンタリーのような感じがします。つまり、監督は SFという体裁を借りて、ベトナム国内ではなかなか語れないテーマを、遠回しに語ろうとしているのではないかと思うのです。ベトナムは共産主義国家であり、国民は皆平等に進歩しなければならないとして、少数民族である自由も奪われている。そんな国家の近代化と共に消滅しつつある個人の生活、少数民族や伝統社会に、監督自身が感じている違和感や想いを仮託しているのではないでしょうか。

『明日から幸せな人になろう』英語タイトル:From Tomorrow On, I Will ※日本初上映作品
監督:イヴァン・マルコヴィッチ/ウー・リンフォン(2019年/中国、ドイツ、セルビア/60分)
タイトルからして、とてもアイロニカルな映画です。この作品が一貫して描いているのは、地方出身の若者にとって、憧れの大都会というものは常にどこか別のところにあるということ。映画の冒頭、都会の歩道橋で、主人公が工事現場の足場に描かれた大都市の絵を見ているという構図が、本作のテーマを象徴しています。都会にいながら、暗い地下の部屋で大都会を味わうことなく底辺の生活を送る主人公を淡々と、情報量の高い1カット1カットの連続で描いています。どのシーンもアートとして成立するのではと思うほど見事で、「アートすぎるプロレタリアート」と評したくなります。

『犯罪現場』英語タイトル:A Witness Out of the Blue ※日本初上映作品
監督:フォン・チーチアン(2019年/香港/104分)
ラストに登場する香港の夜景シーンもすばらしく、ずばり「香港に捧げる“挽歌”」というべき作品です。香港ノワール的なバイオレンス・アクションに、ドラマティックなストーリーが融合した展開は王道の香港映画スタイル。2018年、本映画祭で福岡観客賞を受賞した『大楽師』のフォン・チーチアン監督が豪華香港スターと共に描く娯楽大作です。今だからこそ、香港映画を見て、香港を応援してほしいと思います。


【アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集】

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基本的に、アノーチャ監督作品の感想に正解はありません。それは観た人の数だけ作品の解釈があり、一つに収斂していくことはないからです。逆にいえば、それが一番面白い映画の見方であり、面白い映画だといえるのではないかと思います。アノーチャ作品の面白さは、映画の中にある謎自体で、観客がその謎を解釈しなければ映画は完成しません。
最近の作品こそ、女性監督らしい映画もありますが、監督デビュー作の『グレイスランド』や長編初監督作の『ありふれた話』を観ると、監督が男性なのか女性なのかよく分からないところがあります。そんなジェンダーレスな感性も彼女が最先端の作家であると感じる理由です。
また彼女の映画は“物語に至らない物語”。物語に至るまでの準備段階を、誰か一人ではなく、横にいる誰かに並行移動しながら描いていく。いわば、物語や主人公を中心に組み立てていくような、型にはまった映画作りを否定する「映画づくりに関する映画」という面があります。映像自体は断片的なものですが、そこから観た人がインスパイアされて、各自の物語を構築していく。彼女の作品の随所に、既存のセオリーを壊して映画を作るという試みのすごさを感じます。そういった意味で、アノーチャ監督の作品は、語りえない映画であり、観るしかない映画と言えます。
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督に代表されるタイのアートシネマは、いまや世界のアートシネマをけん引していると言っても過言ではありません。その最先端にアノーチャ監督はいます。ルネッサンス以降の西洋的考え方とは次元の違う映像作家であり、仏教の“色即是空”的な死生観、タイそしてアジアの独自性に立脚した表現者と言えます。今注目すべき世界的映像作家アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督の作品を、ぜひ本映画祭でお楽しみください。

<アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督プロフィール>
タイ生まれ。米コロンビア大学美術修士映画課程を卒業。卒業制作となった「グレイスランド」はカンヌ映画祭へ招聘された初めてのタイ短編映画となる。長編映画監督デビュー作となった『ありふれた話』(2009年)はロッテルダム国際映画祭タイガー・アワードを含む複数の賞に輝く。『暗くなるまでには』(2016年)は最優秀作品・監督賞を含む三つのタイ国立映画賞に輝き、米アカデミー賞外国映画部門へのタイ出品作に選定される。
※本映画祭への参加:『ありふれた話』(2010年上映)、『暗くなるまでには』(2017年上映)


【日本映画特集 芦川いづみ特集】

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昭和30年代ノスタルジーというものが日本人にはあると思います。それを最大限に体現したものの1つが芦川いづみという女優ではないでしょうか。建造物では東京タワー、俳優では石原裕次郎がいますが、裕次郎は役者としてのスパンが長い。その点、芦川いづみは1950年代半ば~60年代の半ばまでの十数年ほどしかスクリーンで活躍しておらず、その後、銀幕から姿を消したことで、逆に強烈なノスタルジーを掻き立てます。また裕次郎の相手役としては、北原三枝(裕次郎の未亡人で、現在は石原まき子)と浅丘ルリ子がいますが、彼女はその間をつなぐ存在。北原三枝はのちに裕次郎の妻となり、浅丘ルリ子は現在も女優として活躍しているので、時代のアイコンとしてノスタルジーの対象となりえるのは、唯一芦川いづみだけと言えるのです。藤竜也との結婚を機に、女優を引退し、以後銀幕に姿を現さない潔い姿勢は、山口百恵にも似て、強烈な印象を残しました。原節子が“伝説”だとすれば、芦川いづみは映画最盛期の“ヒロイン”。「あじさいの歌」のような深窓の令嬢役が彼女の典型的なイメージですが、実は非常に演技がうまい女優さんでもあります。どの作品も肩の力を抜いて楽しめるものばかりです。ぜひ、今年は本映画祭で昭和ノスタルジーのヒロイン、芦川いづみの魅力をご堪能ください。


【『福岡』モノクロ特別上映】※オープニング上映

『福岡』英語タイトル:Fukuoka
監督:チャン・リュル(2019年/韓国/86分)
映画『福岡』でチャン・リュル監督が描いている福岡という場所は、現実の世界ではないような気がします。ですから、色がないほうが本来の監督の意図に近いのではないでしょうか。私自身、昨年のカラー版に続き、今年の映画祭でモノクロ版の『福岡』を観られることを心から楽しみにしています。

「福岡」モノクロ 特別上映に寄せて チャン・リュル監督 ―本年度映画祭カタログより―
フィルムの時代には、1本の映画をモノクロ版とカラー版の両方にすることはできなかったのですが、デジタル時代には、この2種類のヴァージョンを同時に創ることが可能になりました。このような現実に基づき、『福岡』において、私は2種類のヴァージョンを完成させました。カラーは現実をリアルに映すという点で優れており、モノクロームでは映画の物語と登場人物の心情に観客の意識はより集中しやすくなるはずです。だから、1本の映画に2つのヴァージョンがあれば、観客の選択に多様性をもたらすのではないでしょうか。去年、『福岡』のカラー版をご覧になった福岡の観客の皆さんに、今年は、モノクロ版を捧げ、お好みで選べるようにしました。よろしくお願いします。

★作品紹介は、公式HP、公式パンフレットよりご確認ください。
⇒公式HP 上映作品
http://www.focus-on-asia.com/lineup/
⇒公式パンフレット(お手数ですがこちらからダウンロードをお願いします)
http://www.focus-on-asia.com/2020/dl/pdf/leaflet2020.pdf

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