【NEE2019】たくましく、しなやかな研究大学へ…早稲田大学総長・田中愛治氏

リセマム / 2019年6月7日 9時45分

2019年6月6日、早稲田大学総長・田中愛治氏によるNEE2019の基調講演「日本の研究大学が世界のリーディング大学になるための戦略」

 2018年11月、早稲田大学第17代総長に田中愛治氏が就任した。それ以降「早稲田」よりも「WASEDA」の文字を目にする機会が増えたように思う。2019年6月6日に行われた「NEW EDUCATION EXPO 2019(NEE)」での基調講演「日本の研究大学が世界のリーディング大学になるための戦略」に、就任後約半年を迎えた田中愛治氏が登壇した。

3大教旨、そして今必要な2つのこと

 田中氏は、1951年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、オハイオ州立大学大学院博士課程を修了した。歴代総長の中で、早稲田大学大学院ではなく、海外大学院を修了した者は田中氏が初めてだそうだ。そのこともあって、田中氏の講演からは世界に向けられた眼差しを強く感じることができる。

 冒頭のスライドには、主要国の論文数を示したグラフが表示された。右肩上がりのドイツ、イギリス、中国の下に、横ばいで低迷する日本。世界のトップスクールに並ぶためには、(1)国際的に意義のある研究を各分野で実施する(2)国際的にみて効果的だと思われる教育を提供する(3)国際的に人類社会に貢献する学生を育成し輩出する、オールワセダの決意が必要と、田中氏は言う。

早稲田大学総長・田中愛治氏による基調講演のスライド
 そのために田中氏が強調するのが「世界で輝くWASEDA」としての「研究の早稲田」「教育の早稲田」「貢献の早稲田」の3本柱だ。この3つに関しては、初代総長大隈重信氏の3大教旨の言葉を引用したうえで、それに加えて、今の、そしてこれからの早稲田大学に所属する学生・大学院生・教職員が持つべきものを独自に2点示した。それが、答えのない問題に挑戦する力としての「たくましい知性」と、他者に敬意をもって接し他者を理解する力としての「しなやかな感性」だ。

 「戦後の日本を遡ると、先進国に追いつき追い越せと、ただ唯一の目標に国民全員が向かっていました。正しい答えはただひとつ、その目標に向かって進みさえすれば良かった時代です。それを経た1980年代、おもに半導体産業で成功した日本は、貿易戦争でも各国に勝利し、目標を見失ってしまいます。そんな矢先でのバブル崩壊。突如、課題を自分自身で見つけ、仮説を立て、解決することを求められた日本人は、路頭に迷い始めます」(田中氏)

 現代社会で求められる人材にも触れ、身に付けた「たくましい知性」を世界的に汎用性のあるソリューションとして昇華させるための、基盤としての他者理解、つまり国籍や人種のみならず、さまざまな多様性を認める「しなやかな感性」を手に入れることが、国際的に貢献できる人材への鍵だ。

自分を超える人材を採用することが組織成長の鍵

 田中氏の講演で、大きなボリュームを占めていたのは、優秀な人材の採用と育成に関するトピックだ。「自身を超えてくれるであろう人材を採用することが、組織を成長させる」と田中氏は力強く語る。高額な資金を使い、著名な研究者を短期間招聘することで一時的に大学の研究成果や大学名を世に打ち出すことはできる。しかしそこに持続可能性はない。一定期間で離れてしまう人材に多額の資金を投資することは、リスクすら感じられる。その点、田中氏の語る、整備された大学の人材制度にあくまでも則って、優秀な人材を雇用し、育てるという論はきわめて真っ当だ。

 「ハーバード大学のローレンス・S・バコウ学長と話した際、超一流の研究者を採用するためには時間と労力を惜しまないと彼が話していたことが非常に印象的でした」(田中氏)

 早稲田大学では、2014年6月から「早稲田大学は、国際化、男女共同参画などダイバーシティの実現を推進している。教員採用・昇進の人事審査において、国籍、性別、信条、障がいを理由とするいかなる差別も行なわないことを申し合わせている」という文言が全学の教員公募要項に追加されている。教員の国際公募は「しなやかな感性」を育てる教育環境としての礎にもなっているだろう。

基調講演に登壇する早稲田大学総長・田中愛治氏
 「OECD加盟国のなかで、教育分野にかける資金の割合がもっとも低いのが日本。国に頼らず、各大学が独自で方策を打ち出す必要があるのです」(田中氏)

教育機関・研究機関として充実するための環境整備を

 田中氏は2000~2014年まで教務に関する役職に就き、政治経済学部内のみならず全学のカリキュラム策定や改善に尽力してきた経験もある。教員であり、研究者でもある自身の立場もあってか、教育機関そして研究機関としての大学の理想像を追い求める姿が印象的だ。

 学生が体系的に学べるような工夫としてのシラバスの整備、全科目へのコース・ナンバリングなどが大きな成果だろう。シラバスの作成にあたっては、授業内容に関連する領域の教員が複数人で検討することで、授業内容の重複を防ぎ、設置科目数を減らし、結果的に教員の研究時間の確保に貢献した例もある。

 各大学で新学部・新コース設置への動きが活気を帯びる中、早稲田大学では、先んじて2014年にグローバルエデュケーションセンター、2017年にデータ科学総合研究教育センターを設立する。その動きの背景は、田中氏曰く「単独の学部を新設するよりも、さまざまな学部に所属する学生や教員が学際的に活用することのできる施設や所属することのできる組織を設置するほうが得策」だと考えているからだ。もっともその後も、副専攻制度やリーダーシッププログラムの充実など、所属学部での受動的な授業履修にとどまらず「たくましい知性」と「しなやかな感性」を育むための環境が着々と整えられている。

基調講演に登壇する早稲田大学総長・田中愛治氏
 田中氏の就任をきっかけに、2012年に発表した中長期計画「Waseda Vision 150」の具現化に大きく動き出した早稲田大学。国際的な調査機関であるQSが発表した「QS Graduate Employability Rankings 2019」でも、世界27位につけている。30位以内にランクインしているのは世界19位の東京大学と合わせて2大学のみだ。

 田中氏の目指す理想は、ランキング上位大学に追いつくことではない。単一の答えを追い求めることが正解ではないのは、歴史が物語っている。それゆえ、世界の「トップスクール」と呼ばれる大学もそれぞれの色がある。決して時代の波に飲み込まれず、たくましく、しなやかな「WASEDA」への昇華を期待している。

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