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[ラグビー]世界の名将ロビー・ディーンズ、6季で3度+無敗優勝を必然にした“3つの哲学”

REAL SPORTS / 2021年6月3日 12時0分

ラグビートップリーグ最後の王者に輝いたのは、パナソニック ワイルドナイツだった。指揮官は、ロビー・ディーンズ。オールブラックス(ニュージーランド代表)アシスタントコーチ、ワラビーズ(オーストラリア代表)監督として2度のラグビーワールドカップを経験し、世界最高峰スーパーラグビーを5度制覇する経歴を持つ、世界にその名を知られる名将だ。
来日からの6シーズン(※)で3度目、そして無敗での優勝。歓喜と栄冠を必然にした、“3つの哲学”に迫る――。
(※2020シーズンは開催中止となったためカウント対象外)

(文=向風見也)

世界を知る名将が日本で実践してみせた“3つの哲学”

トン、トン、トン、トン。トン、トン、トン、トン。
トン、トン。
トン、トン、トン、トン。

普段は温厚なパナソニック ワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督が、机を2本の指でたたいて力説する。

「うちの若い2人の10番を誇りに思います。トップリーグの歴史上、2枚の若い10番がタイトルを取ったのは初めてではないでしょうか。もし間違っていたら教えてください。2人の10番が優勝を手にしたのは、日本ラグビーにとっても非常にエキサイティング。将来が楽しみです」

5月23日、東京は秩父宮ラグビー場。トップリーグのプレーオフを制し、自身3度目の日本一を果たしていた。

その日の会見で強調したのは、松田力也、山沢拓也という1994年生まれの国産戦士。両者は、他クラブが海外出身選手を並べる「10番」、司令塔のスタンドオフの位置を担い、優勝した。間もなく各所で報じられたこの見解には、ディーンズ監督の本質的な矜持(きょうじ)が見え隠れする。

以下、世界的にも知られる名将の特長を列挙する。

名将の哲学その1:代表に値する選手へと育て上げる

勝負までの思考に「自分たちよりも強い相手に勝てる策を練る」と「相手が誰であっても勝てるだけの実力を身に付ける」という2つの軸があるとしたら、ディーンズは後者を重んじるような。

特に、若手の育成へは思いがあろう。担当コーチと手を組んでのグラウンド練習はもちろん、選手との個人面談にも熱量と時間を割く。

「究極の目的は全選手の成長です。そのためにはものすごい量のコミュニケーションが必要です」

今度のシーズンで松田や山沢に司令塔を託したのは、その一環なのである。チームの力強さを引き上げた外国人勢にあっても、日本で初めてプロ契約を交わしたメンバーが目立つ。ベン・ガンター、ジャック・コーネルセン、ディラン・ライリーの3人は、練習生としての来日から進化を遂げ、2021年に初めて日本代表およびその候補となった。

パナソニックでは監督経験者の飯島均ゼネラルマネージャーが「人を育てる」という理念を掲げていて、それを具現化するのがディーンズなのだ。

さかのぼって2015年、ラグビーワールドカップイングランド大会終了後の日本代表ヘッドコーチ就任の誘いを断っていた。事実関係の確認を求められれば、「パナソニックの仕事が終わり切っていない段階で次の場所へ行くことは、考えられなかった」と話した。

「代表チームの監督は、多くの仕事(育成やコーチング)において他の人に依存をしなくてはいけなくなります。選手と一緒にいる時間が短くなることは、フラストレーションのたまる点です。国代表という大きなバスに乗るのは難しいことですが、乗っていない選手(代表レベルに達していない選手)が一度出発したそのバスを追いかけ、乗るのはさらに大変なことです。であれば、クラブレベルで代表に値する選手を育て、バスに乗せてやる方がいい」

2000年代のスーパ―ラグビー(国際リーグ)ではニュージーランドのクルセイダーズを率いて5度制覇。2008年からの約5年間はオーストラリア代表の監督を務めている。

ニュージーランドでの指導者時代に起用したキアラン・リード、渡豪後に抜てきしたマイケル・フーパーは各々の国代表で主将を任されるまでになり、今季はトップリーグのトヨタ自動車ヴェルブリッツの一員としてパナソニックと対戦した。

ディーンズはその試合を前に、「少しでも彼らのキャリアの手助けができていたらコーチ冥利(みょうり)に尽きます」と穏やかに述べた。

名将の哲学その2:深い洞察力に基づく適材適所、マネジメントの神髄

いまや「笑わない男」として国民的な知名度を獲得した稲垣啓太が、所属先のパナソニックで進化する過程でこんなディーンズ評を述べたことがある。

「僕たち選手を、常に快適な状況にさせない。例えば実戦形式の練習で、(主力組が)負けたままで終わらせちゃうことがあるんです」

稲垣はその動きに、各選手へ自省させる狙いがあったのではとみた。ディーンズ自身はこう述べる。

「ウェイトリフティングで重い物を持ち上げるには、それより軽い物を持ち上げてばかりではだめ。多くの世界記録は、競技会当日ではなくトレーニングの中で生み出されています。これをラグビーに置き換えて話すと、試合でいきなり試合のレベルを感じるのではなく、練習で試合と同じ状況(プレッシャーや強度)を体験しなければ。パナソニックのグラウンドでは、選手に『いっぱい、ミスをしろ』と伝えています」

持ち前の洞察力を生かしたマネジメントは、選手の起用法にも表れる。

ディーンズ監督はコーチ陣から「僕がロビーさんの立場だったらブチ切れてもおかしくないようなことをこちらが言ってもロビーさんは受け止め、議論してくれる」と証言されるよう、器の大きさで知られる。ところが2014年から2連覇した頃のあるレギュラー選手によると「意外と、頑固なところも」。どうやらその選手は、シーズン序盤に出場時間が増えたためディーンズ監督から休暇を課されたそう。本人が「次の試合も出られる」と訴えたところ、ディーンズ監督は「休め」と譲らなかったそうだ。

常に勝利を目指しながらも、主力の心身の状態を先読みして労働量を管理するのだ。2016-17シーズンは、代表活動やスーパーラグビーとの掛け持ちで心身の疲弊が目立った堀江翔太らの出番を制限していた。

4季ぶりの戴冠が期待された今シーズンも、選手のゲームタイムを巧みに制御する。

さらには積み上げた層の厚さを生かし、先発組とベンチ組の役割分担を明確化。例えばスクラム最前列中央のフッカーでは、主将の坂手淳史がスターターを務め、控えには主将経験者でワールドカップ3大会連続出場の堀江が位置した。

ワールドカップ日本大会の日本代表では、そろって選出された坂手と堀江の出場する順序は逆のことが多かった。ただし今度のパナソニックでは、坂手がけがで出られなかった試合でも堀江がリザーブのままという日もあった。

その最たる例が、リードやフーパーのいるトヨタ自動車とのプレーオフ準決勝だった。7点差を追う前半21分に登場した堀江は、向こうへ傾いていた流れを引き戻す。「個人的に動き(が)悪いと思った選手に『もうちょいと動けよ』と話しながらやっていました」。48―21での逆転劇を、ディーンズはこうまとめるのだった。

「特に前半、プレッシャーをかけられることがありましたが、苦しい中でも落ち着いたプレーをして、ベンチから出たメンバーもいいインパクトを与えてくれました」

名将の哲学その3:思慮深い言葉選びが紡ぎ出す“競技の本質”

それにしてもディーンズは、公立の進学校で人気の倫理教師の風情を醸す。練られた言葉が思考の深さをにじませる。例えば今季の象徴だった日本人スタンドオフの一角、山沢については、居残り練習を欠かさない様子を踏まえてこう表現した。

「自分からイニシアチブを持って物事を始める選手は、必ず成長します」

人を育てる。人を見る。人と人とをつなげるための言葉を重んじる。その延長で「経験上、スター選手ばかりのチームはあまりうまくいかないと感じます」と、過去のスーパーラグビーの歴史を鑑みつつ競技の本質を看破する。2016年のインタビューで話す。

「スーパーラグビー発足当初こそ首都オークランドのブルーズがたくさんの選手を抱えて優勝していましたが、その後はカンタベリーのクルセイダーズ、ワイカトのチーフス(2012年から2連覇)、オタゴのハイランダーズ(2015年に初優勝)と都市部から離れたチームがコミュニティーを形成し、強くなっています。2016年にはニュージーランドの大きな都市にあるハリケーンズが初めて優勝しましたが、南アフリカの都市であるダーバンのシャークスはまだ一度も優勝をしていません。ラグビーは、金銭やタレントと別な純粋な要素で占められているといえます。各選手はチームが自分にとって意味のあるものと思わなくてはなりませんし、チームは人と人とのつながりを大事にしなくてはいけない」

日本代表選手を多く擁して優勝候補に掲げられた今季も、白星を積み重ねながら「COVID-19(新型コロナウイルス)を乗り越えるにあたり、チーム内の規律は高まった。それがゲームに作用していると思います」と強調。平時は忙しかった代表選手が群馬県太田市で活動するチームへ長く帯同でき、若手の育成を選手同士で行う傾向がより強まったようだ。

今年のディーンズ監督が快適に指揮を執ったのは、いわば必然だった。もしもこれで優勝を逃したのなら、相手がよほど強く、結束していたといってよい。

<了>







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