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『ソウルフル・ワールド』で大注目の逸材、ジョン・バティステが語る新しい音楽の役割

Rolling Stone Japan / 2021年1月25日 17時30分

ジョン・バティステ(Photo by LouisBrowne)

ディズニープラスにて公開中のピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』で劇中歌とエンド・ソングを担当したジョン・バティステが、最新アルバム『ウィー・アー』を3月19日にリリースする。米国「フォーブス」の名物企画「世界を変える30歳未満の30人」に選出されるなど、快進撃が止まらない気鋭ジャズ・ミュージシャンの歩みを、本人の発言とともに解説する。

ジョン・バティステが音楽を手懸けた映画『ソウルフル・ワールド』は、昨年末の配信だったにも関わらず、2020年のベスト映画に挙げる著名人がいるなど、高い評価と人気を得ている。制作したのは『インサイド・ヘッド』や『モンスターズ・インク』といったアニメーション映画で知られるピート・ドクター監督で、構想から23年をかけた意欲作だ。ネタバレにならないように少しだけ紹介すると、地上のニューヨークと、人間が生まれる前のソウル〈魂〉の世界、2つの世界を描いていて、いわゆる前世を覗き見ることになるのだが、滋味深いセリフがちりばめられていて、大人が楽しめるアニメーションとなっている。

●【動画を見る】ジョン・バティステが歌う『ソウルフル・ワールド』のエンドソング「イッツ・オールライト」

物語の主人公ジョーは、地上のニューヨークで生きている、ジャズ・ミュージシャンを夢見る音楽教師。ジョンは、彼を中心とする地上の音楽を作曲している。これまでにスパイク・リー監督の映画『レッド・フック・サマー』(2012年全米公開・日本未公開)にオルガン奏者として出演したことはあるけれど、映画音楽を本格的に手懸けるのは初めてのことだ。

「もともとピクサーの作品が好きなんだ。テーマを深く掘り下げているし、ソウルも感じられる。加えて、全世代、全文化をひとつにする作品を創り、全人類に向けて発信する、という彼らの理念にも共感するので、喜んでオファーを引き受けた」

映画を観ると、主人公ジョーのピアノを弾く指のリアルな動き、音が聴こえてくる映像に驚くが、それが示すのは作曲する段階で映画は出来ていなかったということ。ジョンは、監督から物語、テーマ、観客に何を感じてもらいたいのか、事前にさまざまな説明を受けた。そのなかで深く共鳴したのが、「ジャズを聴いている人なら誰でも、ファンでも、初めて聴く人でも、音楽に入り込めるような楽曲を書いて欲しい」という言葉だった。

「聴いたらきっと好きになるだろう、という音楽をまだ知らずにいる人達に紹介することにやりがいを感じている。多くの人は、普段慣れ親しんでいる音楽を聴くから、ファンでなければ、ジャズを聴く機会ってなかなかないんじゃないかな。これは声を大にして言いたいんだけれど、ジャズって本当に素晴らしい表現が出来るアートフォームなんだ。だから、それをもっと大勢の人達に知ってもらいたい、この作品を通して彼らの人生観、世界観さえも変えるような素晴らしい音楽、ジャズに出会ってもらいたいと強く思ったんだ」


1月23日に公開された新曲「アイ・ニード・ユー」のMV。バティステはリトル・リチャードやジェームス・ブラウンを連想させるストーリーのリードマンと、バンド・リーダーの一人二役を演じる。1920~40年代のハーレムでのスイング・ダンスにオマージュを捧げ、当時流行した映画のエッセンスを加えた。

でも、ジャズって難解だったり、聴く人にも知識が求められるイメージがひとり歩きしている。実際に「マイルス・デイヴィスってカッコいいね」なんて女子が言うもんなら、「いつ、どこの録音の演奏が好き?」なんて言葉が返ってきたりする。子供から大人まで素人が楽しめるジャズを作るのって難しい課題なのではないだろうか。

「僕は、ニューオリンズで生まれ育った。ベーシストの父は、叔父らと一緒にバティステ・ブラザーズ・バンドを結成していて、僕も子供の頃からいとこと共に参加していた。ニューオリンズでは音楽をジャンルという視点で見ることなく、音楽というのは人と人のつながりの中から生まれるものという意識が根付いている。その考え方を僕は、ジュリアード音楽院でも実践してきた。だから、みんなに聴いてもらえるようなジャズを作曲することは、新しい挑戦ではなく、約15年のキャリアのなかで積み重ねてきたものがまさにこの作品で花開いたとさえ思っているよ」

ジョン・バティステの生い立ちと「ソーシャル・ミュージック」

日本での知名度は、これからだけれど、すでに全米では有名なジョン・バティステ。2015年から人気トーク番組『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』の音楽監督を務めて、率いているバンド、ステイ・ヒューマンと共に毎晩演奏していることもあるが、シンガー・ソングライター、ピアニスト、音楽プロデューサー以外に、世界中でマスタークラスを開催する教育者、抜群のセンスでアメリカ・ヴォーグでも特集を組まれるファッション・アイコン、コーチやポロ・ラルフローレン・ブラックレーベルなどのブランドの広告キャンペーンのモデルなど幅広く活躍し、また、約10年前から「ブラック・ライヴス・マター」の運動を平和的に行うなど社会活動に積極的に取り組んでいることもあるからだ。そんな多彩な顔を持つ彼を知るのに、重要なキーワードとなるのが”ニューオリンズ”という土地だ。


2018年、『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』でのパフォーマンス

バティステ家は、ジャズ発祥の地として知られるニューオリンズでは有名な音楽ファミリーだ。アレンジャーのハロルド・バティステ、ドラマーのラッセル・バティステ、クラリネット奏者のアルヴィン・バティステら故人を含めて、ジョンが知るだけでも30人はミュージシャンがいるとか。とにかく音楽が生まれた時から身近にあった。本人も最初はパーカッションだったが、母の勧めでピアノに転向し、17歳でニューヨークの名門ジュリアード音楽院に進学している。

また、トロンボーン奏者のトロンボーン・ショーティ、トランペット奏者のクリスチャン・スコット、ピアニストのサリヴァン・フォートナーといった新世代のジャズ・ミュージシャンと言われる人達とは10代から仲良しで、よくセッションをしていたという。そんな環境が特別だと本人が知ったのは故郷を離れてから。たとえば、LA出身のミュージシャンでプロデューサーでもあるテラス・マーティンに、「バティステの血統は、素晴らしく豊かで、アメリカ音楽の生きたルーツの中心で育ってきたんだね」と言われても最初は、その価値がわからなかったとアメリカのメディアに答えている。

ジョンがはっきりプロを意識したのがジュリアード音楽院に入学した頃のこと。

「漠然とプロになりたいという気持ちを抱えてニューヨークにやってきた。それから時間が経つにつれて、目標が明確になっていった。バンド・リーダーになる。作曲家になる。ひたすら頑張るなかで、2006年に初めてトリオを組んで、ライヴ・アルバムの制作もした。そして、2009年からは”ソーシャル・ミュージック”という考えのもとで、過去に社会や歴史で起きたことと、僕自身の経験を掛け合わせた音楽をやるようになった。”ジャズ2.0ヴァージョン”って僕は呼んでいるんだけれど、地下鉄とか、ストリートとか、公共の場とか、レストランでも演奏したなぁ。抗議の平和行進をやるなかで、これこそが”ソーシャル・ミュージック”の原点という思いを深くした。音楽が商品化される前のカタチだよね」

”ソーシャル・ミュージック”の考えが彼を「ブラック・ライヴス・マター」の運動に駆り立てた。2020年に日本でもこの活動が報道されるようになってからは、過激な面が随分取り上げられているけれど、彼は、10年も前から”ラヴ・ライオッツ”(愛の暴動)という行進を世界各地で行ってきた。行進の先頭、あるいは集団の真ん中に彼が仲間と共に奏でる音楽がある。ジョンは、拡声器を手に人々に呼びかけ、小さなピアニカ(鍵盤ハーモニカ)やショルダー・キーボードを演奏する。その模様は、YouTubeで観られるが、そういった行進にもニューオリンズで行われるパレードの影響が見え隠れしている。

「演奏しながらいつも感じるのは集まってきた人々の熱量のすごさなんだ。言葉が通じなくても、一緒に歌ったり、手拍子をしたり、踊っているうちに愛を分かち合っていることが肌で感じられる。ワシントンDCのナショナルモールで行進したこともあるし、今もニューヨークの地下鉄で演奏したり、ライヴのアンコールを会場から飛び出してストリートでやることもある。愛を共有できる場所を作るのってすごく大切なこと。これからもこの活動は続けていくよ」



その行進で演奏される曲のひとつに「ウィー・アー」がある。”僕らには未来がある、僕らは決してひとりじゃない~♪”と繰り返される歌詞が心に刺さる歌だ。

「これは無意識にそうなったんだけれど、もともと本物のファンクのリズムがあって、そこに重ねるハーモニーが中東風テイストのものになった。この2つの要素を組み合わせた後、さらにクワイアの歌を加えることで、とてもグローバルなサウンド、僕があまり聴いたことがないようなものになった。そこから世界中の人々のイメージが浮かび、”ウィー・アー”と繰り返す歌詞が生まれた。ここまで書いたところで、何かが足りない。どうすればいいのかと悩むなかで、マーチングバンドとクワイアの共演というヴィジョンが浮かんできた。では、具体的にどうしようかと考えるなかで僕自身が一番大切に思う人達に演奏してもらいたいと思った。それでニューオリンズに向かい、祖父のデヴィッド・ゴティエが長老を務める教会の聖歌隊、ゴスペル・ソウル・チルドレン・クワイアと、僕の出身高校のマーチングバンドに参加してもらった。この曲がニューヨークで行われた”A Peaceful Protest March With Music”の行進にピッタリだと思って演奏したんだ」



この先行シングルをタイトルにしたアルバム『ウィー・アー』が3月にリリースされる。レコーディングは、ニューオリンズやニューヨークで行われて、盟友トロンボーン・ショーティをはじめ、スティール・ギターのロバート・ランドルフ、R&BシンガーのPJモートンらがゲスト参加している。

「ブラック・エンパワーメントをひとつのテーマに掲げているけれど、2020年にアメリカ社会で起きたさまざまな出来事、大きく社会が変わる潮目の年でもあったわけだけれど、その社会の空気感とすごく合致した作品になっていると思う。こうなることを予測していたわけではないけれど、ミュージシャンには何か察知する能力が備わっているのかもしれない。今の世界に必要とされるアルバムになったと思う」

ジャズをベースにヒップホップ、ファンク、R&B、ゴスペルなどが融合されたアルバムで、ジョンはピアノと歌以外にベース、サックス、パーカッションなどの楽器も演奏している。作品に込められたメッセージへの関心とともに、アルバム『ウィー・アー』で、ジョン・バティステの名前と人気が世界に広まるのは間違いないだろう。



ジョン・バティステ
『ウィー・アー』
2021年3月19日リリース
価格:¥2,860(税込、SHM-CD)
https://jazz.lnk.to/JonBatiste_INYPR


『ソウルフル・ワールド オリジナル・サウンドトラック』
CD/デジタルアルバム発売中
Ⓒ 2021 Disney/Pixar
https://umj.lnk.to/Soul_OST

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