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炎症を抑え皮膚の恒常性を維持するメカニズムを解明

PR TIMES / 2021年9月6日 19時45分

~皮膚バリアの破綻における制御性T細胞の役割~

順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センターの高森建二 特任教授、外山扇雅 博士研究員らの研究グループは、皮膚バリア(*1)機能の破綻における制御性T細胞(Treg)*2の役割を解明しました。本研究では、洗剤の成分である界面活性剤をマウスの皮膚に塗布することにより皮膚バリア破綻モデルを作製し、その皮膚を解析した結果、Tregが真皮内に浸潤していること、その浸潤には表皮角化細胞から放出されるインターロイキン(IL-33)*3が直接関与していることを発見しました。本成果による、Tregの免疫抑制による皮膚の恒常性維持メカニズムの解明はアトピー性皮膚炎(AD)を代表とする炎症性皮膚疾患の新規治療法及び予防法の開発に繋がります。本論文はInternational Journal of Molecular Sciences誌のオンライン版で公開されました。



本研究成果のポイント


皮膚バリア機能の破綻によって皮膚が肥厚し制御性T細胞(Treg)が浸潤する
IL-33は皮膚にTregを遊走させ浸潤・集積させる
Tregは免疫抑制に働くことで炎症を起こさないようにし、皮膚の恒常性を維持する


背景
身体全体を覆う皮膚には、水分保持や有害な微生物などの異物の侵入を防ぐ「バリア機能」があり、身体の恒常性維持に重要な役割を担っています。皮膚の水分量が低下すると皮膚バリア機能が低下するドライスキンとなり、アトピー性皮膚炎や乾癬といった皮膚炎発症に繋がります。一方、Tregは免疫応答を抑制する機能を持ち、自己免疫疾患や炎症性疾患、アレルギー疾患等を引き起こす過剰な免疫応答を抑制する役割を担っています。Tregの異常によって引き起こされるIPEX症候群*4では、しばしば重度の皮膚炎が認められることから、Tregが皮膚の恒常性維持に関与していることが示唆されています。しかしながら、その詳細なメカニズム及びTregと皮膚バリアとの関係性は不明でした。そこで研究グループは、ADを代表とする炎症性皮膚疾患の新規治療法及び予防法の開発を目指し、皮膚バリア破綻におけるTregの役割を解明することを目的として、皮膚バリア破綻モデルマウスの解析を行いました。

内容
本研究では、皮膚バリア機能とTregの関係に着目し、界面活性剤(SDS)の反復塗布により皮膚バリア破綻モデルマウスを作製し、その皮膚の解析を行いました。その結果、皮膚バリア破綻処置により表皮が肥厚すると共に、Tregが浸潤していること、さらにこの時Tregは抑制性サイトカインであるIL-10 *5及びTransforming Growth Factor(TGF)- β *6を産生していることがわかりました。次に、表皮肥厚及びTregの細胞数について皮膚バリア破綻モデルにおける経時的な変化を調べました。すると、皮膚バリア破綻処置開始の翌週から表皮は肥厚し、皮膚バリア破綻処置を中止するとすぐに正常な状態に戻りました。一方、Tregは皮膚バリア破綻処置開始から3週間後に浸潤し、皮膚バリア破綻処置を中止してもすぐには減少せず、中止から2週間経って正常化しました。以上のことから、皮膚バリアが破綻するとまず表皮が肥厚し、皮膚恒常性維持のために表皮からTreg遊走因子が放出されることでTregが集積してくると考えられました。
研究グループは、Treg遊走因子候補としてIL-33に着目しました。IL-33はIL-1ファミリーに属するサイトカインであり、上皮細胞や血管内皮細胞など様々な細胞に恒常的に発現しています。皮膚においては通常表皮角化細胞の核内に発現していますが、皮膚バリア破綻モデルでは細胞質にIL-33の局在が変化していました。次に、IL-33がTregを遊走させることができるか否かを調べたところ、IL-33はこれまで知られていたTreg遊走因子よりもはるかに高い遊走能があることがわかりました。そこで、IL-33ノックアウトマウス及びIL-33中和抗体を用いて皮膚バリア破綻処置を誘導したところ、皮膚にTregが浸潤せず、IL-33がTregの浸潤に重要であることが明らかになりました。
以上の結果より、皮膚バリア破綻によりIL-33が表皮角化細胞から放出され、Tregを浸潤集積させることで炎症が起きないように皮膚の恒常性を維持していることが示唆されました(図1)。
[画像: https://prtimes.jp/i/21495/334/resize/d21495-334-e83acf4d8081af0f501e-0.png ]

今後の展開
今回、研究グループは皮膚バリアにおけるTregの役割及び浸潤メカニズムを解明しました。欧米では自己免疫疾患や臓器移植での拒絶応答を抑える新規治療法として炎症抑制機能を持つTregの移植が行われ、その有効性が示されています。今回Tregが抑制性サイトカインを産生することで皮膚恒常性維持に関与しており、炎症抑制に働いていることが示唆されたことから、アトピー性皮膚炎や乾癬等の皮膚炎においてTregの移植及びIL-10、TGF-βの補充が新規治療法として考えられます。今後は、アトピー性皮膚炎等の病変部におけるTregの詳細な役割解明に向けて研究を推し進め、皮膚炎の新たな治療法の開発を目指していきます。

用語解説
*1 皮膚バリア: 体内の水分の蒸発を防ぎ、外界からの異物(抗原・細菌など)の侵入を防御する機能。
*2 制御性T細胞(Treg): 非自己の細胞だけでなく、健康な自己の細胞も攻撃しないように自己に対する免疫応答を負に制御し、免疫系の恒常性維持に働いているT細胞。
*3 インターロイキン(IL)-33: 上皮細胞や血管内皮細胞に恒常的に発現するIL-1ファミリーに属するサイトカイン。細胞が感染や物理的・化学的なストレスにさらされて細胞死が生じた場合、核内から放出されて即時に炎症を惹起するDAMP(damage – associated molecular pattern)あるいはアラーミン(警報音)の一つ。
*4 IPEX症候群: 自己免疫疾患の一つ。責任遺伝子としてTregのマスター転写因子であるFoxp3が同定されており、Tregの異常によって引き起こされる。
*5 IL-10: おもにヘルパーT(Th2)細胞、マクロファージ、Tregなどから産生される抑制性サイトカイン。炎症性および自己免疫性の病態の予防に極めて重要な役割を果たす。
*6 Transforming Growth Factor (TGF)-β:ほとんど全ての細胞で産生される抑制性サイトカインであり、液性免疫制御において重要な役割を果たしていると言われる。

原著論文
本研究はInternational Journal of Molecular Sciences誌のオンライン版で(2021年7月7日付)先行公開されました。
タイトル: Regulatory T Cells Exhibit Interleukin-33-Dependent Migratory Behavior during Skin Barrier Disruption.
タイトル(日本語訳): 皮膚バリア破壊において制御性T細胞はインターロイキン33依存的に遊走する
著者:Sumika Toyama, Catharina Sagita Moniaga, Susumu Nakae, Masaru Kurosawa, Hideoki Ogawa, Mitsutoshi Tominaga, Kenji Takamori
著者(日本語表記): 外山扇雅1)、Catharina Sagita Moniaga1)、中江進2)、黒澤大1)、小川秀興1)、冨永光俊1)、高森建二1、3)
著者所属:1)順天堂大学環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センター、2)広島大学 統合生命科学研究科、3)順天堂大学医学部付属浦安病院皮膚科
DOI: 10.3390/ijms22147443.

本研究はJSPS科研費JP17H07096, JP19K17817,および猪之鼻奨学会助成金(IFCU-2021-06)などの支援を受け実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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