スポーツ選手における筋損傷のリスクに関連する遺伝要因を解明

PR TIMES / 2018年9月10日 14時1分

~遺伝情報を考慮したスポーツ傷害の予防プログラム確立に期待~

順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の熊谷仁研究員(日本学術振興会特別研究員)、福典之先任准教授らの研究グループは、エストロゲン受容体*1遺伝子の個人差の1つであるT/C遺伝子多型(SNP)*2 が、筋スティフネス*3 (筋硬度)を介して肉離れなどの筋損傷リスクに関連することを明らかにしました。本研究はトレーニングなどの外的要因だけでなく、遺伝子多型といった内的要因がスポーツ傷害のリスクになることを明らかにした研究であり、遺伝情報を考慮したスポーツ傷害の予防プログラム確立に貢献することが期待されます。本研究成果はアメリカスポーツ医学会雑誌「Medicine & Science in Sports & Exercise」オンライン版に2018年8月15日付で公開されました。



【本研究成果のポイント】


エストロゲン受容体遺伝子の個人差は筋損傷の受傷歴に関連していた。
筋損傷のリスクが低い遺伝子多型をもつアスリートは筋のスティフネスが低かった。
遺伝情報を考慮した新たなスポーツ傷害予防プログラムの確立に期待。


【背景】
スポーツ傷害の予防はアスリートの競技成績やキャリアにおいて極めて重要です。特に、肉離れなどの筋損傷は2016年のリオデジャネイロオリンピック競技大会において、全スポーツ傷害のうち約30%を占める最も発症数が多い傷害でした。そのため、東京オリンピック・パラリンピックを目前に控え、アスリートにおける筋損傷の予防法の確立が急務です。興味深いことに、筋損傷の発生頻度には性差が存在し、女性において発症率が低いことが明らかにされています。このことから、女性ホルモンであるエストロゲンの働きが筋損傷に対して保護的に作用する可能性が考えられます。エストロゲンの働きは、男女ともにその特異的な受容体(エストロゲン受容体)の遺伝子多型によって調節されることから、研究チームはエストロゲン受容体の遺伝子多型が筋損傷の発症に関連するのではないかと考えました。

【内容】
まず、トップレベルの日本人アスリート1,311名を対象に、筋損傷の受傷歴とエストロゲン受容体遺伝子多型の関連を調査しました。その結果、SNPのT/C多型のCの塩基を有するアスリートでは、筋損傷の既往歴が低いことが示され、さらにCの塩基を1つ有するごとに筋損傷リスクが30%低下することを明らかにしました(図1)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/72/resize/d21495-72-497702-1.jpg ]

次に、このメカニズムを検討するため、筋損傷の危険因子である筋スティフネスに着目しました。成人男女261名を対象に、超音波剪断波エラストグラフィによって筋スティフネスを評価しT/C多型との関連を検討しました。その結果、筋損傷のリスクが低いCの塩基を有する対象者は、筋スティフネスが低いことを明らかにしました(図2)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/72/resize/d21495-72-849375-0.jpg ]

これらの研究結果は、エストロゲン受容体遺伝子多型のCの塩基を有する者では、筋スティフネスが低く、その結果として筋損傷の受傷率が低いことを示唆しています。本研究成果は、遺伝要因を考慮したスポーツ傷害の予防法の確立に寄与すると考えられます。また、近年、ストレッチをすることによる筋スティフネスの低下は一過性にパフォーマンスを低下させるといった知見から、練習などにおいてストレッチをしない選手も散見されますが、本研究成果は、筋損傷の予防には日常的なストレッチが重要であることも示唆しています。

【今後の展開】
近年、世界的にスポーツ傷害に関連する遺伝要因を解明することの重要性が指摘されており、その背景としてトレーニングなどの外的要因のみを考慮したアプローチのみでは傷害発症を抑制できていない点が挙げられます。本研究では、筋損傷リスクにおける遺伝要因の一部にエストロゲン受容体の遺伝子多型が関連することを明らかにしました。このことは、トレーニングなどの外的要因と遺伝子多型といった内的要因の両方を考慮した筋損傷予防プログラムの確立に貢献できる可能性があります。一方で、本研究では遺伝要因の一部を解明したに過ぎません。多数の遺伝子多型が筋損傷に関連していると考えられているので、多角的なアプローチにより遺伝要因の全貌を明らかにする必要があります。今後は、スポーツ傷害に関連する多くの遺伝要因を明らかにし、外的要因だけでなく遺伝子多型といった内的要因も考慮した新たなスポーツ傷害の予防プログラム確立に繋げていきたいと考えています。

【用語解説】
*1 エストロゲン受容体:エストロゲン受容体は、女性ホルモンであるエストロゲン作用の担い手である。エストロゲン受容体は、子宮や卵巣だけでなく、骨格筋や脳といった様々な組織に広く発現している。
*2 T/C遺伝子多型(SNP): 個人間の塩基配列には多様性があり、DNAの塩基配列上の同じ場所でも、個人毎に異なる配列となっている部位がある。この異なる塩基配列を一般的に遺伝子多型という。エストロゲン受容体遺伝子(ESR1)上に塩基のチミン(T)かシトシン(C)かの遺伝子多型があり、この多型の有無でエストロゲン受容体の発現量が異なると考えられている。図のrs2234693という番号は、全世界で統一されたSNPのIDである。本研究で解析したESR1 T/C多型にもrs2234693というIDが付加されており、このIDにより多数あるSNPの中からどのSNPかを簡便に特定することができる。
*3 筋スティフネス:筋肉の伸びにくさの指標。本研究では、超音波ビームを筋肉に当てた際に発生する振動が伝わる速度をもとに評価しているため、皮膚や皮下脂肪の厚さ・硬さなどの影響を受けない。この値が高いことは筋肉が硬い・伸びにくいことを意味する。単位はkPaであり、値が高いほど筋肉が硬いことを意味する。

論文タイトル: ESR1 rs2234693 polymorphism is associated with muscle injury and muscle stiffness
タイトル日本語訳:エストロゲン受容体遺伝子におけるrs2234693多型は筋損傷や筋スティフネスに関連する
著者: Hiroshi Kumagai, Eri Miyamoto-Mikami, Kosuke Hirata, Naoki Kikuchi, Nobuhiro Kamiya,
Seigo Hoshikawa, Hirofumi Zempo, Hisashi Naito, Naokazu Miyamoto, Noriyuki Fuku
著者名(日本語表記): 熊谷仁1,2)、宮本(三上)恵里3) 、平田浩祐3)、菊池直樹4)、神谷宣広5) 、星川精剛1,6) 、膳法浩史7) 、内藤久士1) 、宮本直和3) 、福典之1)
所属先(日本語表記): 1)順天堂大学、2)日本学術振興会、3)鹿屋体育大学、4)日本体育大学、5)天理大学、 6)江戸川大学、 7)東京聖栄大学
掲載誌: Medicine & Science in Sports & Exercise、Published online 15 August 2018
DOI: 10.1249/MSS.0000000000001750

本研究は、文部科学省科学研究費補助金(JP15H03081)、 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業ならびに中冨健康科学振興財団の支援を受け実施されました。

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