腸内細菌に関する初の(※1)日本人の網羅的ゲノム解析 遺伝要因が腸内細菌に影響を与えることを確認
PR TIMES / 2020年11月19日 14時15分
~ユーザー参加型のゲノム研究による成果が科学雑誌に掲載~
森永乳業株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:宮原 道夫、以下森永乳業)と株式会社ディー・エヌ・エー(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長兼CEO:守安 功)の子会社でヘルスケア事業を展開する株式会社DeNAライフサイエンス(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:米山 拡志、代表取締役医師:三宅 邦明、以下DeNAライフサイエンス)は、東京大学医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センター(所在地:東京都港区、センター長:井元 清哉)と、2016年から共同研究を実施しています。今回、初めて日本人の腸内細菌に対する網羅的なヒトゲノム解析を行い、遺伝要因の影響を確認しました。日本人の腸内細菌は、お酒の強さや単一遺伝子疾患のような、特定の遺伝子が大きく影響しているのではなく、ゲノム全体の複数の遺伝子多型(※2)が影響することが明らかになりました。
本研究の成果は、2020年11月18日に英国科学誌『Communications Biology』にオンライン掲載されました。(URL: https://doi.org/10.1038/s42003-020-01416-z) 。
<研究背景と目的>
ヒトの腸管内には多種多様な細菌が生息しており、腸内細菌の種類や割合には個人差が大きいことが知られています。腸内細菌は食事などの生活習慣(外的要因)や宿主であるヒトの遺伝要因(内的要因)の影響を受けることが知られていましたが、遺伝要因についての研究はまだ少なく、不明点が多く残されていました。遺伝要因の関与を調べる手法として、ゲノムワイド関連解析(GWAS)(※3)による網羅的な探索が報告されていますが、これまでは欧米人を対象とした報告に限られていました。しかしながら、腸内細菌は民族など集団で異なることが知られており、欧米人に加えて、他の民族集団を対象とした遺伝要因の探索が求められていました。
本研究では、初の日本人の腸内細菌に対する網羅的なヒトゲノム解析を行い、遺伝要因の影響を評価しました。
<研究方法>
DeNAライフサイエンスが推進するユーザー参加型のゲノム研究プロジェクト「MYCODE Research(マイコード・リサーチ)」(※4)のもと、インターネットを活用した研究参加者リクルートを行い、4日間という短い期間で2,000名近くの応募を集めました。その中から、健康な日本人の成人(20歳~64歳)、1,068名の腸内細菌解析を行ない、日本人の腸内に主要な21の菌や菌の多様性について、既に解析済みの55万以上のSNP(※5)データと併せてGWASを実施しました。食習慣や生活習慣等138の外的要因についても新たに調査し、腸内細菌との関連がみられた要因については、その影響を調整したうえで関連SNPの探索を精緻に行いました。更に、複数のSNPによる複合的な遺伝要因の影響を調べるために、ゲノム全体のSNPを用いた遺伝率(※6)の算出を行いました。
<研究結果>
腸内細菌と関連する5つのゲノム領域を新規に同定することに成功しました。HS3ST4遺伝子領域のSNPは男性でのFaecalibacterium属という菌の割合と、C2CD2遺伝子領域上のSNPは女性でのErysipelotrichaceae科という菌の割合との関連が示されました。他5つのSNPは2番、10番、18番染色体上の遺伝子間領域に位置し、それぞれ男性でのPrevotella属という菌の割合、女性でのOscillospira属という菌の割合、女性での腸内細菌の多様性指標(※7)との関連を示しました。一方で、同定したゲノム領域個々の影響はそれほど大きなものではありませんでした。
更に、遺伝率の解析から、主要な21の菌のうち6つについて、遺伝要因の影響があることを確認しました(下図)。
[画像: https://prtimes.jp/i/21580/526/resize/d21580-526-249998-0.jpg ]
これらの結果から、日本人腸内細菌の遺伝要因は、特定の寄与度の高い遺伝子多型ではなく、寄与度はそれほど高くない遺伝子多型が多数集積して影響を与える、「多遺伝子構造(polygenic architecture)」(※8)を取ることを示しました。また、今回同定した日本人腸内細菌と関連を示すゲノム領域は、これまでに欧米人を対象としたGWASから報告されたゲノム領域とは異なる領域であったことから、人種特異的な遺伝要因の存在が示唆されました。
<まとめ>
本研究で得られた成果は、腸内細菌の民族差を理解する上で基礎的なデータとなることが期待されます。今後、宿主の遺伝的背景を考慮することで、疾患や体質などの個々人の健康状態などと腸内細菌との関連性、更には民族性との繋がりに関して、より精緻に評価できる可能性が示唆されます。また、本研究の成果は、インターネットを活用することで、ユーザーコミュニティの個人が自らの同意の下で研究に参加して科学の発展に寄与できる、“Community-derived science”の実現により得られました。この新しい研究形態は、研究参加者リクルートやデータ収集に膨大な時間とコストがかかる従来型の研究の困難を解決し、研究成果の社会への還元を加速させることが期待されます。
森永乳業、DeNAライフサイエンス、東京大学医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センターは、共同研究を含め、様々な観点から腸内細菌や遺伝要因に関する基礎研究を継続し、エビデンスを積み重ねることで、人々の健康維持と笑顔のあふれる豊かな社会の実現に向けた新しく正確な情報を発信できるよう努めてまいります。
リリースPDF版はこちら
https://prtimes.jp/a/?f=d21580-20201119-3513.pdf
<参考>
※1 GWAS(網羅的ゲノム解析)のデータベース「GWAS catalog」 検索"microbiome"(2020年10月時点)
※2 遺伝子多型;SNPなどのDNA配列の個人差。
※3 ゲノムワイド関連解析(GWAS:Genome Wide Association Study);ヒトゲノム配列上に存在する数十~数百万か所のSNP等の遺伝子多型と疾患や体質との関連を網羅的に検討する、遺伝統計解析手法。数千人~百万人を対象に大規模に実施されることで、これまでに様々な疾患や体質に関連するがゲノム領域が同定されている
※4 MYCODE Research(マイコード・リサーチ);DeNA ライフサイエンスが提供する遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」会員の中から研究に同意いただいた方の協力を得て行うユーザー参加型の研究プロジェクト
※5 SNP(single nucleotide polymorphism);遺伝子多型と言われるDNA配列の個人差の一つ。ヒトが保有する約30億の塩基対の配列には人種や個人間で異なる部分があり、1つの塩基だけが別の塩基に置き換わっているものをSNPという。
※6 遺伝率;疾患や体質といった形質に対する遺伝要因の影響度を測る尺度。形質の分散に対して遺伝要因の分散が占める割合で定義される。
※7 多様性指標;腸内細菌の菌の種類の多さを評価する指標。多様性が極端に少ないと、炎症性腸疾患や肥満、糖尿病、アレルギーのリスクとなることが報告されています。
※8 多遺伝子構造(polygenic architecture);疾患や体質といった形質に対して、寄与度はそれほど高くないSNP等の遺伝子多型が多数集積して影響を与える遺伝要因の様式
※当該リリースの内容は、森永乳業株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、東京大学医学科研究所から配信されています。
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