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鍵山優真、恐れ知らずの快進撃も潰れかけた18歳の素顔。重圧から解放した父・正和コーチの言葉

REAL SPORTS / 2022年1月19日 20時5分

その堂々たる立ち居振る舞いからは、まだ10代とは思えぬ貫禄すら感じさせる。シニアデビューを果たした昨季、初出場の世界選手権でいきなり銀メダルを手にした。大器の片りんは確かな軌跡を残した。だがオリンピックイヤーの2年目、襲い掛かった重圧に、らしさを見失った。追い詰められた鍵山優真が自分を取り戻せたのは、父の言葉のおかげだった――。

(文=沢田聡子、写真=Getty Images)

全日本フリー演技後、かみ締めたようにガッツポーズを繰り出した理由

全日本選手権でフリー『グラディエイター』を滑り終えた鍵山優真は、演技後にガッツポーズをしている。

「今シーズン、苦しい演技がすごく続いていた。本当に『今シーズンはもう全部うまくいかないんじゃないか』っていうぐらい、すごく全然ダメダメで、いろいろネガティブになったりすることもあったんですけど……このフリーは最後まで全力で滑って、諦めない姿をみんなにお見せするのが目標だったので、『それがかなってよかったな』という思いでガッツポーズしました」

そして鍵山は握り締めたこぶしを開き、静かに足元の氷を触った。

「さいたまスーパーアリーナは初めて滑る場所なのですが、今までの何倍も何倍も多いたくさんのお客さんの中で、そしてこの大きい舞台の氷の上で滑れたことがすごく自分の中でいい経験になったので。最後のあいさつというか『ありがとうございました』という気持ちを込めて、少し触れました」

苦しさもあったオリンピックシーズンの全日本を戦い終えた鍵山は、キス&クライで涙を拭っている。

「なんだかほっとしちゃって。オリンピック選考会という舞台で、自分もその候補の一人として周りの期待があったので、終わってすごくほっとして、そうしたら涙が出てきちゃって。『よかったな』という思いです」

強気の発言通りの活躍を見せてきた18歳の鍵山が、重圧から解放されて流した涙だった。

1年目は快進撃を見せるも、らしくないミスを続けた2年目の壁

昨季シニアデビューした鍵山は、怖いもの知らずの勢いで世界選手権の銀メダルを勝ち取り、一気に世界トップレベルまで上り詰めている。

「世界選手権は、あまり勝つとかじゃなくて『自分の演技ができたらいいな』と思っていたので、そこまで勝ち負けにこだわりは持っていなかったです。自分のいい演技をして、いい結果が出せればそれでいいかなって。『表彰台に上りたい』とか、あまり考えなかった」

無欲で臨んだことが功を奏し、鍵山は強烈なインパクトを残してオリンピックプレシーズンを終えている。

しかし、世界的にも注目される存在として迎えた今季序盤、鍵山は苦しむ。昨年8月の今季初戦・げんさんサマーカップの約1週間前、4回転ルッツの練習中に転倒し、右手首を痛めた(試合後の検査で骨挫傷と判明)。げんさんサマーカップではけがの影響もあってか、ショート・フリーともに4回転サルコウが2回転になるミスをする。試合後は右手首にギプスを着けることになり、約2週間ジャンプを跳ぶことができなかったという。

9月にジャンプの練習を再開したが、10月の関東選手権でも4回転サルコウの調子が上がらない。ショートでは着氷時に手を着き、フリーでは2回転になってしまったのだ。またこの大会では新しいジャンプである4回転ループに挑戦したが、着氷でステップアウトし4分の1回転不足と判定されている。シニアデビュー戦だった昨季の関東選手権では当時世界歴代5位相当の合計287.21をマークしているが、今季の同選手権のスコアはそれより20点以上低い261.90だった。昨季は最高のシニアデビューを果たした鍵山だが、今季はシニア2シーズン目の壁にぶつかっているようにもみえた。

10月中旬には、鍵山は北京五輪のテスト大会として行われたアジアンオープントロフィーに出場。優勝したものの、フリー冒頭の4回転ループは着氷が乱れ、4回転サルコウでは転倒している。

11月に出場したグランプリシリーズ初戦、イタリア大会・ショートでも、鍵山は彼らしくない滑りをしてしまう。今季に入ってから苦しんでいる4回転サルコウは、両足着氷になる。2本目のジャンプでも、後ろに3回転トウループをつける予定だった4回転トウループが単発の3回転トウループになり、コンビネーションジャンプが入らない結果になってしまった。ショート7位というスタートは、本来の実力からはかけ離れたものだった。

父・正和コーチの言葉で吹っ切れた。再び上昇気流へ…

追い詰められた鍵山は、しかし共に歩んできた父・正和コーチから、立場や成績を気にせず練習してきた成果を出すことに集中するよう諭され、気持ちを切り替えたという。これが、鍵山のターニングポイントとなった。

「世界選手権が終わってから、次のシーズンはオリンピックシーズンですし『まず勝たないとオリンピックに出られない』と思ったので、本当に今シーズンは全部勝つつもりで練習していました。だけど、なかなかうまくいかず、途中で諦めそうになって。イタリア杯フリー前のお父さんの言葉で吹っ切れて、そこから自分らしくいられているかなと思います」

鍵山はフリーでノーミスの演技を披露、大逆転による優勝を果たした。

グランプリシリーズ2戦目のフランス国際では、1本目に4回転サルコウ、2本目に4回転トウループ―3回転トウループを跳ぶショートのジャンプ構成を、昨季の構成に戻している。1本目に4回転サルコウ―3回転トウループ、2本目に4回転トウループを跳ぶ構成だ。

「今シーズンは、2本目に4回転トウ(ループ)―3回転トウ(ループ)の構成でやっていたんですけど、なかなかうまくはまらず……去年(4回転)サルコウ―(3回転)トウ(ループ)で1シーズン通してやってきたので、自信のある構成にしようと」

ショート・フリーとも1位で完全優勝を果たしたものの、鍵山はフリー後半のジャンプでミスしたことを悔やんでいた。

ただグランプリシリーズは2連勝となり、調子が上向いていることがうかがわれた。進出を決めたグランプリファイナルは中止になったが、鍵山はTwitterに「全日本選手権に向けて頑張ります!」と書き込み、前を向いている。

北京五輪代表を勝ち取るも「今のままでは勝っていけない」

そして迎えた、北京五輪代表選考が懸かる12月の全日本選手権。ショートでは4回転トウループで転倒するが、それ以外では本来の滑りを見せる。3位発進となった鍵山は、ショート後のミックスゾーンで全日本に臨む気持ちを振り返った。

「ここに来るまでの練習の間は、自分の立場など(に対する)いろいろな思いを抱えながら練習してきて。『自分はオリンピックを目指す立場なんだ』というふうに、すごく気合いと同時に重い何かを背負ってしまっている感じがして、それが今日の公式練習まであった」

しかし抱えていた重荷は、ショート当日の公式練習後に軽くなったという。

「理由は分からないですけれど、ホテルに帰った後すごく早く試合がしたいという気分になり、すごくワクワクした気持ちで過ごせて。それが演技の楽しさにつながって、失敗はありましたけれど、自分の中では納得のいく演技ができたと思うので、そこはよかったと思います」

オリンピックシーズンの重圧で失っていた、滑る楽しさ。それを北京五輪代表最終選考会となる全日本の直前に取り戻せるのが、鍵山の強さなのだろう。

「去年みたいな変な緊張とかはなくて、楽しい全日本。今までみんながみんなこの試合に向けてベストな状態で臨んで、すごくいい試合になっているので、自分の中でも『これがやりたかった試合だな』と楽しんでいます」

そしてフリー、鍵山はトリプルアクセルでステップアウトした以外はほぼ完璧な演技を見せ、総合3位となった。正和コーチには「全力で最後まで滑り切ったな」とねぎらわれている。

北京五輪代表に選ばれた鍵山は名前を呼ばれた時、「今のままでは勝っていけないので、もっと頑張らなくては」と決意を新たにした。

大器の片鱗は北京五輪のリンクでどんな滑りを見せてくれるのか

年が明け、1月15日に中京大学での練習を公開した鍵山は、フリーに4回転ループを組み込む意向を示している。

「やっと安定してきたというか、やっと自分らしいジャンプが跳べるようになってきたかなと思っています。この調子だったら、入れられるんじゃないかなって。まだ確定はしてないですけれど、でも入れたいので、頑張っています」

オリンピックは「自分にとってはすごく特別な舞台」だという。

「選手村での生活も、競技も、一分一秒を楽しんで、いろんなことを感じて、経験としていけたらいいなと思います」
「まずはノーミスの演技をしたいっていうのがやっぱり一番なのと、あとは初めてのオリンピック、貴重な体験になるので、楽しんで過ごしたいなって思います」

重荷を下ろした鍵山が持ち前の軽やかな滑りで北京のリンクを駆けるのを、私たちも楽しみにしたい。

<了>






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