【研究情報】皮膚深部の活性酸素が痛みやかゆみなどの原因になる可能性を確認
PR TIMES / 2022年1月5日 12時15分
ヒトiPS細胞研究に関する順天堂大学大学院医学研究科との共同研究成果
株式会社ファンケルは、2018年から順天堂大学大学院医学研究科・環境医学研究所(所在地:千葉県浦安市/所長:高森建二)に「抗加齢皮膚医学研究講座」を設置しています。本講座で、ヒトiPS細胞由来感覚神経(1)を用いた研究の成果として、皮膚深部での発生を想定した活性酸素(2)が、感覚神経の線維を変性させることで痛みやかゆみなどの不快を感じやすい皮膚状態に変化させる可能性を明らかにしましたのでお知らせします。なお、本内容を含む、ヒトiPS細胞由来感覚神経を用いた評価方法の構築に関する研究成果は、分子科学に関する国際的な学術雑誌に9月29日付で掲載されました(※)。
<研究の背景と目的>
当社はこれまで、ヒト皮膚細胞の三次元培養容器などの独自技術を用いた研究により、防腐剤によって活性酸素が皮膚深部で増えてしまうことを明らかにしてきました(※1)。活性酸素は、シミやシワなど老化に深く関わるとされており、感覚神経に対する影響に着目しました。しかし、活性酸素の影響について、皮膚深部にあるヒトの感覚神経を取り出して培養することが倫理的に難しいため、詳細な研究を行うことが困難でした。そこで、「抗加齢皮膚医学研究講座」において、リプロセル株式会社と共同開発したヒトiPS細胞由来感覚神経を用い、試験管内でヒト感覚神経線維(3)を再現して化粧品成分が感覚神経に及ぼす影響を試験管内で評価する方法を確立しました(※2)。
皮膚深部ではさまざまな要因により活性酸素が発生することから、このヒト感覚神経を使って、活性酸素から受ける影響について検証を行いました。
(※1)「皮膚細胞の生まれ変わりを観察できるモデル技術を開発」(2016年12月発表)
https://www.fancl.jp/news/pdf/20161220_hifusaibounoumarekawariwokannsatsu.pdf
(※2)「iPS細胞技術でヒト感覚神経に対する新知見」(2020年12月発表)
https://www.fancl.jp/news/pdf/20201224_ipssaibougijutsu.pdf
(※)“International Journal of Molecular Sciences”(vol.22, No.19, 10525)に、“A Novel In Vitro Assay Using Human iPSC-Derived Sensory Neurons to Evaluate
the Effects of External Chemicals on Neuronal Morphology: Possible Implications in the Prediction of Abnormal Skin Sensation”として
<研究結果>
【活性酸素は感覚神経線維を変性させ、不快感を伝えやすい状態にする可能性を確認】
感覚神経線維の変性は、皮膚感覚の伝達に影響を及ぼし、不快感となる痛みやかゆみなどの感覚異常の原因となります。変性した感覚神経線維では、ビーズ状の構造物増加と、Nicotinamide Nucleotide
Adenylyltransferase 2 (NMNAT2)(4)のタンパク発現の減少が起きることが知られていることから、本研究ではこの2つを変性の指標として用いました。
活性酸素がある状態でヒトiPS細胞由来感覚神経を培養したところ、感覚神経線維にビーズ状の構造物の増加(図1)とNMNAT2タンパク質の発現減少(図2)の両方が観察され、変性していることが分かりました。これは、紫外線や防腐剤などの影響により、活性酸素が皮膚深部に増えている肌でも同様な状態にあると考えられます。つまり、活性酸素により変性した感覚神経は、正常な機能に必要な物質の分配が感覚神経線維内で停滞し、感覚異常の発生リスクが高まり、正常な感覚の伝達が妨げられて不快感を伝えることを示唆しています。
[画像1: https://prtimes.jp/i/17666/872/resize/d17666-872-81d3b4d93da99c3a65d1-0.jpg ]
<本研究結果の応用展開>
本研究の成果により、紫外線や防腐剤の長期的な使用などで皮膚深部に増えた活性酸素が、正常な感覚の伝達を妨げ、皮膚を痛みやかゆみなどの不快を感じやすい状態に変化させる可能性が明らかになりました。さらに今後は、防腐剤によるダメージを受けた皮膚細胞が感覚神経線維に与える影響にも着目し、より予測性の高いモデルを試験管内で再現することで、安全な製品開発に生かしていきます。
[画像2: https://prtimes.jp/i/17666/872/resize/d17666-872-9ab2ac73c7d7a0076d42-1.jpg ]
【用語説明】
(1)ヒトiPS細胞由来感覚神経:
ヒトiPS細胞から作製されたヒト由来の感覚神経細胞
(2)活性酸素:
紫外線、大気汚染物質、防腐剤などへの暴露や加齢、炎症、ストレスなどによって体内で発生する、非常に反応 性の強い物質。本来は細菌やウイルスから体を守る役割をしていますが、必要以上に増えることで正常な細胞も傷つけてしまい、皮膚においては肌細胞の機能低下や老化促進の原因になります
(3)感覚神経線維:
感覚神経細胞から伸びている線維状の突起で、皮膚においては痛みやかゆみなどの感覚を受容し、電気信号として脳に向けて伝達しています
(4) Nicotinamide Nucleotide Adenylyltransferase 2 (NMNAT2):
神経線維内での物質輸送に関連しているタンパク質で、損傷した神経線維ではビーズ状の変性が形成される前に減少することが知られています
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