【WINDY CITY BLUES】神と崇めたジョーダンの聖地シカゴに降り立つ
NBA Rakuten / 2020年3月24日 16時30分
1951年から始まったNBAオールスターゲームの歴史の中で1988年以来、32年振りとなるシカゴでの開催が長年バスケットボールを追いかけてきた筆者にとって、そして全てのバスケットボールファンにとって、どんな意味をもつモノなのか、それはメイン会場となったユナイテッドセンターに鎮座する銅像がすべてを物語っている。
思い返せば30年以上遡ることになるが、当時小学生だった僕は、マイケル・ジョーダンという偉大なアスリートに心を奪われ、今なお伝説的に語り継がれる、バルセロナ五輪バスケットボールアメリカ代表ドリームチーム(当時のNBAのスーパースターが集結した文字通り“夢”のようなチームだった)に歓喜した。週刊少年ジャンプに連載された「スラムダンク」をまるで聖書のごとく何度も読み、90年代に巻き起こったNBAを中心とした社会現象とも言える一大バスケットボールムーブメントの渦中にいたのだ。
シカゴが持つ意味
日本人がこの地に立つということ
スポーツショービジネスの本場・アメリカではESPN(スポーツ専門チャンネル)などで24時間スポーツ番組を楽しむことができるので、ホテルのバーなどでもスポーツが流れていることが常だ。ことさらにオールスターの時期ともなると、モニターから流れる番組だけでなく、シカゴ中の至るところで「NBAオールスターゲーム2020」と描かれた屋外広告やサイネージ看板に遭遇するので、否が応にもオールスターへの期待が高まる。
「英語も話せないなかで(アメリカに)やってきて、こうやってオールスターの舞台に立てることを嬉しく思うし、誇りに思う」と八村も語っていたが、その端々に強く感じる日本人としてのアイデンティティー。それと同時に、もはや英語の方がネイティブのように思うほどカルチャーフィットした彼に、自分の憧れていたNBAというフィールドで日本人もここまできたのだと激しく心を揺さぶられた。
オールスターをJORDAN BRANDがジャック
6度のNBA優勝を誇る名門シカゴ・ブルズのホームコートであるユナイテッド・センターには、レブロン・ジェームズ、ヤニス・アデトクンボを筆頭に32年ぶりのシカゴ開催を象徴するかのようにJORDAN BRAND契約選手のドンチッチ、ラッセル・ウェストブルック、ケンバ・ウォーカーが大きくフォーカスされた屋外広告が外壁に施されていた。
かつてレブロンをフィーチャーした「WE ARE ALL WITESSES(私達は立会人=みんなレブロンのファンという意味) 」というNIKEの広告が、とてつもない大きさでクリーブランドの街に展開されているのをインターネット越しに見て衝撃を受けたのだが、目前にあるいままで見たことがないサイズのビルボードは、何度も見上げてしまうくらいのインパクトを放っていた。
時を同じくして日本・原宿でJORDAN BRANDが展開したNBAオールスターポップアップストアUNITEでは八村塁のビルボードが登場して日米全方位でジャックした。
ライジングスター・チャレンジのパブリックビューイングイベントも開催された。こうして日本人がライジングスターへ出場するだけでも快挙なのに、あのJORDAN BRANDとグロバール契約するなんて、改めてすごい時代が来たもんだ。
八村塁のポテンシャル
そんな気分で見たライジングスター(日本語で直訳すると“希望の星”)たちが繰り広げたゲームは、彼らがやがてNBAの看板選手になると予感させるに十分なパフォーマンスだった。勝負を制したチームUSAでは、非凡なパスセンスと類まれな身体能力を発揮したジャ・モラント。大胆不敵なダンクを連発して怪物ぶりを見せつけたザイオン・ウィリアムソン。チームWORLDでは、ゲームハイの得点力を披露したRJ・バレット。そしてスターティングの大役をまっとうした八村塁はゲーム序盤に存在感を発揮。晴れの舞台で同じジョーダンファミリーのドンチッチからのアリウープパスを見事にリングに叩き込み会場を沸かせた。
改めて八村がいる世界の凄さを、そしてこの素晴らしい才能の中に日本人がいる現場を体感できたこと。それこそが一生残るモーメントになったのだが、「積極的にやれと言われた」とゲーム前に語っていた八村のプレイを生で見て、もっとオフェンスで主役になれると感じられた。身体能力を含めてこれからはまだまだ進化していく彼の未来を思うと、このメンバーに中でも指折りの選手になれるポテンシャルを感じずにはいられなかった。
いつか2019年のドラフトが当たり年だったと話題になるとき、八村はJORDAN BRANDからシグネチャーモデルがリリースされる快挙を成し遂げるのではないだろうか。自分の憧れていたジョーダンのレガシーを受け継ぐ唯一の日本人。目の前でプレイする八村塁のプレーを見て、そんなストーリーを想像してしまう。
ライター
秋元凜太郎 / RINTARO AKIMOTO
1976年、埼玉県出身。バスケットボールカルチャーマガジン「FLY」編集長。小学校でバスケットボールに出会い、高校時代にはストリートボールの虜になる。大学卒業後、外資系スポーツメーカーを経て、2014年に「ABOVE」を発刊。バスケットボールとそれに纏わるカルチャーを多角的にフィーチャーした日本で唯一の雑誌として注目を浴びる。2017年3月、「ABOVE」と同一スタッフで「FLY」をスタート。
そして、そんなオールスターをさらに盛り上げてくれる前座的役割をもつのが2月14日に行われた「ライジングスター・チャレンジ」。年に1度、しかもNBA1〜2年目のプレイヤーの中でも、各チームのアシスタントコーチの投票によって選出されるごく限られた選手しか出場を許されない。このゲームに、八村塁が日本人として初めて出場権を獲得したのだから、これは絶対に見逃せない。(ライジングスターはアメリカ出身者からなるチームUSAと、国外出身者からなるチームWORLDで戦われ、日本人である八村はチームWORLDに属する)
日本では何度か八村に取材したことのある筆者だが、NBA選手としての彼の姿を刮目すべく、同日ウィントラスト・アリーナで行われたライジングスター出場選手の記者会見会場を訪れた。会見はチームごとに順次選手がそれぞれのブースに登場して行われる、いわゆるぶら下がり方式で行なわれた。NBA2年目にして本戦オールスターゲームとW出場を決めて注目が集まるルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)らに続いて、我らが八村塁も登場した。日本からも多くのメディアが駆けつけ、英語と日本語が入り乱れる記者会見となったが、どの記者からの質問にもしっかり耳を傾け、落ち着いた様子でバイリンガルに対応する姿は、僕の知る「203cmの青年」よりもさらにさらに大きく見えたような気がして、とても誇らしく思えた。
部活だけでは飽き足らず、当時3on3発祥の地となった駒沢公園のストリートコートに出向き日が落ちるまで貪欲にボールを追った。NBAの情報を手に入れる手段も少なかったが、BS放送やVHSビデオなどから見える海の向こうのスター選手の姿に憧れた。それほどにバスケットボールにどっぷりとハマっていた自分を思い出すと、時を超えてジョーダンがプレイしていたユナイテッドセンターに立っている事実はとても感慨深い。これも神と崇めたジョーダンの導きだと思い、彼の聖地とも言えるウィンディ・シティ「シカゴ」にて、実際に肌で感じた体験と感動をみなさんにお届けしよう。
(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.
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