ビール酵母細胞壁を活用した新素材の抗がん作用を確認
PR TIMES / 2022年6月8日 17時40分
アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社と有限会社桂鉱社の共同研究
アサヒグループホールディングス株式会社(本社 東京、社長 勝木敦志)の独立研究子会社であるアサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社(社長 佐見学)は、有限会社桂鉱社との共同研究により、ビール酵母細胞壁と石英斑岩を混合した物質が、乳がん細胞の細胞死を誘導することを確認しました。
この研究成果は6月19日「第22回日本抗加齢医学会総会」において学会発表されます。今回の研究成果について今後詳細なメカニズムを解明することで、副作用や苦痛を伴わない新規のがん治療法として活用できる可能性が示されました。
【研究の背景】
・ビール酵母細胞壁とは、ビール製造工程で発生する副産物です。発酵終了後のビール酵母の最外側に細胞を殻のように覆う部分で主な構成成分は多糖(β-グルカン、マンナン)やタンパク質などです。アサヒグループでは、長年ビール酵母の研究に取り組んでおり、ビール酵母細胞壁は、植物の成長や免疫力を高めることから農業資材(肥料原料)などに活用されています。本研究はビール酵母細胞壁の新たな機能性を検証するために開始しました。
・石英斑岩とは、鉄のケイ酸化合物(※1)を主成分とした鉱物であり、粉砕・加工してスラリー状(※2)にすることにより、抗酸化力が高く対象物の酸化還元電位(※3)を下げることができるようになります。
・ビール酵母細胞壁と石英斑岩を掛け合わせた新素材を活用し、がんや糖尿病など酸化ストレスに起因する生活習慣病に対して有効性があると仮定し検証しました。
【研究概要・ポイント】
・ビール酵母細胞壁に過熱水蒸気を用いて水熱反応(※4)させたものと、石英斑岩を粉砕・加工したスラリーを混ぜ合わせた素材(以下、還元性スラリーと表記します)を作成しました。乳がん細胞を培養した樹脂容器の外側に還元性スラリーを入れて3日間放置したところ、乳がん細胞がほぼ死滅したことが確認できました(還元性スラリーと乳がん細胞は直接接触していないにもかかわらず乳がん細胞が死滅しました)。
・同じ条件で、正常細胞を培養した樹脂容器の外側に還元性スラリーを入れたところ、正常細胞にはほとんど影響がなかったことから、周りの正常細胞には障害を与えず、がん細胞を選択的に死滅させることが確認できました。
・同様の実験系で、乳がん細胞だけでなく、子宮頸がん細胞、急性白血病細胞、悪性黒色腫細胞、胃がん細胞、慢性骨髄性白血病細胞、膵臓がん細胞、子宮膜がん細胞、甲状腺がん細胞、肝臓がん細胞への有効性も確認済みです。
※1)ケイ素、酸素、水素が含有された物質
※2)固体を液体の中に懸濁させた泥状の懸濁液
※3)ある物質が酸化する力が強いのか、あるいは還元する力が強いかという酸化還元力のレベルを表す指標
※4)沸点を超える温度に加熱した蒸気を用い、高温・高圧の水が共存する条件で化学反応させること
【今後の展開】
・ビール酵母細胞壁の新たな機能として、今後、詳細なメカニズムを解明することで、新たながん治療の開発につなげていきたいと考えています。
・がん治療にはさまざまな方法がありますが、多くはがん細胞だけではなく周囲の正常細胞にも作用することや、投与によって副作用があるという課題があります。
・今回の研究では、自然由来の成分を使用していることや、正常細胞に影響を与えず、がん細胞だけを死滅させること、また、ビール酵母細胞壁と石英斑岩を用いた物質と、がん細胞の培地は非接触で、がん細胞を死滅させる効果が認められたことから、体内に投与することなく皮膚の上から湿布のような形で患部に接触させる、苦痛を伴わない新規のがん治療法としての可能性があります。
アサヒグループの研究開発は酒類、飲料、食品の商品開発に加え、優れた健康素材の探索、食の安全を支える分析技術や品質保証技術、さらに新たな事業をつくる技術の開発にも及びます。また豊かで持続可能な社会を実現するため、環境に配慮した容器開発、副産物活用、環境保全に向けた微生物の活用なども推進しています。持続可能な社会の発展に貢献し、アサヒグループのミッション「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」の実現に向けて、より良い技術・新たな知見を探究し続けます。
【学会発表要旨】
■ビール酵母細胞壁水熱反応物と石英斑岩を混合した還元性スラリーによる、非接触系での乳がん細胞の細胞死誘導
【目的】ビール酵母細胞壁水熱反応物と石英斑岩を混合した還元性スラリーは樹脂等を隔てて培地及び培養細胞の酸化還元電位を低下させ溶存酸素量を低下させる。これらの環境変化がヒト乳がん細胞(MCF-7)および正常ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF)に与える影響を評価する。
【方式】1.還元性スラリーがヒト乳がん細胞の増殖に及ぼす影響:MCF-7、NHDFをそれぞれトリプルウェルディッシュに播種しウェルの隙間にスラリーを加え(スラリーと細胞はウェル樹脂に隔てられ非接触)3日間培養後、顕微鏡観察を行った。2.混合3D培養がんモデルにおいて還元性スラリーがヒト乳がん細胞の増殖に及ぼす影響:NHDFをTCインサート内で培養後、NHDFとMCF-7の混合液を播種し、MCF-7の細胞塊が形成されるまで培養した。24ウェルプレートに充填したスラリーにTCインサートを埋没させ3日間培養後、顕微鏡観察を行った。3.還元性スラリーが細胞の遺伝子発現に及ぼす影響:MCF-7またはNHDFを播種した35mmディッシュをスラリーに充填した10cmディッシュに埋没させ、6時間または18時間培養した。RNAを抽出しTaqMan Array Cardを使用し遺伝子の発現量を測定した。
【結果】1.MCF-7はほぼ完全に死滅したのに対し、NHDFに大きな影響は無く生存した。2.NHDF細胞には影響が無く、MCF-7細胞のみ障害を受け縮小または消滅した。3.MCF-7においては6時間後に細胞骨格、細胞分裂関連の遺伝子を中心に発現が低下し18時間後には概ね回復した。NHDFにおいては6時間後に多くの遺伝子の発現が上昇し18時間後には対照と同水準となった。
【結論】還元性スラリーは樹脂で隔てられた非接触の状態でMCF-7の遺伝子発現を低下させ、MCF-7の修復機構が働くものの回復できず最終的には細胞死が誘導される。一方、NHDFはスラリーのストレスに対して修復機構が素早く働くため18時間後には正常状態に戻り細胞死を起こさないと考えられた。体内に投与することなく皮膚の上から湿布のような形で患部に接触させる、苦痛を伴わない新規のがん治療法としての可能性が示唆された。
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