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批判に晒される35歳・長友佑都は、限界説を撥ね返せるか? 今こそ試される逆境の転換力

REAL SPORTS / 2021年10月7日 19時0分

サッカー日本代表は、逆境に立たされている。FIFAワールドカップ・アジア最終予選、オマーン代表をホームに迎えた初戦でまさかの完敗を喫した。次なるアウェーのサウジアラビア代表、ホームのオーストラリア代表戦は早くも大一番となる。そして長友佑都もまた、逆境に立たされている。日本代表、そしてJリーグでの低調なパフォーマンスから批判の声が高まり、限界説もささやかれる。だが男はこれまでにも幾多の逆境を力に換えてきた。日本代表が迎えた試練を乗り越えるには、今こそ鉄人が培ってきた“逆境の転換力”が試されている――。

(文=藤江直人、写真提供=日本サッカー協会)

35歳の年齢に低調なパフォーマンス、限界説もささやかれるが当の本人は……

ポジティブで前向きで、何よりも明るくて力強い。長友佑都の“らしさ”がこれでもかと凝縮された言葉を聞いたのは、昨年のゴールデンウイーク中だった。

「僕、マジで悩みがないんですよ。人間である以上は悩みを含めた感情がありますけど、処理能力がめちゃくちゃ早い。それが自分の強みというか、逆境が大好物なんですよね」

当時の所属はトルコの強豪ガラタサライ。ただ、冬の移籍市場が閉じた段階で、上限のある外国籍選手の人数を調整するために戦力外を通告されていた。

他クラブへ移籍する選択肢もあった中で、長友はガラタサライ残留を希望。結果として登録メンバーから外れ、2月以降の全ての公式戦に出場できなくなっていた。

ビジネスの世界に例えれば閑職に追いやられる状況を甘んじて受け入れ、あえてキャリアに空白期間を生じさせた理由を、長友は後にこう明かしている。

「自己成長という意味で自分への投資が必要だった時間だと思えたので。それまではガラタサライでもリーグ戦や(UEFA)チャンピオンズリーグに、そして日本代表でもずっと試合に出場させてもらっていたので、今までなかなかできなかった自分へのインプットを、この期間でしっかりやりたいと思って残る決断を下しました」

程なくして新型コロナウイルスの影響で、トルコも日本も公式戦の長期中断を余儀なくされた。自宅待機が続いた日々で開催された古巣FC東京のオンラインイベントに、イスタンブールから参加した際に飛び出したのが冒頭のコメントだった。

公式戦のピッチに立てない、選手にとってはこの上ない逆境をチャンスと捉える。“転換力”とも名付けられる思考回路を今、長友はまさにフル稼働させている。

ワールドカップ最終予選で4位に甘んじる日本代表も逆境に立たされる

長友が招集されている日本代表は10月7日午後8時(日本時間8日午前2時)に、敵地ジッダでサウジアラビア代表とのFIFAワールドカップ・アジア最終予選第3戦に臨む。

9月に幕を開けた最終予選で、日本はオマーン代表との初戦を0-1で落とした。ホームの市立吹田サッカースタジアムで、内容も伴わない完敗を喫してしまった。

場所をカタールの首都ドーハに移した中国代表との第2戦では、必要以上に日本をリスペクトしてベタ引きし、チームとしての体も成していない相手に1-0で辛勝した。

その間にグループBでライバル視されるサウジアラビア、オーストラリア両代表は連勝発進。ベトナム代表を含めた6カ国中で、日本は4位に甘んじている。

サウジアラビアに続いて12日には埼玉スタジアム2002でオーストラリアと対戦する10月シリーズを、キャプテンのDF吉田麻也(サンプドリア)はこう位置付けていた。

「次が前半戦のカギになる。サウジアラビアとオーストラリアをしっかりたたいて、勝ち点6を取らなければいけない。正直、僕たちはもう一敗もできない状況なので」

フランスの名門マルセイユを7月に退団していた長友は、無所属の肩書で森保ジャパンに招集され、9月シリーズに左サイドバックとして先発した。

しかし、誰よりも長友本人が2試合のパフォーマンスに満足できなかった。無所属の状態でできるトレーニングには、おのずと限界が訪れると痛感させられた。

11年ぶりのJリーグ復帰も……大きくなる批判の声

中国戦後に帰国した長友は、自身の35歳の誕生日だった9月12日にFC東京への復帰を電撃発表。オンライン会見の中で、理由の一つをこう語っている。

「最終予選は10月、11月、来年の1月、3月と続く。ヨーロッパから帰ってきた選手たちの疲労度なども見たときに最終予選の厳しさも感じたし、最高のコンディションで向かわないと日本がワールドカップに出られないという危機感も出てきた。移動の負担や時差調整などを考えれば、コンディション面では圧倒的に国内組の方が優位だと思うし、最高の状態で最終予選やワールドカップを迎えられるのは大きなメリットがある」

当初はヨーロッパでプレーできる可能性を模索していた。オマーン戦前のオンライン取材で、長友は「僕の哲学としては、過酷な環境で挑戦したい」と明言している。

しかし、9月シリーズで味わわされた苦戦が考え方を180度変え、日本に戻るのならばここしかない、と心に決めていたFC東京から届いていたオファーを受諾した。

望んでいた過酷な環境がJリーグの舞台でかなうのか。貫いてきた哲学にのっとった決断なのか。長友は「全ては自分たち次第」とした上で、覚悟と決意を明かしている。

「肌で感じてきた世界基準は消えない。ただ、人は善くも悪くも環境に左右される。そこは意識を厳しく持って自分に求めないと、高いレベルは保てないと思っている」

ポジティブで前向きで、体中から熱量をまき散らす存在感は、いまひとつ波に乗れなかった今シーズンのFC東京へ瞬く間に伝播(でんぱ)。ファン・サポーターからも歓迎された。

復帰初戦だった9月18日の横浜FC戦こそ4-0で快勝したFC東京はしかし、名古屋グランパスに引き分け、浦和レッズと川崎フロンターレに連敗を喫した。

4試合連続で左サイドバックとして先発フル出場している長友は、名古屋戦でFWマテウス、浦和戦ではDF酒井宏樹と対面の選手とのマッチアップで後塵(こうじん)を拝するシーンが目立ち、特に酒井には背後を突かれた末に同点ゴールを決められた。

復帰を称賛していた声は時間の経過とともにネガティブなそれも含まれるようになり、10月シリーズに臨むメンバーが発表された9月28日からは批判も目立ってきた。

左サイドバック枠で招集されたのは長友と、東京五輪代表の中山雄太(ズヴォレ)。年齢的にも下り坂の長友は、24歳の後者と代わるべきだという声が飛び交っている。



インテルでもガラタサライでも……批判や逆境は今に始まったことではない

もっとも、長友が批判や逆境、試練に直面する事態は決して珍しくない。

例えばFC東京からセリエAのチェゼーナを経て加入した世界的なビッグクラブ、インテルには7年間在籍し、ついには最古参選手になった。

2014-15シーズンで副キャプテンを務め、実に「200」を超える公式戦に出場したインテル時代を振り返れば、決して順風満帆な日々を送り続けたわけではない。

弱肉強食のおきてを物語るように、在籍期間が長くなるとともにオフの放出候補に挙がった。メディアで不要論などが張られたミラノの日々を、長友はこう振り返ったことがある。

「皆さんがすごく心配してくださっているんですけど、僕自身がまったく自分のことを心配していないんですよ。本当にシンプルなことですけど、クラブに必要とされないのであれば、荷物をまとめて出ていきます。自分が必要とされる場所で、輝きを放つための努力を積み重ねていくだけなので」

最終的には出場機会を求めて、2018年1月末にガラタサライへ新天地を求めた。イタリアよりレベルが落ちるトルコ行きを、長友は一度も悲観していない。

むしろ逆で心を高ぶらせ、すぐに左サイドバックに定着。途中加入した2017-18シーズンでプロになって初めてリーグ戦を制した喜びを、自身のTwitterでこうつぶやいた。

「ガラタサライに来る決断は正解ではなく、大正解だった。サッカー選手としての誇りと、自信を与えてくれた。決断を正解にするかどうかは日々のプロセスで決まる」

そのガラタサライでもポジションを追われる立場になったが、冒頭で記したようにあえて充電期間に充てた先に、マルセイユからのオファーを手繰り寄せた。

「自分たちのサッカー」を標榜し惨敗した2014年と、反省を生かした2018年

日本代表でもバッシングされる対象の一人になった。アルベルト・ザッケローニ監督の下で臨んだ、2014年のFIFAワールドカップ・ブラジル大会後だった。

同じ1986年生まれの盟友、本田圭佑らと共に「自分たちのサッカー」と公言してはばからなかったスタイルはまったく通じず、未勝利のままグループステージで姿を消した。

「ブラジルの前は完全に力んでいましたよね。先ばかりを見て、ものすごく高くジャンプしようとしていた。一気に飛んでいきたいくらいの気持ちでしたけど、物事はそんなに簡単にはいかない。自信が過信に変わって、そこを相手に突かれて足をすくわれた」

期待が高かった分だけ世間の失望を招き、激しいバッシングを浴びた2度目のワールドカップをこう総括した長友は、自省の念を2018年ロシア大会のべスト16進出へとつなげている。

「足元をしっかり固めないと、うまくいかなくなったときに崩れるのも早い。土台となる部分がどれだけ大事なのかが、ブラジル大会までの4年間で学んだ部分。そういう経験もあってすごく落ち着いているし、冷静に物事を判断できる自分がいる」

そして、フィールドプレーヤーの最年長になって久しく、限界説も含めて今再び批判を浴びている。毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい日々をしかし、長友は常に歓迎してきた。

「僕はそういう批判をプラスに、エネルギーに換えて成長してきました。僕にとって批判はむしろ『仙豆』みたいなもので、もっとください、という感じでしたね。全てはピッチの上で見せつける、というマインドでこれまでも戦ってきたので」

FC東京への加入会見で長友がおもむろに言及した「仙豆」とは「せんず」と呼び、往年の人気漫画『ドラゴンボール』内に登場するアイテムでもある。

一粒でも口にすれば大けがが癒え、体力も回復する摩訶不思議な豆と、自分自身に向けられる厳しい批判の声が、いつしかダブって見えるようになったと長友は笑った。

身長170cm、体重68kgと決して大きくはない体に激しく脈打たせてきた、批判や逆境、試練を前へ進む力に転換させてきた秘訣が「仙豆」の二文字に凝縮されていた。

森保監督が期待する“経験”。だが次なる戦いで見せるのはそれだけではない

代表の9月シリーズで高まった批判も、FC東京でのパフォーマンスに対する不満も、全てを長友は糧に換え続けながら、4日に決戦の地ジッダに入った。

日本との時差は6時間。ドバイ経由の移動時間も、ヨーロッパでプレーしていた時期の代表合流とは大きく異なる。それでも長友のポジティブな思考回路はフル回転中だ。

「10年以上もそういう戦いと移動をしているので体が慣れている。僕はオーストラリア戦が終わってから日本に残れて移動が1つ少ない。これはすごく大きいですよね」

サウジアラビア戦へ向けた6日のオンライン取材の中で、森保一監督に対して長友の存在感を問う質問が飛んだ。返ってきた言葉は、全幅の信頼に満ちていた。

「すごく明るくポジティブに、そして高い目標を見据えて進んでいくんだと、高い目標に到達するためには高い基準で戦っていかないといけないとプレーで示してくれる。チーム全体に自分の持っているものを伝えてくれている。厳しい戦いになる最終予選の中で、彼が還元してくれる経験は非常にありがたい」

経験だけではない。次は難敵相手に実力を見せつける。

会場となる約6万人収容のキング・アブドゥラー・スポーツシティースタジアムのスタンドは急きょフル開放されることが決まった。

脳裏にはJリーグに復帰してから繰り返してきた言葉が駆け巡る。いわく「皆さんが想像もできないような長友佑都を見せる」と。鉄人の真価が問われる一戦がいよいよ近づいてくる。

<了>








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