医薬品有効成分の新しい結晶化経路を発見!
PR TIMES / 2022年7月28日 18時45分
~医薬品開発における結晶化制御への新しい知見~
千葉大学大学院薬学研究院の陳 子喬 研究員、東 顕二郎 准教授、植田 圭祐 助教、森部 久仁一 教授の研究グループは、医薬品有効成分が”Oriented attachment”(注1)と呼ばれる経路で結晶化することを見出しました。この結晶化経路は無機化合物では報告例がありますが、有機化合物では初めてとなります。本研究では、医薬品有効成分のナノ粒子懸濁液を一定時間保存し、ナノ粒子の形態変化を経時的に観察することで、新しい結晶化経路を確認することに成功しました。現在承認されている医薬品有効成分のほとんどは有機化合物であり、医薬品開発においてその結晶化制御は不可欠です。本研究で得られた知見は、新しい医薬品の創生に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果に関する論文は、2022年7月13日に米国化学会誌Nano Lettersにて出版され、Supplementary Coverに選出されました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/614/resize/d15177-614-014217428965b4f5a721-3.png ]
研究の背景
高品質な医薬品の設計と製造には、有効成分の結晶化に関する知見が不可欠です。医薬品有効成分のほとんどは有機化合物ですが、従来から提唱されている古典的な結晶化理論により結晶化メカニズムを説明できるケースは限られます。現在、有機化合物の結晶化メカニズムについての研究が世界中で盛んに行われていますが、その結晶化メカニズムは複雑であり、未だに包括的な理解には至っていません。
研究成果
これまでに研究グループは、免疫抑制剤であるシクロスポリンAのナノ粒子懸濁液を25°Cで保存すると、シクロスポリンAが非晶質(分子配列が不規則)から結晶(分子配列が規則的)に変化することを報告しています(図1)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/614/resize/d15177-614-a14212e8220c01367b62-5.png ]
本研究では、この結晶化メカニズム解明を目的に、cryo-TEM(注2)を用いてナノ粒子の経時的な形態変化を観察したところ、”Oriented attachment”により結晶化が進んでいく様子が見られました。
“Oriented attachment”とは、複数のナノ結晶同士が近づく際に結晶格子に沿って向きを変えて整列し(配向:orientation)、接触して合体する(接合:attachment)ことで、より大きな結晶へと成長する結晶化の経路です(図2)。これはnmスケールの非常に小さな結晶で見られる現象です。
[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/614/resize/d15177-614-20f31e180fb20d62cb16-1.png ]
図3は、本研究で観察した時間経過毎のシクロスポリンAのナノ粒子の形態変化を表した模式図、及び各経過時間における代表的なcryo-TEM像を示しています。保存前のナノ粒子(~400 nm)は、非晶質のシクロスポリンAの小さい粒子(~50 nm程度)が集まった凝集体です。48時間保存後には、非晶質ナノ粒子内に複数の微結晶(図中矢印)が生成しました。52時間保存後では、数多くの微結晶(~50 nm)が集合したメソ結晶(注3)が形成されました。この時、メソ結晶内の微結晶は場所ごとに一定の配向を示しています。56時間保存後には~100 nmまで微結晶が成長し、またこれらの微結晶は同一の配向を示しています。さらに60時間保存後には約200 nmのサイズを持つ単一な結晶に成長しました。
“Oriented attachment”は古典的結晶化理論とは異なる理論での結晶化プロセスであり、これまでの報告は無機化合物に限られていました。本研究において、有機化合物でも”Oriented attachment”の経路により結晶化が起きることが初めて示されました。
[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/614/resize/d15177-614-3945dd9a363afdf215af-6.png ]
今後の展望
シクロスポリンAに限らず他の医薬品有効成分でも、”Oriented attachment”により結晶化している場合も多々あると予想されます。今後は、本研究で見出した”Oriented attachment”を含めた様々な非古典的結晶化理論の構築が進むことで、より高品質な医薬品の創生が可能になると期待されます。
用語解説
(注1)Oriented attachment:複数の結晶性コロイド粒子が配向と接合により、単結晶に成長する結晶化経路。
(注2)Cryo-TEM:極低温透過型電子顕微鏡。瞬間的に約-170°Cで凍結することで、懸濁液中のナノ粒子の形態を評価できる。
(注3)メソ結晶:同じようなサイズと形の多数の小さな結晶が結晶学的配列を持って規則的なパターンで配置された材料構造。
論文情報
論文タイトル:Multistep Crystallization of Pharmaceutical Amorphous Nanoparticles via a Cognate Pathway of Oriented Attachment: Direct Evidence of Nonclassical Crystallization for Organic Molecules
雑誌名:Nano Letters
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.2c01608
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