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潰瘍性大腸炎の新たな病態メカニズムを解明

PR TIMES / 2020年8月7日 15時15分

~ IL-26を産生する免疫CD8 T細胞の発見 ~

順天堂大学大学院医学研究科 免疫病・がん先端治療学講座の波多野良 特任助教、森本幾夫 特任教授らと消化器内科学講座の石川大 准教授らの研究グループは英国オックスフォード大学のAlison Simmons教授らとの国際共同研究により、潰瘍性大腸炎(*1)の新たな病態メカニズムを解明しました。



今回の研究では、潰瘍性大腸炎の患者検体の炎症部位に集積する細胞の性質を詳しく調べたことで、大腸の炎症部位では免疫CD8 T細胞(*2)が14もの異なる細胞集団を形成していることを明らかにしました。さらに、それらの細胞集団の中で、炎症症状関連因子であるIL-26(インターロイキン26)*3を産生するCD8 T細胞が著しく増加していることを発見しました。IL-26は、これまで主にCD4 T細胞によって産生されることが知られていましたが、今回の研究により大腸ではIL-26がCD8 T細胞によっても産生されることが初めて明らかになりました。このことはCD8 T細胞の産生するIL-26が大腸炎における重要な炎症関連因子であることを示しており、IL-26を標的とした潰瘍性大腸炎の治療法開発につながることが期待されます。本研究結果は英国Nature Publishing Group発行の学術誌「Nature Medicine」オンライン版で公開されました。

本研究成果のポイント


潰瘍性大腸炎の炎症部位では免疫CD8 T細胞が14もの異なる細胞集団を形成していた。
特にIL-26を産生する免疫CD8 T細胞の数が著しく増加していた。
IL-26を標的とした潰瘍性大腸炎の治療法開発につながる成果。


背景
難病指定疾患である潰瘍性大腸炎は、激しい下痢や血便、強い腹痛や発熱などを主な症状とし、増悪と寛解を繰り返す治癒が難しい自己免疫疾患(*4)です。国内では、近年毎年1万人の新規患者が発生しており、現時点で20万人を超え、米国に次いで世界で2番目に多い状況となっています。免疫抑制剤や生物学的製剤の登場により、病状がおだやかになる寛解にいたる率は飛躍的に向上したものの、小児や高齢発症患者には使用しづらく、さらに治療が長期に及ぶと、免疫を抑えることで懸念される感染症等の副作用や、医療費の高額化などの問題が発生するため、疾患メカニズムのさらなる解明と根本的な治療法の開発が求められています。
潰瘍性大腸炎では大腸の粘膜層に存在する免疫CD4 T細胞の異常とともに、免疫CD8 T細胞による組織障害の関与が考えられていますが、どのような免疫反応がどのように炎症反応に関わっているのか不明でした。そこで本研究では、潰瘍性大腸炎の病態メカニズムを明らかにする目的で、国際共同研究により患者の炎症部位に集積するCD8 T細胞の性状解析と遺伝子の発現解析を行いました。

内容
本研究では、オックスフォード大学病院で内視鏡検査を受けた潰瘍性大腸炎患者および健常者の大腸生検組織を用いて研究を行いました。大腸の組織から細胞を抽出し、細胞を分離するセルソーターを用いてCD8 T細胞を分取した後、シングルセルRNAシーケンス(*5)によりCD8 T細胞の遺伝子発現パターンを1細胞レベルで解析しました。腸管は食物由来の雑多な外来抗原やアレルギー起因物質、病原性微生物などに常に曝されている場所であり、全身の免疫系とは異なる特殊な免疫細胞によって独自の生体防御システムを備えていることが知られていましたが、この解析により、大腸に局在するCD8 T細胞が14もの非常に多様な細胞集団を形成していることを明らかにしました(図1左)。さらに、潰瘍性大腸炎と健常者の比較を行ったところ、潰瘍性大腸炎では大腸に常在するメモリーCD8 T細胞の割合が著しく減少していた一方で、IL-26を産生するCD8 T細胞と活性化した細胞傷害性CD8 T細胞の割合が大きく増加していることを見出しました(図1右)。IL-26は免疫細胞が産生する炎症関連因子の一つで、これまでに主にCD4 T細胞によって産生されることが報告されていましたが、大腸にはIL-26を産生するCD8 T細胞が存在し、潰瘍性大腸炎ではその細胞集団が著しく増加していることがわかりました。
[画像: https://prtimes.jp/i/21495/201/resize/d21495-201-207381-0.jpg ]

以上の結果から、炎症関連因子IL-26が大腸ではCD8 T細胞によっても産生されていることが初めて明らかとなり、潰瘍性大腸炎の炎症にIL-26が大きく関わっている可能性が示唆されました。現在、T細胞が原因で慢性的な大腸炎を発症する潰瘍性大腸炎の病態を模倣したマウスモデルを用いて、大腸炎の発症・悪化にこのIL-26産生CD8 T細胞がどのように関わっているか、病態メカニズムの詳細な解析を進めています。

今後の展開
研究グループは、慢性的な皮膚炎症疾患である乾癬において、IL-26が炎症を悪化させる因子であることを明らかにしています。今回発見したIL-26産生CD8 T細胞の炎症における役割を明らかにすることで、治癒が極めて難しい潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患が発症・悪化するメカニズムのさらなる解明につながることが期待されます。研究グループは、このIL-26の作用を抑制することができるヒト化抗体(*6)の作製を進めており、IL-26を標的とした難治性の自己免疫疾患・慢性炎症疾患に対する新たな治療法の臨床応用を目指していきます。

用語解説
*1 潰瘍性大腸炎 (かいようせいだいちょうえん): 激しい下痢や血便、強い腹痛や発熱などの症状が慢性的にみられ、増悪と寛解を繰り返す慢性的な腸疾患。主な原因はまだわかっていない。
*2 免疫CD8 T細胞: 免疫細胞の一つであるT細胞はCD4 T細胞とCD8 T細胞に分けられる。活性化したCD8 T細胞はキラーT細胞(細胞傷害性T細胞)と呼ばれ、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を生体内から排除する。
*3 IL-26 (インターロイキン-26): 炎症を誘導する物質の一つと考えられており、数種のヒトの細胞や組織から産生されることが確認されているが、主に免疫細胞から産生される。
*4 自己免疫疾患: 異物の侵入を防いだり、除去する免疫細胞が自分の正常な組織や細胞を攻撃してしまう疾患で、潰瘍性大腸炎、クローン病、乾癬、関節リウマチ、膠原病など様々な疾患がこの枠組みに入る。
*5 シングルセルRNAシーケンス: サンプル中に含まれる1細胞ごとの遺伝子発現を網羅的に解析することができる実験手法で、細胞集団がどのような細胞で構成されているかを分類でき、それぞれの性質を解析することも可能。
*6 ヒト化抗体: 実験動物で作製した抗体をヒトに投与すると異物として認識されてしまうため、遺伝子工学の手法を用いて抗原と直接接触する領域以外はヒトの抗体のアミノ酸配列に置き換えた抗体。

原著論文
本論文は英国Nature Publishing Group発行の学術雑誌Nature Medicine (https://www.nature.com/nm/) のオンライン版に2020年8月3日付で公開されました。
論文タイトル: Single-cell atlas of colonic CD8+ T-cells in ulcerative colitis
タイトル日本語訳: 潰瘍性大腸炎における大腸CD8 T細胞のシングルセル解析
著者: Corridoni D, Antanaviciute A, Gupta T, Fawkner-Corbett D, Aulicino A, Jagielowicz M, Parikh K, Repapi E, Taylor S, Ishikawa D, Hatano R, Yamada T, Xin W, Slawinki H, Bowden R, Napolitani G, Brain O, Morimoto C, Koohy H, Simmons A
著者(日本語表記): Corridoni D1,2, Antanaviciute A1,3, Gupta T1,2, Fawkner-Corbett D1,2, Aulicino A1,2, Jagielowicz M1,2, Parikh K1,2, Repapi E4, Taylor S4, 石川大5, 波多野良6, 山田健人7, Xin W8, Slawinki H9, Bowden R9, Napolitani G1, Brain O2, 森本幾夫6, Koohy H1,3, Simmons A1,2
所属:1 Medical Research Council (MRC) Human Immunology Unit, John Radcliffe Hospital, University of Oxford、2 Translational Gastroenterology Unit, John Radcliffe Hospital 、3 MRC WIMM Centre for Computational Biology, John Radcliffe Hospital, University of Oxford 、4 Computational Biology Research Group, John Radcliffe Hospital, University of Oxford 、5 順天堂大学医学部 消化器内科学講座、6 順天堂大学大学院医学研究科 免疫病・がん先端治療学講座、7 埼玉医科大学 病理学、8 Department of Pathology, Case Western Reserve University、9 Wellcome Trust Centre for Human Genetics, University of Oxford
DOI : 10.1038/s41591-020-1003-4

本研究は、英国オックスフォード大学のAlison Simmons教授らとの国際共同研究として、厚生労働省科研費(労災疾病臨床研究事業費補助金: 課題番号180101-01)、JSPS科研費基盤研究(B) (課題番号JP16H05345(森本), JS PS科研費基盤研究(C) (課題番号JP17K10008(波多野), JP16K09328(石川))などの支援を受け実施されました。
また、本研究に協力頂きました患者さんのご厚意に深謝いたします。

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