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新シーズンの12月開幕案が急浮上。NBAの目論見と実現の可能性【杉浦大介コラム vol.35】

NBA Rakuten / 2020年10月26日 16時0分

NBAの新シーズン開幕は1月と言われていたなか、突如として年内開幕案が出た。はたして、その実現性とは――


NBAファイナル第1戦、開始直前のこと。フロリダ州オーランドのディズニーワールドに作り出された“バブル(隔離空間)”のアリーナで、感慨深いものを感じずにはいられなかった。新型コロナウイルスによるパンデミック下で、NBAはこの一大イベントの開催にこぎ着けたのだ。

私はシーディングゲームとファイナルの取材で2度にわたって“バブル”に足を運び、そのたびにこのリーグが用意した安全対策と配慮に感心させられた。特にシーズン再開後、感染者ゼロという結果には感嘆せざるを得なかったのだ。

「多くの逆境があるなかで、達成できたという誇りがあります。このような状況だからこそ、多くの人々が再開後のシーズン完遂が実現するのを見る必要があったのです」

ファイナル開始前に行われた恒例の会見で、アダム・シルバー・コミッショナーが述べた言葉も大袈裟には思えなかった。7月30日のシーズン再開後、シーディングゲーム、プレイオフを通して、NBAはハイレベルな戦いの連続で多くのスポーツファンを喜ばせてくれた。すべては、リーグが定めた厳格なプロトコルと関係者の努力の賜物である。


1月18日開幕が有力視されていたが…


しかし、こうしてリーグが総力をあげて作り出した“バブル”が成功したからといって、一息ついている余裕はない。波乱のシーズンはようやく幕を閉じたが、パンデミックはまだ続いている。そんななかでも、NBAは未来へ向けて足を踏み出さなければいけない。

今後の注目点は、まず2020-21シーズンがいつ、どんな形で開幕するか。そして、運営面でどれだけ以前の状態に近づけられるか。現状、日程面で決定しているのは11月18日にドラフトが開催されることのみ。新シーズンは来年1月の開幕が有力と目されていた。



アメリカでは1月第3月曜日が「マーティン・ルーサー・キングJr.牧師の日」にあたり、2021年は1月18日。1960年代の公民権運動に多大な貢献を果たしたキング牧師の功績を称える祭日に新シーズンを開幕できれば、BLM運動を積極的にサポートするNBAは改めて強烈なメッセージを送ることができる。シルバー・コミッショナーも「(新シーズンの開幕は)来年に持ち越されるだろう」と述べており、この日のスタートが基本線かと思われたのだった。

ところが10月24日、NBAのオーナー会議で12月中の来季開幕が話し合われていることが明らかになった。米メディアの報道によると、具体的には12月22日に開幕し、72試合制でシーズンを戦う案が検討されているという。オールスターの中止、今季採用されたプレイイン・トーナメントの継続といったプランも伝えられているのだ。


年内開幕はメリット大だが、現場の調整は困難か


少なくともビジネス面では、年内の開幕はNBAにとってメリットが大きい。毎年人気チーム同士が激突し、盛大に盛り上がるクリスマスゲームの伝統を守ることができる。ここで可能な限り日程を前倒しにしておけば、2021-22シーズンのスケジュールを通常通りの日程(10月開幕、6月終了)に戻すのも容易になる。また、日本でも盛んに伝えられた通り、年末に新シーズンを開始しておけば、東京五輪が予定通りに行われた場合、選手参加の可能性も膨らむ。NBAという巨大なスポーツ・エンターテイメント・ビジネスにおいて、これらがすべて可能になる日程が模索されるのは当然だろう。

もっとも、理事会でこのようなプランが出されたとして、選手、現場の人間がどう反応するかは未知数ではある。仮に12月22日に開幕するならば、オフシーズンは通常の約半分にあたる10週間のみ。ドラフトを終えたあと、約1か月でFA選手との交渉、トレーニングキャンプ、プレシーズン戦のすべてを行わねばならない。

本当にこれをやるとすれば、フロントの人間、一部選手の負担は莫大だろう。特に“バブル”でのプレイオフに出場したチームは休む間もなく、調整は難しいはずだ。オーナー、選手会の思惑がどう噛み合うか、今後の流れに注目が集まる。

なお、ESPNのレポートによると、10月30日が現在の労使協定を継続するかの期限となっており、クリスマスからおおよそ8週間前となるため(1月18日開幕の話が出た際も、8週間前の11月末に決断が下されると言われていた)、この前後で年内開幕の可否がおおよそ見えてくるかもしれない。


球宴の調整や日程の考案など課題は山積


現状でひとつ確かなのは、NBAは2020年夏の“バブル”を成功させたものの、2020-21シーズンのすべてを再び隔離空間の中で行うことは望んでいないということだ。

部分的、あるいは複数の“バブル”の採用は検討されるとしても、選手、関係者がシーズン、プレイオフも含めて半年以上をひとつの場所で過ごすとなれば、選手側の反発は必至だ。また、リーグ全体の収入の40%はゲームデイ(チケット、飲食、グッズ売り上げなど)にもたらされていたというだけに、来季どの程度のファンを動員できるかはNBAにとって重要な課題になる。当初、どのくらいの客入れができるかは地域、チームごとに異なり、中にはやむを得ず無観客でスタートするチームも出てくるかもしれない。それでも今季、莫大な収入減を経験した後とあって、NBAはそれぞれの本拠地での試合開催を目指すに違いない。



依然としてワクチン導入の目処が立っていないなかで、本当に年内にそこまで漕ぎ着けられるのかは誰にも分からない。プレイイン・トーナメントの整備、オールスターの調整、各チームの移動の頻度が少なくて済む日程の考案をはじめ、リーグがやらなければならないことは山積みだ。

「すべての出資者、選手、チームオーナー、参加した22チームだけではなく全30チーム、そしてファンからの支援、それらすべてを誇り思っています。特にこの国が分断されている今だからこそ、多くの人々がしっかりと協議し、それぞれが多大な犠牲を払いながらも結束できたことが誇らしいです」

ファイナル前の会見時、そう述べたシルバー・コミッショナーの表情には、誇りとともに、一仕事をほぼ終えた安堵も浮かんでいたように見えた。しかし、落ち着ける時間はごくわずかに過ぎず、NBAはまた前に進んでいく。まだ様々な面で実態が見えない2020-21シーズンに向け、米スポーツの中でも最もプログレッシブといわれるリーグの力量、機転、判断が改めて問われることになる。


杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。




(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.

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