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HIV/エイズと結核の“リバウンド”――資金援助縮小の是正と現実的な取り組みが急務に

PR TIMES / 2019年10月10日 9時35分

HIV/エイズと結核――双子のように深く関連する感染症の流行を食い止める為、世界は過去10年に渡り懸命に取り組んできた。しかし今、国際社会からの支援資金は減少し、まん延国に資金負担を転嫁しようとする変化が急速に進んでいる。これにより、一部の国にこれらの疾病が再流行する“リバウンド”を引き起こしかねない事態に陥っている。

「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(グローバルファンド)は、この2つの疾病への国際社会の取り組みを支える最も重要な役割を果たしてきた組織で、日本政府が産みの親のひとつとも言われる。国境なき医師団(MSF)は、10月9日から10日にかけてフランス・リヨンで開催中のグローバルファンドの増資会合に向け、活動現場の実情を明らかにし、国際社会に向けて警鐘を鳴らす報告書(英文)を発表。援助国は、近年の対策援助の縮小傾向を速やかに是正し、支援対象国が直面する課題に応じた取り組みが必要と指摘する。報告書URL: http://bit.ly/2OE3mKd




[画像: https://prtimes.jp/i/4782/454/resize/d4782-454-180075-0.jpg ]

10年間で初の減額――HIV/エイズ・結核対策の明らかな分岐点

HIV/エイズと結核の撲滅という目標の達成は依然としてほど遠い。この2つの病気は今も一年間に合計200万人以上の命を奪っている。それにもかかわらず、2018年には、HIV/エイズ対策に充てられた国際援助と各国政府の国内予算合計額が過去10年間で初めて減少に転じ、低・中所得国では10億米ドル(約1068億円)も縮小された。結核対策の資金不足は拡大しつづけており、国連のデータによると、その額は年間35億米ドル(約3737億円)に達する。

「昨今の資金の下降基調でHIV/エイズ・結核対策は決定的な分岐点に来ています」。MSFの報告書の執筆者の1人であるミット・フィリップス医師は指摘する。「モザンビークなどの国で見られていた進展が後退してしまう恐れが大きく、ただでさえHIV/エイズ・結核対策の立ち遅れているアフリカ中西部の国々の場合、状況の悪化に拍車がかかってしまう恐れはさらに大きいのです」

MSFのHIV/エイズ・結核プログラムを展開する9ヵ国での研究に基づく報告書『Burden sharing, not burden shifting(英文)』が伝えるのは、国際的な資金援助と各国の国内資源の不足が既にHIV/エイズ・結核の診断・予防・治療の広い範囲に欠落をもたらしている様子だ。必須の医薬品の枯渇も招き、男性間性交渉者、トランスジェンダーの人びと、セックスワーカー、注射薬物使用者、移民、HIV感染症の進行した患者のように、特別なニーズがあり優先的されるべき人びとを対象としたプログラムが脅かされている。

「MSFはアフリカ中西部の国々で日々、治療可能なはずのHIV/エイズと結核で苦しみ亡くなる患者の姿を目のあたりにしています」。報告書の執筆者であるマリア・ゲバラ医師が訴える。「生涯にわたってHIV治療を受ける人の数は増加する一方なのに、そうした人びとを支えるためのお金は減る一方です。十分な薬とサポートが望めない状況では、大勢の人が治療の開始を遅らせるか、一切の治療を断念せざるを得ません。そうでない人も、治療を続けられるように薬の費用ねん出に腐心しなければなりません。それらが重なり、伝染の拡大、死亡率の上昇、治療の失敗、そして薬剤耐性のまん延までをも引き起こし、引いてはHIV/エイズ・結核の医療費をさらに重くしてしまうのです」

対策の現場となる国々の実情は――リアリティ・チェックが急務

MSFの報告書では、目下のHIV/エイズ・結核対策の資金不足は、その影響を軽く見積もられており、悪化の恐れがあるとしている。困窮する国々は国外からの財政支援減少の補てんに四苦八苦だからだ。自助努力を拡大しようという政治的意志も見られるが、近々にこの負担を賄える態勢にある国は少ない。

「この報告書で取り上げた国々の中でも、コンゴ民主共和国、ギニア、モザンビークなどは、紛争や政治・経済の問題にあえいでいます」とフィリップス医師。「それなのに、限りある予算と十分とは言えない国際援助で、HIV/エイズ・結核対策に投じる資源の早急な拡充を迫られているのです。現地の実情を、もっと深刻に検証するべきです」

報告書の著者らは、各国の経済・財政的課題を視野に入れつつ、資金不足がHIVや結核と生きる人びとの命と、彼らの治療にあたる保健医療従事者の対応能力に及ぼす影響を念頭に置きつつ、これらの国々が短期間で国内の保健医療資源を拡充することができるかどうか、包括的な評価が行われるべきだと提唱している。

「HIV/エイズ・結核対策の資金負担を分散する方向性には良い面もあります。全体的な資源の拡大に皆が寄与しなければならないことをより明白にするからです」とフィリップス医師は続ける。「ただ、そのやり方も各国の実態に即したものであるべきです。負荷の分担が転嫁になってしまってはいけません。国内の資源を拡大する各国の能力を楽観視し過ぎると、保健医療プログラムも人命も危機にさらされます」

「援助国は、近年のHIV/エイズ・結核対策援助の縮小傾向を速やかに是正し、今後何年かの間は支援対象国の直面する課題に応じた取り組みをする必要があります」とゲバラ医師。「この点に手立てを取らなければ、今までの成果が削がれ、ともすれば疾病流行のリバウンドを招き、多くの命が失われかねません。この度のグローバルファンドの増資会合は、これ以上の脱線を防ぐために必要な資源投入の契機とすべきです」

報告書で取り上げた各国の実例

中央アフリカ共和国では少なくとも11万人がHIVとともに暮らしている。現在グローバルファンドから割り当てられている資金では、その39%の治療費用しか賄えない。保健関連の援助国や国際機関の一部は、世界でも特に開発の進んでいないこの国の政府に、保健医療予算の負担増を求めている。2019年7月には、資金の不足と調達の遅延から、国内の抗レトロウイルス薬(ARV)の大規模な在庫切れが起こり、何千人もの患者の治療が中断されかねない事態に陥った。

ギニアでは2010年から2016年の間にHIV/エイズに関連する死亡件数が7%、結核に関連する死亡件数が5%、それぞれ増加している。このような深刻な状況であれば、2つの病気と闘うための対策と予算は強化されてしかるべきだ。にもかかわらず、グローバルファンドが承認したHIV/エイズ・結核関連の資金援助額は2015~2017年と2017~2019年の間で17%も削減された。母子感染予防(PMTCT)プログラム、小児HIV/エイズの早期診断、ウイルス量検査、心理・社会的支援の事業に資金不足が生じ、医療物資についても、2018年夏に全国的なARV不足が起きるなど、対策への直接的な打撃となった。

ミャンマーはアジア・環太平洋地域で特にHIV/エイズ有病率の高い国の1つだが、対策資金の不足は現在1億5000万米ドル(約160億円)にも上るとされる。治療資金の不足は、一部の人口集団に特に影響を及ぼす恐れがあり、移民への打撃になりがちだ。その一方で、ミャンマーはHIV/エイズ・結核対策に必要な保健医療人材の訓練、採用、雇用の継続など人材確保に大きな課題を抱えている。保健医療がより公平に行き渡るようにするためには、コミュニティ・ベースの保健人材の拡充が急務だ。

エスワティニ王国(旧国名:スワジランド王国)でも、HIV/エイズ・結核対策の資金が今後何年にもわたって著しく不足する見通しだ。HIV/エイズ関連の不足は2020年に過去最大の2490万米ドル(約27億円)に達する見通しだ。結核の不足額は2021年時点までに1090万米ドル(約12億円)まで拡大すると予想されている。エスワティ政府は既にHIV/エイズ・結核の基礎的な治療提供については自ら予算を充当しているが、国外からの資金減は予防対策に最大の打撃を与えることになるとみられる。さらに、新規の対策が講じられる見込みも、既存の対策が適切な質のもとで継続される見込みも薄く、2つの病気の感染制御の達成と維持という目標が骨抜きにされつつある。減少の予想される政府収入と、米ドルに対する自国通貨の切り下げも、薬や検査用の消耗品といった国際商品の購買の足かせとなるだろう。


報告書『Burden sharing, not burden shifting(負荷の転嫁ではなく分担を)』は、MSFがHIV/エイズ・結核プログラムを展開する、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、エスワティニ王国、ギニア、ケニア、マラウイ、モザンビーク、ミャンマー、ジンバブエ9カ国のデータをもとに、包括的な文献調査、現場の分析、各国内外の重要な情報提供者からの聴き取りに基づいて作成された。
HIV/エイズ・結核関連の国際援助は、横ばいの期間を経て、2017年から2018年の間にHIV/エイズが9%、結核が12%減少。対照的にHIV/エイズ関連の各国内資金は過去10年にわたって徐々に増加しているが、特にこの疾病の影響の深刻な国ではHIV/エイズ対策資金の合計額が今も圧倒的に不足している。「持続可能な開発目標(SDGs)」の2030年のHIV/エイズ関連目標を達成するには年間260億米ドル(約2兆7763億円)の投資が必要とされるが、2018年の実績は190億米ドル(約2兆288億円)に過ぎない。2018年の結核対策に必要な資金は合計104億ドル(約1兆1105億円)とされたのに、同年調達できた金額はわずか69億米ドル(約7368億円)だった。
MSFは世界20ヵ国余りでHIV/エイズ・結核治療を提供している。2018年にMSFのプログラムで第一選択治療を受けたHIV感染者は15万9100人、第二選択治療を受けた人は1万7100人。同年、MSFプログラムで結核の第一選択治療を開始した人は1万6500人、薬剤耐性結核(DR-TB)の治療を始めた人は2840人に上る。
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)は、世界中のHIV/エイズ・結核プログラムのための最大級の資金調達の仕組み。3年ごとの「増資会合」には、世界各地のHIV/エイズ・結核・マラリア対策に資金提供すべく、援助拠出国、民間セクター、慈善団体・基金が集まる。今年の増資会合では、2020~2022年の期間を対象に少なくとも140億米ドル(約1兆4949億円)の調達が目標とされており、日本政府は6月21日に8億4000万米ドルの拠出を表明している。


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