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iPS細胞由来の免疫キラーT細胞を用いることで悪性リンパ腫の治癒に成功

PR TIMES / 2019年7月27日 5時40分

~難治性NK細胞リンパ腫に対する新規細胞治療法へ期待~

順天堂大学医学部内科学教室・血液学講座の安藤美樹 准教授、小松則夫 教授、東京大学医科学研究所幹細胞治療部門の中内啓光 特任教授らの共同研究グループは、機能的に若返ったiPS細胞由来キラーT細胞(注1)が、長期間にわたりマウス生体内で生存できることを証明しました。そして、末梢血由来のT細胞とは異なり、iPS細胞由来のエプスタイン・バール(EB)ウイルス(注2)特異的キラーT細胞(注3)が、極めて難治性のリンパ腫であるNK細胞リンパ腫(注4)の増殖を長期間にわたって強力に抑え続けることを見出し、NK細胞リンパ腫を治癒することに成功しました。この成果は、難治性NK細胞リンパ腫の再発例、重症例に対するiPS細胞由来T細胞を用いた新規治療法の開発に大きく道を開く可能性を示しました。本研究はヨーロッパ血液学会雑誌であるHaematologica オンライン版に2019年7月11日付けで先行公開されました。



【本研究成果のポイント】


iPS細胞由来キラーT細胞は、難治性NK細胞リンパ腫に対して強力な抗腫瘍効果を持つことを証明しました。
細胞治療後、末梢血由来のT細胞は疲弊してリンパ腫が増大してしまうのに対して、iPS細胞由来キラーT細胞は長期間マウス体内で生存してリンパ腫の再発を防ぎ続けました。
iPS細胞由来抗原特異的キラーT細胞療法は難治性NK細胞リンパ腫の再発例、重症例に対する新規治療法として大いに期待できます。


【背景】
EBウイルスの感染をきっかけに発症するEBウイルス関連リンパ腫はアジアに多く、 概して予後不良で難治性のリンパ腫(血液のがん)です。特にNK細胞リンパ腫は通常の抗がん剤治療が効かず、進行期では全身の臓器に急速に浸潤して死に至る極めて悪性のリンパ腫です。研究グループは、2005年にL-アスパラギナーゼがNK細胞リンパ腫に対して強い抗腫瘍効果があることを発見し、その後日本臨床腫瘍研究グループの臨床研究を経て、L-アスパラギナーゼを含む抗がん剤治療が進行期NK細胞リンパ腫の世界的標準治療となりました。しかし未だ多くの再発例と不応例が存在し、その場合には有効な救援療法がないのが課題となっています。
NK細胞リンパ腫の患者体内にはEBウイルス特異的キラーT細胞の数が少ないことから、末梢血から取り出したキラーT細胞を体外で増幅し、再び患者体内に戻して腫瘍を攻撃する細胞治療が有効であると考えられます。しかし、末梢血由来のキラーT細胞は老化などの影響で疲弊し、想定の治療効果が得られないことがしばしばあり、実用化には壁がありました。
iPS細胞の登場により、近年再生医療は飛躍的な進歩をしています。研究グループは2013年に末梢血から樹立したiPS細胞をもとに、機能的に若返ったウイルス抗原特異的キラーT細胞を作成することに成功しました。そこで、本研究ではこの「iPS細胞由来若返りキラーT細胞」が、難治性のNK細胞リンパ腫を治すことができるのかを確認することを目的に検証を行いました。

【内容】
研究グループは、NK細胞リンパ腫患者と健常人ドナーよりiPS細胞由来EBウイルス抗原特異的キラーT細胞を作成し、難治性リンパ腫であるNK細胞リンパ腫に対する抗腫瘍効果を確かめました。
まず、NK細胞リンパ腫患者の末梢血よりEBウイルス抗原特異的キラーT細胞を取り出し、iPS細胞にしたあと、再びT細胞へ分化誘導して若返りキラーT細胞を作成しました。このように作成したiPS細胞由来若返りEBウイルス抗原特異的キラーT細胞は、NK細胞リンパ腫細胞株に対し強力な細胞傷害活性を示しました。
次に、若返ったキラーT細胞が生体内でどれぐらいの期間生存可能で、かつ、リンパ腫の再増殖を抑制できるのかを調べました。生体内での抗腫瘍効果を確認するために、免疫不全マウスに患者由来NK細胞リンパ腫細胞株を腹腔内注射し、4日後にHLA(注5)の一致した「末梢血由来キラーT細胞」もしくは「iPS細胞由来若返りキラーT細胞」で治療しました。その結果、3週間後と治療開始時の腫瘍量の比較では、「末梢血由来キラーT細胞」と「iPS細胞由来若返りキラーT細胞」それぞれで治療したマウスグループのいずれも有意な腫瘍増大抑制効果を認めました。しかしながら、長期間(~6か月)における生存率の比較では、「末梢血由来キラーT細胞」には生存期間延長効果は認められませんでした。一方で「iPS細胞由来若返りキラーT細胞」では長期間(治療後6か月)にわたって有意な生存期間延長効果を認めました。
そこで、「iPS細胞由来若返りキラーT細胞」で治療後、211日もの長期間生存しているマウスを安楽死後解剖し、全身の臓器を確認したところNK細胞リンパ腫は残存しておらず、治療によって治癒していることがわかりました。さらに、末梢血には幼若なメモリーT細胞(注6)が検出できました。以上の結果より、マウスに注射した「iPS細胞由来若返りキラーT細胞」はリンパ腫が治癒した後も生体内で生存を続け、メモリーT細胞としてリンパ腫の再発を予防していたことが確認できました【図1】。
[画像: https://prtimes.jp/i/21495/119/resize/d21495-119-347301-0.jpg ]

【今後の展開】
今回の研究により、iPS細胞由来若返りキラーT細胞を用いた細胞療法が極めて難治性のNK細胞リンパ腫の強力な新規治療法となる可能性を示唆しました。L-アスパラギナーゼを含む標準治療に不応性であった場合、もしくは再発した場合にも有効な救援療法になることが期待できます。
また、投与したiPS細胞由来若返りキラーT細胞が生体内で長期にわたって生存し、腫瘍を排除し続けるという結果はT細胞の若返りという意味でも非常に有望であり、本研究グループが計画を進めている「EBウイルス関連リンパ腫に対するiPS細胞由来若返りT細胞療法」の臨床研究実現化に向けた大きな加速が予想されます。
さらに、このiPS細胞由来若返りキラーT細胞療法の大きな利点として、ひとたび末梢血からキラーT細胞のiPS細胞を樹立しておけば、治療用T細胞の必要時にいつでも無限に供給できるということがあります。この利点を最大限生かした臨床研究を近い将来実現したいと考えています。

【用語解説】
(注1)機能的に若返ったiPS細胞由来キラーT細胞
iPS細胞技術は細胞の若返り法の一つと言える。この手法を利用して腫瘍と反応する末梢血中の免疫キラーT細胞からiPS細胞を作成し、再びT細胞を分化させることにより、腫瘍を攻撃する若いキラーT細胞を無限に供給することが可能になる。

(注2)エプスタイン・バール(EB)ウイルス
ヒトヘルペスウイルス科に属するウイルスの一種で、伝染性単核球症などの急性感染症を引き起こすのみならず、バーキットリンパ腫や上咽頭癌ではほぼ100%感染しており、ホジキンリンパ腫、NK細胞リンパ腫でも多くの症例で感染を認め、様々な腫瘍の発症に関わることが知られている。

(注3)キラーT細胞 (抗原特異的細胞傷害性T細胞)
免疫細胞であるTリンパ球の中でも、ウイルス抗原や腫瘍抗原を認識し、異常細胞を攻撃するリンパ球。患者のウイルス特異的細胞傷害性T細胞を体外で増幅し、患者体内に戻す養子免疫T細胞療法は、重症ウイルス感染症やウイルス関連腫瘍に有効である。

(注4)NK細胞リンパ腫 (節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型)
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は腫瘍やウイルス感染細胞の除去に働くリンパ球で、NK細胞リンパ腫はNK細胞ががん化(腫瘍化)したもの。 EBウイルスの感染をきっかけにがん化する。

(注5)HLA (Human Leukocyte Antigen)
白血球にはABO血液型よりも複雑なヒト白血球抗原 (HLA:Human Leukocyte Antigen)と言われる型があり、造血幹細胞移植や免疫細胞療法の際の免疫反応に重要な役割を果たす。

(注6)メモリーT細胞
抗原と出会う前のナイーブT細胞が抗原認識により活性化するとエフェクターT細胞となり、エフェクターT細胞の一部はメモリーT細胞として長期生存し次の抗原暴露に備える。2回目の抗原暴露があるとメモリーT細胞はすぐにエフェクターT細胞となり最初の抗原暴露に比較し早く効率よく反応できる。

【原著論文】
本研究はヨーロッパ血液学会雑誌であるHaematologica オンライン版(http://www.haematologica.org/content/early/2019/07/09/haematol.2019.223511)に2019年7月11日付けで先行公開されました。
論文タイトル:“Long-term eradication of extranodal NK/T cell lymphoma, nasal type, by induced pluripotent stem cell-derived Epstein-Barr virus-specific rejuvenated T cells in vivo”
論文タイトル(日本語訳):「iPS細胞由来EBウイルス特異的若返りT細胞のin vivoでの長期NK細胞リンパ腫排除」
著者: Miki Ando1,2, Jun Ando1, Satoshi Yamazaki2, Midori Ishii1,Yumi Sakiyama2, Sakiko Harada1, Tadahiro Honda1, Tomoyuki Yamaguchi2, Masanori Nojima3, Koichi Ohshima4, Hiromitsu Nakauchi2,5, and Norio Komatsu1
著者(日本語表記): 安藤美樹1,2、安藤純1、山崎聡2、石井翠1 、崎山祐未2、原田早希子1 、本田匡宏1 、山口智之2、野島正寛3、大島孝一4、中内啓光2,5、小松則夫1
所属: 1順天堂大学医学部血液学講座、2東京大学医科学研究所幹細胞治療部門、3東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター、4久留米大学医学部病理学教室、5スタンフォード大学医学部幹細胞生物学・再生医療研究所
DOI: 10.3324/haematol.2019.223511

本研究はJSPS科研費JP15J40133およびJP16K09842の助成を受け実施されました。
また、本研究に協力頂きました患者さまのご厚意に深謝いたします。

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