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オートファゴソームの膜が伸長する仕組みを解明

PR TIMES / 2021年1月14日 18時45分

~ オートファゴソーム形成にはAtg9によるリン脂質の膜横断輸送が関わる ~

順天堂大学大学院医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センターの藤本豊士 特任教授、辻琢磨 特任助教らの研究グループは、細胞が自己成分を分解するオートファジー(*1)の際にできるオートファゴソーム膜(*2)が伸長する際、リン脂質(*3)が脂質二重層(*4)の両層に均等に取り込まれる仕組みを明らかにしました。研究グループは電子顕微鏡の特殊な方法を用いて、リン脂質がオートファゴソーム膜の両層にほぼ均等に分布することを示しました。次に、新たに合成されたリン脂質だけを標識する方法を使って、リン脂質は合成後30分以内にオートファゴソーム膜両層に同程度に取り込まれることや、Atg9というタンパク質に変異があるとその取り込みに偏りが生じることを見出しました。この結果は、先に同研究グループが報告したAtg9の脂質スクランブル活性(*5)が実際に細胞内でも作動していることを示したものであり、オートファジーの仕組みに関する長年の謎の一つを解明した成果と言えます。本論文はJournal of Cell Biology誌のオンライン版に2021年1月13日付で公開されました。



本研究成果のポイント


オートファゴソーム膜のリン脂質は脂質二重層の両層に対称性に分布する
新規合成されたリン脂質は合成後30分以内にオートファゴソーム膜の両層に取り込まれる
Atg9に変異があるとリン脂質のオートファゴソーム膜への取り込みに偏りが生じる


背景
栄養飢餓に陥った細胞では自己成分を貪食分解するオートファジーという現象が起こります。この際、オートファゴソーム(初期段階は隔離膜と呼ばれる)という新たな膜が形成されますが、その膜を形作るリン脂質の大部分は小胞体(*6)で合成され、オートファゴソームに輸送されます。このとき小胞体からオートファゴソームに運ばれたリン脂質は、オートファゴソーム膜の脂質二重層の細胞質側の層だけに供給されるため、オートファゴソーム膜が伸長するためには、脂質二重層の反対側の層(細胞質に面していない層)にもリン脂質が運ばれる必要があります。しかしオートファゴソーム膜の細胞質側から反対側にリン脂質を輸送する仕組みは不明でした。最近になってAtg9というタンパク質が脂質スクランブル活性を持つことが試験管内の実験で見出され、オートファゴソーム膜を横断するリン脂質の輸送に関与する可能性が示唆されました。しかし、細胞内でのリン脂質の動きを調べることは難しいため、 Atg9が実際にオートファゴソーム膜でリン脂質の輸送に関わるかどうかは分かっていませんでした。そこで、本研究では電子顕微鏡でリン脂質の分布を詳細に観察できる特殊な方法を用いて解析を行いました。

内容
細胞内のタンパク質の分布を調べる際には、細胞を薬剤処理してタンパク質の動きを止め、その後に様々な方法でタンパク質に目印をつけて顕微鏡観察する方法が使われています。一方、脂質に関しては薬剤処理で動きを止めることができないため、正確な分布を知ることが困難でした。この問題を解決するため、研究グループは急速凍結(*7)した細胞を用いて脂質を物理的に固定する凍結割断レプリカ法(*8)を用いて、電子顕微鏡で脂質の分布を観察する方法を開発してきました。オートファゴソームは内膜、外膜という2枚の膜で作られ、それぞれが脂質二重層の構造を取るため合計4層が存在しますが、この方法を用いることで個々の層を詳細に解析することができます。今回、凍結割断レプリカ法で出芽酵母(*9)のオートファゴソーム膜のリン脂質分布を解析した結果、内膜、外膜ともに、脂質二重層の両層にはリン脂質がほぼ同じ密度で存在すること、すなわちリン脂質が対称性に分布することが分かりました。ついで新しく合成されたリン脂質だけを特異的に標識する方法を用いて調べたところ、合成後30分以内にすでにオートファゴソーム膜の両層に対称性に分布することが分かりました(図1)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/255/resize/d21495-255-528479-1.jpg ]

リン脂質は小胞体で合成されたあとオートファゴソーム膜の細胞質側の層に運ばれることが知られていますが、上記の結果はオートファゴソーム膜の細胞質側の層から反対側の層への輸送が30分以内に起こることを示しています。さらに正常なAtg9を欠損し、かわりにAtg9の変異体を発現する細胞では、細胞質と反対側の層への新規合成リン脂質の取り込みが減少することが分かりました。これらの結果は、オートファゴソーム膜が形成される際には、リン脂質が非常に効率的に膜を横断するように輸送され、その輸送にはAtg9が関わることを示しています(図2)。このような輸送によって、オートファゴソーム膜の脂質二重層の両層に均等にリン脂質が供給され、オートファゴソーム膜の伸長が起こると考えられます。

[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/255/resize/d21495-255-219111-0.jpg ]

今後の展開
オートファゴソーム膜が大きくなるメカニズムの概要は分かってきましたが、まだ様々な謎が残されています。たとえば今回の研究では新しく合成されたリン脂質は、合成の場である小胞体の膜にはごくわずかしか残らず、ほとんどがオートファゴソーム膜に輸送されることも分かりました。オートファジーが起きていない状態の細胞では、新規合成リン脂質は小胞体にもっとも多く分布するので、オートファジーの際には何らかの特別なメカニズムが働いてオートファゴソームに選択的にリン脂質が輸送されるのだろうと考えられます。また哺乳類細胞には出芽酵母のAtg9と同様の分子機能を持つATG9Aがありますが、オートファゴソーム膜のリン脂質の分布には違いがあり、この差がなぜ生じるのかはよく分かっていません。これらの謎の解明をふくめ、今後の研究でさらに詳細な分子機構が解明され、オートファジーの異常を原因とする様々な疾患の病態・病因の解明に結びつくことが期待されます。

用語解説
*1 オートファジー:細胞が自己成分を分解する現象。自食作用とも呼ばれる。
*2 オートファゴソーム:オートファジーの際、自己成分を取り囲む袋状の構造。内外2枚の生体膜からなる。
*3 リン脂質:脂質の種類のひとつ。リン酸基を持つ親水性部分と脂肪酸でできた疎水性部分からなる。
*4 脂質二重層:生体膜の基本構造。リン脂質が疎水性部分を向かい合わせるように2層に配列して作られる。
*5 脂質スクランブル活性:生体膜の脂質二重層の両層間のリン脂質の移動を促進する活性。
*6 小胞体:細胞内小器官の1つ。様々なタンパク質、脂質を合成する場である。
*7 急速凍結:細胞を急速に凍結して、細胞の構造や分子の分布をそのまま保存するための方法。
*8 凍結割断レプリカ法:凍結した細胞を約−100℃の極低温で割断し、白金と炭素の極微粒子の薄膜で割断面をコートして物理的に固定する方法。
*9 出芽酵母:遺伝子操作が簡単で真核細胞のモデルとして頻用される。パン酵母、ビール酵母などは出芽酵母である。

原著論文
本研究はJournal of Cell Biology誌でオンライン公開されました(2021年1月13日付) 。
タイトル: Transmembrane phospholipid translocation mediated by Atg9 is involved in autophagosome formation
タイトル(日本語訳):オートファゴソーム形成にはAtg9によるリン脂質の膜横断輸送が関わる
著者: Minami Orii†,1), Takuma Tsuji†,2), Yuta Ogasawara2), and Toyoshi Fujimoto2)
著者(日本語表記): 折井みなみ†,1)、辻琢磨†,2)、小笠原裕太2)、藤本豊士*,2) [†:共同第一著者、*:責任著者]
著者所属:1) 名古屋大学医学系研究科 分子細胞学分野、2) 順天堂大学医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センター 分子細胞学分野
DOI: 10.1083/jcb.202009194

本研究はJSPS科研費JP15H05902, JP18K15004, JP18H04023, JP19K07265, JP20H05339の支援を受けて実施されました。本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。

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